動向
………
……
空っぽの頭で
車の天井を
眺めていた
……何も
する事が
ない
駐車場内
車の変動もなく
人影すら
動く気配が
ない
レジ袋に
食べ掛けた
弁当箱と
潰した
髭剃りの箱
ライターで
焼き切った
毛布のタグを
詰め込んだ
温くなった
ビール缶を
フロントに
置く
酔い潰れた男が
車の中で
寝むり込んでいる
……そう
車内を 偶然
覗いた人の目に
映ればいい
24時間の
カラオケも
備わっている
一次会で騒ぎ過ぎ
酔い潰れた男を
車に残し
カラオケを
楽しむ集団が
店内に 居る
……そう
伝わればいい
毛布を
後部席に
投げ
充電し終えた
髭剃りで
髭を剃った
……他に
する事も
見つからず
気分転換に
髭剃りの音が
聞きたく
なったからだ
エンジンは
掛けて
おくべき
なのだろうが
停車する車の中
吐き出される
排気ガスが
冷気に触れ
揺らぐ煙りが
立ち登っていたら
注意を引くだろう
2月中旬
流石に
エンジンを
切った車内の熱が
外気に冷やされ
身震いする
一旦
車を降りて
コートを羽織り
トランクを開け
レジ袋に詰めた
ゴミを入れた
何時間も
人と触れずに
過ごし
気の緩みが
あった事は
確かだろう
辺りに
気を配る事なく
車の真横に
立ち
いつものように
煙草をくわえ
満天の星空を
見上げながら
煙草の
火を燈すと
同時に
店内のドアが
開き
女性が
飛び出してきた
突然の出来事に
煙草をくわえたまま
立ちつくし
ゆっくりと
ドアノブを
引く
追い掛けてきて
引き止める
男の手を
振り払い
『待てよ 聡美…』
言葉とは
裏腹に
カラオケの部屋に
車のキーでも
置いて来たのだろう
何度も
店内のロビーを
気にしながら
振り返る男に
背を向けた女が
真っ直ぐ
向かって
走ってきた
……しまった
煙草の火だ
いくら
外灯の多い
駐車場とは言え
夜中の
ライティングだ
煙草を吸う時に
発光する
火種の蛍が
浮き上がって
いたのだろう
『彼が 迎えに来てるの』
そう
当然のように
向かって来た
見ず知らずの女が
寄り掛かり
俺の腰に
………手を回し
『……乗せて』
小声で
呟いた
大柄な女が
覗き込むように
見上げる
真近で
顔を 見られた
そして
彼女もまた
一人の男性から
逃れて来た
……どうする
このまま
置き去りに
する訳もいかず
この場所に
留まっていると
断る訳にも
いかない
……どちらにしろ
移動しなければ
ならない事は
確かだ
………仕方ないだろう
ドアを開け
エンジンを回し
助手席側のロックを
解除した
乗り込んで来た
女性が
ドアを閉め
『出して』
慌てて
ロビーから
飛び出して来た
男性を 横目に
『またね』
窓硝子も
開けずに
笑顔で 手を
振っていた
車のボディを
叩いた男が
悔しそうに
自分の車へ向かって
走って行く
女は 後ろも
振り返らずに
『左曲がって』
淡々と
指示を出した
ウィンカーを
表示せずに
左折し
奥へと続く
細い道路を
加速する
ラブホテル街の
ネオンが
【満室】
赤に変わっている
ホテルが
何箇所か 見えた
【空室】
青いネオンを
何軒か 通り過ぎ
当然のように
『そこ曲がって』
指示を出す
言われるまま
厚めのビニールが
垂れ下がる
ホテルのゲートを
くぐり抜けた
コテージ風の
小さな部屋が
並び
ひとつ
ひとつ
離れ家に
なっている
【満室】と
表示されていない
部屋が
空室らしい
車を バックで
駐車し
聡美が 車から
降りて
目隠し用の
ビニールカーテンを
閉め
得意そうに
『灯台もと暗し』
逃げ込んだ
ホテルの
ドアノブを
握り
無邪気に
笑った
車から降りず
席に座って
いると
聡美が
笑うのを
辞め
車に近づき
窓硝子を
叩いた
窓硝子を
下げるてやると
申し訳なさそうに
『…怒ってます?』
深刻な表情を
見せる
溜息を付き
聡美の顔を
見ずに
『ナンバーを
控えられるのは
……困る』
呆気に取られた
聡美が 軽く笑い
『奥様いらっしゃるのね』
少しだけ
安堵の顔を見せた
『大丈夫ですよ』
簡単に
言い放つ言葉に
正直
ムッとした
何を 根拠に
大丈夫だと
断言 出来るんだ
………多分
表情に出て
いただろう
そんな事も
お構いなく
ホテルのドアを
開けた 聡美が
『自動支払機システム』
部屋の入口を
覗き込み
確認をして
『コンドームを
運ぶくらいなら
やってくれるかも』
そして
『控えても すぐ
捨てるわよ
部屋の物品さえ
紛失しなければね』
悪戯に笑った




