第2話 あまりに不遇な女勇者の境遇―― ※10年前と、旅立ちの日の回想
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これは、十年前――ユリシアが六歳で、まだ勇者ではなかった頃の話だ。
〝裏切り者の勇者の娘〟と蔑まれてきた、あまりに不遇だった日々。
当時の魔王を討伐する責を果たさず、おめおめと帰還した先代勇者は、その上に何かの〝罪〟を問われ、王侯・貴族から迫害・追放された。
魔族の領域から程近い国境の、更に辺境まで、家族ごと追いやられてしまう。
……魔物の被害など、特に多いのが当然の地だ。そんな場所で〝裏切り者の勇者の娘〟へ向けられる悪意は、生半可なものではなかった。
『あっ、〝裏切り者の勇者の娘〟だ!』
『アイツの親父が魔王を倒さなかったから、魔族や魔物がいつまでたってもいなくなんないって、村のオトナが言ってたぜ……』
『ふざけやがって……おれの父ちゃん、魔物に殺されたんだぞ……勇者が魔王を倒さなかったせいで……っ!』
村の大人たちも腫れ物に触るように、遠巻きに胡乱な目で見るばかりで、子供らも噂話を真に受けて、ユリシアに石を投げつける者さえいる。
ユリシアの両親も――逞しく誠実だった先代勇者である父は、魔族との戦いで負った傷が悪化し、充分な治療を受けられぬまま息を引き取った。
優しく穏やかだった母も、最期までユリシアを心配しながら、永遠の眠りについている。
幼い少女は、誰の庇護も受けられず……それでも。
「ちがうっ……おとうさんは、誰もうらぎってなんかないっ……おかあさんが、そう言ってたんだからっ! わたしは、それを信じるっ……いつかそのことを、ショウメイしてみせるっ!」
真っ直ぐな性根を、一切たりとて曲げることもなく――懸命に、生きてきた。
――そうして十年後、先代勇者が封印していた〝勇者にしか抜けない神剣〟を、同じ血筋たるユリシアが抜き放った。
それから瞬く間に王都へ招致されたユリシアは、魔王討伐の命を王より受ける。
『おお、よくぞ来た、勇者ユリシアよ――〝裏切り者の勇者〟たる先代勇者の汚名を雪ぎたくば、見事に魔王を討ち果たしてくるが良い。旅立ちにあたって軍資金をくれてやる、感謝して受け取り、己の責を全うせよ! 魔王を滅ぼすまで、王国の地を踏むことは許さぬぞ!』
放り捨てるように渡された軍資金とやらは、街で安物の服を一着購入するのにも難儀しそうな、はした金だ。
〝裏切り者の勇者の娘〟と呼ばれるユリシアには、お供の仲間さえ一人もない。
城では美女を侍らせ重装兵を立たせる、豪奢な衣装に身を包む肥え太った王からは、そのような粗雑な扱いを受けた。
旅立つ直前の王都の大通りでは、民衆から悪意に満ちた嘲笑を受ける。
『オイ聞いたか、例の〝裏切り者の勇者の娘〟が、魔王討伐に旅立つらしいぜ』
『ぷっ……あのみすぼらしいナリで勇者ってか? 娘ったって、あんな身なりじゃ男か女かも分かんねぇぜ』
『でもあんなでも、国境じゃ魔物を簡単に倒しまくってたってウワサだろ? 怒らせたら、何されるか分かったもんじゃねぇぞ……』
『あーあ、魔王とでも相打ちになってくれりゃ、一番なんだけどな』
口さがない誹謗中傷を受けながら、それでもユリシアは反論もしない。
……ただ、一度だけ、一輪の花を手にした少女が、駆け寄ってきた。
『……あ、あの、おねえちゃん、がんばってっ。あたしのパパ、むかし、ゆーしゃさまにたすけてもらった、って……だからいまも、いきてられるって。だからあたしも、おうえんするっ。がんばって、おねえちゃん……ううん、ゆーしゃさまっ』
「! ……うん、ありがとう。……ありがとう、ね」
にこり、微笑んだユリシアは、ささやかな一輪の白い花を受け取った。
……ただ、そんなことだけでも。
たった一つのことに、随分と、心を救われた気がしている。
『……よしっ。がんばるぞ――むんっ!』
ぐっ、と両手に力を籠め、ユリシアは魔王討伐へと旅立った。
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そして今、女勇者ユリシアは単身、健気にも恐るべき魔王と対峙している。
そんな彼女を襲う、あまりにも過酷な戦いとは――……。




