047:荒れ狂う炎の渦(side:イルザ)
敵の猛攻が続く。
苛烈で執拗なまでの連続攻撃であり。
少しでも足を止めればそれまでだ。
奴らが床に刃を擦り付ければ不快な金属音が空間に響き。
バチバチと火花を立てるそれらが嫌でも私の意識を削ごうとする。
ドクドクドクと心臓の鼓動が早鐘を打ち。
体中が噴き出す汗でべったりとしている。
背中は焼けるように今も尚痛みを発していた。
アードルングから貰ったローブはボロボロであり。
これが無ければあの時の攻撃でもっと深くまで刃が達していただろう。
助かったと思う一方で、もうこれ以上は後がないと自覚する。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――ぅ!?」
「「「「――――!」」」」
奴らがカタカタと笑う。
そうして、踊るように体を揺らして襲い来る。
眼前で振られる斬撃を避けながら、私は床を駆ける。
震える手で矢筒から矢を抜き、魔力を流したそれで――魔術師を攻撃。
奴は私の攻撃を見る事無く――受けた。
奴は悲鳴を上げる事も無く。
その体に矢を深く体内に差し込んで――ごきりと首を回す。
「ははぁぁぁあ! お疲れのようですねぇぇぇ? 最初の頃とぉぉ……全く威力が違うようですがぁぁぁ!!?」
「――ッ!?」
奴が矢をずぶずぶと強引に抜き取る。
その風穴からごぽりと血が噴き出し。
奴はそのまま炎を掌から発生させてそれを焼き焦がす。
焼かれた矢の残骸が宙を舞い。
奴はそのまま火球を作り出し、それを指で操り――此方に放つ。
勢いよく進む火球。
それをギリギリで回避した――が、それも円を描くように方向を変える。
私はそれに舌を鳴らしながらも、執拗に追いかけて来るそれを避けていく。
すると、ゴーレムたちはそんな私の意識の外を察知し。
そこからちくちくと攻撃を始めて来た。
苛立ちが募る。そして、焦りもだ。
私は無詠唱で水球を生み出す。
そして、それを此方へと迫る火球に浴びせた。
瞬間、炎と水が合わさり当たりに水蒸気が広がった。
「――っ!」
判断を誤った。
視界が悪くなり、敵の姿が消える。
私は敵の気配を感じ取ろうと――ッ!!
「があぁ!?」
無数の斬撃。
それらが四方八方から飛ぶ。
私の体を引き裂いていき、鮮血が舞う。
奴らは魔力で刃を強化していない。
まるで、相手を嬲るように攻撃を繰り出し――私は蒸気を風で吹き飛ばす。
蒸気の中を駆けていた奴らも吹き飛ばされた。
私はその場に思わず片膝をつく。
呼吸を大きく乱しながら、ぼたぼたと全身から血を流していた。
まずい、まずい、まずい……このままでは……もう。
私の意識は限界だった。
これ以上は危険であり――強く歯を噛んだ。
瞬間、私が口の中に仕込んでいた薬が割られる。
それらが口内に広がって胃へと運ばれて行く。
どくりと心臓が強く鼓動し、痛みが和らいでいった。
体力と魔力も一気に回復していったように感じた……だが、これは一時的なものだ。
緊急的な“強回復剤”であり、その副作用も凄まじい。
使用すれば一時的に痛みを和らげて、失った体力や魔力も回復できるが。
効力が切れた瞬間に服用者の意識は強制的に失われる。
死が迫った時の悪あがきであり……これでもう、私に後は無い。
ゴーレムたちがすぐ近くに迫る。
私は顔を上げて――飛ぶ。
「ほぉぉ!! まだそんな力がぁぁぁ!!?」
「……!」
私は風の魔術で床を駆ける。
そして、跳躍し壁を蹴りつけて更に駆ける。
火球を消しながら気配を極限まで殺す。
奴らは私を見失っていた。
不気味な動きで私を探していたが――ガイの方向を向く。
瞬間、私は炎の魔術を矢に付与して――連続して放つ。
矢は真っすぐに奴らへと飛び。
奴らはそれに驚くべき速さで反応した。
「――!」
刃で飛んできた矢を打ち払う。
私は驚きながらそれを見ていた。
奴らはそんな私へと再び狙いをつけて。
床を蹴りつけて飛び上がる。
届く筈の無い高所。
だが、奴らは更に空気を蹴りつけて飛翔した――こいつらは!
ギリギリで奴らの斬撃を回避。
そのまま下へと落下し、床を滑るように移動。
流れるように矢を放つが、奴らは剣を回転させてそれらを弾く。
成長している――明らかにな。
ゴーレムが自ら思考し。
成長していくなど信じられないが。
実際に奴らは更なる技術を身に着けて私に見せて来た。
恐ろしい。恐ろしいほどに完成された兵器だ。
「……恐れるな――抗えッ!」
私は恐怖に支配されそうになる己の心を鼓舞する。
そうして、弓を構えながら化け物たちの赤く光る眼光を睨みつけた。
奴らが空気を蹴りつけて襲い来る。
その残像が影のように見え私の目を惑わす。
それらが放つ無数の斬撃が眼前で舞い、それらを回避していく。
背後からも気配を感じて横へと飛べば、鋭い斬撃が地面を抉り取っていった。
ガイの方を見れば、敵へと攻撃を繰り出し。
襲い来る手練れのゴーレム相手にも柔軟に対応していた。
流石は同じ銀級であるが、この中で最も余裕のある彼には。
魔術師により火炎攻撃が執拗に行われていた。
火球が飛び――爆ぜる。
破裂したそれが放つ熱波が此処まで届いていた。
近くにいる彼は相当な熱を感じているだろう。
彼はそれらを避けながらもゴーレムの攻撃も回避。
そのまま魔術師が再び放つ蛇のように動く炎を槍による突きで吹き飛ばしていた。
が、彼の呼吸も少しずつだが乱れてきている……まずいな。
このまま同じような攻防を続けていれば、何れ此方の体力と魔力が底を尽きる。
私も隠し玉を使ってしまった。時間はあまり残されていない。
その前に勝負を決めなければ確実に私たちは死ぬ。
だが、私たちには決定打となる攻撃を放つ術がない。
この空間にいる全ての敵を屠るのなら。
強力な魔術を詠唱する他ないが。
ガイと私を守る為の障壁を展開し、大きな魔術を発動させるとなると。
かなりの集中力を要求される上に、術式を発動させる為の時間はいる。
その隙を奴らが与えてくれる筈もない。
もしも、アーリンやハガードたちがいてくれれば。
もっと戦いやすかっただろうが……いや、そんな思考に意味は無い。
いたら良かったはただの言い訳だ。
可能性の話をしてもそれは思考の無駄だ。
今ある戦力と手札で奴らを仕留めなければならない。
私は敵へと牽制の矢を放つ。
風の魔術によって矢が一直線に飛び。
奴らは溜まらずにガードをするが、その衝撃を逸らす事が出来ずに吹き飛ばされた。
私はそれを一瞥し、周りのものを観察した。
「はぁはぁはぁはぁ!」
汗が噴き出す。
全身が汗に塗れて不快だった――が、今は無視だ。
此処の部屋はそれなりに広い。
無数の変わった形の棺があるが。
それらは頑丈そうであり、長い間、放置されていたにも関わらず形を保っていた。
中には私たちの攻撃で崩れているものもあるが、そのほとんどが無事だ。
これほどの苛烈な戦闘が行われていても、壁も天井も大きく崩れてはこない。
あれほど刃を擦り付けていた床も薄い傷があるくらいだ。
全てが丈夫な素材で出来ているのか……意図的に崩落を起こす術はある。
矢に括り付けた爆薬入りの筒。
これに火をつけて全てを天井へと撃ち込めば崩落させる事は出来るだろう。
そうすれば、詠唱の時間は必要とせず。
奴らを蘇生させる事も無く、此処で永久に封じ込める事が出来る。
が、それをするのであれば脱出経路が必要となる。
私たちが入って来た通路とアーリンたちが進んでいった道。
それぞれが強力な結界によって防がれてた。
強力な攻撃を浴びせれば解除も狙えるだろうが。
そんな事をしていれば、敵に狙いを気づかれる可能性がある。
そうなれば、崩落をさせようとも奴らが先に逃げるか。
道連れを狙う可能性もある。
一緒に崩落に巻き込まれる可能性が現時点では高い。
が、それ以外の方法では奴らの全滅を狙うのは……?
敵の攻撃を回避。
弓で奴らの攻撃を受け止めた。
ギリギリで奴らが力を加えて来た。
私は歯を食いしばりながらも魔術を使う。
そうして、そのまま私の体を中心から強い風を発生させた。
それらが全ての敵を大きく弾き飛ばす。
私はその隙を使って、先ほど見た光景を思い出す。
ガイに迫っていた蛇の炎。
アレは見た目通りかなりの火力であり。
金属であろうとも容易に溶かすような熱を内包していると感じた。
だからこそ、奴が好んで使っている思った。
そんな高火力の炎を浴びている棺たち。
床を這い、棺にも諸に触れているそれが――“全く溶けていない”。
いや、最初からそうだ。
斬撃などを受ければ床や壁には傷がついていたが。
熱に関してはかなりの耐性を持っているのか。
壁も床も全く溶けていなかった。
もしそうであれば、この特殊な形状の棺と何か関係があるのか――いや、その考察は後だ。
重要なのは棺が強い火に対する耐性を持っている事で。
それを利用すれば、必要となる魔術も絞れる。
そうすれば、敵だけを一気に屠る事も可能だが……だが、それをするにも時間が必要だ。
呪文を詠唱するのに時間を要する。
必要な時間は数分足らずだが、それでもその間は私は攻撃が出来ない。
回避にしても意識が削がれてしまえば術は発動しない。
最も望ましいのはその場に留まって呪文を詠唱する事だが……どうする。
私は考えた。
そして、敵の攻撃を回避しながらガイの名を叫んだ。
「ガイッ!! 時間を稼いでくれッ!! 私に考えがあるッ!!」
「あぁ!!? この状況でかよ!! 考えってお前――どれくらいだ!!」
「五分――いや、三分でもいい!!」
「……あぁ分かった!! なら、俺の切り札を使ってやるよ!!」
「くひひひひ!!! 馬鹿ですかぁぁぁ!!!? まる聞こえなんですよぉぉぉ!!!」
私は敵を弾き飛ばす。
ガイはそんな私の前に立つ。
魔術師が手を大きく掲げて呪文を唱えた。
瞬間、奴の周りに炎の蛇が三体現れた。
全ての敵も奴の意識に反応したのか、私に狙いを定めた。
ガイを見れば、チラリと視線を送って来た……信じるぞ。
「――――」
私は呪文の“完全詠唱”を始めた。
短縮詠唱でも無詠唱は実戦向きのスタイルではあるが。
最も魔術の出力を高めた攻撃であるのなら完全詠唱以外に選択肢は無い。
私が詠唱を始めればガイの纏う空気が変わる。
彼から発せられる青い魔力が揺らめき――解き放たれた。
術者が放つ炎の蛇。そして、全てのゴーレムが飛び掛かって来た。
が、ガイから放たれた魔力が形を成して――ゴーレムたちを弾き飛ばした。
「――刺岩・三連ッ!!!!」
ガイが技の名を発すると同時に高速の刺突がほぼ同時に三発放たれる。
それらは別の角度で進んできた炎の蛇を精確に穿つ。
パラパラと火の粉が舞い。
ガイから放たれ人の形を成した魔力が悠然と地に立つ。
それらは魔力で形成された槍を持っており。
何処かガイに似た姿をしていた。
「――魔人装生」
「……!」
私は詠唱を見ながら、その技に聞き覚えがあると感じた。
かつて勇者の仲間に槍術を極めし武芸者がいた。
その男が使っていた武術の名は――“千槍術”。
千を超える技を刹那の内に放つとされる槍の流派で。
その技の中でも、体得が困難とされている技があった。
それこそが、魔力そのものを自らの分身として操る技だったと聞く。
ガイは間違いなく千槍術の使い手であり。
その技のほとんどを体得してであろう使い手だ。
彼が使った魔人装生は完璧であり……だが、かなりの魔力を使ったようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……行くぜッ!!」
ガイが呼吸を大きむ乱しながらも、魔力の分身たちに指示を飛ばす。
彼らは自らに意志があるように動き。
それぞれが私へと向かってくる敵へと攻撃を仕掛けていた。
ガイが作り出した分身は四体だ。
彼を含めれば、私を守る人数は五人である。
分身はガイとほぼ変わらない動きでゴーレムの攻撃をしのいでいた。
大技は使わないところを見るに、魔力の消費を抑えているのだろう。
分身たちが十体のゴーレムに対応し、ガイは真っすぐに術者に向かっていった。
奴はけたけたと笑いながら、ガイの攻撃を回避。
そのまま自らも腰の剣を抜いて、剣身に炎を纏わせていた。
私はガイが作ってくれた時間を使って詠唱を進めていく……もう少しだ。
無数の剣戟の音が広い空間に響き渡る。
その中で、魔術師がガイに対して語り掛けているのが聞こえた。
「どうしましたぁぁ!!? 動きがさっきよりも遅いですよぉぉぉ!!」
「うる、せぇッ!!!」
「ひははははは!!! そらそら、頑張れ頑張れぇぇ!! もう少しで彼女が貴方と私諸共、全てを燃やし尽くしてくれますよぉぉぉ!!!」
「――かもしれねぇなァァ!!!」
ガイは叫びながら奴の攻撃を弾く。
ガイには私の考えは分からない。
私が今から使う魔術くらいは詠唱を聞けば分かるだろう。
そして、それによって此処がどうなるのかも分かる筈だ。
彼は何も知らないから不安だ。
しかし、彼は私に考えがあると聞いて託してくれた。
私はそれに全力で応えるだけであり――奴が炎を噴き上げた。
ガイは思わず距離を離してしまう。
すると、奴は私を見つめながら大きく笑う。
「ならば、私も協力してあげましょうかぁぁぁ!!!」
「……っ!! マジか!!
ゴーレムたちが一斉に私の周りから退く。
そうして、魔術師の周りへと飛んでいった。
奴はそんなゴーレムたちから魔力を補給し、自らも完全詠唱を――速いッ!
此方よりも速い詠唱。
高速詠唱と呼ばれるものであり、熟練の魔術師が使う技だった。
これではほぼ同時に互いに魔術が発動する。
同じ炎の魔術であり……耐えられるのかッ!?
どんなに高い炎への耐性があろうとも。
この二つの強力な魔術が発動すればどうなるか……まさか、その狙いも分かっていたのか。
奴は試している。
此処で私が詠唱を捨てて奴へと攻撃を仕掛けるのかを。
しかし、そうする事も奴には筒抜けだろう。
それは自滅行為でしかない。
……そうか。ようやく違和感の理由が分かった……奴は鼻から真面な手段で私たちを始末する気は無かったんだ。
全ては楽しむ為であり。
どれだけ傷つけてどれだけ追い込んでいたとしても。
奴は最後に自らとゴーレムすらを巻き込んで――“自爆する気だった”。
奴は最後の締めに掛かった。
私がこの手段を取ると読んで。
起死回生のチャンスを私たちが確実に死ぬ絶望へと変えた。
まずい、まずいまずいまずいまずいまずいまずい――どうするッ!?
土の魔術で穴を掘る――いや、硬い床を掘るには時間が必要だ。
棺の周りに結界を展開――魔力の消費が大き過ぎる。耐えられない。
水による結界――強力な炎の前では無意味だ。
どうする、どうする、どうするどうするどうするどうするどうするどうする――そうか!!
私は危険な懸けを思いつく。
ガイには悪いが、それに乗ってもらう他ない。
私は詠唱を進めていく。
奴も詠唱を速めていき――ほぼ同時に終わる。
私の頭上に小さな炎の玉が生み出された。
私は無詠唱でガイの体を風の魔術で飛ばす。
「うぉ!!?」
「すまない!!」
私はそのまま自らも飛んだ。
奴を見ればその体が内から膨張している。
私たちは間髪入れずに蓋が開いていた棺の中に入る。
そのまま私は出来る限り、近くにあった棺を風の魔術で此方に飛ばす。
ガタガタと無数の棺が重なり合い――術が発動した。
棺の外で強大な炎が荒れ狂っていた。
棺の隙間から炎が噴き出し。
ガイは私に体を密着させながらだらだらと汗を流す。
私はその間に棺の底に手をついて呪文を発動させていた。
無詠唱で土の魔術が発動し、そのまま棺がずくずくと音を立てて形を変えていく。
私たちの体が下へと進んでいっていた。
ガイはそれを察知しいて、笑みを浮かべたが――それも一瞬だ。
「急げ急げ――あち!?」
「――!」
私は魔力を全開で注ぐ。
すると、それが溶けるスピードが更に速まる。
急げ、急げ急げ急げ急げ急げ――間に合えッ!!
もう少し、後少しで――よし!
土の魔術によって棺の底に穴が空き。
更に下の床にも穴が開いた。
それによって、私たちは地面の中へと僅かに入る事が出来た。
棺はいよいよ限界であり、炎が溢れ出しガイは何度も熱さで叫んでいた。
「アードルング!!?」
「仕上げだッ!! しっかり掴まれッ!!」
ガイの体を抱き寄せる。
私は自らの後ろに結界を張った。
そうして、矢筒から爆弾を括りつけたそれをごっそりと抜き――目の前の空間に投げ入れた。
それらが宙を舞う。
私はすぐに前にも周りにも結界を展開した。
それとほぼ同時に、防ぎきれなかった炎が棺が溶かし中に侵入し――白い閃光が発生した。
目の前が強烈な光に満たされて。
次の瞬間には凄まじい爆発が発生し。
結界に一瞬で罅が入るほどの衝撃を受けた。
「――ぐぅ、ああああぁぁぁぁ!!!!!!」
私は血を吐き出すほどに叫ぶ。
そうして、残されていた魔力全てを結界に注ぐ。
すぐ目の前の大爆発を受けて、私たちの体は結界事更に地下深くへと誘われる。
土を削り取るのではなく、土を突き抜けていくような音が響く。
凄まじい勢いで私たち二人は下へと向かって掘り進んでいった
まだか――まだか――まだなのか――もう、限界が――ッ!!
「ああああぁぁぁ!!!!?」
「ぐぅうううぅぅぅぅぅ!!!」
目の前で炎が結界へと迫る。
下へと進む力も弱まっていっていた。
触れれば最期でそれに耐えるだけの力は、もう――
ガイは泣き叫んでいる。
私は必死に歯を食いしばった。
耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて――――“音が消えた”。
「え、ええぇぇぇ!!!!?」
「……よ、し!」
体が宙に浮く。
それは“地下空洞”へと出た事を意味する。
『……一つはあっち。もう一つは……嘘、“下”?』
アーリンが言っていた。
反応が下にあると。
つまり、此処より下にはまだ別の階層があると言う事だ。
下まで突き抜けていけるかは賭けであり。
もしも、中途半端な位置で止まていれば死んでいたかもしれない。
ガイは魔術を知らず、私も魔力が底を尽きていたかもしれない。
ポーションで回復しようにも意識を失えばそれまでだ。
爆薬により加速し、あの階層で発生した巨大な炎による熱波。
その二つを組み合わせる事で一気に土を掘り進めたが……何とか間に合った。
結界に亀裂が走り――砕け散る。
ぽっかりと空いた天井から炎が勢いよく噴き出し。
ガイは咄嗟に私を抱いて魔装によってその炎を防ぐ。
彼は少しだけ表情を曇らせながらも、地面へと着地し転がるように距離を取った。
炎は猛烈な勢いで噴き出し続けていて、二つの魔術の強力さがマジマジと伝わった。
私は霞む視界の中で周りを見る……階層……と、いうよりは洞窟に近いか。
墓所のように作り込まれてはいない。
荒く削り取ったような空間で。
私はそこでガイと共に炎が噴き出す天井の穴を見つめた。
「……死んだか?」
「……多分な……だが、死狂が再び作るだろう」
「やっぱりアレは死狂がやったのか?」
「だと思う……そうでもなければ、ゴーレムが魔術を使うなんて……悪い。少し、休息を取ってもいいか……少し、危険だ」
「……おう。分かった。ゆっくりしな……きっとアーリンたちは無事だ……でも、すぐに起きてくれよ。此処には兄弟がいるらしいからな……ポーションは……あった、ゆっくり飲め。傷口にもつけておくからよ……すぐに合流しようぜ」
「…………ふぅ、ありがとう……あぁ、そうだな……すぐに、ハガードと……」
薬の効果が切れかかっていた。
じわじわと疲労感や痛みが戻ってきているが。
耐えがたいそれにより、眠気を強く感じていた。
寝たら死ぬ……という訳でもない。
私はゆっくりと瞼を閉じる。
少し眠れば意識も安定するだろう。
そう、ほんの少しだ。それだけで十分だ。
私はアーリンやハガードたちの無事を祈る。
大丈夫。アイツらは強い。
ハガードに関しては私自身がその強さを保証する。
何せアイツは私の想像を、超える、男だ、から――――…………




