第8話 無理だニャン♡
第8話 無理だニャン♡
あれから連日連夜、テレビ、ラジオ、新聞、インターネットでは、ここ猫ヶ原市の怪獣騒ぎが取り上げられていた。
専門家と名乗る学者の、自分目線の知識をひけらかすだけの偏った適当な解説。
視聴者に危険性を煽るだけ煽って、なんの解決策も打ち出さないワイドショー。
全く知識のない俳優がスタジオに呼ばれ、神妙な面持ちのコメンテーターという建前の番宣。
インターネットでは、面白おかしく画像が加工され、フェイクに踊らされる民衆。
現場となった駅前はちょっとした観光スポットとなり、怪獣饅頭なるものまで発売される始末。
それはまるでお祭り騒ぎ。
これが日本のいつもの光景なのだ。
自分に火の粉が降りかからぬ限り、それはただのイベント。
まさに対岸の火事である。
当事者になるなんて1ミリも疑わない。
やがて列島が大パニックに陥るとも知らず……
−− ここ、猫ヶ原市にある、とある一室は違う意味で緊張感がなかった。
いや、あえてそういう雰囲気を作っていたのかも知れない。
「雪乃先輩、あれから全然、怪獣が現れないじゃないですか。
なんか肩透かしですよね」
バリバリ バリバリ
こたつに入りながら、せんべいを一枚、二枚と口にするワルツ。
「あんたねえ……
食べるかしゃべるかどっちかにしなさい。
てか、なに呑気に、ひとんちでくつろいでんのよ。
少しは危機感持ちなさいよね」
バリバリ バリバリ
まあ、私もせんべいを食べてんだけどね。
「まあまあ、雪乃ちゃん。
そんなに怒んないの」
バリバリ バリバリ
ズズズズズ
マッキーも落ち着き払いせんべい片手にお茶をすする。
「マッキーもお茶すすってる場合じゃないでしょうに!
それよりも、あんたたち!
あれから二週間、なんでここで暮らしてんのよ!」
私は根本的な疑問を投げかけた。
「そのほうが、いつでも一緒に動けるからに決まってるじゃないですか。
私はお二人のマネージャーとしてですねえ……」
ズズズ
バリバリ
「なにがマネージャーよ!
あんたが居ついてから、この二週間、食費がすでに毎月の10倍よ、10倍!
毎日、毎日オーバーイート注文して、なに考えてんのよ!
ゼエ……ゼエ……ゼエ……ゼエ……
また、血圧が上がるわよ!」
「だってえ……
合宿みたいで楽しいじゃないですかぁ」
また、ワルツが甘えた声で上目遣いをする。
私はこれに弱い。
でも、今回はハッキリと説教してやるんだ。
「あんた、合宿ってんなら、せめて自炊しなさい、自炊!
どこに出前ばっかりとる合宿があるってんのよ!
もしあるんなら、そこの監督を今すぐここに連れてきなさい!
まとめて説教してやるわ!
ゼエ……ゼエ……ゼエ……ゼエ……」
私はビシッとワルツを指差し決めてやった。
「ふえ〜ん、マッキーさ〜ん。
雪乃先輩が怖いですう〜」
ワルツが嘘泣きをしてマッキーにすがりついた。
「こいつう…」
私はワルツを睨みつけた。
今日という今日は許しません!
「まあまあ、雪乃ちゃん、そうカリカリしなさんなって!」
マッキーはワルツの頭をよしよしと優しく撫でている。
マッキーもこの子には甘い。
「マッキーも、お店はどうなってんのよ。
放ったらかしじゃないの?
こんなところで油を売ってる場合じゃないでしょうに」
「ああ、それは大丈夫よ。
チーママに任せてるから安心よ。
ただ、私目当ての常連客には寂しい思いさせちゃうけどね」
落ち着き払ったマッキーが妙にイライラする。
まあ、真剣に腹を立てているわけじゃないんだけれども、もうすこし、こう、なんていうのかなあ……
当事者としての自覚というか、危機感と言うか……
私の気持ちを知ってか知らずか、マッキーが口を開いた。
「あのね、雪乃ちゃん、あなたの気持ちは理解するわ。
でもね…
四六時中、気を張っていたら、身が持たないわよ。
今、この世界を守れるのは私たちしかいないんだからね」
マッキーは優しい目で私を諭すように言葉を紡いだ。
「まあ、それは確かにそうだけど…」
私は少し口を尖らせながらも、マッキーの話に耳を傾けた。
「それに、今はヤマトちゃんとフウテンが【魔魂】の調査をしてくれてるじゃないのさ。
私たちは体力を温存して、来るべきときに備えましょう」
マッキーは優しく私に笑みをくれた。
私も微笑みながらコクリと頷く。
しか〜しっ!
「ワルツ!
あんたには、マッキーみたいに深い意味なんてないでしょう!」
私が叫んでも、どこ吹く風……
ワルツは相変わらずせんべいをバリバリとむさぼりながら、ワイドショーに釘付けである。
「ほら〜!
雪乃先輩、マッキーさん。
見て見て、ワイドショー!」
ワルツがキャッキャと画面を指差すので私とマッキーはテレビに目をやった。
「ほら、ここですよ。
雪乃先輩もマッキーさんも、顔にボカシが入ってるんですよ。
なんでかな?」
ワルツは首を傾げている。
「ホントだ。
マスコミの配慮かな?」
私も首を傾げた。
「違うわよ、あなたたち。
マスコミがそんな配慮するわけないでしょ。
【猫ニャンスーツ】がレーダーに映らないのは知ってるわよね?
これはフウテンに聞いたんだけど、正体がバレないように、顔にも特殊なモザイクがかかる仕様になってるんだって」
「なるほど。
それで合点がいったわ。
あれだけテレビ中継されたのに、なんでマスコミがこの家に押しかけて来ないのかってね」
私はずっと不思議に思っていたことの答えがみつかり、少しスッキリした。
「ちょっと待ってくださいよ。
私は雪乃先輩もマッキーさんの顔を認識してますよ。
もちろん変身後ね」
「えっ!?
あなただけ見えてるってこと?
いったいどういうことなのかしら?」
マッキーは困惑している。
「ひょっとしたら、私には特別な力があるとか?
私も【ニャン斗六星剣】の生まれ変わりだったりして」
ワルツはワクワクした表情で私たちに言葉を返した。
「それは無いわ。
【ニャン斗六星剣】で現世に魂が降りてきているのは私と雪乃だけ。
あなたが【ニャン斗六星剣】であることはありえない」
マッキーはキッパリと言い放った。
「じゃあ、なんでなんだろうね?
私の変身シーンを見たからワルツだけ効力がないとか?
よくわかんないよね」
まあ、それはそれとして、今さらワルツに正体がバレていることをとやかく言っても仕方がない。
それよりも、問題は【魔魂】である。
ここ二週間、沈黙していることが逆に不気味だ。
前回、マッキーが来てくれなければ確実に詰んでいた。
次に怪獣が現れたときも、私たちだけで倒せるという保証もない。
私が神妙な面持ちで考え込んでいると、突然ヤマトの慌ただしい声がこのリビングに響いた。
一瞬でゆるい空気は色を変えた。
「雪乃!
日本全土に黒雲が!」
ヤマトが叫ぶ後ろから、慌ててフウテンもリビングに飛び込んでくる。
「日本の主要都市が攻撃を受けているんだ!」
フウテンの叫びと同時に、テレビから緊急速報が流れる。
あわせて街中に緊急アラートが鳴り響いた。
ブウゥゥゥ
地震のときのアラートではない。
サンプル動画でしか聴いたことのない、戦時下に鳴らされるアラート音である。
まさか、本当のアラートを聴くことになるなんて……
ゴー ガガガガガガ グォンッ
爆音が轟き、家が大きく揺れた。
自衛隊の緊急スクランブルだ。
「どうすればいいの?
ヤマト!
自衛隊で勝てるの?
東京?
大阪?
北海道?
いったいどこから手を付ければいいのよ!
列島全部なんて無理じゃないのさ〜!」




