鞄
……午後1時過ぎ
宮内 利生に
逢うまで
時間が ある
ナビを
[宇都宮駅]に
セットし
駅周辺の画面を
詳細して行くと
少し 離れた場所に
ホテル街を
見つけた
「……とりあえず
駅に向かうが
ロッカーから
鞄を取り出したら
…ホテル入って
いいか?」
「ホテルって
ラブホテル?」
「……ん」
浮かない表情で
聞くと
心配そうに
聡美が 顔を
覗き込み
「……調子 悪いの?」
「いや…ホテルで
テレビの報道番組を
確認したい」
「ラジオじゃ駄目?」
溜息を吐き出し
首を振り
「……繋がらない
…妻の携帯電話も
………自宅も
家族の安否が
気になるんだ」
「……報道人が
多村さんの
ご家族に…って事ね
……わかったわ
人目を気にして
行動するより
その方のが いいわね」
根本の自殺により
幕を 降ろした
殺人事件
走って来た道を
引き返し
国道に 出る
たった
数十時間前まで
検問に 脅え
逃走していた事が
遠い過去にすら
思えてしまう
危機感のない
風景
……俺は
根本の死と
共に
[多村 雅一]
……名前を
失った
そして
家族の信頼も
失いかけている
駅に到着し
30分100円の
パーキングに
車を停め
駅に向かい
走って行く
聡美の背中を
見送る
携帯電話を開け
開いたメール
[根本の顔画像]
……金融機関へ
登録する為に
提示した
運転免許証の写真を
撮影した画像だろう
無表情で
証明写真を撮る
免許証
愕然とするほど
俺と…似ている
暗闇の寂しい山中で
孤独と恐怖に
襲われながら
狭い車の中で
練炭に置いた
火を焼べた炭を
転がしながら
薄まる酸素と
戦い
…苦しみ…
……もがき…
遠退く意識に
悲鳴を
噛み殺し
根本は
……堕ちて
行った……だろう
最後は
どんな表情を
していたのだろうか
……安らかに
眠るように
亡くなったのだろうか
……遺族の確認
……
………
血の引いた
硬直した
根本の顔を
……妻が
旦那である
俺の顔と
見間違えてしまう
可能性は
…残念ながら
ゼロでは ない
それほど
似過ぎているからだ
…数分後
息を切らした
聡美が
車に乗り込む
助手席に座る
聡美の足の上に
小さな鞄が
乗っている
「……荷物は
それだけか?」
「そうよ なんで?」
多少
膨らんでは
いるが
肩から下げる
ショルダーひとつ
……家出人では
ないのか?
それとも
…衣類品は
ロッカーに
置いてきたのか?
ショルダーから
化粧品のポーチを
取り出し
手鏡を覗く聡美
何処にでも居る
女性らしい
仕種を横目に
駐車場から
車を 出す
…何故か
疑問が残る
聡美の鞄
…何かが
引っ掛かる
………なんだ?
ショルダーの
中を手探りに
携帯電話を
取り出した時
疑問が
解ける
女性が
ショルダーを
コインロッカーに
しまうだろうか
化粧品や
まして
携帯電話まで
入れた鞄なら
手放したり
しないはずだ
………何故
コインロッカーに?
どんな意味が
あるんだ?
携帯電話の
電源を
押し続けているが
充電が ないらしく
画面は黒いままだ
「…充電器 買うか?」
見兼ねて
声を掛けると
携帯電話を
閉じた聡美が
少し間を開け
「この携帯電話から
奥様に 掛けてみる?」
「……妻に?」
「多村さんの電話には
出られないんでしょ?
……公衆電話にも
私も経験あるの
出なかった方だけど
相手の電話番号と
公衆電話は
着信拒否に してたから」
「……着信拒否?
妻が俺の携帯電話を?
…着信拒否する
理由が ないだろ」
「……理由は
あるじゃない
…だって 多村さん
亡くなった事に
なってるのよ
亡くなった方の
携帯電話から
掛かってきたら
気味が 悪いもの」
頭の中が
混乱する
やはり俺は
死んだ人間なのか
……死んだ人間に
されているのか
吐き気が
する
……俺は
…誰なんだ
コンビニの
駐車場に
なだれ込むように
ハンドルを切り
車を停め
茫然とハンドルを
握ったまま
一点を見つめる
「……大丈夫?
顔色が 悪いよ」
顔を覗き込む
聡美が
腕に 手を添えた
……一瞬
記憶が 途切れ
頭の中が
真っ白になり
偶然 視界に
映り込んだ
コンビニに
ハンドルを
切っていたのだ
心の中で
何かの危険を察知し
警告音が鳴らされた
そんな気さえ
していた




