セシルside
レントが
「すまなかった!」
わ、私の名前を呼んでくれたァァ!!今までレントが私の名前を呼んでくれたことなんてなかったのに。
(や、やったぁぁ!!)
レントが頭を下げていることに目もくれず、私は嬉しすぎて月からやってきた天使達と手を繋いでランランるぅ~一回まわってレントを見た。
「すまん!」
しかしそこには
「俺はお前に」
辛そうな顔で服の裾をギュッと握りしめて歯を食いしばるレントの姿があった。何があったのか気になったけどそれでも
(ルイーズじゃなくて私のところへきてくれた)
嬉しくて苦しそうな表情のレントとは対照的に私は浮かれていた。
「ひどいことをしてしまった」
そんな私をよそにレントは謝罪を続けて
(いよっしゃぁぁい!!レントが私の名前を呼んだぞー!!)
私は浮かれつづけた。
「本当にすまない!」
しかしいつまでも浮かれている場合じゃないと私は思考を切り替え理由はわからないけど必死に謝るレントに
「理由はわからないけど私はレントに酷いことなんて何一つされていないよ」
と言ってレントの頭を撫でた。
「……本当に?」
そしたら頭を下げたまま首を捻って上目遣いに尋ねてくるものだからその姿が可愛らしくて
「うん。とりあえず座って話そう」
胸がキュンとなった。それから私はレントの頭を撫でたまま、レントはバツの悪そうな顔をしたままベンチに腰掛けしばらくは静かな時間が続いた。
「俺は」
そして意を決したレントが話し始めた。長かったので要約すると
"「ラ・ブエルテ」を出た後に何かを話そうとしたセシルに気づいていたけど、俺も緊張するあまり何を話していいかわからなくて無視してしまう結果になってすまなかった"
と話してくれた。ところどころで止まりながらも私の目を見てしっかりと。レントの謝罪を受けて私が思ったことは
「ありがとう」
だった。確かに無視されたんだと知って少し傷ついたけどそれ以上に
(私ばっかり緊張してたんじゃなかったんだ)
てっきりレントはいつも通りだと思ってたから「私ばかりじゃない」と知れて嬉しかった。
「え?、なんでありがとう?」
自身の謝罪に対してまさかお礼が返ってくるとは思っていなかったレントは驚き顔で私を見た。
「確かに無視されたって知った時は傷ついたけど緊張して上手く喋れなかったのは私だけじゃなかったんだって知れて嬉しかったから」
って私は伝えた。普通に話せてるっ。
「それにこんな時間まで私を探してくれてありがとう」
と。
「そっか……よかった」
どこかまだ納得いかない様子だったけどそれでもレントは頷いた。が、
「ん?じゃあこんな時間まで公園のベンチに腰掛けて何してたんだ?」
新たな疑問が生まれたようで、すかさず私に尋ねてきた。
「ああ。それは私と別れた後にレントがルイーズと楽しそうに話してる姿を見て……」
何気なくレントの質問に答えていて、気がついた。このまま
「楽しそうに話す姿を見て嫉妬しちゃったんだあ」
と話せばレントはすかさず
「なんで?」
と聞いてくる。そうなると私の答えは一つ
「好きだから」
と答えることになってしまう!
(ひゃあぁぁぁ!!)
ボン!と思考回路が爆発した。
(む、無理無理!そんなことできるわけ……)
チラリとレントを見たらまた恥ずかしくなって
(シュウウウ)
思考回路が弾けた。
「ん?なんでなんだ?」
しかし私の心情を知らないレントは訝しげな表情を浮かべていた。
「なぁ」
そしてよほど気になるのか早く教えろよと言わんばかりに催促までされてしまって。しかもなぜか距離もどんどん近くてなって……、
「ああもう!近いってば!」
とにかく今の激しい鼓動音が聞こえそうな位置まで顔を近づけてきていたので力いっぱいレントを押し退けて
「うお!」
レントから赤く染まった顔が見えないように背を向けた。
「わ、悪りぃ。気になってつい、その……」
流石のレントもしつこく聞きすぎたと反省したようで
「すまん!」
慌てたように謝った。しかし
(ど、どうしよう!)
今の私は別にレントに傷つけられたわけでもないのにそう見えるような行動をとって
「うう。ごめん」
レントを傷つけてしまった。
(はわわわ!どうしよう!)
そのことがものすごく申し訳なくて
(どうしたらいい?なんて謝った方がいい?謝るにしても嘘は良くないから素直に伝えるべき?)
真正面から私と向き合って素直に気持ちを伝えてくれたレントにどう謝るべきなのか
(素直に伝えるとしてもし断られることになったら……気まずい!気まずすぎる!)
うう。どうしたら……答えが出せずしばらく悶々としたあと
(ええい!なるようになるだ!)
考え過ぎてもうわけがわからなくなり半ばヤケクソ気味に決意を固め
「レント!」
レントに喋りかけた。
「っ!おう!」
落ち込んでいたレントは私の大声にビクッと驚いた様子を見せた。けど、すぐに真剣な顔になると私の目をまっすぐと見据えた。
「……っ!」
そんなレントに答えようと私も言葉を絞り出そうとした。けど言おうとした途端、喉で言葉が詰まって出てこなかった。
(大丈夫……私ならきっと大丈夫)
それでもレントは私と真正面から向き合ってくれたということが私に勇気をくれた。
「れ、レント!」
怖かった。
「お、おう!」
断られたらどうしようと思うと恐怖で手が震えた。けど、それ以上に伝えたいという想いがあったから意を決して
「わ、私は……れ、レントのことがす……」
「す?」
言葉を絞り出した。
「すす!」
「すす?」
が、
「セシルお嬢様ぁぁぁ!!」
あと一歩。
「レント樣ァァ!!」
あと少しで伝えられかけたところで
「アーミア!」
「セバス!」
タイミング悪く帰りが遅くなった私とレントを探し回っていた使用人たちがやってきて
「ご無事で何より……と言いたいところですが、今何時だと思ってるんですか!奥様が雷を落とすそうですので今すぐに帰りますよ!」
有無を言わせずに馬車に乗せられ
「レント様もです!早く帰りますよ!」
屋敷へ強制送還とあいなった。
(う、うそぉぉぉん!!)
せっかくあと少しで伝えられたのにまさかこんな結末を迎えることになるなんて……あまりの急な展開に思考が追いつかず私は心の中で叫ぶことしかできなかった。
(でもよくよく考えたら婚約してるんだし想いは伝えなくてもいいわよね)
が、冷静になってみるとそもそももう婚約してるのだからどのみち結ばれることは確定してる。だから伝える必要はないということに気がついた私は
「ふぅぅ……伝えなくてよかったぁ」
安堵の息を漏らしていた。
………
……
…
一方その頃レントはというと
「あなたは王子なのですよ!もっとご自身のお立場というものをですね!」
セバスの小言をよそに
"れ、レント!"
"す……すす!"
必死に何かを伝えようとしたセシルを思い出して
「はは」
笑っていた。結局はなんで公園のベンチに腰掛けてボーッとしていたのか聞けなかったけど今日はセシルのいろんな顔を見ることができて楽しかったから
「ま、いいか」




