レントside
時は遡り15分前。
「はぁ……」
俺ーーレントは自室を出て中庭を目指して歩いていた。
「あのセシルと俺が……」
時間は十二時を少し過ぎた頃で、城のあちこちから風に誘われた香ばしい匂いが……腹減った。
「こ、ここ」
ぐぅぅとお腹が鳴いた。けど、今の俺にはそんなことどうでもよかった。
「ここ、婚約するってよ!」
ただただ信じられなかった。あのセシルと婚約する事になるなんて。
………
……
…
昔から病弱で心の弱かった俺はいじめられた。
「ゾンビー!」
「虚弱王子ー!」
それが悔しく強くなりたかった。それで鍛えに鍛えて
「ガハッ!」
いじめっ子よりも、腕に覚えのある騎士よりも強くなった。才能はなかったが誰よりも努力して強くなったと思って浮かれていた。
「少しは人の気持ちを考えなさい!」
打ちのめされた。初めは俺が有利だったのに決闘の中で俺の技を吸収して進化していって……負けた。しかも女にだ。
「くそ!」
それから数えきれないほど戦ったけど結果が変わることはなくていつも負けた。同じように。
「くそ!」
と思う一方で強く憧れた。戦いの中で強くなる天才ぶりに、
"ゴリラ女"
"お前なんか王太子の婚約者に相応しくない"
どんな悪口を、どんな嫌がらせを受けたとしても意にも返さない姿に。ただただ憧れた。だって俺の理想だったから。
"ちぇ、チェーンジ!!"
俺って素直じゃねえからセシルが縁談相手と知って本当は憧れている相手だから嬉しかったのに思ってることと反対の行動を取っちまって。
(うおお!なんでこんなにドキドキしてんだよ俺!)
服を着替えてパーティー会場へ向かう時、ドキドキして冷静になるのに必死で、
「わりぃ!うんこしてたら思いのほか長くなっちまってよ!ってお茶らけるのがいつもの俺か?」
平静さを装うと頑張ったんだけどよ極度の緊張でダメだった。それでもなんとか自分を見失わないように努めようとした。けど、
「はあ!」
パーティー会場に着いたらザワザワする大勢の奴らの視線の先にクリスに詰められうずくまって
「泣けば許されると思ってるのか!」
泣くお前をいた。それを見たら
(何してんだよ……)
俺が抱いていたお前はどこにいったんだよって思って動揺しちまった。なんか悔しくてよ。
(いつものお前なら涼しい顔して相手にしねえだろうが)
って。でも、セシルのうずくまる姿を見てこうも思ったんだ。
(ああ、そうか。相手にしても仕方ないから平気なフリをしてやり過ごしていただけで本当は)
って。そう思ったら他人ごとに思えなくて気がついたら走ってた。
「通してくれ!」
そんで人を避けて壇上へ飛んでお前の前に立ってた。
「わりぃ!うんこしてたら思いのほか長くなっちまってよ!」
って少しでも笑ってほしくてお茶らけた。けど、そんなこと必要なくて
「助け、て」
ただ震えるお前を抱きしめてやればよかったんだな。
「任せろ」
あとは任せろって言って助けてやればよかったんだな。幼いころのいじめられて苦しくて、でも、誰も助けてくれなかった俺がそれでも助けを求めた時のように。
「おい!出来損ないの愚弟!その女をこっちへ渡せ!わからせてやる!」
って怒鳴るクリスから遠ざけるようにセシルを自身の背中へ隠した。
「僕は渡せと言ったんだぞ!」
そして命令通りに動かない俺に怒りの矛先が変わり
「この出来損ない!」
クリスがわめきながら拳を振りかぶった。
「うるせえよ」
これ以上セシルに汚い言葉を聞かせたくなかった俺は、クリスの子供が放つような遅いパンチを手で受け止めると、右足をお腹へと一閃。
「ぶべぇぇ!」
クリスは鮮血を口から噴き出しながらパーティー会場の外まで飛んでいった。それを見ながら俺はあんなに強くて憧れたセシルを俺が守っているという状況に
(こんなこともあるんだな)
と不思議に思いつつもセシルの弱い面を目にして
(でも、悪くねぇかもな)
以前よりも近くに感じられてなんか嬉しかった。
「ありがとぉ」
それからクリスがいなくなって安心したのか再び泣き出したセシルを
「気にすんな」
抱きしめて
「うん」
頭を撫でた。
「うん!」
その後、セシルは不安から解放されて親の腕の中ですすり泣く子供のように泣き続けた。
(本当のコイツって泣き虫だったんだな)




