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088:それぞれの目標

 奴は囁くような声で明かす。

 私たちはそれを聞いて何とも言えない顔で互いを見つめ合う。

 ゆっくりと奴に向き直り、少し躊躇いながらも問いかけた。

 

「……勘違いか。それとも、情報を誤っていた可能性は?」

「あり得ません。もしも、聞いた話が違っていたとしても、僕の美女に関する記憶が間違っていた可能性はゼロです。断言します。命だって懸けられますよ」

「……という事は、その店主も何らかの方法で記憶を……魔術では無いのか?」

「恐らくは違うと思います。念の為に許可を貰って調べましたが……その女性も記憶操作は受けていませんでした……ただ、店の近くで働いている男の証言では……間違いなく、その女性は店に通い詰めていたようです……といっても、男が見ていたのは喫茶店の中で従業員と楽しそうに会話をしている姿やカードでゲームに興じている姿くらいだったようです」

「……何で、その男は……その……な?」

「……彼の名誉の為に、あまり深くは言いません……ただ、美しさとは罪なのですよ。彼は魅了されて、心を奪われてしまったのです。あぁ、何とも何とも」

「それ、ほとんど言ってないか?」


 ギルバートが冷静にツッコミを入れる。

 エスピノはにこりと笑うだけだった。


「……まぁいい……その女は確かに存在していた。だが、明らかに会話をしていた筈の喫茶店の女主人は記憶を失っていた。魔術の痕跡は無く、外傷も無いのであれば……やはり、魔法であると言いたいんだな?」

「…………いえ、そこまでは言いませんよ? ただ、可能性の話をしているだけなので……まぁ正直に言うと、魔法かどうかはさして問題ではありません。問題なのは、この件に終焉の導きが関わっている可能性が高いという事です」

「……結局、現時点ではその根拠を話していないが……どの情報から、奴らが関わっていると睨んだんだ?」


 そろそろ、私も痺れを切らしそうだった。

 この件が根深い事は分かった。

 国家の存亡の危機である事も承知した。

 が、私が一番知りたいのは終焉の導きが関わっているかどうかだ。


 奴はゆっくりと手を伸ばす。

 そうして、酒が注がれたグラスを手に取った。

 琥珀色の中身をゆっくりと飲んで……静かに息を吐く。


「マレファル……奴が終焉の導きについて情報を集めているようです」

「「「……!」」」


 私たちは驚く。

 奴とは遂最近関わったばかりで……だが、何故だ。


「奴が終焉の導きと……繋がっていると?」

「……そこまでは分かりません。何せ、奴の組織はサボイア全土に広がっていますから。情報操作はお手の物でしょう……ですが、一つ言えるのは奴が態々、多くの人を動かして調査をしているのであれば……十中八九が、この地に終焉の導きの手のものが潜んでいるということです……奴は必要悪で、この国を…………」

「……?」


 エスピノは不自然なところで言葉を切る。

 グラスを持ち、その中身をジッと見つめていた。


「……まぁ兎に角、奴は絶対に個人的な興味であったり楽しみの為だけに多くの人間を動かすような事はしませんから……まぁ“多少”は人を使いますがね、残酷な催し物をする時は特に……ふふ」

「……笑えないな。全く」

「……えっと、その、マレファルさんが終焉の導きを調べていて……それで、奴らが此処にいると考えたんですか?」


 レーラは恐る恐る尋ねる。

 すると、その言葉の意味を理解していないエスピノは目を瞬かせていた。

 

「――そうですよ? それが何か?」


 奴は不思議そうに言う。

 私たちはくしゃりと表情を歪めてしまった。

 すると、ギルバートが控えめな様子で彼に尋ねる。

 

「……少々、情報としては足りない気がするが……他にもあるんだろう?」

「えぇぇ? これで十分だと思うんですけどぉ……まぁ後は……王宮で働いていた侍女長が奴らの仲間であると自白した事くらいですかねぇ?」

「「――いや、そっちの方が重要だろ(です)!?」」

「……はぁ、全く」


 ギルバートとレーラは鋭いツッコミを入れる。

 私は眉間に指をあてながら静かに首を振った……それにしても、二人は中々だな。

 

 鋭いツッコミであり、阿吽の呼吸だ。

 二人の息のあった動きに感心しながら。

 その情報があるのであれば、終焉の導きがこの地に潜伏しているのは確実だと分かる。

 恐らくは、国宝がある施設に既に侵入しているのかもしれないな。


「……奴らは十中八九、国宝の近くにいるだろうが……そこへ行く事になるのだろう?」

「流石は熟練の冒険者だ。話が速くて助かります……えぇイルザさんにはすぐにでもそこへ向かって頂きたい……と、言いたいんですが、少々問題がありまして……まぁ分かるとは思いますけどねぇ」

「……国宝が放つ熱だろ。分かってはいたが……対策は出来ないのか?」

「あるにはありますが……それでも限界がありますからねぇ。少なくとも、今ある素材だけでは圧倒的に足りていません」

「……何かを作るんですか? えっと、熱を防げる……コートとか?」

「ははは、とても良いアイデアですね……まぁ似たようなものです。熱を防ぐ為のもので、知恵ある者たちが既に何を作るべきかを決定しました……が、圧倒的に必要となる素材が不足しているのが現状です」


 奴はグラスに入った酒を一気に呷る。

 そうして、空になったグラスをテーブルに置く。

 両腕の肘を膝の上で立てて、顔の下で組みながら奴はニコニコと笑う……はぁ。


「……先に、素材を調達して来いと? 回りくどいぞ、貴殿は」

「はは、すみません。これは僕の性格ですので……欲しいものは“コレクターアント”の外殻とマルケッテより西に五十キラ先にある“デスノアマウンテン”の山頂にある鉱石“熱解石”です。因みに、デスノアには凶暴化した魔物が住み着いていまして、特に山頂には“ハングリーコング”という常に腹を空かして気が立っているゴリラのような魔物が縄張りにしてしまっているので……お気をつけて!」

「……同行者はいないのか?」

「あぁいますいます! ただ、彼らは素材の回収を専門としているので……戦闘はイルザさんに全面的にお任せします。勿論、バックアップに関しては彼らもお役に立てるので何なりと……よろしいですか?」

「……そうだな……期限は何時までだ?」

「なるべく早く……では、曖昧ですよね。それでは……十日以内でお願いします。必要数は私がサポートにつけるものが計測するのでおまかせを……他には?」

「……ふむ」


 私は奴を見つめながら考える……妙だな。


 何か、話がとんとん拍子に進み過ぎている気がする。

 まるで、この男は最初から私たちが此処に来ることを分かっていたようだ。

 本を渡す交換条件として依頼を私たちに出したが……おかしいな。


「……何故、私たちを使おうと思ったんだ。私たちよりもこの依頼を確実に熟せる存在が一人だけいた筈だ……誰かは分かるな?」

「……まぁそれを聞くだろうと思っていましたよ……簡単です……あの人が断わったからですよ、はぁぁ」

「……断った?」


 アンカーさんのほどの凄腕が依頼を蹴った……にわかには信じられないな。


 まぁあの方は既に引退した身だ。

 依頼をされても受けないのが普通だろう。

 だが、あの人からは老いなどを全く感じなかった。

 それはつまり、今現在でも争いの場に飛び込んでいる証拠だ。

 依頼を断る理由があるとすれば……もしかして……。


「……既に別の依頼を引き受けていた……違うか?」

「はい、正解です……僕よりも先に、組合の本部から依頼を受けていたようでして……まぁその内容は大体は同じらしいですが……どうも、彼女の調べるものは終焉の導きというよりは“魔物そのもの”のようでして……いや、今一つ違いは分かりませんけどねぇ……まぁアッチが片付けば、すぐにこっちの依頼も受けてくれるでしょうが……正直、それを待っていられる余裕も無いので。丁度、街で見かけた凄腕の貴方を頼ろうと考えていたところでした……此処に来たと言う事は、まぁアンカーさんが手を回したんだなぁと考えましたけどね。あの人、あぁ見えて義理堅いですからね」

「……そうか、それで我々が来た時も落ち着いていたのか」


 理由としては最もだ。

 アンカーさんが頼れないからこそのセカンドプランだ。

 銀級冒険者であれば、実力も申し分ないと考えたんだろう……だが、不安は残る。


「……私一人では限界がある。銀級、とまでは言わん。せめて、実力的に申し分のない冒険者を後三名……いや、五名ほど呼べないか?」

「五名で、いいのですか? 僕はてっきり十名以上を要求されると思いましたけど」

「……数が多ければ出来る事も増える。が、その分のリスクも跳ね上がる。統率がとれないような即席のパーティであれば尚の事、人数は極力絞った状態の方がいい。だからこその五名だ」

「……なるほど。確かに、それは理に適っていますね……分かりました。此方で手配しておきます」

「助かる……と、依頼には関係しない事だが……もう一つ質問を良いだろうか?」

「ん? 構いませんよ……はっ! まさか、彼女がいるかどうかを「黙れ」……あぁ!」


 私の殺気を受けて体を震わせる変態。

 そんな奴を冷めた目で見つめてため息を零す。

 そうして、私は奴を見つめながら最後の質問を口にした。


「カミロ・エスピノ。貴殿は……本当に貴族か?」

「…………ふふ、さぁどうでしょうか。無理にでもというのでしたら、明かしますが?」


 奴は目を細めながら笑う……試しているな。


 此処で我々が無理矢理にでも奴の素性を探ろうとすれば。

 恐らくは、この件については白紙にされる恐れがある。

 それどころか、重要な情報を聞いてしまったばかりに罪を問われて幽閉される恐れもある。

 そうなってしまえば、我々の冒険は此処までで……迷う事は無いな。


「……いや、いい……悪かった。ずけずけと踏み入る事ではなかった」

「ふふ、いえいえ……ですが、この件が無事に解決できた時は……誠意をもって、私も自らの素性を明かしますよ」

「……ふっ、その言葉、覚えておこう……依頼については何時から始める? 人員を集めるのにどれだけの時間が必要だ?」

「そうですね……あまり時間はありませんので。明日の正午までには揃えておきます。ですので、イルザさんたちには明日から行動を取っていただければと思います。そちらのお二人もそれでよろしいですか?」

「……問題ない」

「わ、私も、ギルバート様がそう判断したのであれば……」

「だ、そうだ……では、依頼は正式に引き受けた。くれぐれも約束を違わないで欲しい」


 私は立ち上がる。

 そうして、彼に対して手を差し出す。

 彼も立ち上がりにこやかに笑いながら手を差し出し、私の手をしっかりと握る。


「えぇ勿論……僕、こう見えても一度決めた約束は死んでも守る性質なので……特に、女性との約束は、ね?」

「……なら、信じよう……何時まで握っている」

「はは、僕は何時までも構いませんよ。あぁグローブ越しでも貴方のぬくもりが――ぶぅぅ!!?」


 私は片手で奴を殴る。

 勿論、拳ではなく平手打ちだ。

 奴は鼻血を出しながら回転して飛んでいく。

 私は先ほどまで握っていた手を摩ってから踵を返す。


「行くぞ」

「「……」」


 二人は静かに頷く。

 そうして、私の後についてきた。


 扉を開けて外に出れば、従業員の女たちが立っていた。

 彼女たちはにこやかな笑みを浮かべながら、静かに礼をする。

 優雅な立ち振る舞いであり、先ほどまでの年相応の柔らかさが嘘のようだ。

 恐らくは、客に合わせて対応を変えているのだろう……プロだな。


「中で、エスピノ氏が……鼻血を出している。手当をしてやってくれ」

「……ふふ、承知しました……皆さま、どうぞまた、“気軽に”お越しください。キャスト全員が心よりおもてなしを致します」

「あぁ、今日は何も頼めなかったが……次はたらふく飲ませてもらう」


 私は従業員の一人にそう伝えた。

 彼女はくすりと笑って、他の従業員と一緒に部屋の中に入っていった。

 すぐに女性たちの声が聞こえてくる。

 大方、鼻血を出して倒れているエスピノを心配して駆け寄ったんだろう。

 女性らしく儚げな表情で、ボディタッチを加えながら、男が喜ぶ言葉を選んで……プロ、だな。


 私は薄く笑う。

 やはり、里で学んだ通りだ。

 そんな事を思いながら、私は店を後にする。


 ……さて、図らずも依頼を引き受ける事になったが……ハガードは大丈夫だろうか?


 念の為に、朝一に予めアンカーさんに教えてもらった自宅に伺ったが。

 人の気配は全くせず、中には誰もいないように感じた。

 何故か、家の鍵は開けっ放しであったが。

 嫌な予感がしたので家の中には立ち入らなかった。


 二人は何処かで修業をしているのだろう。

 何時帰って来るかは分からないが。

 アンカーさんの言葉が正しければ、一月以内にはハガードと再会できる。

 私たちはそれまでに天空庭園に関する書物を手に入れる。

 そして、出来るのであれば天空庭園に繋がる情報を手に入れたい。


 店から出る。

 そうして、振り返り銀の蝶を見つめた。


「……勝負だな。ハガード」

「「……?」」


 私が先に天空庭園の情報を掴むか。

 それとも、奴がアンカーさんの修行に耐えて強くなって帰って来るのが先か。

 私は小さく笑いながら歩みを再開する。

 そして、アイツがどれほど成長して帰って来るのかを楽しむように想像した。

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