056:それぞれの想い(side:ハガード→イルザ)
ネモ爺さんからお孫さんの好きな動物を聞いたが。
その動物は猿のようだった。
それも俺があまり見た事の無い猿のようで。
爺さんに詳しい動物の特徴を聞いて“絵に描いてみた”。
すると、爺さんは正にそれだと言っていた。
何故か、俺の絵を見てアードルングたちが驚いていたが無視。
俺はそのまま爺さんと共にぬいぐるみの材料一式を買って宿屋に戻った。
アードルングとアーリンは何故か俺の部屋の中に入っていて。
ジッと俺の作業を見ていた。
俺はその視線すらも無視をして作業を手早く進めていく。
「……ハガード、今は何をしているんだ?」
「型に沿うように布を裁断しているんだよ。それぞれのパーツごとにな」
「……それは全部で何個あるんだ?」
「あぁ……まぁ二十くらいか」
「二十……何か手伝える事はあるか?」
アードルングの言葉に俺は手を動かしながら考える。
正直なところ、裁縫に関してはアードルングたちは頼れない。
俺が針を使える事に驚いていたくらいだからな。
本人たちは確実に裁縫何て出来ないだろう。
ガイに関しても不器用そうだからこそ期待は出来ない。
だとすれば、彼女たちに何を頼むべきか……そうだ。
「なぁ、魔術とか使ってさ……声を出させたり、手を動かしたりは出来ないか?」
「……? それはぬいぐるみがと言う事か?」
「そうそう! 俺が作るぬいぐるみってだけじゃ今一つインパクトに欠けるだろ? だから、動いたり声が出たら面白いかなぁって思ってさ……出来そうか?」
俺は少し無茶だったかと思ったが。
アーリンが考えながら話してくれた。
「……まぁ出来ると言えば出来るわよ……今から作っておけばいいかしら? 魔石を二つ組み込む事になるけどいい?」
「おぅ! 二つくらいなら問題ないぜ! じゃよろしくな! 俺はギリギリまで籠って作業をするから、出来たら教えてくれよ」
「はーい……それじゃ、私たちは行きましょうか」
「あ、あぁ……その、無理はするなよ……ではな」
「おぅ。またなぁ」
俺は彼女たちを見る事無く別れの言葉を伝える。
彼女たちが部屋から出ていったのを音で確認した。
俺は気合を入れ直しながら、布を裁断していく。
「……生地は上等、はさみで切ろうとすれば普通なら硬すぎるけど……魔力を流せばどうって事は無いな」
魔力を挟みに流しながら切っていく。
何故か、ミノタウロスとの戦いから魔装の技術が格段に上がった気がする。
それも魔力を武器に流してから、体へと循環させる能力が身に着いたような気がする。
これも死の一歩手前を経験したからなのか。
それを使うのがぬいぐるみの製作なのはどうかと思うが……まぁいいさ。
どんな事であろうとも身に着けた技術を活かせるのならそれに越した事は無い。
パーツを全て作れば次はいよいよ縫う作業であり、それも手で行う事になる。
針はハサミで裁断するよりは簡単に思えるかもしれないが。
実際には糸の間隔であったり縫い付ける位置などを精確に読み取る力が必要になる。
それに幾つかの技法を使わなければ縫い目を隠したりも出来ないからな。
なるべく自然に縫い目を消しながら、ぬいぐるみ自体のバランスも損なわないようにしなければならない。
絵の作業でそれなりの時間を要し。
型を作るのにも時間を要した。
そこから針で縫って行き、ぬいぐるみの形を形成し。
綿を詰めたり、最後の仕上げで微調整をしたりなど……ぬいぐるみ一つの作成でも時間が掛かるんだ。
今回はそれなりに手の凝ったものになるだろう。
そうなれば必要な時間もおのずと増えるのだが。
猶予は五日間だけであり、それは今日を含めてだ……自分でも馬鹿な事をしたとは思うよ。
せめて一週間あれば良かった。
だが、無いものを強請っても無意味だ。
ごねればごねる程に時間は減っていく。
そうなれば、お孫さんだけでなく爺さんの心も傷つけてしまう。
……嫌なんだよな。人が悲しむ顔を想像するのが……誕生日プレゼントは絶対に渡さなきゃだしな。
死んだ親父も、プレゼントだけは何時も渡してくれた。
師匠の下で修業をし、飯を食う時もほとんど無言で暇な時間でも話す事も無かった。
親父は無口であり、多くを語らない性格だったが。
それでも、あの人の愛情は感じていた。
疲れてベッドに行く前に眠りにつけば。
決まって俺はベッドの中で目を覚まし。
仕事に遅れてしまっても親父は俺を叱らなかった。
怒られるのは親父だが、あの人はそれで俺に愚痴をこぼしたり文句を言ったりもしなかった。
不器用でも親父として俺は尊敬していたし。
俺も親父にはプレゼントを渡していたさ。
ただあの人の好きなものを俺は知らなかった。
酒を飲んでいた気もするが浴びる程飲む事はせず。
寝る前に少し飲む程度で……プレゼント選びは苦労したなぁ。
酒を送ったり、花を送ったり。
マフラーを作ってみたり、手袋を作ってみたり……親父は全く表情を変えなかったけどな。
笑う事も泣く事もしない。
ただ一言礼を言うだけだった……でも、大切にしてくれていた。
酒は少しずつ飲んでいたし。
花も柄にもなく木で作った花瓶に入れて飾っていた。
マフラーや手袋も漁に行く時以外にもつけてくれていた。
嬉しかったさ。
凄く凄く嬉しくて……だからこそ、悲しかったさ。
親父はぱたりと消息を絶った。
漁に行ったきり帰ってこなかったんだ。
あの日は俺もついて行くはずだったが。
俺は疲れて眠っちまって朝も寝過ごした。
親父はそんな俺を寝かしてそのまま出て行って……帰ってこなかった。
雲行きが怪しくなって、海が荒れに荒れた。
俺たちは念の為に丘の上に建てた建物に避難したが。
俺は親父の帰りを待っていた。
……けど、結局親父だけが帰ってこなかった。
捜索はしてくれた。
しかし、見つかったのは俺が上げたマフラーの一部だけだった。
悲しかった。
けど、不思議と涙は出なかった。
自分自身が冷たい人間のように感じて。
師匠にそんな事をぽつぽつと語れば、師匠は酒を飲みながら俺にこう言った。
『すぐに理解は出来ねぇよ……俺が言えるのは我慢するなって事だけだ』
『……どういう意味だよ、それ』
『さぁな。俺も自分で言って意味不明だって思ったところだ……さぁ寝ろ寝ろ。“疲れてんだからな”』
『……?』
師匠は俺を家に帰らせた。
俺はその晩、一人になった家の中で窓から見える月を見ていた。
月はいつもそこにあって、淡い光を放っていた。
暇な時があればそうやって親父と一緒に月を見ていた気がする。
師匠の言葉の意味はその時になって気づいた。
俺の目からは涙が溢れ出し。
俺は月を見つめながら何故か、自分でも抑えきれない声で泣いていた。
恥ずかしい事だ、こんな声は他の人間に聞かせてはいけない。
そう考えたが、師匠の我慢するなという言葉を思い出し……結局、俺はずっと泣いていた。
悲しかったんだ、辛かったんだ……でも、俺はそれを理解できていなかった。
一人になって、一緒に見ていた月が別のものに見えた気がして。
俺はその時になって大切な人がもうこの世にいないのだと理解した。
……その日からだ。俺は一心不乱に剣を振った。悲しみを乗り越える為にな。
師匠からは無理をするなとも言われたが。
無理なんてしておらず、寧ろやる気に満ちていた気さえする。
くよくよ落ち込むのは俺の性分ではない。
悲しいし辛くても、俺は親父の分まで生きるんだ。
あの人が愛情を注いでくれた分だけ、俺も誰かに愛情を向けてやりたい。
それが親父への恩返しになると俺は信じているからな……よし。
綺麗にパーツを切り取る事が出来た。
これでようやく一つ目だ。
まだまだパーツはあり、手早く済ませていく必要がある。
寝る時間も惜しい、少しの時間であろうとも有効に活用する。
全てはあの孫想いの爺さんとそんな爺さんに愛される孫の笑顔の為だ。
ハッピーエンドが俺は好きだ。
誰も悲しませないのが俺の望みであり、その為なら命だって燃やしてやるさ。
俺はやる気を漲らせながら、残りのパーツの作成に取り掛かる。
日は少しずつ暗くなっていて、俺は思考の隅で魔石を入れる為の準備も――――
〇〇
「……すまないな。付き合わせてしまって」
「別に……まぁ買い物が済んだら後はやる事無かったし……でも、意外だったなぁ」
「ん? 何がだ?」
アーリンと私は現在。
私の部屋に集まって作業を進めていた。
といっても、魔石に単純な術式を組み込むだけの作業で。
こんなものは話ながらでも作れてしまう。
私は手を動かし魔石を見つめながら問いかけた。
すると、アーリンはくすりと笑う。
「何がって、勿論アンタの事よ……最初はね、冷人なんて名前を付けられているから、本当に氷みたいに冷たいエルフかと思っていたけど……アンタは意外にも人情に篤かったからねぇ。それが意外だったって事よ」
「……ふふ、そう見えるか……私は別に困っている人間すべてを助けようなどと思ってはいない……今回の事だってハッキリ言えばどうでも良かったさ」
「そうなの? なら、何で率先してあんな事聞いたのよ」
「勿論、ハガードがしていたからだ……アイツには恩がある。迷いの森で救われて、私の心の迷いすらも晴らしてくれた……昔の私は人を避けて、誰も信用はしていなかった……だが、アイツはそんな私の視線にも怯えていなかった。無邪気に笑って、食べ物を私に渡して来るんだ。全く打算も無く、何も知らない大馬鹿者だが……私はそんなアイツの為に何かしてやりたいと思えたんだ」
「……ふーん。あ、そう……でも、私から見ればアイツにも打算はあったと思うわよ」
「……そんな訳がない。アイツは誠実で嘘何て」
「――アイツ、ただのスケベよ」
「……っ」
私は手を止める。
術式を組み込む作業を中断すれば、魔力によって作られた文字列が乱れる。
私は慌てて作業に戻りながらそんな事は無いと言おうとして――思い出す。
アサナの街で意識を取り戻したハガード。
聞きそびれた事を思い出してアイツの部屋に戻れば。
アイツは自らのズボンに手を掛けて下ろしていた。
如何に性に疎い私でもその行為がどういう事なのかは分かる。
生理現象であり、抑えきれないものがあるのが男だ。
だからこそ、そういう行為も恥ずべきものではない。
そして、何らおかしい事でもないのだ。
……それなのに、思い出すだけで顔が熱くなるのは何故だ?
私はアーリンに顔を見せないようにしながら黙っていた。
すると、彼女は「言い返せないでしょ」と言う……うぅ。
「……多分だけど、アイツはアンタの事を……そういう目で見てるわよ?」
「……っ! そ、そんなわけ……ハガードはそんな……第一、私なんて……っ」
「それ、本気で言ってる? ハッキリ言うけど、同性の私も嫉妬するくらいにはアンタの容姿は整ってるわよ? 今まで男どもからそういう視線を感じた事は無いって言えるの? ん?」
「……それは、あるが……」
男性からの視線は何度も感じていた。
嘗め回すような視線であり、チラリと見れば不気味な笑みを浮かべる者もいた。
エルフはヒューマンたちが言うには元々整った容姿をしている者が多いらしい。
だからこそ、エルフの女性は極力肌の露出は控えるような服装を好む。
私もそうであり、要らぬ問題を呼びこまない為にローブを身に纏っていたが……そうか、ハガードが。
言われてみれば、アイツは何度か欲に塗れた顔で笑っていた事がある。
私はてっきり別の事を考えていたように思ったが。
アイツは私を女として見ていたと言う事か。
……何でだろうな。普段なら、そういう事は苦手だが……ハガードなら良いと思える。
きっと、私自身がハガードを認めているからだ。
他の人間であれば嫌だと思う視線も、ハガードのものなら嫌に思えない。
それだけアイツは私に色々な事をしてくれた。
いや、アイツの今までの行いを見ていたからこそ、自然とアイツを仲間として見れていたんだ。
一度は拒絶しても、アイツはずっと私の事を思ってくれていた。
人として好きな人間の視線であれば、嫌に思う筈が無かったんだ。
「……そうか、やっぱり私は、アイツの事が……」
「……ふふ、ようやく気付いたようね。そうと分かれば、この件が」
「――私はアイツの事を人として尊敬していたんだな」
「…………はぁ?」
やっと気づいた。
この感情は人として好きなだけではない。
私はアイツを尊敬する人間として見ていたんだ。
だからこそ、アイツの視線に嫌悪感を感じず。
寧ろ、そういう目で見てくれていた事を嬉しく思えたんだ。
私は笑みを浮かべながら流れるように術式を刻み込む。
空中に描かれた文字列が私の意識に反応し、ゆっくりと縮小されて行く。
それが魔石の表面へと吸い込まれて行き、術式が魔石と一体化していった。
これで、声を出す術式は組み込めた。
後はこの魔石に人の声を吹き込み記憶させるだけだ。
「さて、誰の声を記憶させるべきか……ん? どうした? もう終わったのか」
「……とっくにね……はぁぁぁ、どこまでアンタらは鈍ちんなんだか……じれったいわねぇ」
「……? 言っている意味が分からないが……そうだ。アーリンの声を」
「――絶対に嫌よ。ぬいぐるみとはいえ猿に私の美声を出させるなんて真っ平ごめんよ」
「……そうか……なら、誰にしようか」
声を記憶できるのは一つまでだ。
アーリンの声は綺麗だからこそ良いと思ったが。
彼女が嫌がっているのなら無理強いは出来ない。
私でもいいのならすぐにでもするが。
私には演技力というものは全く無い。
棒読みで何かしらのセリフを言っても子供が泣くだけだ。
……消去法でガイになるが……アイツも演技なんて出来そうに無いしな。
それほど器用な性格ではない。
短い付き合いではあるが何となく分かる。
折角の魔石を無駄にしたくは無いからこそ、確実な人選が望ましいが……うーん。
「あ、それじゃネモ爺にやらせたら?」
「……ご老体にか? 流石にそれは」
「適任だと思うわよ。あの爺さんあぁ見えて演技が上手いからね。あの感情の変化は見事だったでしょ?」
「……確かに、アレほどの感情を吐き出せるのなら……尋ねてみるか」
私は魔石をポケットに入れる。
そうして、掛けて置いたローブを手に取り纏う。
アーリンもついてくるのかと視線を向ければ、彼女は用事があるから残ると言う。
「用事とは……いや、無粋だったな。忘れてくれ」
「一々かたいのよぉ……ま、暗くなってるから気をつけなさいよぉ」
「あぁ、では行ってくる」
私は部屋の扉に触れて開ける。
そうして、後ろ手に扉を閉めてから廊下を歩いていった。
ご老体がまだ工房に残っていれば良いが……少し急ぐか。
完全に暗くなる前に聞きに行こう。
それと、ハガードの為に何か食事も差し入れしよう。
アイツの事だから、飯も食わずに作業を続けるかもしれない。
そうなれば困るのはアイツだが、私もアイツが倒れる姿は見たくない。
コツコツと靴の音を小さく響かせて。
私は木の床を踏みながら進む。
宿屋の主人がフロントに立っており、私は小さく会釈をし宿屋の外に出る。
扉の先は少し暗くなっていた。
街灯に明かりを灯し始めており。
完全に暗くなれば今よりも酒を飲む輩は増えるだろう。
酒飲みが集まる街とだけあって喧騒は絶えない。
ガラの悪そうな連中もおり、喧嘩だって何度も見ていた。
幸いにも今までは絡まれなかったが。
何時、そういったトラブルに巻き込まれるのかは分かったものじゃない。
「……」
私はフードを目深く被る。
そうして、足音を小さくしながら歩いていく。
外は冷えていて、顔に掛かる風は今は心地が良い。
先ほど感じていた熱がまだ残っているからか……ふふ。
「アイツが、私の事を……良い気分だな」
少しだけ、そう、ほんの少しだけ……自分が好きになれた気がした。
アイツにとって好ましい存在に見えているのであれば。
私という面白味の無いエルフも捨てたものじゃない。
これから先でも、アイツと共に旅をするのであれば……あれば……っ。
私は道の真ん中で足を止める。
そうして、これから先で起こる事を――“考えてしまった”。
「……っ!」
私は女で、アイツは男だ。
共に行動をする事になり、野宿もする事になるだろう。
アイツは私を女として見ているのであれば……間違いが起きない事もない。
私は今まで考えていなかった事に気づく。
そうして、ハガードが私に迫る姿を想像し――顔に熱が広がる。
「……っ!?」
私は顔を大きく左右に振る。
そうして、気配を抑える事も出来ないままずんずんと進んでいった。
それは可能性だ。
小さな可能性であり、万が一にも起こる事が無いようなものだ。
第一、そうなったとしても力で私がハガードに負ける筈が無い。
そうなれば私は抵抗するだけで……それだけなのに、何故、私は動揺している?
男と女なら当然だろう。
不思議ではない事であり、警戒していればいい筈だ。
野宿をしていて襲われても返り討ちにし。
馬車に乗っていた時にちょっかいを掛けて来た奴を懲らしめた。
動揺する事は無く、淡々と作業のように片付けていた事で……っ。
私はアイツを尊敬している。
尊敬しているからこそ、アイツにはそんな愚かな行為をして欲しくは無い。
もしそんな事をされれば、私はアイツの事を今までのように見られないかもしれない。
その筈なのに……何故、自分が抵抗している姿が思い浮かばないんだ。
おかしい。こんな事は異常だ。
私はアイツよりも強い。
これは誇張でもなく事実だ。
それなのに、何故、抵抗できないと言うんだ……くそ。
速く歩く事で冷たい風が顔に触れる。
それで熱を逃がしながら、私は自らの心臓の鼓動を鎮めようとする。
片手で心臓を抑えながら、静かに呼吸をする。
「……っ」
どこまでアイツは私の心を乱すのか。
私はハガードに少しだけ怒りを覚える。
理不尽な怒りという事は自分自身で分かるが。
こればっかりはアイツのせいにする他ない。
もしも、自分自身の心の所為であると“認めれば”……?
……認めたら、何だ?
自分で自分の心の声に疑問を浮かべる。
だが、その答えについては分からなかった。
「……はぁ」
私は足を止める。
そうして、ため息を零した。
アイツの旅についていくと決めたのに……これではダメだな。
少し気持ちが浮ついているように感じる。
楽しいだけの旅では無いんだ。
この先にはより大きな障害が待っているかもしれないんだ。
先輩として私はしっかりしなければ……よし。
少し気持ちが落ち着いた。
男女のそれについては……その時になって考えれば良いんだ。
そんな事よりもだ。
これからの旅について考えを纏めなければならない。
組合からの拘束が解かれれば、すぐにでもトリエストを発つ事になる。
アーリンたちとは王都に行くまでの付き合いになるだろう。
そこから我々は各々の道を進んでいく。
私の考えが正しければ、ハガードの等級も恐らくは……。
サボイアにはすぐにでも行けるだろう。
そうなれば、奴の目的とする本もすぐに見つかるかもしれない。
見つからなかったのならば、また一から情報を探すだけだ。
「……」
歩を進めながら、私は今後の奴の行動についても考える。
アーリンとの話し合いで、人聖教とは今後も深く関わる事になるだろうと感じた。
あの様子からしてハガードの何かが大司教の琴線に触れたんだろうが……本当に心当たりは無いのか。
ハガードは隠し事を出来るような人間じゃない。
恐らくは、何かを知っているのだろうが。
私たちの聞き方が悪かったから、何も言えなかったんだろう。
時間があれば今度はより詳しく質問をしてみよう。
そうして、原因が見つかり次第対策を講じるしかない。
「……厄介事ばかりだな」
ぼそりと呟く。
人聖教は大きな宗教だ。
ヒューマンたちにとってはそうであり。
国教としている国もあるのだ。
そんな連中が万が一にもハガードを勇者の候補であると発表すれば……ゾッとするな。
悪いようにはされないだろうが。
自由は確実に奪われるだろう。
旅なんて以ての外であり、天空庭園を探す事も出来なくなってしまう。
……私が出来る事は……ハガードに迂闊な行動をさせない事くらいか。
アイツは良い奴だ。
だからこそ、簡単に騙される傾向がある。
困っている人間がいればすぐに手を差し伸べるくらいだ。
邪な感情を持つ人間がハガードをたぶらかす恐れもある。
私はそんな人間の悪意を見抜き、そいつらからハガードを遠ざける事が出来る。
同行するんだ。
私も仲間を守る事は出来る。
私はかつてないほどの使命感を抱く。
ここまで私が熱意を抱く事は早々に無い。
それだけ私の中でルーク・ハガードという存在が大きいんだろう。
……私一人では限界がある……もっと仲間を集めるしかないな。
天空庭園を目指すのであれば、より多くの仲間が必要となる。
果たしてハガード以外の人間を私は認める事が出来るのか。
私はそんな小さな不安を抱きながらも、仲間を守る事を心の中で誓った。




