表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/89

074:知性を持った魔物

 ワイバーンイータが駆ける。

 奴の六本の足が地を踏みならせば大地が揺れた。

 瞬きの合間に視界から消えた奴――俺も地を蹴った。


「――シィ!!」

「――――!」


 体を滑らせるように移動。

 横から迫る奴の足を剣で受けた。

 ギャリギャリと音を鳴らしながら、剣から火花が散る。

 俺はそのまま全力で剣を振るった。


 奴の巨体から後方へと飛び。

 控えていた二つのチームが攻撃を仕掛ける。

 お世辞にも統率がとれているとは言えない。

 バラバラの攻撃が奴の足に当たったが、大したダメージにはなっていなかった。


 奴の眼光が光ったように感じた。


「タンクッ!」

「「おぅ!!」」


 大盾を持った人間と入れ替わるように前衛の人間たちが下がる。

 瞬間、ワイバーンイーターが体を激しく回転させた。

 大盾を持った人間たちが攻撃を受け止めるが、彼らは地面を滑るように後方へと強制的に下がらされた。

 盾には亀裂が走っている。が、使用者は死んでいない。


 点でバラバラな動きではある。

 が、指示役のドワーフが的確に人を動かしていた。


 動きが止まれば足を狙って攻撃し。

 攻撃が来ると分かればその攻撃を盾が受ける。

 回避すればいいと思うだろうが。

 もしも全員が回避すれば、ワイバーンイーターは攻撃方法を変えるだろう。

 敢えて受ける姿勢を見せる事で、敵の攻撃方法を絞らせていた。

 上手いやり方であり、彼は相当な場数を踏んでいるんだろう。


 奴は不快な鳴き声を上げながらぎょろりと眼球を動かす。

 奴から視線を感じた。

 その瞬間に、奴は足を動かして大地を蹴った。

 まるで、放たれる砲弾のように壁へと衝突し飛んでいく敵。

 会場全体が揺れているが、観客たちは全くと言っていいほど動揺していない。

 チラリと見れば、会場の周囲には魔術師のような装いの人間が複数名いた。

 奴らが結界を張って観客を守っているんだろうか。

 アードルングたちも見つけたが、あそこからでは手出しが出来ないだろう。


 ……仲間からの援護は望めない。今ある戦力で切り抜けないといけないか。


 中々に厳しい。

 そんな事を考えていれば、敵の殺気を強く感じた。

 俺はバックステップで下がり、剣に魔力を流した。

 そうして、地面に剣を刺し込みながら砂を巻き上げた。


「――“飛砂鳥(ヒサチョウ)”!!」

「――――!!!」


 巻き上げた砂が魔力の刃を形成。

 それが一気に仲間へと襲い掛かろうとした奴の頭部に迫る。

 奴は恐るべき反応速度で前の足をクロスさせる事によって俺の魔力の刃を防いだ。

 が、衝撃を逸らす事が出来ずにそのままずるずると後方へと下がっていった――スゲェ!


 以前、ラピットフライ戦で使った飛水鳥よりも威力が上がっていた。

 いや、それだけじゃない。

 魔力を流すスピードや剣が受け取れる魔力の量も格段に増えている。

 ほぼ抵抗感が無く、より早い速度で魔力を流し込めていた。

 それにより魔力の刃自体もより上手く形成出来ていた。

 もしかしたら、砂や水という媒体が無くても――仲間たちが叫ぶ。


「今だッ!!!」

「「ウオオオォォ!!!」」


 仲間たちが雄叫びを上げながら動きを止めた奴に迫る。

 またしても足を狙った全力の攻撃で。

 それを受けた奴は悲鳴のような鳴き声を上げていた……効いているのか?

 

 流石に何発も喰らっていればダメージにはなっていたようだ。

 奴は煩わしそうに下の奴らに攻撃をしようとした。

 そのタイミングで再び大盾を持った人間たちと前衛が入れ替わる。

 ワイバーンイーターは噛みつきによる攻撃をしたが、大盾がそれを防ぐ。

 奴は口に力を込めていて、ドワーフのおっちゃんは盾を放すように指示を出した。

 ヒューマンの男は盾から手を離し、入れ替わるようにドワーフのおっちゃんの相方が跳躍した。


「喰らっとけェェ!!!」


 彼は魔力を込めた斧を振りかぶる。

 それが奴の体に浮かんでいた眼球の一つに当たった。

 バチバチと激しく魔力が乱れた。

 風が吹き荒れる中で視線を向ければ、魔物の眼球にびきりと罅が入る。

 そうして、鮮血が噴き出していた。


「――――ッ!!!!」


 ドワーフの男は地面に着地し、転がるように奴の足による攻撃を回避。

 奴は加えていた大盾を噛み砕きながら、怒りを表すように激しく地面を踏みならしていた。


 いける――確実に流れは此方にある。

 

「彼らに支援をッ!!」

「「「は、はい!」」」


 同じチームのメンバーに指示を出す。

 ヒューマンの男はドワーフたちに身体強化の付与をし。

 女性たちは傷ついた男たちの治療をする。

 ドワーフのおっちゃんが何故、彼らを俺に任せたのか。

 それはこの中で唯一の支援行動が出来るのが彼らであると分かっていたからだ。


 目の良さと勘の良さはもしかしたらアードルング以上かもしれない。

 頼れる仲間であり、ワイバーンイーターの攻撃を一時的に彼らが引き付けてくれていた。

 その隙に仲間たちの傷を癒して貰っていれば、観客席から苛立ちに声が上がり始めていた。

 

「殺せェェ!!」

「ちんたらしてんじゃねぇぞ!!!」

「さっさと食い殺せよォォ!!」

「……クソ野郎どもが」


 俺は舌を鳴らす。

 仲間たちも嫌な顔をしていたが、誰も文句は言えない。

 やはり、何かしらの理由があってこの戦いに参加したのか……いや、今は関係ない。


 理由を聞くとすれば、生き残った後だ。

 俺はそう考えながら、仲間たちが支援を終えたという報告を聞きいた。

 すると、そのタイミングで誰かが此方に弾き飛ばされた。

 視線を向ければドワーフのおっちゃんの相方だった。


「――――!!」

「来るッ!! 離れろッ!!」

「「「……!?」」」

 

 仲間たちを俺から離れさせた。

 すると、蜘蛛野郎はゆらりと体を揺らしたかと思えば此方に突っ込んできた。

 俺は咄嗟に剣で奴の攻撃をガードした。

 

 凄まじい威力であり、奴の無数の牙に触れた剣から嫌な音が鳴る。

 ミシミシと言ってはいるが、この剣は簡単には折れない。

 俺はそのまま地面に溝を作りながら滑っていく。


「小僧ッ!!」

「おっちゃん!!」


 ドワーフのおっちゃんの相方が躍り出る。

 そうして、奴の頭部に目掛けて斧を全力で振りかぶった。

 そこにあった眼球を精確に狙って放った斬撃。

 それを受けた奴はまたしても眼球に罅を入れられていた。


「――――!!!」


 奴は悲鳴のような金切り声を上げながら後方へと飛ぶ。

 これによって眼球の二つを潰したが……それでもまだまだだ。

 

 ドワーフの男はチームと合流した。

 指示役のおっちゃんもチームメンバーを動かして陣形を組ませていた。

 タンクが一人盾をやられた事にはなったが、それでも十分すぎるほどの戦果だ。

 

「……妙だな」

「何が、ですか?」

「……いや、気にするな。兎に角、三人は俺から離れないでくれ」

「「「はい!」」」

 

 妙な違和感が拭いきれない。

 が、今はそれを考察していられるほどの余裕はない。


 奴は基本的には俺たちのチームを狙ってくる。

 俺たちのチームが一番弱いからかもしれないが。

 実際には支援行動を出来る人間が固まっているから溜まったものじゃない。

 他の人間の中には回復用のポーションを持っていない人間もいるだろう。

 マレファルの説明では、闘技場から逃げようとしない限りはどのような行為も許されているらしい。

 ポーションを持ち込んだり、自分の武器を使う事も許されている。

 場合によっては観客からの参戦も許可されているが……あの詐欺師め。


 結界を張った状態では、誰も此処に飛び込む事は出来ない。

 幾らアードルングといえども、熟練の魔術師が複数人で作り出した結果を破れる筈が無い。

 アイツはそれが分かっているからこそ、飛び入りの参加もありだなんて抜かしていた。

 門も完全に閉じられていて、他に侵入できる経路は無い。

 つまり、飛び入り参加何て最初から期待するなと言いたいんだ。


「――チッ」


 また、舌を鳴らしてしまった。

 何処までも嫌な性格の奴を考えてしまうからこそ勝手に出てしまう。

 仲間たちに聞こえなかったのがせめてもの救いだ。


 ワイバーンイーターはドスドスと地面を踏みならす。

 怒りに染まっているように見えるが……が、少し違う。

 

 ぎょろぎょろと真っ赤な眼球を動かしていた。

 まるで、周囲のものを観察しているようにも見える。

 何度か視線を感じたのもあぁしているからだろう……何を考えている?


 奴の攻撃は単調に見えるが、どれも無駄がなく隙が無い。


 牙による噛みつきを剣で弾き。

 足を器用に使った回し蹴りも刃や盾で受け流す。

 最初は誰しもが恐怖で体が自由に動かせなかった筈だ。

 しかし、時間が経てば同じチームメンバーも少しずつ冷静さを取り戻していった。


 ヒューマンの男は俺に付与術を行使し身体能力を強化してくれた。

 他の二人の女性も治療系の魔術で他の仲間たちの傷を治療してくれていた。

 少しでも仲間たちが傷を追えば回復してくれている。


「――――」

「……っ!」


 奴の像がブレた。

 瞬間、俺は再び剣を地面に刺す。

 

 奴が再び死角から迫っていた。

 身体強化によって動きが速くなった俺はそれにも瞬時に対応する。

 奴が仲間の一人に噛みつこうとした瞬間に俺は魔力を流した刃を奴に放つ。

 奴の頭部の側面から全力で放つ飛ぶ斬撃だ。

 それにより、奴の硬い外皮にほんの少しの亀裂が走り――血が僅かに流れた。


「――――ッ!!!」


 奴は溜まらずに横へと滑っていく。

 すると、奴を取り囲んでいた二つのチームが一斉に動き出す。

 奴へと一気に迫り、各々の武器を振るって足に集中して再び攻撃を仕掛けていた。


 二つのチームは近接戦闘に特化しているように感じたが。

 それは勘違いでは無かったようだ。

 彼らは渾身の一撃によってあのワイバーンイーターに着実にダメージを与えていた。

 傷を負ったようには見えないが、それでも確実にダメージが入っている。


 このままいけば――怖気が走る。


 奴の目が妖しく光ったように見えた。

 瞬間、奴は今までよりも速く一気に体を回転させた。

 タンクによりガードが間に合わなかった。

 それにより発生した衝撃波によって仲間たちが吹き飛ばされる。

 何名かはガードが出来ていた。

 が、反応が遅れた仲間はそのままごろごろと転がる。


 奴に視線を向ければその場から消えていて――まずい!


「逃げろッ!!」

「え――あぁぁあ!!?」


 転がっていた二名のヒューマン。

 彼らへと上から伸し掛かったワイバーンイーター。

 次の瞬間には仲間たちを頭上へと押し上げて――噛みつく。


 

 嫌な音が響く、バキバキと何かを折る音だ。

 

 そうして、ジュクジュクと奴の口から赤い液体が滴り落ちる。

 

 それがぼたぼたと地面にシミを作っていった。

 

 奴の口からはヒューマンの男たちの手足が飛び出ていて――そのまま口の中へと入っていった。


 

「「「オオォォ――!!!」」」

「……くそ」


 

 やはり、ダメだ。

 俺だけだったらまだ戦える。

 同じ仲間だけならまだ助けられる。

 が、これ以上の人間は助ける事が出来ない。


 明らかに戦闘経験が薄い人間もいるんだ。

 さっきのヒューマンたちもそうであり、このままではジリ貧だ。

 奴の急所である腹を露出させれば勝機はあるが……どうすればいい。


 仲間が食われた事で、再び仲間たちの顔に恐怖が出て来た。

 俺やドワーフのおっちゃんたちは必死に彼らを鼓舞する。


「青年!! 正面から奴を引き付けてくれ!!」

「分かった!!」


 俺は指示役のドワーフの声に応える。

 俺は奴の前に躍り出て、地面に転がっていた石を奴に向けて放つ。

 魔力を流して強化した石であり、それが奴の目の一つに命中する。

 奴は苛立ちを表すように奇妙な鳴き声を上げていた。

 そうして、奴は地面を蹴りつけて飛ぶ。


 ドスドスと派手な音を立てながら飛び上がる。

 落下し、また砂を巻き上げて飛ぶ。

 それを一瞬の内に何度も繰り返していた――まさか!!

 

 瞬く間に砂煙によって何も見えなくなっていった。

 会場からはブーイングが起きている。

 が、これは狩人である奴の歴とした作戦だ。


 俺はすぐにメンバーを近くに寄らせた。

 少しでも離れれば危険だからだ。

 そうして、剣を構えながら魔力の流れを探知しようとした。


 ……薄い。奴の魔力が感じ辛い……どういう事だ?


 どんな魔物であろうとも、流れる魔力を抑える事は出来ない。

 人間であれば熟達した技量があれば出来るだろう。

 俺の師匠も同じような事をしていたから分かる。

 が、奴は魔物でありそんな知識は……いや、待て。


 相手は確かに魔物だが。

 奴は野生の魔物ではなく、人によって調教されている。

 そして、師匠から聞いた話では存在しなかった白い突起物。

 アレは恐らくは調教師によってつけられたものだと分かる。


 なら、あの突起物の正体は――そうか!


「ドワーフのおっちゃん!! アイツは魔力の流れを完全にコントロール出来る!! あの白い突起物はそれを可能にするものだ!!」

「――何だと!? なら、奴は――うがぁ!!?」

「おっちゃん!?」


 おっちゃんの悲鳴が聞こえた。

 いや、それだけじゃない。

 地上を走行する音に、激しい戦闘音も聞こえていた。


 肉を抉り、骨を砕く音。

 咀嚼音や虫が潰された時のような人の声。

 金属同士をかち鳴らす音や何かが破壊される音――何が起きている。


 俺は必死に周りの気配を探る。

 すると、先ほどまで感じていた魔力の気配は――“減っていた”。


 突如、突風が吹く。

 誰かが魔術を使ったようで、闘技場内の砂煙りが晴れていった。

 すると、会場の様子が露になり――心が凍り付く。


 

 地面に浮かび上がった“血だまり”。


 赤黒いそれが地面に無数のたまりを作っていた。

 

 そして、先ほどまで一緒に戦っていた人間たちの――“死体”が転がっていた。


「……っ!」

「あ、ああぁぁぁ……いやぁぁ!!」

「そんな、そんな……ぅ、ぁああ」

「嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘……嘘だって、言ってよ!」


 仲間たちが恐怖の限界に達する。

 女性たちはその場に蹲り頭を抱えていた。

 ヒューマンの男は現実を直視できずに、そのまま地面に嘔吐する。

 俺も目の前の光景を見つめて固まる事しか出来なかった。

 

 

 

 下半身を潰されて血のあぶくを出す猫のファーリー。

 その顔は恐怖に染まっていて、眼球は飛び出していた。

 

 

 上半身の半分が噛み砕かれて、ぴくぴくと痙攣しているヒューマン。

 先ほどまで生きていて逃げようとしていたんだろう。

 奇妙な動きをするそれは事切れていながらも不気味に亡骸を揺らしていた。

 

 

 右半身を失って壁に盛られかかり、血反吐を吐きながら何かを言っているヒューマン。

 彼の傷は治せない。彼自身も既に死に浸かっていた。

 彼はただただ言葉を吐きながら、己の死を待っていた。


 

 

 死体だ。死体に死体に死体に死体死体死体死体――――無数の死体が転がっていた。


 

 

 そして、ワイバーンイーターはバリバリと何かを食べている。

 視線を向ければ、指示役のドワーフのおっちゃんの相方が食われていた。

 まだ意識はあるようで、彼は持っていた斧に魔力を注ぎ――振り下ろす。


 バチバチと音がした事から魔術を付与していたと分かる。

 それによって、奴の体は痺れでも起こしたように震えていた。

 ドワーフのおっちゃんの相方はずるりと落ちていく。

 俺は瞬時に大地を駆けて落下したドワーフをキャッチして離れた。


 動揺している仲間に声を掛けてすぐに治療をするように指示する。

 俺は持っていたポーションを彼の傷口に振りかけた。

 痛みによって顔を顰めるドワーフ。


「治療をッ!!!」

「ぅぇ、ぁ、ぁあ」

「早くッ!!! 急いでくれッ!!!」

「「は、はぃ」」

 

 彼らは俺の声でようやく正気を取り戻した。

 震える声で魔術を詠唱し、彼の傷口に手を添えた。

 傷口はかなり深いようで、治療をしてくれている二人は今にも泣きそうな顔をしていた。


 特に足の傷がひどく。

 鋭利な歯によってずたずたにされていた。

 いや、精確に言えば足が半ばから千切れている。

 ポーションで出血を抑えて、魔術によって傷口を塞いでも、これでは……。


「後は、任せ、た……はは」

「……!」


 彼は震える指を魔物に向ける。

 すると、大きな魔力を感じた。

 視線を向ければ指示役のドワーフのおっちゃんが斧を構えていた。

 彼の斧には凄まじい魔力が込められていた……そうか。


 今まで戦闘らしい戦闘をせず。

 指示役に徹していたのは魔力を練り上げる為だった。

 体内で練り上げた魔力を一気に魔力へと流して強化し。

 奴の巨体を一気に持ち上げるつもりだ。

 いや、それだけじゃないアレだけの魔力であれば確実にダメージも入る筈だ。


 俺は二人にドワーフへの回復を続けるように指示する。

 そうして、ヒューマンの男にはありったけの身体強化を俺に施すように指示した。

 彼は震える声で「それでは後で来る副作用に」と言う。


「関係ねぇッ!!! 此処で死んだら何もかもがおしまいだ! やってくれ!」

「……っ。わ、分かりました……絶対に、死なないでくださいよ!」


 彼は魔術を詠唱する。

 そうして、俺の身体能力を更に強化してくれた。

 全身の筋肉が盛り上がり。

 体の内側から熱のようなものを感じた。

 が、これはあの白い魔力のものではない……でも、十分だ。


 おっちゃんは震えているワイバーンイーターに向けて武器を下からかち上げる。

 俺はおっちゃんのタイミングに合わせて飛び掛かろうとした。


 魔力の刃を形成したそれは一気に奴の体に触れて――凄まじい衝撃音が鳴る。


 バチバチと音を鳴らせながら、それは奴の体に小さな亀裂を走らせた。

 アレだけの魔力であっても小さな亀裂だけだった。

 それほどまでに奴の外皮は硬かった――が、それでも十分だ。


 奴の巨体は一気に持ち上がる。

 そうして、半分の足では支えきれずにそのまま体をひっくり返した。

 砂煙が舞い、奴のか細い悲鳴が響いていた。

 その瞬間に、俺は動き出し――今まで息を潜めていたエルフたちも動き出す。


「勝機ッ!!!」

「これで俺たちは自由にィィ!!!」

 

 奴らは剣に魔力を流していた。

 俺たちが作る好機を待っていたようだ。

 練り上げられた魔力はエルフとだけあってかなりのものだ。

 それを確認しながら、俺は一気に飛び上がった。


 奴の腹の裏。

 その中心にはどくどくと鼓動する何かが薄っすらと見えていた。

 アレこそがワイバーンイーターの核であり、奴の弱点だ。

 アレを破壊する事が出来れば、奴は絶命する。

 ドワーフのおっちゃんは攻撃後の疲労で止まっていた。

 流石にアレほどの攻撃は連続して行えないか――だけど、ありがとよ!


 俺はそのまま刃に魔力を流し込める。

 薄く赤い輝きを放つ刃に青い魔力が流れて。

 赤と青が混じり合い紫色の輝きを放っていた。

 それがまるで、夜空の星の輝きにように俺は感じながら――瞬間、悪寒が走った。


 

 もぞもぞと動いている敵。

 明らかに急所を晒している状態だ。

 このまま三人で全力の攻撃を仕掛ければ確実に始末できる。


 

 

 が、何故だ――“違和感”があった。


 


 相手は四級危険種に該当するような魔物だ。

 四級は銅級の実力者が十名いなければ討伐出来ないほどの魔物だ。

 此処にいたのは引退した冒険者が二名と俺で。

 エルフたちは戦えるだけの力は持っていたが、冒険者には見えなかった。

 他の人たちは戦う事は出来ても、それほどの実力は持っていなかった。


 たった三名の銅級にも満たない冒険者と実力を隠していた二名のエルフ。

 そして、寄せ集めの十名の人間たち――妙じゃないか?


 ワイバーンを殺せるような魔物だぞ。

 それも死を恐れぬ狩人と呼ばれ恐れていた魔物だ。

 そんな奴が俺たちに殺される姿は――想像できない。


「――っ!! 逃げろッ!!!」

「「「――!?」」」


 俺は叫ぶ。

 そうして、全力で全身に魔装を展開した。

 瞬間、奴は目を赤々と輝かせた。


「――――!!!!」


 奴が叫んだ。

 空間を震わせるほどの絶叫だ。

 瞬間、奴の体から凄まじい魔力が放出された。

 それはさっきのドワーフの男がしたような雷のような何かで。

 それが空間を走り、飛び掛かった俺たちに襲い掛かって来た。


「「ぐぅぁああああぁぁぁああ!!!?」」

「う、うぅぅ――ッ!!」


 エルフたちは諸に浴びていた。

 俺は魔装が間に合った上に鎧の効果によってダメージは防げた。

 視線を下に向ければ、ドワーフのおっちゃんもそれを浴びていた。

 彼は全身を激しく振動させて、穴という穴から血を噴き出していた。

 

 俺は勢いのままに魔力の稲妻によって弾かれた。

 闘技場の魔力の結界へと激突する。

 バチリと音がして弾かれて、そのまま地面に落ちる。

 何とか受け身を取ってから剣を構える。

 すると、奴は何事も無かったように体を起き上がらせていた……やっぱりだ。


 今までの攻撃は手加減をしていた。

 そして、ドワーフのおっちゃんたちの攻撃を受けたのも態とだ。

 今までの動きは全て計算づくで、俺たちが一気に勝負を決めようとした瞬間を――“狙っていた”。


「お前……分かってるな?」

「――――」


 奴は鳴き声を上げながら頭を動かす。

 こいつは恐らく、俺たちの言葉が分かるのかもしれない。

 だからこそ、敢えて俺たちを自由に動かしていた。

 ある程度の戦力を削り、実力者たちだけを誘い込む為で――奴が消えた。


「しま――――ッ!!」


 奴は仲間たちに襲い掛かる。

 咄嗟の事で体が動かなかった。

 その所為で、仲間たちはその体を奴の足によって吹き飛ばされた。

 魔装も出来ないような人たちだ。

 その巨体による攻撃を受ければどうなるか――べしゃりと近くに落ちる。


 ヒューマンの男だ。

 その手足は不自然な曲がり方をしていた。

 首も折れていて、恐怖に染まった顔で俺を見ていた。

 光が消えた虚ろな瞳に、口からは血が垂れていて……っ!


 吐き気を感じた。

 この闘技場には嫌なほどに死臭が漂っていた。

 灼熱によって死体の血や腐った肉の匂いが充満している。

 それが俺にリアルな死を連想させていた。


 殺される、食われる――いや、違う。


 奴は満身創痍のエルフたちに襲い掛かる。

 彼らは必死に抵抗するが、呆気なく食われていた。

 ドワーフのおっちゃんたちはピクリとも動いていない。

 魔力も全く感じない……俺の、所為だ。


 

 もっと早く奴の狙いに気づいていれば。

 すぐに動いて仲間たちを助けていれば……後悔しても何も変わらない。


 

 俺は剣を構える。

 これで俺は一人になった。

 もう守るものは何一つとしていない。

 正真正銘、たった一人であの怪物を倒さなくてはならない。


 弱点を露出させても、奴は簡単には殺されてはくれないだろう。

 あの魔力の雷を放たれれば、流石に何度も防ぐ事は出来ない。

 だが、外皮を攻撃したとしてもあのおっちゃん以上の攻撃をしなければならない。

 魔力を練り上げるにしてもそんな時間を奴が与えてくれる筈が無い。

 もしも、もしも此処にアードルングがいてくれれば――


 

 ――違うだろう。お前は何を考えているんだ……仲間に“任せよう”だなんて、甘えた事をッ!!


 

 俺は何時からそんな腑抜けになった。

 強敵がいれば、自分自身で何とかするのが当たり前だ。

 仲間を“頼る”のは良い。だが、てめぇが考えたのは仲間に“任せる”事だ。

 自分自身のケツも拭けねぇで、誰が人を救えるって言うんだ。


 

「甘ぇよな。甘すぎる――覚悟、決めろやッ!!」

「――――!!!!」

 

 

 俺は自分自身に言い放つ。

 すると、奴は獲物を食い終えて俺に視線を向けた。

 むき出しの殺気であり、それが空間を震わせているように感じた。

 会場のボルテージは最高潮に達して、狂気の渦が広がっていく。

 灼熱を超えて地獄のような熱さを感じながら、俺は顎を滴り落ちる汗が地面に落下する前に――地面を蹴りつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ