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086:銀の蝶(side:イルザ)

 音が……騒がしい。


 太鼓の音、金属同士が擦れる音。

 人間たちの話し声、乱れた呼吸音……様々だ。


 光もだ……強く、激しい。


 今は夜で、光は消えてなくなる時だ。

 それなのに、昼間のようにこの空間だけは明るい。

 街灯となる魔石は輝きを増していて。

 店につけられた魔石も燦燦と輝いていた。


 

 此処はサボイアのマルケッテ――“西の歓楽街”だ。

 

 

「お兄さぁぁん、こっちにおいでぇ」

「サービスするからぁ、ねぇ?」

「……」


 煌びやかな衣装を纏う女人たち。

 煽情的とも言ってもいいほどに肌を露出させていた。

 近くを通っただけで香水の匂いが鼻につく。

 濃いとも思えるほどに化粧もされていて、自らの女としての武器を振るっている。


 ある者は通行人の男に抱き着き胸を押し当てて。

 ある者は転んだように見せかけて駆け寄って来た男の手を握り目を潤ませて。

 ある者は耳元で甘い声で囁き、男のまたぐらを撫でていて……。


「おねぇさぁん? よろしかったら、私とぉ……っ!」

「……客じゃない。すまない」

「そ、そう……あ、じゃそっちの坊やはぁ?」

「――ッ!! ぎ、ギルバート様は不埒な行為は致しませんからッ!! ガルルル!!」

「あぁん、こわぁい……ふふ、でもぉ、気が変わったら……来てね?」

「……」

 

 ギルバートの手を握ったかと思えば彼女はウィンクをして去っていく。

 顔は整っていて化粧をせずとも綺麗な気はするが……恐ろしいな。


 アレほどまでに女を全面的に出しているのに。

 同じ女である私でさえもドキッとしてしまう。

 動揺を悟られない為に眉間に皺を寄せてはいるが。

 やはり、夜の店が集まるような場所は危険だ。


 ギルバートに視線を向ける。

 すると、彼は手をゆっくりと開く。

 そこには小さな箱が入っていた。

 それは何かと聞けばギルバートは「マッチだ」とつまらな気に言う。


 ギルバートはまだ少年であるが。

 彼も立派な男な筈だ。

 こういうところにも少なからず興味はあると思ったが。

 彼は言い寄って来る女性たちを涼し気な顔で躱していた……ふむ。


 王族ともなれば、こういう所にも慣れているのか。

 恐らくは、子供であろうとも彼の血筋に惹かれて取り入ろうとする者も多いだろう。

 だからこそ、どんなに顔が整っていて豊満な胸をしていようとも。

 彼にとっては日常的な風景の一コマにしか見えていないのだろうな。


 そんな事を考えながらも、私たちは足を動かして夜の店が集う歓楽街の中を歩いていった。

 

 夜であっても此処は明るい。

 もういい大人であれば寝静まっている頃だろうが。

 此処は今からが本番とでも言わんばかりに活気ついていた。

 そういった春を売る店だけじゃない。

 酒場なども開かれていて、店の前に無数のテーブルや椅子を置いていた。

 とても丈が短いスカートを履いた美しい女性たちが給仕をしている。

 酔っぱらいたちは女性の尻を撫でたり揉んだりで……不埒だな。


 女性たちは嫌がっているようには見えない。

 それもそうだろう。何せ、そういった事をして女性が注意をすれば、客たちはにやにやと笑って“赤い小さな布”を谷間に突っ込んでいた。

 あの布が何かまでは分からないが、恐らくは金のような何かだと察しはつく。

 大方、あぁいう事をした時に赤い布を渡しておけば摘まみ出されないのだろう。

 その証拠に顔の怖い用心棒が布を渡した男の元に行き、こっそりと金を受け取っていた。


 別に布を渡さなくても直接金を渡せばいい。

 そう思ってしまうが、恐らくはあの布をより多く集めれば自分たちの給金も増えるのかもしれない。

 その証拠に、給仕の中にはほぼ触ってくれと言わんばかりの格好をしている者もいる。

 私には絶対に真似が出来ない装いであり、少しだけ顔が熱を持つ……んん!

 

 心の中で咳ばらいをする。

 そうして、頭を左右に振って雑念を消した。

 

 此処は何処までも、私が想像していた夜の街そのものだった。

 此処は人の欲望の中心のようで、少しだけ眩暈がする気がした。


 客引きの声を無視し、近寄って来た酔っぱらいに殺気を放つ。

 酔っぱらいたちはそそくさと去っていく。

 私は常に殺気を放ちながら、ずかずかと歩いていく。

 

 此処の女性たちは慎ましいのだと思っていたが。

 一度、夜の店が集まる場所へくればこういった手合いもいるのだと分かる。


 男たちは酒に酔い、顔の良い女性に言い寄られて鼻の下を伸ばしていた。

 誰しもが情欲を滾らせているのが一目で分かる。

 自分たちはそれに呑まれないように注意する。


 歩いて、歩いて、歩いて……此処か。


 夜の店の中でも、一際大きく豪華な作りの店。

 歓楽街の中心に立てられた店であり、明かりとなる魔石もふんだんに使われていた。

 砂のレンガで作った簡素なものではない。

 天然の石を時間を掛けて磨いたものを使って建物が作られている。

 黒色の正方形の石のブロックを積み重ねた四角い外観の店で大人な魅力を感じる。

 窓ガラスもついている上に、扉もガラス張りだ。

 大男が二名扉の前に立っていて、赤に金の刺繍が入った絨毯が敷かれていた……贅を尽くしているな。


 看板も大きく、その文字は銀で描かれていた。

 銀の蝶と書かれていて、此処であるのは間違いない。


「なぁ入れてくれよぉ!! 金ならあるから!! 頼むよぉ」

「……会員証が無ければ通せません。どうぞ、お引き取りを」

「……チッ、うだうだ言ってんじゃねぇぞ!! 俺は冒険者なんだぜぇ!? 力づくでも――うごぉ!!?」


 酔っぱらいと思わしき男がいた。

 奴は店の前に立つ黒いスーツを着た浅黒い肌の大男と揉めていた。

 自らが冒険者であると明かし、奴は剣を引き抜こうとしたが。

 その前に大男が一瞬で腰を屈めて、重い一撃を奴の腹に見舞っていた。

 酔っぱらいの自称冒険者はそのまま宙を舞う。

 そうして、酒場の人間が溜めているゴミの袋の山に突っ込んでいった。


 足だけ見えるが死んではいないようだ。

 ぴくぴくと痙攣していて……強いな。


 あの大男はあの店のガードマンのようなものだろう。

 元冒険者かは不明だが、その身のこなしは明らかに只者ではない。

 今の一撃は殺さないようにかなり手加減をしていた。

 本気で私があれと戦えばどうなるかは分からないが……ふふ。


 悪い癖だ。

 すぐに強き人間を見つければ、戦いを考えてしまう。

 戦闘狂では無いが、冒険者として最悪の場合を想定してしまうのだ。

 

 もめる要素は何一つとしてない。

 今日は一応は客として中に入るんだ。

 だからこそ、戦闘になる事もないのだ。


 私は無言で店へと近づく。

 ゆっくりと近づいていけば、大男たちが片手を上げて止まるように言う。

 私はすかさずポケットから貰っていた会員証を提示した。


「……失礼いたしました。どうぞ、中へ……三名様、ご来店です」

「あぁ……行こう」


 大男は道を開ける。

 そうして、胸ポケットから魔石のようなものを出して誰かに通信をしていた。

 それを一瞥し、我々はガラスの扉を押し開けて中に入っていく。


 店の中は、驚く事に涼しかった。

 外は夜であっても暑かったが。

 この店の中は少しだけひんやりとしている。

 壁の方に視線を向ければ、青い光を放つ魔石が幾つかあった……あれか。


 冷気を放っているようだ。

 それも冷たすぎず弱すぎずの絶妙なところだ。

 廊下のような作りになった店内。

 奥には銀色の両開きの扉があり、横の扉が開いたかと思えば身なりの良い老紳士が出て来た。


 質の良い上等な服。

 黒を基調とし銀の刺繍が入っていて、派手過ぎず貧しくもない。

 白い手袋を嵌めていて、その顔は皺がありながらも整っていた。

 若い頃はさぞや有名な色男だったのか。

 甘い顔つきであったのだろうとどうでもいい事を考えてしまう。


 支配人として相応しいスーツ姿だ。

 灰色の髪は後ろで紐か何かで縛っているのか。

 老人ではあるが、全くと言っていいほど老いを感じない。

 洗練された美しさとでもいうのか。

 ただ立っているだけでも絵になる男だと思った。

 

 彼は優雅に一礼し、にこやかな顔で自らをこの店の支配人であると明かす。


「……失礼ですが、お客様方、当店は初めてのご利用でしょうか?」

「そうだが……分かるのか?」

「えぇ、支配人としてお客様のお顔を覚えるのは当然の義務ですので……よろしければ、此方の方でセッティングを」

「いや、それはいい……ある男と会う約束をしているんだ」


 私は嘘をついた。

 が、それを悟られないようにハッキリと伝える。

 すると、支配人の男は静かに頷く。

 

「……左様でございますか。それでは、その方のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「カミロ・エスピノだ……もう来ているか?」


 私は一切動揺する事無く簡潔に伝えた。

 すると、支配人の男は少しだけ目を細める。

 

「……はい、エスピノ様でしたら三十分ほど前にお見えになりました……少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか」

「構わない。此処で待とう」

「ありがとうございます。それでは」


 支配人の男は一礼する。

 そうして、奥の扉を開けて入っていってしまう。

 残された我々は周囲を眺めて待つ。


「……いいのか。あんな嘘をついて」

「……まぁ普通であれば警戒して我々を追い出させるだろう……普通であればだがな」

「……まさか、得体の知れない輩と会うと? 本気か?」


 ギルバートは小声で話す。

 私も小声で話しながら、それに賭けるしかないと伝える。


「アンカーさんの言う事が事実であるのなら……謎に包まれた我々との接触は、奴にとっては面白い体験に成り得ると考えるのではないか? 私が奴の立場なら絶対に会わないがな」

「……まぁ出待ちするよりかは警戒はされないが……はぁ、仕方ないか」


 ギルバートは眉間の皺を揉みながら首を左右に振る。

 レーラを見れば、周りをキョロキョロと見ていた。


「こういう店は初めてか?」

「え!? い、いえ、その……は、初めてですぅ」

「そうか……私もだ。だが、そう緊張する事は無い。こういう所でする事は簡単だからな」

「……えっと、どういう意味ですか?」


 レーラは不安げな顔で私を見る。

 私は分からないのも無理は無いと伝える。


「酒を飲む。女人と話す。そして……“一発”決めるだけだ」

「――ぶぅ! お、お前……ふ、ふふ……な、何言って……くふふ」

「……? お酒を飲んで、女の人と話すのは分かりますが……一発って何ですか? 殴るんですか?」

「いや、違うぞ? 一発――撃ち込むんだ」


 私はハッキリとレーラに伝えた。

 レーラはまるで分かっていないようで首を傾げていた。

 そうして、「大砲?」と奇妙な事を言う……ふむ、まだ早かったか。


 ギルバートを見れば、腹に手を当ててプルプルと震えていた。

 どうしたのかと見れば、くすくすと笑っている……?


「ふ、くふふ、ふぅ……そ、それ、何処で覚えたんだ? いや、深い意味は無いが……ぶふ! だ、ダメだぁ。おかしくて」

「……何処も何も、先生に教わったんだ。里で行われる性に関する教育だ……知らんのか?」

「……え? エルフは、そういう事も学ぶのか?」


 ギルバートは笑うのをやめて不思議そうに私を見つめる。

 私は腕を組みながら当然であると伝えた。


「エルフの寿命は長い。当然、そういった性に触れる時間も長いんだ。我々は貞操を守り、間違いを起こさない為に幼少の頃より、性に関する教育を村のおばばたちから習うのだ。こういったヒューマンの国のいかがわしい店に関する知識も知っているのは当たり前だ」

「…………あぁ、それで妙な知識を持っているエルフが多いのか……やっと理解できたよ、うん」


 ギルバートは生暖かい目を私に向ける。

 私はその視線はどういう意味なのかを考えて……奥の扉が開かれる。


「お待たせいたしました……エスピノ様から確認が取れました。どうぞ、此方へ」


 支配人が扉を開ける。

 私たちは静かに頷き中へと足を踏み入れて……ほぉ。


「わぁ!」

「……中々だな」

「お褒めに預かり光栄にございます」


 レーラは感嘆の息を漏らす。

 ギルバートは顎を撫でて素直な感想を零した。


 店の中を表すのであれば――“白銀”だ。


 銀の装飾をこれでもかと使い。

 店内の天井で輝く大きな銀色のシャンデリアには黄金の光を放つ魔石が埋め込まれていた。

 働いている女性たちは外で歩いていた女性たちとはまるで違う。

 誰しもが高級なドレスに身を包み、肌の露出も少ないのに確かな色気を感じるほどだ。

 整った顔は当然であり、化粧に関しても薄いように感じる。

 テーブルについている客たちも貴族のような装いで。

 全員が全員、静かで教養の高い会話をしている。


 まるで、貴族たちの社交場だ。

 自分たちが何処までも場違いな存在であると分からされているように感じてしまう。

 それほどまでにこの場の空気は透き通っていて、穢れや不浄を感じない。

 凄まじくレベルの高い店だと思っていれば、支配人が笑みを向けて来る。


「……すまない。連れて行ってくれ」

「畏まりました」


 支配人は一礼する……まだまだだな。


 支配人は敢えて我々の水を差さなかった。

 もしも、あそこで心配されていれば他の客に気づかれていたかもしれない。

 そうなれば恥を掻くのは我々で……流石はプロか。


 私は支配人の気配りに感謝しながら。

 真っすぐに歩いていく彼についていった。


 いくつかの円形のステージのようになった席を超えていき。

 中心にあるガラス製の噴水を通り過ぎる。

 そうして、更に奥の方へと向かって……ん?


 支配人は足を止める。

 見れば扉が一つあった。

 耳を澄ませば、微かに中から声が聞こえる……この先か?


「此方、当店のVIPルームになります……エスピノ様はこのお部屋にいらっしゃいます」

「……勝手に入ってもいいのか?」

「問題ございません。私めは入室できませんが、お客様方は“お知り合い”ですので……それでは、ごゆるりとお寛ぎ下さいませ」


 支配人は一礼し去っていく。

 私たちは互いに顔を見合わせる……アレは気づいていたな。


 我々がエスピノが招いた客では無いと知っていた。

 一応は確認を取ってはくれたが。

 もしも、奴が拒絶していれば追い返されていただろう。

 さきほどの言葉は警告の意味もあったのかもしれないが……まぁいい。


 入ってもいいのなら入るさ。

 私は一歩前に出る。

 そうして、扉に手をつく。

 ゆっくりと押していけば、中の声もハッキリと聞こえてきて…………


「はぁぁい! 王様は誰かなぁぁぁ……あぁぁぁまぁぁぁた私だぁぁ!! ぐふふふ、さぁてそれじゃそれじゃ……三番が王様にキスぅぅ!!」

「もぉ、エスピノ様、そういう事は命令しちゃいけませんよぉ?」

「ええぇぇそれじゃぁぁ……三番が王様のほ・ほ・に……チュー!」

「やだぁぁエスピノ様のえっちぃ!」

「「「…………」」」


 私たちは真顔のまま楽しんでいる男を見つめる。

 元々着ていた純白のローブは脱ぎ捨てられていて。

 今はパンツ一枚だけを履いた状態で男は顔を破顔させて酒を飲んでいた。

 部屋の中には六人の女性がいて、私たちが見つめる中でその中の一人に頬に接吻を受けていた。

 男はテンションを上げて、傍に控えていた男に命令し高い酒を持ってくるように指示を出していた。


 浅黒い肌に……軟派な口調であるが……整った顔……こいつだな。


 身なりがいいかどうかは判断がつかない。

 何せ、今はパンツしかはいていないからな。

 細身ながら引き締まった肉体であり、何か武術か剣術でも習っているのか。

 分からないが、我々と会うと決めたのならきっと何か……奴と目が合う。


「あぁぁ!! 来たぁぁ!! おいで! さぁさぁ!」

「……おい、お前を呼んでいるみたいだぞ?」

「お、お知り合いだったんですか?」

「……知らん。気のせいだ」

「おぉぉいぃぃ。そんなとこで立ってないで……さぁ! 僕の膝の上が空いてるよぉ!!」

「エスピノ様ったらだいたぁん!」

「んん? もしかしてもしかして……妬いちゃったかなぁ!!? はははは、皆は僕の大事なスイートだから安心してくれよぉ!」


 カミロ・エスピノは笑っていた。

 女性たちは黄色い悲鳴を上げながら彼にしなだれかかる。

 私は腹の底からむかむかとしながら、奴へと近づいていく。


 奴の前に立ち、呼吸を整える……よし。


「カミロ・エスピノだな「カミちゃんでいいよぉ」……聞きたい事がある」

「えぇ何々ぃ? 何処に住んでるとか? それとも、好のタイプとか? あ、それともぉ……君の何処に魅力を感じるか、とかかな。きらぁん!」


 奴は白い歯を見せて笑う。

 私は青筋を立てながらも奴を冷ややかな目で見つめる。

 必死になって呼吸を落ち着かせていれば、奴は何を勘違いしたのか心配した様子で立ち上がる。


「どうしたのぉ? もしかして、緊張してるのかなぁ? それとも、熱でもあるのかなぁ? どれどれぇこの僕が直々に触診を――ぶばぁぁ!!?」


 奴が鼻息を荒くしながら近づいて来る。

 その手をわきわきと動かしていた。

 私の中の何かがぶちりと切れて、手が勝手に動いて奴の頬を全力で叩いた。

 奴はそのまま回転しながら椅子を跳ね飛ばして転がっていく。

 女性たちが悲鳴を上げながら、奴を心配して駆け寄っていった。


「お、おい! 何してるんだ!? 相手は貴族かもしれないんだぞ!?」

「しししし死んじゃったんじゃないですかぁ!?」

「……すまん。勝手に手が動いていた……後悔はしていない」

「いやしろよ!!」


 ギルバートに突っ込まれながらもエスピノに視線を送る。

 すると、奴は不自然な動きでむくりと起き上がる。

 奴はぼたぼたと鼻血を出しながら笑っていた。


「はははは、初心なお嬢さんだね。今の愛ある一発で目が覚めたよ……さぁかけてくれ。大方、アンカーさんの知り合い何だろう?」

「……そうだ……その、悪かった」

「はは、気にしないさ。女性の全てを僕は許すよ」


 エスピノは鼻血を出しながらにかりと笑う……大丈夫なのか?


 奴は椅子に座り腕を組む。

 私たちも対面の椅子に座り、彼を見つめた。


 天空庭園について書かれた本。

 それをこの男が持っている可能性が高い。

 警戒はされていないようだが……どう話を切り出すべきか。


 私は短い時間の間に考える。

 すると、エスピノはくすりと笑った……?


「あぁすまない……良い表情だと思ってね」

「……まだ、酒が抜けていないか」

「ははは、そういう意味じゃないよ……ま、そういう意味もあるけど」

「「「…………」」」


 私たちは冷たい視線を奴に送る。

 奴は嬉しそうに笑いながらどこ吹く風だ。

 緊張はしないが……少々やり辛いな。

 

 何故かは分からないが、簡単に話が出来そうには感じない。

 相手は私たちに会う事を決めたが。

 それはきっと何か考えがあってのものだろう。

 私はそうであると断定し、少しだけ警戒心を上げる。


 ジッと奴を見つめれば――奴は変わらず笑みを浮かべるだけだった。

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