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075:不可視と声

 大地を蹴る。

 滑るように地を駆けた。

 風の音を聞き、敵の気配に集中する。

 

 敵の姿が視界の端で揺らめく。

 風が吹けば、殺気と共に敵がすぐ近くに迫り来る。

 大きく口を開けながら、脅威が牙を剥く。

 全身が震えるほどの殺気を浴びながら、俺は剣を振るった。

 

 魔力を帯びた斬撃を空を舞う土に流し、それを刃として放つ。

 合計で三つの斬撃を放てば、敵はそれを瞬きの合間に回避する。

 あの巨体で迫り来る斬撃を避け、そのまま此方へと迫り足による攻撃を放ってきた。

 それを刃で受けて衝撃を受け流す。

 手がびりびりと痺れるが、戦闘に支障は無い。


 速い――今までの比じゃない。


 一瞬の内に距離を詰めて、此方の攻撃を風となり避けていた。

 五メーテラはある巨体でありながらその動きはひどく機敏だ。

 狩人としての勘は冴えわたり、その攻撃にも無駄は無い。

 

 今までは本気ではなかった。

 当然だろう。相手は手を抜いて俺たちを油断させていた。

 仲間たちが殺されながらも、相手の弱点を露出させるまでは上手く活かされていた。

 奴は俺たちが後一手で終わらせる所で隠していた手札を切った。

 それにより、ドワーフの男たちもエルフたちも死んだ。


 策士――いや、何処まで言っても奴は狩人だ。


 獲物を効率的に狩る事だけを考えている。

 だからこそ、俺たちを一気に狩る機会を作っていた。

 奴には確実に知性があり、此方の言葉も分かっているのか――関係ない。


 言葉が分かっていても、此方の考えが分かっていたとしても。

 奴は敵であり、此処で殺さなければならない存在だ。

 俺たちは互いに無理矢理に此処で戦わされているが。

 そんな事など関係ないほどに、奴は殺しに迷いが無い。

 知性があろうとも奴は所詮は魔物だ。

 生きる為に喰らい、強くなる為に殺す……ただ、それだけだ。


 ならば、此方が遠慮する事など何一つない。

 俺は会ったばかりとはいえ仲間を殺された。

 彼らにどんな事情があったのかも知らないし、どのような人間だったかも知らない。

 だけど、共に戦った仲間の無念だけは晴らさなければならない。

 それが生き残った俺の務めであり――役目だ。


「――――!!!」

「……!!」


 敵が大きく地面を踏みならす。

 闘技場全体が大きく揺れた。

 その振動によって足が止まる。

 奴はその隙を見逃す筈もなく一呼吸の間に飛び掛かって来た。

 俺は攻撃を回避――しない。


 そのまま奴へと逆に跳躍。

 眼前で大きく口を開き、足に魔力を集中させる敵。

 それを見つめながら、俺は全神経を剣へと集中し――敵に振るう。


 魔力を流し――“放出する”。

 それにより、剣の長さは更に増す。

 一瞬だ。一瞬だけ剣が伸びたようになる。

 それにより、敵の口に吸い込まれて行く前に剣が奴の頭に直撃した。

 バチバチと魔力が反発し、奴は溜まらず足を振るった。


 俺は魔力の放出を解除し、そのまま剣の刃を奴の足に合わせる。

 空中で刃を基点とし、そのまま攻撃の流れに沿うように回転。

 勢いのままに奴の足を滑るように移動し、地面へと落下する前に斬り付けた。

 魔力を流した斬撃――が、深い傷には至らない。


 薄く皮を削るだけに終わり。

 俺はそのまま弾かれるように地面に転がる。

 そうして、そのまま足を動かして再び地上を疾走した。

 観客たちは歓声を上げて、また一段と熱気を高める。

 奴らを満足させる為では無いが、今は無視だ。


「――――!!!!」


 敵は金切り声のような叫び声をあげる。

 そうして、その場から跳躍する。

 奴は飛んで落下し、また飛んで落下を繰り返す。

 衝撃によって砂が巻き上がり、煙のようなものが発生する。

 砂埃によって目が潰されそうであり、半目になる以外に選択肢はない。

 やはり、敵は人間というものを知っている。

 目を潰せばそれだけで行動の範囲が狭められると考えているようだ。


 ……何だ? 微かに“妙な音”が聞こえる気が――ッ!


 音を判別しようとしたが。

 観客の叫びと奴の叫び声によって掻き消える。

 “空気が噴き出す”ような音だったが。

 これでは出所が何処なのかは分からない。

 

 気にはなるが……今は敵の動きに集中しよう。

 

 俊敏な動きで地上を荒らす狩人。

 砂塵が舞ったかと思えば既にそこに奴はいない。

 音だけが聞こえて、視線を向ければ砂煙が充満していた。

 周囲を見ながらも俺は足を止めず――回転斬りを放つ。


 背後に感じた殺気。

 それに反応するように剣を振るえば敵の凶刃を防げた。

 ギャリギャリと剣から火花が散る。

 一瞬でも気を抜けば体事持っていかれそうだった。

 

 敵の足と俺の刃がかち当たり、流した魔力が反発しあう。

 雷鳴轟く暗雲の中のように感じた。

 互いに魔力を帯びた攻撃であり、目の前で魔力が閃光のように弾けていく。

  

「――ッ!!」

「――――!!」


 奴が叫ぶように鳴く。

 瞬間、奴の足が更に力を増して――上方へ飛ばされた。


 風を切り裂き飛翔する。

 すぐそこには観客を守る障壁があり――体を回転させる。


 障壁に足をつけばバチリと音が聞こえた。

 一瞬だけ触れて弾かれるように落下する。

 俺はそのまま、下で待ち伏せる奴を見つめた。

 口を大きく開けば、闇のように続く大穴と無数の牙が見えていた。

 奴は俺を新鮮な肉であると見ていて、このままでは俺は食われるが――それは違う。


「――」


 ゆっくりと剣を腰へと回す。

 弓の弦を引き絞る射手のように限界まで剣を引き絞る。

 そうして、今まで以上に熟達した魔力操作によって魔力を循環させた。


 俺は師匠の弟子だ。

 基本的な魔力操作や剣術だけを教わっていた訳じゃない。

 今まではそれを見せるまでの腕は無かった。

 全てが中途半端であり、全てが何かしら欠けていた。

 

 師匠は知っていたんだ。

 俺の魔装の技術が何処までもお粗末であることを。

 しかし、あの口の悪い師匠は俺の不出来を笑わなかった。

 どんなに俺を馬鹿にしたとしても、出来ない事で笑った事は一度も無い。


 今なら分かる――分かっていたんだろう?


 あの人は俺を信じてくれていた。

 何時の日か、自分が教えた技を使いこなせる日が来ると。

 だからこそ、出来なかったとしても俺に練習だけは続けるように言っていた。

 

 悔しかった。辛かった。

 でも、そんな痛みも――今日で晴れる。


 体から流れる魔力が剣に帯びて、それが体へと戻って来る。

 体が熱く、まるで全身に火がついているようだった。

 俺の中の魔力がどんどん高められて生き、その色がハッキリと見え始めた。


 青だ。濃い青色をしていて――綺麗だ。


 奴の口へと落下していきながら、俺は魔力を更に高める。

 限界まで魔力を循環させれば、剣がカタカタと震えていた。

 濃い青の魔力は赤い刃に浸透し、その色がまたしてもい変化した。

 

 

 紫色――いや、それよりも深く輝く光だ。


 

「「「――――!!!」」」


 会場から歓声が聞こえる。

 が、何を言っているかは分からない。


 集中力を高めたせいで他に神経を割く余裕はない。

 俺はそのまま魔力の輝きを放ちながら、ゆっくりと奴の口へと吸い込まれて――“剣を舞わす”。


 円を描くように。

 いや、螺旋を描くように――剣が舞う。


 迫る鋭利な歯が剣に触れて砕け散る。

 そうして、薄く研ぎ澄ました魔力の刃が肉を抉る。

 一瞬だ。瞬きもしない内に、奴の口内に斬撃の跡が無数に生み出された。

 深い紫の光が無数の線となり、硬く鋭利な歯を超えて肉を断つ。


「――――ッ!!!?」

「……!」

 

 奴の体の向きが変わる。

 えずくように下を向きながら、俺という異物を拒絶するように俺を吐き出した。


 奴の唾液で体を濡らしながらも脱出。

 転がるように地面を移動し、受け身をとって剣を構えた。

 浅く吐息を吐き出しながら残心し、静かに技の名を呟く。


 

「……紫吹螺旋(シブキラセン)


 

 師匠から教わった技の一つ、青流螺旋(セイリュウラセン)の派生技だ。

 本来の青い魔力ではなく、紫の魔力に変化した事で生み出された技だ。


 呼吸を少し乱しながら奴を見れば、ぼたぼたと口から血を流していた。

 外皮は硬くても、口の中はやはりどんな生き物も脆い。

 今の攻撃でようやくダメージらしいダメージにはなっただろう……だが、次は無い。


 もうさっきのように俺を丸呑みにはしないだろう。

 奴に知性があるのであれば、俺を警戒する筈だ。

 ゆっくりと立ち上がりながら、俺も奴を警戒し……?


 一瞬、“体から力が抜けた”。

 頭の中に妙な靄が掛かったような感覚もした。

 が、一瞬でありすぐに体は正常に戻る。

 今のは何だったのかと思いつつ、戦闘中であったからこそ警戒する。


 ……何か、何かないのか……っ。


 師匠の技が使えるようになったとしても。

 今の俺が四級危険種に相当する魔物を単独で撃破できるかは怪しい。

 経験も少なく、唯一倒した危険種は他の冒険者の助けがあったからだ。

 ミノタウロスに至っては自分でも想定していない力を使ったからだ。

 だからこそ、現状では自分がアレに正攻法で敵うとは思えない。


 弱っているように見えても油断は出来ない。

 アレが演技であれば一気に勝負を決めようとするのは危険だ。

 ゆらゆらとして満身創痍を装っているだけで……でも、好都合だ。


 奴が誘っている間は互いに膠着状態になる。

 今の内に突破口を考えればいい。

 俺は奴を警戒しながら周囲に視線を向けた。


 ――今此処にあるものは何だ。


 事切れた冒険者たちの死体だ。

 そして、彼らが持っていた武器が転がっている。

 地面は砂であり、よく見れば前の闘技で使ったものなのか分からないが。

 破壊された武器の破片なども散らばっている。

 闘技場の壁は厚く、観客席に昇るには十メーテラ以上も登らなければならない。

 が、上がるにしても魔力の結界を突破できなければ意味がない。

 アレによって外部からの支援は受けられず、逃げる事も出来ないと言う事だ。

 逃げるつもりは毛頭ない。だからこそ、結界については別にいい……だが、そうなると……。


 ギュンター先生が約束してくれた事は……どうなるんだ?


 彼が俺に嘘を言うとは思えない。

 俺よりも長くこの国にいたからこそ、闘技場の事も知っていた。

 だからこそ、あの外部と遮断する結界についても知っていた筈だ。

 分かっていたのなら、どうやって俺に支援をするのか。


 現状でこの危機的状況を突破する方法とは。

 ギュンター先生が言っていた“考え”だけだ。

 それが何かは分からないが、見たら分かるものであるのならきっと何処かに……!


 俺は周りに不思議な何かを感じる気がした。

 それが何かを探ろうとしたが、目には何も見えない。

 まさかと考えて魔力の探知に意識を集中し――あれは!


 視覚的には何も見えない。

 が、確実に地面の一部に強い魔力を感じる。


 何かは分からないが、もしかすれば魔術的な何かかもしれない。

 ギュンターさんが言っていた考えはアレなのか……懸けるしかないな。


 奴は俺が向かってこないと判断するや否や。

 体を起き上がらせてから、足を連続して動かし地面を踏みならす。

 またしても視界を潰す気であり、俺はその前に動き出す。

 横へと移動しながら、魔力を放つ何かへと迫る。

 奴は俺の動きに何かを感じ取って俺の進路に立ちふさがる。

 俺は舌を鳴らしながら、剣を地面に突き刺す。


 ガリガリと地面を削りながら、そのまま魔力を流し斬撃を放った。

 今度はより強度を増した斬撃で。

 奴は回避も出来ずに、足をクロスさせて俺の攻撃を受け止める。

 後方へと強制的に下がらせた事によって魔力の反応がする地面から敵が離れた。

 俺はそのまま一気にその元へと走り、地面に剣を刺す。


「――っ!」


 何か硬い感触がした。

 俺は土ごと地面を抉る。

 すると、空中に埋められていた何かが舞う。


 それを見ればの四角い小さな箱だった。

 それが何かは分からない。

 が、俺は咄嗟に手を伸ばし――っ!?


 背筋がぞくりとした。

 咄嗟に前方で剣を構えた。

 すると、何かが勢いよく剣に当たった。

 そのままごろごろと後方へと転がる。

 何とか体勢を整えて前方を見れば敵は――っ!!


 横から殺気を感じた。

 反射的に殺気を感じない方向へと飛ぶ。

 すると、またしても見えない何かが俺の体に触れた。


 べきべきと鎧越しに体から嫌な音がした。

 俺はくぐもった声を上げながら地面を滑るように移動する。


 周囲に視線を向ける。

 が、奴の姿が見えない。

 気配を断ったとか、見え辛くなったのではない――いないかのように“何も感じない”。


 どういう事だ。

 何故、さっきまで戦っていた敵が消えた。

 五メーテラを超える巨体だ。

 隠れ潜むような隙間も無いからこそ、姿を完全に消せる筈が無い。

 しかし、奴は俺の肉眼では捉えられなくなっていた。


 魔力の反応も全く感じられず。

 敵の足音も聞こえない。

 足音を消しながら移動しているのか。

 それとも、動かずに止まっているのか……いや、それは違う。


 移動していないのであれば、不可視の攻撃が当たる筈が無い。

 アレは確実に物理的な攻撃をした事によって受けたダメージだ。

 脇腹に感じた力は確実に奴の足による攻撃だ。


 ……俺の知識では、ワイバーンイーターに姿を消す特性は無かったはずだ……つまり……。


 奴のそれは後天的に編み出されたもの。

 又は人為的な何かにより習得したものになる。

 恐らくは、あの白い突起物が関係しているんだろう。


 ダメージは鎧によって軽減されている……だが、完全には防げていない。


 この鎧は魔術や魔力にる攻撃には強いだろうが。

 物理的な攻撃に関してはそれほどではないのかもしれない。

 鎧には傷一つなく、亀裂も無いが装着者に伝わる衝撃や力は殺し切れていない。

 つまり、相手がより強力な負荷を掛けてくれば鎧は大丈夫であっても俺にはダメージになる。


 敵の姿は見えない。

 魔力による探知も効かない。

 なら、今俺が出来る事は――“これ”だ。


 掴み取った箱に魔力を注ぐ。

 すると、黒い箱状のそれに魔力の線が流れる。

 それが全てに行きわたれば箱はぱかりと開かれて――っ!


 横からまた殺気を感じた。

 咄嗟に腕でガードをする。

 すると、横から凄まじい力を受けた。


 ぴしぴしとガントレッドが軋んでいる。

 腕が折れそうなほどの力を受けて、俺は咄嗟に横に飛んだ。

 地面を滑り、そのままごろごろと転がっていく。

 片手で地面に手をついて止まりながら、俺はすぐに地を蹴った。


 止まっていれば殺される。

 そして、今の衝撃で手から箱が離れた。

 移動しながら箱に視線を向ければ、中から白い煙が出ていた。


 煙幕――いや、“強い魔力を感じる”。


 あの煙そのものが魔力だ。

 だが、煙状の魔力何て聞いたことが無い。

 恐らくは魔術的な何かであり、アレがギュンターさんの考えなのか。


 俺はそんな事を考えながらも、その場から飛ぶ。

 すると、先ほどまいた場所に何かがぶち当たり地面に亀裂が走る。

 やはり、あの蜘蛛は何らかの方法で姿を消している。

 その方法が分からない以上、打つ手は無いが……っ!


 殺気を感じた。

 が、方向が分からない。

 全方位から感じる殺気であり、俺は思わず足を止める。


 

 瞬間、今までにないほどの――“寒気を感じた”。


 

「……ッ!!」


 

 俺は咄嗟に全身に魔装を展開する。

 防御の姿勢を取れば、背後から強い光を感じた。

 振り返ろうとした瞬間に、強い閃光が迸る。


 全身に焼けるような痛みを感じ、連続して体を突き抜けるような強烈な刺激が走る。

 魔装越しにも感じる強い痺れであり、俺は思わず絶叫し体を強く振動させた。

 バチバチと耳元で魔力が弾けるような音が聞こえていた。

 まるで、雷に打たれたかのようで視界が激しく点滅していた。


「――が、あ、ぁぁ……っ!」

 

 閃光が止まる。

 体からプスプスと音がしていた。

 肉の焦げた臭いを鼻で感じながら、ゆっくりと膝をつく。

 

 体の自由が利かない……手足が痺れている。


 霞む視界の中で前を見た。

 すると、まるで霧の中から出るように奴が姿を現した。


 今の攻撃は魔力によるものだ。

 鎧によってダメージは軽減されている筈だ。

 しかし、痺れまでは軽減できなかったらしい。


 ……いや、違う。これは痺れというよりは……“精神的”なものか?


 魔力による攻撃を受けたのは一発目だ。

 あの時はダメージもほとんどなかったと記憶している。

 しかし、二発目に関しては明確にダメージを受けたような感じを受けていた。


 だが、俺には分かる。魔力や魔術であればこれほどのダメージにはなっていない筈だ。

 つまり、これは魔力や魔術。もしくは何かしらのものによる精神的な攻撃だ。

 “幻覚”に近い攻撃で……そうか、分かったぞ。


 奴は姿を消してなんかいない。

 奴は最初からこの空間にいる。

 見えていないのではなく、見えないような細工をされた。

 俺の認識機能を一時的に狂わせる事によって敵が見えないようになっている。

 そして、敵の攻撃を受けた時も肉体的なダメージがほとんどない筈なのに感じるのは……疑似的なダメージを刷り込まれたからだ。


 まずい……理解が出来たとしても、これに対処する術を俺は持っていない。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」

「――――」


 奴は不気味な鳴き声を発しながら、再び霧のように体を掻き消す。

 俺は立ちあがりながら剣を構えた。


 

 どうする、どうする、どうするどうするどうするどうするどうする――――


 

『――右に避けろ』

「……!」


 

 声が聞こえた――瞬間、俺は右に飛ぶ。


 数秒遅れて先ほどまで立っていた場所に何かが当たる。

 それは地面に亀裂を走らせいた。

 俺は呼吸を落ち着かせながら、周囲を見た。


『何処にもいねぇよ。ま、声だけってやつさ』

「……アンタは?」

『話は後だ。このままだったらお前は死ぬ。助けてやれって言われたが――気が変わった。私はお前を助けない』

「――は? え、何言って――っ!?」


 殺気を感じた。

 俺は剣でガードを固めた。

 瞬間、上から奴の攻撃が来た。

 凄まじい力が剣に加わり、俺を押しつぶそうとする。

 両の足で踏ん張れば、足が砂に軽く沈む。


『テメェが買った喧嘩だ。テメェで片をつけろや、クソガキ』

「……ッ!!」

『よぉく思い出しな。テメェのクソ師匠が言っていた言葉を。“精神攻撃を受けた際の対処法”。そして、嫌っていうほどやっただろう修行の一つ……“失感戦闘”をな』

「……何で、それを……ッ!!」

『気張れや。生きて此処を出れたら……話くらいならしてやるよ』


 謎の声はぷつりと消える。

 俺は歯を食いしばりながら、理不尽な事を言う存在に怒りを覚える。

 師匠と似た雰囲気を感じさせるのもムカつく。

 まるで、あの人が蘇ってまた恐ろしい修行を俺に課したようで――


「うおりゃあああああぁぁぁ!!!!」

「――――!!」


 奴の攻撃を弾く。

 そうして、一瞬出来た隙の内に前に飛んだ。

 地面に衝撃が走り砂埃が舞う。


 俺は剣を構えながら、先ほどの声が言っていた事を思い出す。


 精神攻撃を受けた際の対処法。

 そして、失感戦闘……何で知っているんだ?


 今の今まで忘れていた事であり、誰にも俺がやった修行は話していない。

 師匠も弟子は俺が最初で最後と言っていた。

 一体、声の主は何者なのか……でも、今は考えなくていい。


 助けないなんて言っておきながら――最高のアドバイスをくれたじゃねぇか。


 俺はにやりと笑う。

 あの修行は俺の中では五本の指に入るほどの理不尽なものだった。

 意味不明であり、本当に役に立つ時が来るのかも不明で……でも、この状況でなら活かせられるかもしれない。


「さぁ、第二ラウンドだ――やってやるよッ!!」


 俺は闘志を燃やす。

 そうして、静かに俺は自らの唇を勢いよく――“噛んだ”。

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