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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
4章

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在るべき場所へ

 



 エルフの里を出て、やってきた時の場所へ向かう。

 迎えにきた三人のエルフと、今回はあの女性エルフも一緒だった。


 道中、彼女は今になってエルフのことを少し話した。


 彼女たちの世界に時間という概念がない、というのは語弊であって、一応そういった括りはあるらしい。

 空にも移り変わりはあり、それを見て、エルフ特有の時間感覚で歳を計算しているとか。



「人間の一歳は、私たちの()()()よりもずっと短いわ」



 そんな他愛のない話を教えてくれたのは、人間の料理をシュトルツから教えてもらったお礼だと言う。



「暁の子だけ置いていってくれてもいいのよ」



 ふふふ、と笑う彼女の目は、冗談を言っている風ではなく、



「いや、勘弁してよ」



 と、気に入られたらしいシュトルツは、さっとリーベの後ろに隠れていた。

 こうして話してくれてる彼女の名前すら知らない。


 そんなことにルシウスは、今更気づいた。

 彼女たちも、自分たちの名前を知ってか知らずか、呼ぶことも聞くことさえもしなかった。


 肌を撫でていくのは、来た時からずっと変わりのない風で、空もやはり空想的なあの空だった。


 目的地へ着くまで、彼女の言葉が途切れることはなかった。

 会話を交わすために落とした歩調は、別れの瞬間を引き延ばそうとしているようにも思えた。








 どこまでも続く草原の先、そこにはすでにゼファがいた。



「案内ご苦労だった」



 その声にエルフたちは恭しく礼をして、道を開ける。

 女性エルフが先に声をかけてきた。



「楽しかったわ。またいらっしゃいね」


「こちらこそ、お世話になりました」



 ルシウスは頭を下げたあと、エルフの里がある方を見渡す。


 また来ますね。反射的に出かけた言葉を飲み込む。

 もう二度とここへ来ることはないだろう。


 お伽噺のような空間。とても貴重な経験だった。



 女性エルフがにっこりと微笑む。背でゼファが一言、(うた)う声が聞こえてきた。

 もう一度礼を述べて、置いて行かれないよう、そちらへ行こうとした時だった。



「カランを救っていただき、ありがとうございました」



 ルシウスはハッと、声をした方を見る。

 この空間へやってきた時、まず先に歓迎を示し、案内してくれた柔和な顔の男性エルフだった。


 カラン。

 その名前を、ルシウスは知っていた。


 聖国から逃げ出してきた、幼い少女の姿が蘇る。

 エルフの隠れ島であった彼女は元気そうだったが、今はどこの大陸かもしれぬ橋胞のところへいるはずだ。


 男性エルフの顔を、じっと見つめた。

 何か言わないと、と口を開きかけたけど、出る言葉はなかった。


 彼は、カランの父なのかもしれない。

 そうだとしても、僕に言えることは何もなかった。


 彼もそれ以上何かを言うことはなく、そうしているうちに背からかかった声に、ルシウスは深い一礼だけを残して、踵を返すことにした。









 ゼファが繋げた先は、やはりあの大聖堂だった。

 前来たときから、何一つ変わってないように見えるここも、たしかエルフの空間だったはずだ。


 けれど、今日はリクサの姿は見つけられなかった。


 ここへ戻ってくるまで、会話のなかった面々を見て、ルシウスはゼファへと一歩踏み出す。



「ありがとうございました」



 感謝を込めて頭を下げる。後ろから肌を刺すような空気を感じたが、気にしなかった。

 そっと体を起こすと、ゼファは眉を寄せていた。



「私は女王の意思に従ったまでだ。感謝される筋合いはない」



 彼女ならそう言うだろうとわかっていた。ルシウスはそれを頷くだけで受け取り、更に口を開いた。

 どうしても言っておきたいことがある。



「とても素敵な場所でした」



 怖いことは沢山あったけど、僕はあの空間が好きになっていた。

 絵の素質に恵まれていたのなら、描き起こしたいくらいに。


 見下ろしてきたゼファは、嘲るように眉を上げては、小さく鼻で笑うだけだった。



「早々に在るべき場所へ帰れ」



 こちらから目を逸らした彼女は、冷たい眼差しを背の方へ向ける。



「こっちだってうんざりしてるんだ。言われなくてもすぐに出ていく」



 苛立ちを含んだエーレの声が、ルシウスを呼ぶ。

 その段になって、リクサから分与された加護のことを思い出した。



「この空間から立ち去れば、自然と其方の加護は消える」



 心中を見越したようなゼファの発言を受け、ルシウスは何も言わずに踵を返した。


 廊下の方へ向かっていた仲間へと追い付いた時、なんとなく後ろを振り返りたくなった。

 目が合ったと思ったのも一瞬で、ゼファはこちらではない何かを見つめて、静かに佇んでいるだけだった。







 ◇◇◇







「そろそろ届いてるといいんだがな」



 もうすぐレギオンへ着くという段になって、エーレがひとりごちた。



「何がですか?」


「何がってお前、日程のことだよ」



 彼はレギオンの鉄扉を開けながら、目だけでこちらを一瞥する。



 そうだった。ヴァルハイド卿の依頼の報酬。

 シュトルツの弟テオドールに繋いでくれる約束だった。



 そこまで思い出したルシウスは「ん?」と首をひねって、エントランスホールを見渡す。



「待ってください。あそこにすごい長い間いましたけど、今って……」



 ヴァルハイド卿エリオットと最後に話したのが八月(ヘリオス)、三の日だった。その翌日にリクサに会いに行ったから……



「今日何日だ? ラクナへ何か来ていないか? 文だとか」



 受付カウンターで、エーレのそんな問いに、職員が怪訝そうに首を傾げた。



「今日は八月(ヘリオス)、十一の日ですが……」


「ぇえ!?」



 職員の返答に、ルシウスの驚愕が、一瞬ホールへ響き渡る。

 ハッと口に手を当てた辺りを見渡すと、少し前にいたシュトルツの笑っていた。



「最初に言ってたじゃん、こことあっちは時間の流れが違うって」



 たしかに。そんなことを言っていたような気がする。

 でも、あちらではリーベの持つ懐中時計から計算して、一か月ほどいたはずだ。



「いや、エルフの寿命って……」



 ルシウスは小声で言いながらも、仲間をちらちらと見る。

 地上計算で何百何千年といきる種族だと思っていたけれど、それは正確じゃないのかもしれない。



「私たちには関わりのないことだから、深く考えない方が賢明だ」



 リーベは懐から取り出した懐中時計を確信した後、壁にかかっている時計を見ていた。



「そうですね、そうすることにします」



 一旦、エルフのことは忘れよう。そう思った時、「おい」とこちらへ振り返ったエーレの手には、開封された手紙があった。



「卿は思ったより仕事が早いらしいな。十一の日、ヘリオス第二刻(十六時)に指定されてる」


「ああ見えて、仕事はしっかりする人なんだねぇ」



 暢気に答えたシュトルツの言葉から一拍遅れて、頭に指定された日時が入ってきた。

 十一の日? さっき職員が言ってたのは……



「十一の日って、今日じゃないですか!?」



 咄嗟に時計を見る。正午を回っている。



「特に準備するもんなんかねぇから、間に合うだろ」


「だが貴族の屋敷にいくんだ。全員浄化をかけて、身支度したほうが無難ではある」



 エーレへ言ったリーベは、さっと階段のある方へ足を向けた。



「めんどくせぇ」



 舌打ちをしながらも、それに倣ったエーレを見送ったルシウスは、ため息を吐きだす。


 休む暇もなく、貴族の屋敷か……



「それにしてもテオドールさん、よくこんなに早く調整してくれましたね」



 伯爵家当主なのだから、多忙を極めているに違いない。


 二階へ向かう途中、シュトルツに言うと、彼は「ああ」と思い出したようにして、苦笑した。



「テオドールは嫌なこととか面倒なことは、先に済ませる性格なんだよ」



 俺とは真逆だねぇ。


 楽しそうに笑う彼に、ルシウスは疲れた体を引きずりながらも、げんなりするしかなかった。






ここまで読んでいただきありがとうございます。

ここで四章は閉幕です。

ひとつ外伝を挟み、五章を投稿していきます。


これからもよろしくお願いします!

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