第6話 仲間だニャン♡
「ノアールちゃん。
助けに来たわよ!」
その声の主はヌルヌルミミズの遥か頭上に浮かんでいた。
人が空に浮いている!?
何者?
ふっとい眉毛に、くりっくりのまん丸い瞳。
ピンク色のボブヘアーには真っ赤なネコ耳カチューシャ。
縦よりも横に広がる立派な体型で、無理やり着込んだ真紅のセーラースーツからは、見事な三段腹を覗かせるヘソ出しルック。
こ、こいつはヤバいヤツだ。
この場にいる全員が思ったに違いない。
女性?
それとも男性?
あまりの衝撃に、私は薄れゆく意識の中で、必死に思考を巡らせた。
…ちがう…
おかまの戦士…?
「ニャンルージュ!
悪い子は…
背負い投げ~!
だニャン♡」
ぼよよ~んっ!
真っ赤な戦士が腰をくねらせポーズを決めた。
「ル…
ルージュ!?」
私は意識が朦朧としながら、彼女?…の名前を思い出した。
「待ってなさいよ。
ノアールちゃん。
すぐに拘束を解いてあげるからね。
行くわよ~!
そりゃ~っ!」
その巨漢は、まっしぐらにこちらへ飛んでくる。
「ニャンルージュ!
だから無理だよ!
体当たりしても滑っちゃうって!」
私を締め上げながら勝ち誇るヌルヌルミミズに、迷わず突っ込んで来るニャンルージュにヤマトは叫んだ。
「あ~ら、ヤマトちゃん、お久しぶりブリブリぶりっ子ねえ。
大丈夫よ。
見てなさい」
チラリとヤマトを見て、ニャンルージュは自信あり気にウインクした。
「押してもダメなら引いてみなってね。
ニャンニャンデーモンキッス!」
そう叫ぶと、ニャンルージュは唇を尖らせ、こともあろうか…
私を掴んでいるヌルヌルミミズの触手に顔を近づけ、思いっきり吸い付いた。
「げっ!
マジか!?」
そのおぞましい光景に、思わず私は一瞬だけだが、意識がハッキリとする。
「ぶっちゅーっ」
ウットリしながらニャンルージュはヌルヌルミミズに悪魔の口づけをしている。
私は全てを思い出した…
かつて、ファンタジスタで一緒に戦った仲間…
真紅に燃える情熱を持った、おかまの戦士…
ニャンルージュ!
私は度々この攻撃を見せられ、いつもドン引きしていた。
まさか…
また同じ光景を見せられるなんて…
確かにヌルヌルミミズに何かしらのダメージを与えるには有効な手段かもしれない。
事実、ニャンルージュの吸引力はとてつもない威力なのだろう。
あれだけ私たちが攻撃しても、敵わなかったヌルヌルミミズは、必死にその異物を排除しようと体ごと触手をバタつかせている。
「ミミズ~ンッ!」
バーンッ
バーンッ
ヌルヌルミミズは暴れるが、ニャンルージュは一向に離れようとはしない。
たまりかねたヌルヌルミミズは、別の触手でニャンルージュを叩き落とそうとした。
「来たわね。
それを待っていたのよ!」
寸前のところでニャンルージュはヌルヌルミミズから飛び退いた。
触手と触手とが勢いよく交差したが…
ヌルンッ!
当然ながら、粘液によって触手同士が滑ってしまう。
ヌルヌルミミズはバランスを崩し、水面に巨体を打ち付け倒れ込んだ。
バッシャーンッ!
川底の水とドロが数十メートル上空へ撒き散らされる。
「きゃーっ!」
衝撃で私を拘束していた触手が緩み、私は川のド真ん中へ投げ出された。
「ブクブクブク」
私は必死にもがきながら、水面に顔を出すと、なんとか川岸まで泳ぎきった。
肩で息する私を、急いでこちらにやって来たワルツとヤマトが、手を貸し岸辺へすくい上げてくれる。
「ゼェ…ゼェ…ゼェ…
もう!
今日はなんて日だ!
ヌルヌルのあとはビショビショじゃないのさあ!
ルージュ!
あんたは、相変わらず雑なのよ!」
空を見上げ私は叫んだ。
「あ~ら、助けてあげたのに文句を言わないの!
さあ、今がチャンスよ。
立ち上がりなさい!
私がヤツを掴まえておくから、あなたはもう一度、ウイニングショットを放つのよ!」
ニャンルージュは指先を頭の上に乗せ、両肘を左右いっぱいに広げて、ヌルヌルミミズに正対する。
「な、なんちゃってポーズ!?
なんで今、そんなことするの?
煽ってんの?」
横にいるワルツが怪訝な顔をして呟いた。
「違うわよワルツ…
本人曰く…
あれは、なんちゃってじゃなくて、おっきなハートなんだって…」
「ふへ~、あ、あれはハートなんですねえ…
し、失礼いたしました~」
ワルツはニャンルージュに頭を下げた。
まあ…
敵に集中しているニャンルージュは、こちらの様子を見ていないんだけれどもね。
「ヤマト!
もう一度私たちも必殺技をお見舞いするわよ!」
「アイアイサー!」
ファンタジスタで何度も繰り返したコンビネーション技。
ニャンルージュが敵を拘束できる時間は一瞬だけ。
タイミングは絶対にミスしちゃいけない。
私が猫ニャンステッキを構え準備を終えると、上空のニャンルージュが叫んだ。
「悪い子でも…
抱きしめるニャン♡
そんなあなたにフォ~リンラ~ブッ!」
ピヒャ~ッ
ビヨヨヨヨヨ~ン
ピンク色に発光したニャンルージュから、ハート型の光線が放たれる。
やがて、その光はヌルヌルミミズを包み込み、空中へと放り投げられた。
「今よ!
ノアールちゃん!」
私はコクリと頷く。
「悪い子は…
おしおきだニャン♡
ニャンダフル~シャイニ~ングッ!」
ピッキーンッ!
一点に収束した聖なる金色の光は、一直線にヌルヌルミミズに放たれた。
今度は外さない!
ビギューンッ!
光の矢がハートの中心を射抜く。
「ミミズ~ンッギャッ~ッ!」
ボカボカッボッカーンッ!
断末魔をあげ、ヌルヌルミミズはハートマークの中で激しく爆発し、木っ端微塵となる。
やがて、残骸はハートの光とともに小さく収束し、この世界から消えてなくなった。
「「この世に悪の栄えたためしなし…
…ニャン♡」」
「ニャンノアール!」
「ニャンルージュ!」
ポーズを決めたあと、前回同様、私はヘナヘナとその場へ崩れ落ちた。




