セシルside
(あのレントと婚約して大勢の前で披露する日がくるなんて)
今だに実感が湧かなかった。
(見境なくどんな人にも決闘を申し込むし、特に私はしつこく決闘を申し込まれた。私の気持ちなんてお構いなく……だから嫌いだった)
だけど今は婚約披露パーティーの真っ最中。みんな私とレントのために王城の中庭に集まってくれた。昼間から。
(だけどその認識を改めなくちゃいけないわね)
私は自身に集まる視線を一身に受け
「ふふ」
ニッコリと笑った。
「レント殿下の姿が見えないが」
「体調でも崩されたのか?」
傍にいないレントの分まで一人で。
(あいつパーティーだっていうのにどこにいったのよ!)
いつまで経っても姿を見せないレントが来るまでの時間稼ぎをしているうちに現れることを願って
(逃げた?逃げたのかしら?!)
「ふふ」と笑いながら……。
(私一人にパーティーの準備は任せきりにするし……やっぱり大嫌い!)
………
……
…
時は遡り3日前。
「決まり」
私とレントとの婚約が正式に決まり私のお母様ーーエミルは、
「あとは」
30歳という年齢を感じさせない可愛らしい笑顔を浮かべた。その笑顔は
「か、可憐だ……」
ケントス国王を虜にし
「エミルは私の妻ですよ陛下!」
そんな国王を見てムッとした顔で頬を膨らませるお父様をよそにお母様は、
「婚約披露パーティーね」
と私とレントを見て言った。
「……」
「……」
お母様の問いかけ(笑顔だけどマブタから微かに見える目は笑っているというよりも……)に私とレントはしばらく見つめあったあと怖かったけど
「「い、嫌です!!」」
仲良く拒絶した。
「ふふ」
私とレントの返答を聞いたお母様は笑った。真顔でじっと私たちを見つめたまま。そして
「却下よ」
鋭い眼光が雷のように光った。
「ひっ!」
「す、すみません!」
ヘビに睨まれたカエルのように私とレントはお母様に恐れおののき頭を下げていた。
「分かればいいのよ」
でも、さすがは私のお母様だった。怒ると怖いけどそれ以外の時は優しくて謝ればすぐに許して
「次はないからね」
まだ怒っていらっしゃったァァ!
「は、はいぃぃ!!」
「もう2度と!2度としません!!」
婚約披露パーティーなんてごめんだ!と拒絶したけど結局はお母様に逆らうなんて勇気はなくて
「あ、それと。結婚したあとは催物のたびに自分たちでパーティーを開かなくちゃいけなくなるのだから今回は練習だと思ってあなたたち二人で計画から全てやってみなさいな」
というお母様の提案もあり私たち二人が主体となってパーティーを開催する運びとなった。のだけど、さあ準備を始めようとした矢先
"あとはよろしく"
という置き手紙だけを残してレントは姿をくらませた。
「く〇〇がぁぁ!!」
その手紙を見た私は片手で握りしめると令嬢にあるまじき暴言を吐いてしまった。けど、いつまでも怒ってる時間はなく仕方なく使用人と準備に奔走しなんとか開催できた。そこまではよかった。
(これはどういうことなの?ねえ?)
ただ当日に、すでに来賓がたくさん来て
「さあ!それでは本日の主役から挨拶です!」
という時になってもレントが現れないという事態にお母様が離れた位置から目線で
(どういうことなのよ?ねえ?どういうこと?)
が、ガン詰にしてくる!遠くにいるはずなのに近くで睨まれているような……ひぃぃ!怖い!怖すぎる!!
(どこに行ってるのよぉぉ!)
少し前までのレントに対するムカつきはどこへやら
(早く来てよぉぉ!助けてェェェェェェェ!)
私はレントに助けを懇願していた。
(答えなさい!これはどういうことなの!)
しかしお母様からの圧力は増すばかりで……
(ひぃぃ!)
た、助けてェェェェェェェ!!