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045:死に狂った殉教者(side:アーリン)

 とても寒い……凍り付くような冷たさだ。


 奥へ奥へと進むにつれて冷たさが増している。

 これは元々の環境がそうさせるのか。

 それも、此処をアジトにした死狂たちによるものなのか。


 ローブを羽織っていてもこれほどの寒さだ。

 もしも、事前に知っていれば防寒対策もしていたけど。

 流石に此処への調査をしてから再び来るのは危険だ。

 敵だって馬鹿じゃない。二度目の場合は対策を講じているか、そもそもアジトを移動させていただろう。

 騎士団が調査を断念して此処を根城にしただけで。

 私たちのようなノーマークの冒険者が此処をふらりと訪れる筈が無い。


 準備はしてきた。

 それでも、それで足りるのかと聞かれれば……答えようがない。


 敵は終焉の導きの幹部で。

 死狂と呼ばれる大物だ。

 奇跡とも呼べるような魔法を使える化け物で。

 私たちが束になっても敵うかは怪しい……でも、アイツは違うのよね。


 私は空中を飛びながら、必死に前をひた走る男の背中を見つめる。

 全く呼吸を乱すことなく、一定のスピードで駆け抜けていく男。

 本名なのかは知らないけど、ジョンと名乗ったこの男は冒険者で無いものの実力は金級に匹敵する。

 敵と遭遇しても取り乱す事は無く。

 難なく打ち払った実力に加えて、珍しい超常の魔術を得意としている。

 アレほどの破壊力のある魔術を行使しても、一切の疲労を感じさせない。

 それだけでこの男がどれほどの使い手で、どれほどの場数を踏んできたかは何となく分かってしまう。


 私は必死に奴に追いつこうとする。

 が、奴はこちなど気にする素振りは見せない。

 私は少しだけ苛立ちを覚えながら、奴に向かって声を飛ばす。

 

「待って……待ちな、さいよ!」

「……」


 奴は私の声に反応しない。

 まるで、道具のように決められた方向に進んでいくだけだ……ムカつく。

 

 地下墓所の通路を進む。

 奥へ奥へと繋がっている長い通路で。

 こんな何時の時代に作られたかも分からない墓所が。

 これほどの広大さを持っているのが不思議だった。


 ……まるで迷宮……でも、宝は無くて。あるのは死体だけ。


 周りに視線を向ければ、変わらず石の棺に死体が入れられているようだった。

 最初に見た棺と違う点は、それらは少しだけ棺の意匠が違う事か。

 普通の棺とは違い、大きさがあり楕円形のようになっていた。

 まるで、そこへと運ぶ遺体が体を丸められるような設計で……ヒューマンの棺じゃないのかしら。


 それぞれの種族によって埋葬の方法は違う。

 土葬をするのがヒューマンであるのに対し。

 他の種族は火葬をしたりもする。

 水の中で生きるシーンであれば、そのまま水葬に近いけど……でも、この棺は……。


 ヒューマンと同じ土葬に近いけど。

 その棺は一般的なヒューマンのモノとは少し違う。


「……」


 私はこの墓所自体が何か特別な場所のように感じていた。

 不気味であるものの、清廉さのようなものも感じる。

 長い間、誰にも手入れをされていなかった筈なのに。

 棺や遺体があまり劣化していないのにも理由があるのかもしれない。

 私は謎の墓所を観察しながらも、警戒心を緩める事無くジョンを追う……それにしても、これはやっぱり……。

 

 私たちが通路を進んでいけば、周りの松明に火が灯る。

 魔石によって着火をしているのだろうけど。

 此処までの仕掛けを用意していると言う事は敵には私たちが来る事がバレていた事になる。

 恐らくは、ハガードが敵と戦った時点では既に戦う準備を終えていたのか。

 もしそうであればかなり厄介だと感じる。

 

 ……まるで、敵が私たちを歓迎しているようだわ……いえ、アイツは気づいている。


 前を疾走するジョン。

 追いつこうにもかなりの速度で走っていた。

 此方は魔術で飛んでいるのにそれでも追いつけない。

 魔力を流して身体強化を施しているのか

 それとも、単純に元々のアイツの身体能力が異常なのか。


 私はジョンを追い掛ける。

 彼の目的は死狂であり、私も奴を捕縛するのが目的だった。

 生きたまま捕縛するのが望ましいが。

 最悪の場合、死体であろうとも回収する。

 そうすれば、小言は言われるだろうけど仕事を果たした事になる。

 それで私とアイツの縁は終わりであり。

 後は私がお金を持ちかえれば、親友であるケイの命は救われる。


 簡単な事よ……幹部一人の身柄を拘束するだけ……私なら出来る。


 この日の為に準備はしてきた。

 出来る限りの準備をし、この日の為だけにあらゆる道具を揃えた。

 使えるものは何でも使う。

 ジョンも私を利用する気であるからお互い様だ……にしてもよ!


 ――速すぎるわ!

 

 全く追いつけない。

 アイツは本当に私たちと協力する気があるのか。

 そんな事を苛立ちと共に考えながら、私は奴の背中を追い――奴が止まる。


「……!」


 私も慌ててその場に止まる。

 そして、どうして一人で勝手に先に行くのかと注意しようとして――背後から音が聞こえた。


 何かが落ちる音であり。

 振り返れば、通路に硬い金属の冊が降りていた。

 私は慌てて冊へと近寄り――魔術を感じた。


「……結界……いえ、呪い?」


 強力な術式であり、下手に触れようとすればそれだけで命の危険がある。

 破壊しようにも、何が起きるのかは調べないと分からない。

 私はジョンにこの術式を解析してみると伝えた。

 しかし、彼はその必要は無いと私に言う。


 

「……目的がそこにいる」

「……!?」


 

 私は振り返りながら杖を構える。

 すると、静かに声が聞こえて来た。


「おやおや? 気配は断った筈ですが……どうやら、そちらの方は目に見えない何かが見えるようですねぇ……うーん、実に実に興味深い。是非とも、私のコレクションの一つに加えたいところですねぇ」


 広い空間。

 あの場所とは違って此処には棺が数えるほどしかない。

 それもその全てが何かしらの家紋を象った金属製の大きな楕円状の棺だった。

 左右に合計で六つであり、それらが斜めの角度で台座に寝かされていた。

 部屋の奥には大きな石の台座とその後ろに半壊した女神を象った巨大な石像がある。

 

 謎の声が聞こえれば、部屋中に青い炎が灯っていった。

 そうして、部屋の奥にある苔に塗れ、少しだけ朽ちて崩れた大きな台座の後ろから。

 黒い靄のようなものが発生し、そこから謎の男がぬるりと姿を現した。


 黒いカソックを着用し、その上には元々は純白であっただろうサープリスを纏っていたが。

 そのサープリスは血によって所々が赤黒く変色していた。

 奴は首元にじゃらじゃらとあらゆる宗派のロザリオが下げているが。

 そのほとんどが破壊されて、血で染められていた……背信者のつもりか。


 真っ白な頭髪は腰まで伸びている。

 癖の無い綺麗な髪ではあるが。

 奴の目はそれに反して穢れに満ちて全く生気が無い。

 闇のように黒いその目を見ているだけで強い吐き気に襲われる。

 奴は怯えている私の心を見抜いて三日月のように口を歪めて笑う。


「可愛らしいお嬢さん。そんなに怯えないでいいんですよ。私は争いが嫌いなんです。どうか、話し合いましょう。我々は巡り会い、こうして母の元に集った。お茶でも飲みながら共に――?」


 奴の話を遮るように奴の前の台座が破壊された。

 そして、その謎の力が男へと当たったが。

 それは男が展開した防護結界に阻まれて削り取るような音を響かせながらそれと激しくせめぎ合っていた。


「ほぉ、これは……超常の魔術で。それも、空気への干渉ですか。さしづめそれを使った見えない攻撃でしょうか。圧縮し固めて回転し、微細な金属粉末を混ぜる事で削り取る力を……全く気取られる事無く、空気中に金属の粉末を流すとは。すごいですねぇ」

「……嘘」


 私はジョンをよく見る。

 魔力を目に流して視力を強化すれば……見える。


 ジョンの空いた手から何かが空気中に巻かれていた。

 それらがあの敵の前で激しく回転している。

 通常では目では捉えられないほどに微細な粉末で。

 それをジョンは取り出す素振りも見せずに散布していた。

 恐らく、さっきの部屋で見せていた、技、も…………待って…………アイツらは!?


「……ガイたちが!」


 今更に気づく。

 おかしい。私が仲間の存在を忘れて此処まで来たという事実。

 明らかに変であり、そんな初歩的なミスを私がする筈が無い。

 どう考えても何かの攻撃を受けていた証拠だ。


 すると、私の動揺を察して男が「あぁ」と呟く。

 奴が指を振れば、私の帽子から何かが出て来た。

 それは煙のような何かで――魔物!


「それは“エルゥア”という魔物です。空気のような見た目で、霧の濃い場所で生息し、通りかかった人間や動物に取りつく弱き者。取りついた者の魔力をほんの少しだけ吸い取る魔物です。一体だけなら害は無く、吸い取られる側も気づけませんが。それは私が改良したものでしてね。魔力を吸い取るのではなく“与える”ようになっています」

「……魔力を、与えるって……まさか」

「……魔力を与えれば拒絶反応が出る。ほとんどの場合は体の痛みや吐き気だが……一時的な認識能力の低下や記憶の混濁もある……それは一時的にそれらの症状だけを引き起こすものだ」

「おぉ! 素晴らしい……貴方だけが気づいていて取りつかせる事が出来ませんでしたが。やはり、貴方は群を抜いて優秀のようだ。益々、欲しいですねぇ」


 ジョンは指を鳴らし魔術を解く。

 瞬間、奴への攻撃は止まり。

 奴はパチパチと拍手をしながら頷いていた。


 私はジョンの言葉に分かっていたのなら何故、教えなかったのかと聞く。

 すると奴は、その必要は無かったからと言う……こいつ。


 やっぱり、こいつも相当なクズだ。

 仲間と分断されたというのにこの落ち着きよう。

 最初から私たちは他の敵を引き付ける為の雑兵で。

 だからこそ、私の認識能力が低下していた状態も好都合であると捉えていた。

 此処まで来る間に、私にとりついていた魔物を放置していたのが証拠だ。


 私はこいつを少しでも信用しようとしていた自分を恥じた。

 そうして、私は敵へと杖を向けながらどうせ話し合い何て意味がない事を伝える。

 すると、奴は首を傾げてどうしてなのかと聞く。


「決まっている。我々の目的はお前自身だ……大人しく捕まるのなら、お前の好きな話し合いをしてやろう」

「ほぉほぉ。そうですかそうですか……はい、分かりました。では、捕まりましょう」

「……待ちなさいよ。アンタはあの死狂でしょ。そんな簡単に……」

「えぇそうですが? でも、私は誰も傷つけたくないので。平和的に済むのなら、それで」


 奴はニコニコと笑いながら、両腕を出して此方に歩み寄って来る。

 私は警戒心を持ちながら奴を見る。

 少しでも魔力の揺らぎがあれば、すぐにでも魔術を行使する。

 例えそれで奴を殺す事になったとしても、自分たちが殺されるよりは遥かにマシだ。


 奴はゆっくりとゆっくりとジョンへと近づき……足を止める。


「さぁ、拘束具を」

「……あぁ」


 ジョンはゆっくりと手を上げる。

 そうして、奴の腕を掴もうと――ッ!!


 ジョンが魔術を発動させた。

 その瞬間に、奴の体は目に見えない空気の塊によって大きく吹き飛ばされた。

 凄まじい勢いで吹き飛ばされた奴は石の台座を貫通し、そのまま半壊した女神像へとめり込んだ。

 パラパラと砂埃が舞い、女神像の残骸が奴へと降り注ぐ。

 私が何故、攻撃したのかとジョンを見る。

 すると、奴は服を指さす。


「あの服には呪いが掛けられていた。触れた者の魂に縛りを掛ける呪いだ」

「そんな……でも、全く魔力は」

「当然だ。あの術式は対象の魔力を使って発動するものだ。初見で見破れたのなら相当なものだ」


 奴はそう簡単に説明しながら、指を振るう。

 すると、連続して破壊音が響き。

 奴が吹き飛ばされた場所に向かって空気の塊が何度も何度も振り下ろされた。

 まるで、隕石の衝突のようであり、私は激しい揺れに必死に耐えた。


 崩落するのではないかと思ったが。

 特別な術式でも組み込んでいるのか。

 この地下墓所が崩落するような気配は無い。

 安心は出来ないが、このジョンが馬鹿みたいに魔術を放っているのなら――瓦礫が吹き飛ぶ。


「く、くくく、くふふふ……ひどいじゃないですか。私は平和的に解決したいのに……どうして貴方方は、そうやって私に殺意や怒りを向けられるんですか? 我らの母は悲しんでいます。家族が争い血を流す事を……どうか、どうか。矛を収めて、私の手を取り――その血肉を私と一つにしましょう」

「……こいつ、やっぱり本性は」

「あぁイカれている。鼻から分かっていた事だ」


 奴は宙に浮きながら、空中にそれぞれ系統の異なる魔術を発動させる。

 五大元素により炎や水の球体に、土を固めて杭のようにしたもの。

 そして、それらを目に見えな力で圧縮し、更に膨張させていた。

 その攻撃一発一発には呪いが込められている。

 触れただけで相手の精神を蝕む呪いで。

 奴自身は強固な結界を纏い、身体能力を付与によって高めていた。

 傷も一瞬で治癒し……!?


 頭の中に奴の不気味な声が響き渡る。

 いや、声だけじゃない。奴の狂った思想を押し付けられているようで……これは!?


「全ての系統が、使えるなんて……そんなの、聞いたことが!」

「えぇ、えぇ。そうでしょうとも……ですが、魔法を扱えるのならば普通の事ですよ? 何せ、我々は神の寵愛を受けているのですから! あぁ神よ。我らが母よ……私はまた、二人の魂を貴方の元へと送ります。その体は私の血と肉となり、更なる高みへ」

「――御託は良い。目的は最初から一つだ……悪いが、すぐに終わらせる」


 ジョンはそう言うや否や。

 今まで背負っていた棺を下ろす。

 そうして、拘束が外れる音を響かすと。

 彼は静かに魔力を込めて呪文を詠唱した。



 

「――目覚めよ、神が堕(アーライサ・ゴォズ)とした子供らよ(・カーススラァヴァ)

「……!!」




 ジョンが呪文を詠唱した。

 すると、棺が勢いよく開かれた。

 瞬間、赤子や子供のような声が無数に聞こえ始めた。


 

「「「「――――!!!」」」」

「……っ!」

 

 

 棺の中から白い光の塊が無数に飛び出す。

 それらが赤子や子供のように笑い声をあげていた。

 だけど、その声を聞いても心は全く安らがない。

 幼子の声であるものの、それは何処か歪で何処か不安を掻き立てるような音をしていた。

 無数の白い光たちがジョン以外の存在……私と死狂の方へと飛ぶ。


「離れていろ」

「――かはぁ!?」


 ジョンが呟く。

 瞬間、私は空気の塊によって強制的に後ろに飛ばされた。

 壁に背中を打ち付けて、そのままずるずると腰を下ろす。

 だけど、白い光の玉の一つがさきほどの一瞬で私にほんの僅かに触れて……え?


「……こ、れ……は……っ」

 

 体から力が抜ける。

 まるで、体の中の大量や魔力を……いえ、違うわ。


 これはそんな単純なものじゃない。

 “生気”のようなものを吸われたに近い。

 防御も何も関係なく、その人間が持つ生気を吸い取る。

 少し吸われただけで私の意識は朦朧としていた。


 立っている事も出来ず。

 私はその場に膝をつき、そのまま静かに体を横たわらせる。


「お前たちはよくやった……後は俺だけで十分だ」

「こ、の……おお、うそ、つき……が……」

「くふふ……そうですね。予定とは違いますが……まぁいいでしょう。それならばそれで、別の道が出来ましたから」


 霞む視界の中で、ジョンが指を上げたのが見えた。

 光の玉たちはそれの集まるように動く。

 死狂はその玉たちを近づけないように結界を何重にも展開し。

 無数の攻撃手段を生み出していた。


 本当に勝てるのか……いや、勝ってもらわないと困る。


 私の意識はもう限界で。

 何も働く事は出来ないようだけど。

 それでも、此処まで来てやったんだから……絶対に、後で……報酬、は…………。

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