偽装
二杯目の
珈琲カップから
湯気が 消え
冷たくなった
珈琲を 飲み干し
吸い殻が 溢れる
灰皿の中に
煙草を 押し付け
捻り潰す
どれほど
沈黙が 流れただろう
黙ったまま
横に座る聡美が
珈琲カップに
手を 伸ばし
座椅子から
立ち上がる
有り余る時間の中
無駄な時を
過ごしていた
これから先
何を すべきなのか
今 何故
この場所に
居るのかすら
解らなくなっていた
テーブルに
広げた 証拠品を
指先で 散らすと
根本の写真が
出てくる
……そうか
根本の写真を
宮内へ 届けに
行く時間まで
……此処に居る
それだけだ
俺と似ているだけで
殺人犯に された
根本の為に
……いや
違う
殺人犯の
容疑者は
俺だ
……この事件に
妻との離婚は
関係ないはずだ
たまたま
報道番組で
映し出された
映像が 母だった事と
繋がらない
妻の携帯電話
……あくまでも
そのニ点を
繋ぎ合わせる為の
想定に 過ぎない
離婚した証拠が
ある訳でもなく
すべて
非現実的な
…ただの
…………憶測
この事件に
潜む罠は
何ひとつ
解明されて
いない
…解っている事実は
殺害された
[栗原 智子]
そして
自殺した
[根本 久雄]
確実に
二人の遺体が
現実的に
存在する
……事実だけだ
……根本の自殺
自殺しなければ
ならなかった
理由は……何だ?
違和感が
残る
携帯電話の
メールを開き
再度 確認する
《ルール》
…
………
・逃走期間三日間のみ
・逮捕または自首あり
※ゲーム終了時
無罪放免になります
・三日間逃走成功の時点で
〔容疑者〕抹消
※新犯人浮上
(元々犯人ではありません)
……真犯人ではなく
………新犯人?
……
新…犯人…
実行犯ではなく
新たな犯人と
言う意味なのか?
……それは
根本を 指して
いるのか?
《条件》
このゲームに
参加した場合のみ
貴方の名前と顔写真が
【容疑者】として
全国各地に
報道されます
そして
今 貴方の居る部屋は
実際に 殺人を犯した
〔犯人〕の部屋です
………この
〔犯人〕は
明らかに
根本を 指している
逆に言えば
根本は
〔真犯人〕では
ない
根本は やはり
殺人を犯しては
いない事になる
警察は
疑いもなく
『多村雅一』を
容疑者と 認めた
……根本が
『多村雅一』と
名乗り
『栗原智子』と
接触している
それも
印象づける為に
何度となく
喫茶店『智』を
訪れているはずだ
……いったい
どれ程の期間
通い続けたのだろう
……一週間?
…二週間か?
それとも
…一ヶ月……
……一ヶ月?
一ヶ月前と言えば
確か
根本の母親が
亡くなった頃と
一致する頃だ
そして
一ヶ月の間に
多額の入院費用が
全額支払われている
借金を
抱えていた
根本が
多額の支払いを
一括返済
出来るとしたら
……報酬しか
有り得ないだろう
これから先
多額の入院費用を
生涯掛けて
返済し続ける
根本に
突然 舞い込んだ
『身代わり計画』
数十日間
他人に成り代わり
喫茶店へ通い
『栗原智子』に
偽の恋愛感情を
演出するだけで
報酬が
受け取れると
したら
……心が
揺らいだ
はずだ
ましてや
親孝行な
息子として
評判の ある
根本が
最愛なる母親を
失った直後だ
精神状態も
正常とは
言い切れない
哀しみと
絶望
そして
のしかかる
入院費用と借金
何もかも
捨ててしまいたく
なるかもしれない
根本を
繋ぎ止める
留め金の母親を
失えば
安全装置を
解除した
拳銃と同じ
的を狙い
撃ち抜くだろう
報酬を
受け取る為の的
『身代わり計画』
『多村雅一』に
成り代わり
『栗原智子』を
恋愛関係へ
堕とす為に
…………
………堕とす?
……そうだ
『多村雅一』が
容疑者にされた
理由は……
【男女の縺れ】
そして
『栗原智子』が
殺害され
……根本は
何も知らずに
殺人犯の偽造を
手伝わされた
…多分
根本は
『多村雅一』の顔すら
知らなかっただろう
…根本は
俺の顔を
………知らなかった
そうだ
根本は
俺の顔を
知らない
根本は
ただ
『多村 雅一』と言う
架空の名前で
『栗原 智子』を
誘惑する
それだけが
根本に
与えられた
【条件】
『栗原 智子』と
“寝た”事実を
証明する為に
………依頼人の
【目的】は
『栗原 智子』と
縁を 断ち切る為の
【浮気現場】を
抑える事だと
……根本は
聞かされていた
可能性が
ある
根本の評判から
考えれば
根本は
親切な人間だった
情も 厚かっただろう
【女に付き纏われて
困っている
力を貸してくれ】
そう
言われたとしたら
そして
【借金額と新しい住居】
報酬として
根本に贈られると
言われていたと
したら
前金として
受け取った金で
入院費用を
返済し
不動産で
マンションの契約を
依頼人と共に
交わす事も
可能では ないだろうか
冷静な判断を
失った状態の
根本
…根本は
母親を失い
一時的に
生き甲斐を
見失う
その隙間に
根本を必要とする
人物が 現れた
【お前にしか頼めない】
そんな言葉で
頼られたら
生き甲斐を
見失った根本に
とっても
使命感が
沸き上がっただろう
例え
間違った
依頼内容だとしても
考える余地も
与えずに
喉から手が出る程
欲しい
【現金】を
目の前に出されたら
【人助けの報酬】を
受け入れて
しまうだろう
尚且つ
成功した後に
引き渡される
マンションを
根本自身の手で
契約した書類
……根本が
我に返った時
引き返せない
状況が
すでに
出来上がっている
借金の返済金額に
マンション
購入負担金額が
上乗せされるのだ
マンションを
解約する以前に
【依頼人】と
交渉決裂で
マンション購入代金も
根本名義契約者に
変更され
依頼人は
マンション購入代金
負担金額支払いを
停止するだろう




