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046:逆境の中で響く想い(side:イルザ)

 無数の斬撃が――眼前に迫る。


 それらを反射的に避ければ、敵の斬撃が床を容易く貫いた。

 奴らはそのまま床を滑るように進む。

 ギャリギャリと引き抜かれる剣からは火花が散り。

 命を刈り取る音だと直感で分かった。


 死角から敵の気配を感じた。

 私はその場にしゃがむ。

 頭上を敵の刃が通過し、私は回し蹴りで後方の敵を吹き飛ばす。

 メキメキと音を立てながら魔力で強化された蹴りがゴーレムの横腹に命中。

 敵はそのまま横へ飛ぶが、くるりと体を回し壁に足をつく。

 そうして、そのまま砲弾のように此方へ跳躍――私は横へ飛んだ。


 奴の突き刺すような攻撃が床を薄く削り取っていく。

 まだだ。その攻撃を見ている余裕はない。

 巧妙に隠された殺気を感知しながら、ぬらりと踊るように来る敵の攻撃を回避。


 回避、回避、回避回避回避回避回避回避回避――キリがない。


 敵の攻撃は休むことなく繰り出される。

 当然だ。相手は既に一度は死んだ身だ。

 疲労や痛みなどの概念は失われて。

 ただ内包された魔力を原動力として動くだけだ。

 その魔力が空になるまで動く――が、それは一向に尽きる気配はしない。

 

 あの時に戦った異形のゴーレムとは違う。

 こいつらはあまり魔力を流した攻撃をしない。

 あまり多用できないのか。それとも、意図的に温存しているのか。

 何方にせよ、相手の攻撃は魔力で強化せずともかなりのものだ。


 床や壁に触れるごとに甲高い音を上げて。

 火花が散る様を見ていれば、嫌でもそれの殺傷能力の高さが分かる。

 アレが体に触れて力一杯に引き抜かれれば、鎧越しであろうとも。

 それごと皮膚や肉は容易く引き裂かれるだろう。

 人を殺すというよりは、痛みや苦しみを最大限に与える為の形状……何処までも性根が腐っている。


 これを与えたのは十中八九が死狂だ。

 ハガードが言っていたエトという青年は違うだろう。

 ハガードは人をあまり疑う事は無いが、それでも馬鹿ではない。

 アイツは人の心を見抜く術が身についている。

 だからこそ、そのエトという青年に対しても悪い感情を抱いていなかった。

 恐らくはハガードの言う通り何かしらの理由があったか。

 それとも、脅される形で協力していたんだろう。

 そうであるのならば、その青年がこのような形状の武器を渡したり。

 そもそもが死体を改造してゴーレムを生み出すなどという狂気染みた発想を思いつく筈が無い。

 

 この魔術師も作られたゴーレムの一つだった。

 だからこそ、消去法で考えれば残るのは死狂だけだ。


 奴は連続して火の玉を生み出し。

 それをガイに向けて投擲していた。

 ガイはそれを丁寧に避けながら、襲い来るゴーレムたちもその槍でもって弾いていく。

 的確に敵へとダメージは与えていた。

 が、ゴーレムたちはダメージを受けても即時再生していた。

 不快な音を立てながら肉体の内側から傷が塞がっていく。


 ……やはり、アレもただのゴーレムではない……連携が取れて、此方も手をこまねいているが……何だ。この“違和感”は?


 相手は明らかな手練れだ。

 死体であろうとも、二人がかりでは容易く退ける事は出来ない。

 だが、相手も此方の動きなどは完全に読めてはいない。

 互いに決定打を欠いており、何方も相手を倒せない状況だ……私はそれに違和感を抱いていた。


 おかしい。奇妙だ。

 相手は計画通りに我々を分断する事に成功した。

 ハガードも恐らくは敵の一人と交戦している可能性が高い。

 そう考えれば、アーリンたちも危ないが。

 もしも、敵が分断してからの行動を考えていたとすれば――何故、我々はまだ戦えている?


 思考をしている間にも、二体の敵のゴーレムが刃を振るう。

 空中で回転をしながら、此方に向かって刃を叩きつけて来た。

 それを弓で受け止めれば、凄まじい力が加わる。

 ギャリギャリと竜骨の表面が削れるような音が響き。

 私は無詠唱で風の魔術を放つ。

 奴らはそれを真面に受けて、体を引き裂かれながら吹き飛ぶ。

 すると、左右から周り込むように敵が飛んできた。


 それらの攻撃は上へと飛び上がり回避。

 そのまま矢を掴み、火の魔術を付与して――放つ。


 連射によって二体のゴーレムの頭に矢が突き刺さる。

 瞬間、そこを基点として火が噴き出した。

 死体たちは勢いよく燃え上がる。

 私はそのまま風の魔術で空中を高速で移動し――ッ!!


 背後から僅かに敵の気配を感じた。

 私は咄嗟に結界を後ろに張る。

 すると、それと同時に背中の結界に何かが勢いよく当たった。


「ぐぅ!!」


 その攻撃に耐えられず。

 私の結界は破壊され、そのまま私は床を転がっていった。

 ダメージは追っていない。それだけは防げた。

 が、今の一撃はかなりの攻撃力であった。


 見ればゴーレムが刃を振った体勢で。

 その刃には薄っすらと魔力が込められていた……やはりか。


 このゴーレムの特異性は再生能力と卓越した剣術だけではない。

 こいつらは自ら考えて動いている節がある。

 だからこそ、今までの戦闘では魔装を使った攻撃はほとんど無かった。

 奴らは確実な隙が出来た瞬間に此方を襲ってくる。

 魔装に関してもタイミングを計っていて……恐ろしいな。


 自ら考えて動くゴーレムなんて聞いたことが無い。

 まだ、それほど長い年月は旅をしていないものの。

 それでもこんなゴーレムが存在するなんて話すら聞いたことが無かった。

 明らかにこれらのゴーレムは異常であり……死狂の能力の高さを示している。


 卓越したゴーレムを作る腕。

 これは魂そのものを理解していなければ作れないものだ。

 魂の完全なる解明なんてものは長い歴史でも誰も実現させた事は無い。

 目に見えないものであり、調べようにも実体はない。

 そこに確かに存在しているが、どうやれば生み出せるのか不明なもの――それが魂だ。


 ……もしも、奴が本当に魂そのものの構造を知り尽くしているのであれば……アーリンたちが危ない。


 魂そのものが正しく理解しているのであれば。

 それはつまり、奴そのものが“不滅”である事をさしている。

 死んでも生きているのは当然だ。

 奴は魂が朽ち果てない何かを自らのそれに施している。

 だからこそ、死という概念が奴には存在しない。


 厄介だ。

 奴こそがお伽噺の“不死者”に近い存在だろう。

 いや、不死者そのものか。


 私はそんな事を考えながら、床を駆け抜けていく。

 そうして、奴らの攻撃を回避しながら壁へと着地し。

 そのまま雷の魔術を矢に付与した。


「――これなら、どうだッ!!」


 連続して矢を放つ。

 矢は真っすぐに奴らへと進み。

 奴らはそれを回避した――が、私はそのタイミングで術を発動する。


「「「「――!!!」」」」


 強い閃光――奴らの体に雷が走る。


 奴らはその場に膝をついた。

 そうして、体を激しく震わせていた。

 一時的に相手の動きを阻害するもので。

 大型の魔物などには効果が薄いが。

 人型を模した存在であればこれは効果が高い。


 狙い通りであると感じた。

 そうして、

 私はより高度な魔術を作動させる為に呪文を詠唱しようと――


「させませんよぉぉぉ!!!!」

「……っ!!」


 術者の声が聞こえた。

 奴を見れば、指を振るう。

 瞬間、奴の指の一つにつけられた指輪が温かな光を発した。

 それが周囲に一瞬で広がったと思えば、体の自由が利かなかった筈の奴らがむくりと立ち上がる。


 理解した。

 奴が指に嵌めているのは術の発動を助ける触媒だけじゃない。

 今しがた発動させたのは――“聖浄(セイジョウ)”だ。


 神に仕える者たち。

 聖職者が研鑽を積んで使う事が許される奇跡。

 神々から齎される加護を受けた者のみが使う事を許される技だが。

 奴はそれを使って、ゴーレムたちの状態異常を一瞬で治した。


 聖浄は、あらゆる病や怪我を直し。

 呪いや穢れを払う力がある。

 魔術の治癒とはまた違ったものであり。

 魔術が才能さえあれば習得できるものに対し。

 アレは神からの加護が無ければ使う事が許されないものだ。

 だからこそ、呪文の詠唱を必要とせず。

 あらゆる効果や呪いなどを一瞬で払う力を秘めている。


 ……何故、奴が聖浄を使える……アレは穢れに満ちている筈なのに……何故だ?


 奴の事を分析しようとする。

 が、敵の動きを察知しその場から飛びのく。

 奴らは体を回転させながら襲い来る。

 その斬撃が床を抉り壁を破壊した。


 それを一瞥し、向かってくる敵へと風の魔術を放つ。

 敵はそれを避ける事もせずに受けた。

 ダメージは即時回復し、奴らは何事も無かったように床を駆けた。


 まるで、大軍と戦っているようだ。

 確実に攻撃は当たっていて、ダメージを負っているように見えるが。

 次から次へと新たな兵士が襲ってくるようで……クソ。


 突破口が見えない。

 終わりが全く見えていなかった。

 このままではダメだが、これ以上に何が出来るのかが分からない。

 今ある手札を使えば一気に殲滅できるのか。

 分からない。戦闘をしながら思考し、敵を分析しようとしても。

 奴らは休む暇も与える事無く、攻撃を繰り出していた。


 違和感は分かっている――が、その理由は分からない。

 

 敵の攻撃を避ける。

 そうして、後ろへと飛びのきながら。

 魔術師へと攻撃を仕掛けようと――奴が此方を見た。


 弧を描くように笑い――叫ぶ。

 

「ほらほらほぉぉらぁぁ!!!」

「――ッ!」

 

 敵が両手を大きく振るう。

 まるで、楽団の指揮者のように。

 すると、奴が発生させた炎が蛇のように揺れ動く。

 それは床を這うように進みながら、口を大きく開けて私たちを飲み込もうとした。


 私は咄嗟に風の魔術で床を滑るように移動し回避。

 そのまま炎の蛇はガイに向かって進む。

 ガイは敵のゴーレムの連撃を全て捌き、一気に奴らを弾き飛ばした。

 奴らは腹に大きな穴を開けて血を噴き出していた。

 

 そうして、そのまま彼は槍を刺突の構えで――


「――刺岩(シガン)ッ!!」


 一瞬。瞬きもする間もなく放たれた槍による刺突。

 魔力を帯びたそれが蛇の口へと吸い込まれて。

 暴風が吹き荒れたかのように炎の蛇が内部からずたずたに引き裂かれた。

 火の粉が宙を舞い、私の下まで来た風――障壁を展開。


「……凄まじいな」

「「「「――!!」」」」

 

 荒れ狂う暴風がゴーレムたちを吹き飛ばす。

 奴らは互いにぶつかり合い、そのまま壁へと衝突していた。

 魔術ではない。魔力を込めた一突きだけでこれほどの威力。

 流石は同じ銀級だと感じた。


 私はそのまま流れるように上へと跳躍。

 そのまま全力で矢に魔力を込めて――放つ。


 流星のように青い輝きを放ちながら。

 真っすぐに飛んでいった矢がゴーレムたちが転がる場所に降り注ぐ。

 奴らはそれを真面に受けて、そのまま体を木っ端みじんい吹き飛ばしていた。


 床と棺の一部の残骸がパラパラと舞う。

 地下墓所無いが大きく揺れていて。

 私は静かに着地をしてから、ガイの横に並び立つ。

 これで残りは五体のゴーレムと……っ!!


「――あぶねぇッ!!」


 ガイが叫ぶと同時に私の背後に立つ。

 そうして、槍を高速で回転させた。

 瞬間、ゴーレムたちを倒した場所から魔力を帯びた何かが飛ぶ。

 それらはガイの槍に当たり火花を散らし、そのまま粉状になっていた。

 私はそれを見た瞬間に強い危機感を感じ、風の魔術でその粉を遠くへ飛ばした。


「後ろッ!!」

「……くっ!!」

「そらそぉぉらぁぁ!!!」


 奴が火の玉を投げ放つ。

 それが床に当たって火の粉が舞う。

 ガイは床を高速で移動し魔術師へと攻撃を仕掛ける。

 が、敵のゴーレムがそれを阻む。


 ガイは舌を鳴らしながら、邪魔をする五体のゴーレムの刃を槍で受け――弾く。


「邪魔だァァ!!!」


 奴らの体が両断された。

 そうして、奴らは床に転がり――奇妙な動きで上半身と下半身が蠢く。


 それらは互いに意志を持つように床を這い。

 ガイの体に纏わりつこうとした。

 ガイは危機を感じて術者への攻撃を止めて距離を取る。

 すると、それらはガイを追い掛けながら途中で互いを繋ぎ合わせた。

 肉を素手で握るような音が響き、ゴーレム五体の体がぐるりと回転し元に戻る。


 ガイは再びゴーレムからの猛攻を受ける。

 そして、魔術師は呪文を詠唱し――させるか!


 私は矢を番える。

 そうして、奴へと――攻撃方向を変えた。

 

 殺気を感じ、真横に放つ。

 すると、私の攻撃を察知した何かが地を這うように移動した。

 それらが床に火花を散らしながらせ迫り――なッ!?


「「「「――――」」」」

「ゴーレムッ!?」


 奴らは刃を振るう。

 バックステップで避ける。

 が、後方から追走する別のゴーレムが攻撃を行ったゴーレムの肩を踏み跳躍。

 そのまま上空を激しく回転しながら剣を振り下ろす。

 私は風の魔術で無理矢理に横へと飛ぶ。

 

 空振りに終わった敵の攻撃――が、まだだ。


 三体のゴーレムたちが高速で動く。

 肉眼では捉えられない。

 まるで、影のように自らの気配を完全に断っていた。

 足音すらも消して地を駆けて――ッ!!


 背後から気配を感じた。

 私はそのまま回し蹴りをする――が、誰もいない。


 瞬間、背後からゴーレムの生暖かい吐息を感じた。


「しま――ッ!!?」


 咄嗟に結界を展開した。

 が、一瞬で発動させた結界では敵の全力の攻撃は防げない。

 一瞬の拮抗――が、次の瞬間には私の結界は破られた。


 敵の刃が私の体に触れる。

 そうして、奴らはそのまま全力で刃を引いた。


「――アァァ!!?」

「アードルングッ!!!」


 魔装によって防御をした。

 が、敵の刃はその魔力ごと私の体を引き裂いた。

 ローブが破かれて、皮膚を裂き肉の一部も削がれたのが分かった。

 強烈な痛みを背中に感じながらも、私は掌を敵に向けて風の魔術を放つ。

 敵はそのまま後方へと吹き飛ばされた。

 

 私はそのままごろごろと床を転がり。

 追撃をしてきたゴーレムに矢を放つ。

 奴らは矢を体で受けてまた体をバラバラにした。

 肉片や骨が飛び散って、奴らはカタカタと笑いながら不気味な動きで私に迫る。


「はぁはぁはぁはぁ……治療も、ままなら、ないかッ!!」

「ふひひひひ!!!! 良い!! 良いですねぇぇ!! もっともっと貴方の美しい悲鳴を聞かせてくださぁぁぁいぃぃ!!」


 奴は悦に浸ったように笑う。

 涎をだらだらと流して、まるでご馳走を前にした飢えた人間のようで……クソ。


 このままでは体が保たない。

 ガイの方はまだ怪我を追っていないが。

 このままではジリ貧だ。

 どうにっかしろ、私がこの状況を打破するんだ。

 

 脂汗が滲む。

 背中が焼けるように痛かった。

 怪我の治療がしたい。

 が、奴らがそれを許す筈が無い。

 

 私は駆けながら、矢を放つ。

 奴らはそれを回避し、衰える事の無い速度で迫ってくる。

 

 刃が何度も何度も振られる。

 それをギリギリで回避していくが。

 回避できない攻撃が私のローブや皮膚を薄く引き裂いていく。

 私は荒い呼吸をしながらも、奴らを魔術で弾き。

 頬にべったりとついた血を乱暴に拭う。

 

 猛然と向かってくる敵。

 幽鬼のように揺らめき、真っ赤に光る眼光を私へと向け。

 ただただ命を摘む為だけに奴らは“仮初の命”を与えられていた。

 声を発する事も、感情をむき出しにする事も無い。

 道具のように扱われ、戦う事だけ考えるように作られたゴーレムたち。


 哀れな亡者たちが刃を振るう。

 火の光に反射し、その刃が鈍い輝きを放つ。

 私はその輝きに肝を冷やしながらギリギリで回避。

 顔のすぐそばを刃が抜けていき、死角から別の凶刃が迫る。

 私は心臓の鼓動を早めながら、瞬きもせずに視線を動かし続ける。


 次は何処だ――次は何を仕掛けて来る。


 私は怯えていた。恐怖を感じていた。

 相手の死だけを望む死体たちをじゃない。

 自らが窮地に立たせされて、その時に考え付いたのが“仲間を犠牲”にする戦法で。


「……っ!」

 

 敵の攻撃を転がりながら回避。

 そのまま風の魔術で更に先へ飛ぶ。

 壁に背中をつけながら、敵が這い寄るのを感じる。

 

 私という存在が何処までも冷たく感じて心の底から自らを軽蔑した。

 吐き気がする、おぞましいほどに冷徹だった。

 私が冷人と呼ばれるようになったのにも理由がある。

 

 そう言われる事になった原点。

 誰にも話した事が無く、誰の記憶にも残っていなかったほんの僅かな時の記憶。

 

 冷人――冷たい人であり、それは私が何処までも合理的で、何処までも自分本位な戦い方を好んでいたからだ。

 

 仮初のパーティを組んだことが一度だけあった。

 今ではそれを知る人間は誰一人としていない。

 私が銅級になりたての時で、自信の考えに疑問を持っていなかった時代。

 

 私は彼らに……“寄り添う事”が出来なかった。

 

 依頼を果たせばそれで終わりじゃない。

 依頼を果たしてからが大事で。

 魔物に襲われた村人に対する気遣い。

 なけなしの金で依頼を出した人間への配慮。

 そして、最も大切な事である――“仲間を思いやる心”だ。


『どうしてお前はそうなんだッ!! 何で、お前には俺たちが見えていないッ!? 仲間じゃないのかッ!』

『違う。私は依頼を迅速に達成できるように』

『その為に仲間が傷を負ってもいいのかよッ! アイツは女であの傷は一生残るんだぞッ!! お前はそれでも――』


 思い出す。

 こういう時には決まって脳裏を過る。

 誰も知らない記憶だ。

 私が一時的に仲間として定めていた者たちからの軽蔑の眼差し。


 誘ってきたのはリーダーだったが。

 入ると決めたのは私だった。

 あの時は笑っていて嬉しそうだったが。

 時が経てば彼らは私を疎ましく思い。

 一生残る傷を負ったあの女性はずっと泣いていた。


 分かっていた事だ。

 冒険者として依頼を受けて魔物と戦うのなら。

 体の何処かを怪我するのは普通だと。

 それほどの傷で無いのなら、治癒師を頼れば治してもらえる。

 もっと深い傷であろうとも、高位の聖職者を頼れば死ぬ事は無い。

 私はそう思っていたからこそ、仲間が怪我を負う事を承知の上で前に出た。

 彼らの中では私が最も強く最も経験があり、最もランクが上であったからだ。


 私は頼られたからこそ、必死になって頑張った。

 少しでも彼らがランクを上げられるように。

 少しでも多くの戦闘を経験できるように……だが、違っていた。


 彼らは上など目指していなかった。

 “冒険者になる事が目的”で、“少し目立つ事が出来れば”良かったんだ。

 私はそうとは気づかずに彼らの誘いを受けて。

 空気を読む事もせずに一人で効率を追い求めた。

 その結果があれであり……私はもう二度とパーティを組む事は無いと思っていた。


「――ッ!!」


 意識が一瞬逸れた。

 瞬間、横から殺気を感じた。

 私は咄嗟に竜骨でガードをする。


 横から迫った刃。

 それが竜骨へと当たり。

 私はその衝撃を殺し切れずに吹き飛ばされた。

 ごろごろと地面を転がり、壁に当たって止まった。


「はぁはぁはぁはぁ……かはぁ!」


 呼吸は大きく乱れていた。

 せき込めば口内が裂けていたのか血が少し出た。

 口の中はカラカラに乾いていて。

 冷たかったはずの空間でもうだるような暑さを感じていた。


 私はよろよろと立ち上がる。

 敵のゴーレムたちは何故か動きを止めて首をごきりと回し私を見る……遊んでいるつもりか。


 私は矢を掴み弓を構える。

 瞬間、奴らは一瞬にして移動する。

 私も再び床の上を駆けて行った。


 

 

 まだやれる――まだ生きている。


 

 

『この先も、その先も……俺と一緒に旅をしてくれないか? 俺はお前と一緒にいたいんだ』

「――!」


 


 ハガードの言葉を思い出す。

 心臓がドクリと高鳴ってぬくもりが体に広がる。

 その瞬間、今まで感じていた痛みや吐き気が少しだけ和らぐ。

 私はそれを感じて少しだけ口角を上げた……やっぱりだ。


 アイツは出会った時からそうだ。

 どんなに絶望的な状況でも、アイツは何時も前を見ていた。

 くよくよ悩む事は一瞬で、すぐに吹っ切れて希望を生み出す。


 奴の言葉を聞いて、奴の笑みを見れば……何故だか力が出るんだ。


 何とかなる。

 出来そうな気がする。

 挑戦してみる価値はある――お前は凄いよ、ハガード。

 

 私が護衛を引き受けたのは気まぐれだ。

 助けてもらった恩があったからこそ、私はそう勝手に決めつけていた……だが、違う。


 私はアイツに惹かれていた。

 前を向いて歩いていき、私より弱くても必死に戦って。

 傷だらけになったとしても最後には笑っていた。


 馬鹿で、楽観的で。

 合理的な思考なんて一切しないお調子者で――でも、誰よりも真っすぐだった。


 一度決めた事は決して曲げない。

 どんなに不利で成功の確率が低くとも。

 アイツは決して諦める事無く挑戦する。

 そして、私では思いつかない方法で今まで出会った人間たちを救ってきた。

 私もそんな奴の心に救われた一人で――あぁそうだな。


 私は馬鹿だった。

 こんな状況にならなければ気づけないほどの愚か者だ。

 最初から答え何て決まっていた。

 私が里へと行く事を拒むよりも、私はアイツがどのような男になるのかが気になるんだ!


 夢を追いかけた果てにアイツがどのような願いを口にするのか――死ぬほど気になるさ!!


 私はアイツの事が人として好きだ。

 アイツのようになりたいとすら思う。

 過去のパーティの事はどう足掻こうとも償う事は出来ない。

 一生パーティを作る資格なんて私には無いと思っていたさ――それでも!!


「私もお前と――先へと進みたいと思ったんだッ!!」

「――っ!!」


 私は強く叫ぶ。

 瞬間、消えかけていた闘争心に再び火が灯る。


 此処で死ぬつもりはない――否、死んでたまるかッ!!


 私にも願いが出来た。

 それはあの男の冒険に付き合い。

 あの男が目指す夢の場所で共に並び立つ事だ。


 あの男が見る景色を。

 あの男がこれから出会うである仲間たちと共に――世界を共有する事だッ!!


「さぁ来いッ!!! 全部――ぶっ潰すッ!!!」

「はははは! その意気だぜッ!!!」

「ひひひひひひ!!!! そうですそうですぅぅぅぅもっともぉぉぉっと抗いましょおぉぉぉぉ!!!」

 

 ゴーレムの連撃を回避。

 そのまま床を滑るように移動し。

 宙を舞いながら連続して矢を放つ。

 風を切り裂き飛翔する矢がゴーレムたちの頭を破壊し。

 頭部を破壊されたゴーレムたちはもぞもぞと床の上で動く。

 残りのゴーレムぼ攻撃を回避しながら、私は流れるように魔術師へと狙いを定めた。


「喰らえッ!!!」

「――ッ!!」


 真っすぐに飛んだ魔力を込めた矢。

 それが奴の頭部を木っ端みじんに破壊した。

 奴は首の断面から血を勢いよく噴き出して……倒れる。


 ガイはすかさず奴へと向かい。

 全力の刺突でもって――奴が手を向ける。


「――うあぁ!!?」

「――ガイッ!!」


 ガイが咄嗟に槍を回転させる。

 奴の掌から放たれた火炎放射を彼は弾き飛ばし。

 そのまま空中を蹴りつけて此方に戻って来た。

 滑るように床に着地してから、彼は勢いよく駆けだしゴーレムの攻撃を避けた。

 私も動きながら術者の死体を見れば、それはむくりと起き上がり。

 頭があった部分に首から肉がもぞもぞと動き集まっていく。

 それが一つの塊となれば、奴は不気味な笑みを浮かべて私を見ていた。


「良い……良い……良いよ良いよ良いよぉぉぉ!!! 最高に気持ちがいいぃぃぃ!!!」

「……化け物め」


 奴は両手を広げた。

 瞬間、奴の周りには無数の火の玉が生み出された。

 それらが間髪入れずに放たれて。

 私たちはそれらを避けながら、ゴーレムの動きにも注意した。


 どんなに心を奮い立たせようとも……状況が一変する事は無い。

 

 分かっていた事だが来るものがある。

 私は必死に敵の攻撃を回避しながら。

 尚も続けて周りの状況などを分析していく。

 ある筈だ。必ず何処かに“突破口”が。

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