第14話 共闘だニャン♡
「ノアールちゃん。
大勢で共闘するなんて久々よね。
私、なんだか胸の奥から熱いものが込み上げてくるわ」
ルージュが感慨深げな言葉を口にした。
「そう。
あのときは六人とそれぞれの使い魔との十二人で戦っていたのよね」
思い出にふけっている場合じゃないのは百も承知だけれど、私は猫人属の国【ファンタジスタ】での出来事を、思い出さずにはいられなかった。
美少女戦士【ニャンニャンエンジェル】……
それが私たち六人のユニット名だった。
美少女かどうかは別にして、当時、10代は私とマッキー、そしてもうひとり、妖精族のベルちゃんだけで、残りの三人は50歳代がふたりと、驚くなかれ、最年長はなんと70歳オーバーであった。
私たち六人はヤマトたちが住む世界【ファンタジスタ】に伝わる伝説の【ニャン斗六聖剣】の生まれ変わり。
それぞれの世界で、それなりに暮らしてたんだけど【魔魂】を封印するために【ファンタジスタ】に集結したのよね。
当時、高校生だった私は、ヤマトに呼び出される度に【ファンタジスタ】に行かなきゃならなかったから、学業との両立が大変だったことを覚えている。
一応の戦いが終わったあと、私は普通の女の子に戻りたいってことで、ヤマトに【ファンタジスタ】での記憶を封印してもらってたんだけど、今回の【魔魂】騒ぎで、その封印は解かれたの。
当時の私は、ピッチピチの高校生。
体の動きにもキレがあったし、もちろん筋肉痛や肩こりなんかもなかったわ。
マッキーやベルちゃんなんかは、平気だっただろうけど、他の三人は今の私より御高齢。
さぞかし大変だったに違いない。
まあ、地球人は私とマッキーだけだったので、寿命や体の衰えが、何歳ぐらいからなのかは、わからないけれどもね。
私たち【ニャンニャンエンジェル】のリーダーはマッキーだった。
【ニャンルージュ】
藤春牧夫、19歳(地球)。
あだ名はマッキー。
赤き情熱の戦士。
使い魔は茶トラのフウテン。
【ニャンノアール】
月影雪乃、18歳(地球)。
黒き誇りの戦士。
使い魔はクロネコのヤマト。
【ニャンノヴェール】
ベル・ティング、18歳(ピーター星)。
緑の希望の戦士。
使い魔はマンクスのチシャ。
【ニャンブラン】
ウーピー・ゴルバー、72歳(ラブソング星)。
白き慈愛の戦士。
使い魔は三毛猫のホームズ。
【ニャンブルー】
ドーラ・モン、55歳(ミライ星)。
青き英知の戦士。
使い魔は猫型ロボットのタヌ蔵。
【ニャンジョーヌ】
タカ・クーラー、58歳(しあわ星)。
黄の勇気の戦士。
使い魔はペルシャのテツヤ。
……で……
みんな今はどこで何をしているかというと……
私とマッキーは、言わずもがな、今ここにいる。
ベルちゃんは、自分の世界に戻ったあと、今では立派な女王さまをやっているらしい。
ご高齢の三人は……
その御生涯を閉じ、天界に召されたとか。
今は現世に生まれ変わるのを待っているとか……
またいつか、別の時代で皆に会えることを切に願う。
なんか、しんみりしちゃったけれど、そういえば、【ファンタジスタ】での最終決戦は大変な思いをしたのよね。
あれは確か、日本の神話に出てくるヤマタノオロチみたいな怪獣だったはず。
体は八つの谷と八つの山にまたがるほど巨大で、頭が八つ、尾も八つある怪獣だった。
同時に八つの頭を切り落とさなくちゃいけなかったから、なかなかタイミングを合わせるのが難しかった記憶がある。
その点、今回のナメクジ怪獣は核が二つなんで、あのときより簡単……
とはいかず……
なかなか手強い相手である。
体がバカでかい。
そのうえ見た目に反して、やたら素早いときたもんだ。
ルージュと私、それぞれが、あと一歩ってところまでは追い詰めたんだけれども……
結局、敵わなかったのよね……
先ほどの敗戦シーンを思い返していると、ナメクジ怪獣が咆哮を上げ、目の前で燃え盛る大木を触角で引き抜き、こちらへ向かって投げ飛ばしてきた。
「ナメナメ~ン!」
ビューンッ!
私たちが搭乗する【ボルトス・ファイブ】は寸前のところで、大木をかわした。
危ない危ない。
今は目の前の敵に集中しなきゃ。
「ねえ、皆、聞いてくれる?
さっき私、気づいたことがあるんだけど……」
皆がルージュの言葉に耳を傾ける。
「核をほぼ同時に破壊しないといけないのは大前提なんだけど……
弱点を見つけちゃったかもしれないわ」
「弱点!?」
私はパネル越しに聞き返した。
「さっき、ナメクジちゃんと戦ったとき、道路が破壊されて、亀裂から水が吹き出したの。
そのときのヤツの反応がね……
あからさまに水を嫌ってたのよ」
「水を?」
「そう。
ここって海岸線じゃない?」
「あっ!
海水!」
一呼吸置いて、私は大きな声を上げた。
「その通りよ。
単純だけれど、ナメクジは塩に弱い。
これは使えると思わない?」
ルージュはニヤリと笑った。
「よし、それでいこう!
海水を使って、ナメクジ怪獣が弱ったところで一気に核を破壊する!
そうと決まれば急がなきゃ!
ヤツが街に出ちゃったら大変なことになっちゃうよ!」
フレンディの声に全員が頷いた。
ボルトス・ファイブの両足からは、二本の大きな黒光りするホースが射出され、海面へと突き刺された。
ビューンッ バッシャーンッ!
ボルトス・ファイブの手のひらをナメクジ怪獣に向け、ワルツは叫ぶ。
「超電磁NaCl(aq)!」
塩化ナトリウム水溶液……
今、海水から生成したのである。
ビシャシャシャシャ~ンッ!
「ナメ~ンッ!」
ナメクジ怪獣からは、白い煙が上がり、ジュウジュウと水分が蒸発する音が、体のそこらじゅうから聞こえてくる。
たまらず、ナメクジ怪獣は周りに横たわるトラックや倉庫をこちらに向かって投げ始めた。
ボルトス・ファイブはヒョイヒョイとそれらを軽くかわした。
皆で、操縦、攻撃、作戦、解析、管理を、手分けして担当しているのだ。
私たちはひとりじゃない。
新生【ニャンニャンエンジェル】……
いえ……
ワルツとフレンディもいるから【ワンニャンエンジェル】ね。
あんな攻撃に、やられるわけなんてないんだから!
ナメクジ怪獣は塩水攻撃で、依然、のた打ち回っている。
「ナメナメナメ~ッ!
ヤメロ~ンッ!」
しかし、我々は攻撃の手を緩めはしない。
見る見るうちに、ナメクジ怪獣は元の大きさの10分の1ぐらいまで縮まった。
「さあ、今だ!
ワルツ!
拳を握るんだ!」
フレンディがワルツに合図した。
「ロケット~ッ・パーンチッ!」
ワルツの叫び声と同時に、ボルトス・ファイブの両拳は、バーニヤから火を吹き上げ、ナメクジ怪獣の触角にある目玉めがけて、一直線に飛んでいった。
「どっちの目玉に核があるなんて、覚えてないわ。
だったら両方貫いてやればいいのよ~っ!」
ハッゴーンッ!
「ナメナメ~ッ!」
両方の目玉を貫かれたナメクジ怪獣は、触角が180度折り曲がるが、攻撃の勢いはそれでとどまらない。
ロケットパンチの運動エネルギーは凄まじく、さらに、その巨体を後方へびっくり返したのだ。
ゴロンッ!
ズッッドーンッ!
「急げワルツ!
とどめだ!」
パネルのランプを激しく点滅させ、フレンディは間髪入れず、次の指示を出した。
「了解!」
両手を合わせ、天高く垂直に伸ばしたボルトス・ファイブの巨体は、超高速回転をし始める。
ギュン ギュン ギュン
「超電磁カマイタチ~ッ!」
ワルツの叫び声に、ボルトス・ファイブは呼応する。
ガオーンッ!
ギャン ギャン ギャンッ!
超合金の摩擦する音がコンビナートに響き渡り、ボルトス・ファイブは、神々しく光り輝く、一本の裁きの矢となった。
その聖なる矢は、カマイタチの如く空気を切り裂き、ナメクジ怪獣に向かって飛んでいく。
咆哮を上げ、こちらを威嚇するナメクジ怪獣のボディにある核を、ボルトス・ファイブは捉えた。
グワッシャーンッ!
「やったの?」
誰も答える者はいない。
長い長い一秒の静寂。
果たして……
「ナメナメ~ンッ!
ナンデヤネ~ンッ!」
ボカ ボカ ボッカーンッ!
ナメクジ怪獣は断末魔とともに、粉々に吹き飛んだ。
やがて、ナメクジ怪獣の残骸は、燃え盛るコンビナートの上昇気流にのり、雨となった。
それは、炎で敷き詰められた情景を、ゆっくりと鎮火してゆく。
やっと終わったんだ……
その様子を私たちは、しばらく動けずに、ジッと眺めていた。
「さすがナメクジちゃんね。
体の9割が水なだけはあるわ。
さあ、あとの処理は自衛隊に任せて、私たちは帰りましょう」
ルージュの言葉で全員が我に返り、そして、頷いた。
「それじゃあ、合体を解くわね。
オープンゲッツ!」
ワルツのかけ声で、ボルトス・ファイブは両手の人差し指を前方に向けた。
「……あれ?」
ワルツは首を傾げた。
「ワルツちゃん、ゲッツじゃなくてスパロボ的にはゲットじゃないの?
それじゃあ、お笑い芸人の一発ギャグじゃないのよ」
ルージュのツッコミに、ワルツは顔を赤らめる。
「ハ、ハハハ……
ごめんなさい。
それでは、あらためて。
オープンゲット!」
今度こそ、ワルツの言葉にボルトス・ファイブは正しく反応し、合体を解除した。
いつしか、暗雲は晴れ、東の空が白じんできた。
日本の空に朝が訪れるのだ。
やがて、赤じらむ朝焼けが、新たな一日を刻み始めた。
「今日を迎えることができたわね」
私は自分に向かって確かめるように言った。
現場を離れるとき、自衛隊機が私たちの機体に併せて飛行してきた。
数時間前、バリア突入を手伝ってくれた、スカル隊である。
自衛隊はキャノピー(風防)越しに敬礼をした。
私たちも敬礼を返す。
スカルリーダーはニヤッと笑った。
かどうかはわからないが、サムズアップしたのち、その場を離れていく。
「せんば~い。
なんだか私、お腹空いてきちゃいました~。
おうち帰ったらオーバーイート注文しともいいですか~?」
「ワルツ、あんたねえ……
少しは場の空気を読みなさいよね」
私は呆れてため息をついた。
「だってえ……」
「それに、あんた、まだうちに居座るつもり?」
「えへへ。
なんだか居心地がよくて。
私、ちょうど、一人暮らしで実家出ようと思ってたから、このまま雪乃先輩のおうちに住んじゃっていいですよね?」
「いいですかじゃなくて、いいですよねなのね?
なに決定事項にしてんのよ。
それに、そんなの一人暮らしっていわないわよ。
それは、ただのパラサイト!
あんたと暮らしたら食費がいくらかかるか、たまったものじゃないわ!」
「なんでですか~。
ねえ、せんぱ~い♡」
「甘えたってダ~メ。
まあ、今日はあんたに助けてもらったし、オーバーイートで好きなもの注文していいわよ」
「やったあ!」
ワルツは操縦席で飛び上がって喜んだ。
「みんな聞いたかしら?
今日は雪乃ちゃんの奢りで祝勝会だってさ。
じゃんじゃん飲み食いしましょうね!」
「「「「「おおっ!」」」」」
「ちょっと待ってよマッキー!
なんでそうなるのよ~!」
私の悲痛な叫びとともに、私たちの機体は、朝日に向かって、グングンと加速するのであった。




