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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ゲットだよ

作者: けろよん

 ことの起こりはたあいのないことでした。

 その日は朝から天気がよく、リサちゃんは家の縁側で日なたぼっこをしながら絵本を読んでいました。

 生きているって素敵だなあ。そう思いながらページをめくっていると、友達のカリンちゃんがかわいらしい動物を連れて遊びにやってきました。

「こんにちわ、リサちゃん」

「こんにちわ、カリンちゃん」

 カリンちゃんは足元にじゃれついているそのかわいらしい動物を持ち上げてみせます。そのぬぼーっとした胴体やつぶらな瞳やでかい嘴にリサちゃんはつい目がひきよせられ、手元がお留守になってしまいました。

「ほら、この子いいでしょー。ドードーちゃんっていうのよ。パパが南の国からお土産に買ってきてくれたの。ほら、ドードーちゃん、お手」

「ガウ」

「おすわり」

「ガウ」

「さあ、追いかけっこよ~」

「ガウ~」

「あはは~」

 無垢な笑顔で自慢話をしたあげく、カリンちゃんは走っていってしまいました。

〈ふん、あんなのうらやましくないもん〉

 本当はとってもうらやましかったんですが、そんなことを認めるのはしゃくです。リサちゃんは静かに絵本を閉じ、平静を装って家の中へと入っていきました。

 階段をかけあがり、勢いよくふすまを蹴りあけます。

 絵本を放り投げ、そこにいる人物に向かって勢いよく特攻をかけます。

「ポラえも~ん! かわいい動物出して~!」

「やれやれ、リサちゃん。またカリンちゃんに自慢話をされたんだね」

「だって、とってもかわいかったんだもん! わたしもあんな動物欲しいよ~!」

「仕方ないなあ、それじゃあ……」

 ポラえもんは頭のポケットをごそごそと探って、何か大きくて重そうなごつごつとしたハンマーを取り出しました。

「ゲットだよハンマー!!」

「なにそれ?」

 ポラえもんが頭上高く掲げあげるそれをリサちゃんはまじまじと見つめます。

 ポラえもんはリサちゃんの目線の高さにそれを下げ、道具の解説を始めました。

「これで戦って倒したモンスターは何パーセントかの確率でリサちゃんのペットになってくれるよ!」

「わあ、凄いや! じゃあ、さっそく行ってくる!」

 リサちゃんは大急ぎでそのハンマーを持ってモンスターのはびこる北の平原へと出掛けて行きました。


 北の平原。それは街の北に広がっている平原でそこには街では見かけないモンスター達が我が物顔でかっぽしています。

「さあ、頑張ってキマイラをゲットするぞ~!」

 キマイラ。それは伝説で語られる聖獣でとても強くてかっこいいのです。でも、こんな街の近くの平原にそんな凄いモンスターなんていやしません。

 仕方ないからちょうど都合よく足元に近づいてきたスライムで我慢することにしました。

「スライムゲットー!」

 つぶらな瞳とぷっくらとしたほっぺがかわいいそのスライムにリサちゃんは勢いよくハンマーを振り下ろしました。


 ぐちゃ!! ぶしゃあああああああああ!!


 スライムはその小柄な体から派手に血しぶきを上げてつぶれてしまいました。リサちゃんはこんな小さなスライムにこれほどの血液があるなんて今まで思いもしませんでした。

 ほっぺたについたぬるぬるとした物をさわってみると、手に気持ち悪いものがついています。

 気持ち……悪い? ううん、これは……

「やっちゃったね、リサちゃん」

 リサちゃんの様子が気になったのでしょう。ポラえもんがうちわをパタパタと翼のようにしてはばたいて飛んできました。

 平原に降り立つポラえもんにリサちゃんは抗議の視線を向けます。

「ポラえもん、これはどういうことなの?」

「だから言っただろ、ペットになるのは確率だって。ペットにならなかったモンスターは死んじゃうんだよ」

「ふーん、そっか」

 どうやら自分はとんだ早とちりをしてしまったようです。でも、そんなことはもうどうでもいいことでした。

「ポラえもん」

「どうしたんだい、リサちゃん。次の獲物を探しにいかないのかい」

「死ね」

 何食わぬ顔で言うポラえもんの頭にリサちゃんは勢いよくハンマーを叩きつけました。

 小気味よく弾けるこの感覚。


 気持ちいい……


 ポラえもんは立ち上がり、ペットになりたそうな目で見つめてきます。

 どうやら失敗したみたい。


 ぐしゃっ!!


 リサちゃんはもう一度ハンマーを振り上げ、今度こそ完膚無きまでにポラえもんを破壊してしまいました。

 弾け飛ぶ部品、砕け散るボディ、この感覚は……


「気持ちいい!!」


 リサちゃんはつかの間の幸せに酔いしれ、そして言いようのない寂寥感を感じます。


「もっとこの感覚を味わいたい!!」


 リサちゃんは意気揚々とハンマーをかつぎ上げ、次の獲物を求めて歩きだしました。

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