謎
レストランの
ドアに設置された
鐘が 鳴り
サラリーマン風の
男性が 店の中へ
入ってきた
……午前11時過ぎ
早めの昼食
だろうか
[栗原 智子]の
話題から
互いに 黙り込んで
座っていた
「場所を 変えよう」
伝票を持って
立ち上がると
俯いたまま
聡美も
席を立った
精算を済ませ
外に出るまで
俺の陰に
隠れる聡美が
俯きながら
駐車場に停めた
車に乗り込む
「……どうした?」
聡美の異変に
気付き
声を掛けたが
ただ
俯いて
首を振る
「…具合悪いのか?」
「そうじゃない」
「……何だ?」
聡美は 両手で
顔を隠し
重い溜息を
つき
「ノーメークだったの
……思い出した」
今更 素顔だと
気付いた事で
そこまで
落胆するもの
なのだろうか
首を捻り
エンジンを
掛けながら
ふと 疑問が
浮かんだ
「…持ち物どうした?」
……確か
アミューズメントの
駐車場で
聡美が
駆け寄った時
すでに何も手荷物は
持っていなかった
気がする
俺の腕に
聡美の腕を
絡め
そして
腰に手を回した
……やはり
手荷物は
なかったはずだ
「男の車に
置いてきたのか?」
両手で顔を隠し
押し黙った
聡子が
もう一度
溜息を吐き出し
「…駅に 連れてって」
「……わかった」
此処は
市街地に近い
レストラン
数分 走れば
駅方面の表示が
出てくるだろう
化粧に どれほどの
意味を持つのか
わからないが
聡美に とっては
それだけ
重要性が
あるのかもしれない
冷静に考えれば
たまたま
知り合った男が
[指名手配犯]
だったとしたら
聡美に限らず
一秒でも早く
離れたいと
誰でも 思うだろう
当然の答えだ
「巻き込んで悪かった」
顔を伏せたまま
頭を振る聡美に
出来るだけ
優しい口調で
「もうすぐ 駅に着く
いろいろ
ありがとう」
告げ終わる瞬間
聡美が 顔を上げ
「違うのよ」
意外な程
ハッキリと
言葉を返した
「……何がだ?」
言葉の意味が
わからない
「駅の意味が違うの」
聡美は
自分にでも
言い聞かせて
いるように
顔を上げたまま
溜息をつき
ふて腐れる
「…何が 違う?」
「宇都宮駅に 向かって
…そこの
コインロッカーに
荷物が あるの
駅で降りたい訳じゃ
ないのよ」
……ロッカー?
コインロッカーに
預けているのか?
何故 そんな所に?
……確か
帰る場所が
…ない…と
言っていた
……家出人なのか?
…二十歳を過ぎて
家出人?
………
今 流行りの
ネットカフェ住民
……なのか?
謎だな
ナビの電源を
入れ
現在地を
表示する
【栃木県矢板市八幡】
……矢板市?
根本の故郷は
確か 矢板市だった
はずだ
「……おい 矢板市だ
メール確認してくれ」
携帯電話を
開いた聡美が
メールを開き
「矢板市!」
「鞄は 後でいいな」
「……うん」
ハンドルを
握る手に
力が 入る
…が
すぐに 肩を
落とした
「……根本の実家は
まだ あるのか?」
「104で 聞いてみる?
住所と名前が
わかってる事だし」
電話番号案内に
問い合わせる
聡美の声が
次第に
弱々しくなり
電話を切る
「現在 契約解除だって」
「……そうか」
「探してみようよ」
「……家か?」
「近所の方から
根本の手掛かりが
聞けるかも
知れないでしょ?」
「…そうだな」
手慣れた手つきで
ナビに
住所を打ち込み
設定する聡美が
奇妙に感じる
メカに強い女性でも
初めて触る機械には
躊躇するものでは
ないだろうか




