興味ですか?
今回は少し長めです。
お父様からの爆弾発言から数日後、今度は手紙ではなくフォルテ公爵シャーロン様が執事とともにいらっしゃいました。
シャーロン様の背後には数々の結納品があり執事が手早くおろしている中、公爵様はこう仰いました。
「初めまして、リサ嬢。私はシャーロン・ティーン・フォルテ公爵です。この度は婚姻の申し入れを受諾していただき有難き幸せ」
私の目の前でシャーロン様は優雅に礼をし、思わず見惚れてしまった私は焦りながらもその場に相応しい礼をしながら口を開きます。
「初めまして、リサ・サリアン・シルビアと申します」
私の礼を優しげな表情で見つめていたシャーロン様は、その笑みを浮かべたままこう仰いました。
「申し訳ございません。伯爵殿、リサ嬢と2人で話したいのですが…よろしいでしょうか?」
「もちろんですとも!庭に席を設けますのでそちらで…ローラン、今すぐ用意を!」
「かしこまりました、旦那様」
シルビア伯爵家に仕える執事のローランの手ですぐに席は設けられ、侍女のユィリアが運んできたお茶を私とシャーロン様は飲んでいます。
お話があるとのことでしたが一向にはじまる気配がありませんので、私はシャーロン様を(いけないことですが)観察することにします。
…遠目でした見たこともありませんでしたが、シャーロン様は本当にイケメンです。
椅子に座ってお茶を飲んでいるだけで、とても絵になります!
イケメン好きでない私でも思わず見惚れてしまいます!!
「………実は、貴女に一目ぼれしたというのは嘘なのです」
「…………はい?」
急に口を開いたと思いきや出てきた言葉は『一目ぼれは嘘』です。
……あれ?この婚姻の理由って『一目ぼれ』だったのでは?
この平凡娘に一目ぼれなんてしませんよね?
…わかってはいましたが、面と向かって言われると結構落ち込みます。
心の中でかなり落ち込んでいる私を見ながら、シャーロン様はこう仰いました。
「…一目ぼれというよりも『興味がわいた』と言ったほうが正しいです」
「……興味ですか?」
「私のお話を暫し聞いていただけますか?」
「…はい」
…こんな平凡娘に『興味』ですか?
話が見えないので、私はシャーロン様のお話を聞くことにいたします。
「実は、この歳まで私は仕事一筋でしたので恋愛などしたこともなければ関わることもありません。夜会で何回かダンスはしましたが…」
…はい。私も何回も目撃していますよ、女性に囲まれたシャーロン様を。
「しかし、私は『名門だから、お金があるから、顔がいいから』と群がってくる女性が嫌いなのです!」
「……え?」
シャーロン様の口から出たまさかの言葉に、私は絶句いたしました。
シャーロン様は私の様子に気付く素振りを見せず、淡々と話し続けます。
……少しだけ自慢に聞こえたのはスルーしましょう。
「夜会へ出席しても少しだけダンスをして帰る日々を過ごしていましたが…『そろそろ跡継ぎを』と言われて夜会へ出席したとき、貴女を見つめました」
「…私を?」
「その場にいた殆どの女性が僕に群がっている中、ただ一人、貴女は壁の花になっていました。その姿はそこにいた誰よりも僕には美しく見えました」
……あれ?シャーロン様の一人称が『私』から『僕』に変わってませんか?
し・か・も!
この私が美しく見えるってどういう目をしているんですか!
「貴女なら僕の気持ちをわかってくれるんじゃないかと思い、すぐに夜会から抜け出してヘリオスに貴女の家に手紙を出させたんです…『リサ嬢に一目ぼれしたので結婚したい』と」
「要するに、私はシャーロン様が嫌いな女性じゃないから『興味』を持った、ということですね?」
「その通りです!やはり、貴女は僕の気持ちをわかってくださった!!」
……あれー?シャーロン様の口調までも変わってるような気がします。
ご丁寧に私は今現在、シャーロン様に手を握られております。
シャーロン様はとびっきりの笑顔を浮かべて、こう仰いました。
「僕が結婚出来る女性は貴女だけなのです!どうか、この僕と結婚してください!」
「…えーっと、シャーロン様?なにも私だけしか結婚出来ないというのは大げさでは?」
「とんでもない!!!貴女以外の女性と一生をともにするのかと思うと寒気がします!現に夜会の夜は蕁麻疹が出るんです!!」
…うっそーん。
あ、すみません。元の口調が出るぐらいの衝撃でした。
まさか、媚びてくる女性限定アレルギーの持ち主だったとは…。
必死に私に語りかけてくるシャーロン様が幼く見えて(私は年下なのに)私は微笑みながら手を握り返しました。
…この方となら、うまくやっていけそうです。
「わかりました。私、シャーロン様と結婚して寒気や蕁麻疹を無くしてみせますわ」
「リサ嬢、有難うございます!」
「これはもう『政略結婚』ではなさそうですね」
「そうですね……僕を女性たちから守ってくださる代わりに、リサ嬢のために僕は頑張ります!」
私が『結婚します』と言った瞬間、シャーロン様は今日一番の笑みを浮かべました。
…私のためにシャーロン様は何を頑張ってくれるのでしょう?
いえ、今は聞かないことにいたします。
こうして、私、リサ・サリアン・シルビアとシャーロン・ティーン・フォルテ公爵の結婚は正式決定いたしました。
…シャーロン様を女性アレルギーから守るという『誓約』をもった結婚ですが。
「……あっ!リサ嬢、この話は僕たちの秘密でお願いしますね」
「もちろんですわ」
お父様たちのもとへ向かうときにシャーロン様から言われました。
……このときのシャーロン様が『可愛い』と思ったのは心の中に収めておきます。
公爵様が残念ですみません。
読んでくださって有難うございました!