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043:友が流した涙

「――っ!?」

「……!」


 ミノタウロスによる連撃が繰り出される。

 俺はそれを回避しようとするが。

 奴の攻撃はより洗練されて無駄が省かれて行っていた。


 風を切り裂き迫る斬撃。

 避けられないものを剣身で逸らそうとした。


「――ぐぅぁあッ!?」


 重い――凄まじい力が剣に加わる。


 魔力で強化されて、己の切れ味が増していた。

 そして、それに更に重量が増えているように感じた。

 剣から悲鳴が聞こえるようにそれから激しく火花が散り今にも折れそうになる。

 歯を全力で食いしばりながら、俺は剣を振るう。

 そうして、奴の攻撃の軌道を逸らし。

 奴がまたしても振るう斧の軌道をまたしてもずらそうとした。

 

「――ぅぁあッ!!」


 汗が噴き出す。

 全身の血が沸騰したかのように熱い。

 体中の筋肉を酷使し、敵の猛攻をしのいでいく。

 少しでも意識を逸らせば、その瞬間に俺は肉塊と化すだろう。


 防ぐ、防ぐ、防ぐ防ぐ防ぐ防ぐ防防防防御防――目が痛みを発していた。

 

 あまりにも重い一撃によって魔力を流した剣が悲鳴を上げていた。

 ミシミシと音を立てていて、磨き上げた筈の剣身は所々が欠けていた。

 全身から滝のように汗を掻きながらも、何度も何度も剣で攻撃の軌道を逸らし。

 奴の背後を取ろうとするが、奴は俺の攻撃を察知すれば足などを使って此方をけん制してきた。


「――ぅ!」

「……!」

 

 斧による攻撃だけじゃない。

 あの丸太のように太い足から繰り出される蹴りも脅威だ。

 常人が棍棒を振るようなものじゃない。

 アレはほとんど破城槌(はじょうつい)による攻撃と変わらない。

 当たれば魔装をしていなければ即死だろう。

 それほどの攻撃であり、頬を掠めただけで切り傷が出来ていた。

 何の予備動作も無しに飛んでくるそれはまるで砲弾のような速さで。

 俺はそれを紙一重で避けながら、後ろへと下がらざるを得なかった。


 跳躍し地面に滑るように着地。

 奴はそのまま斧を回転させながら飛び上がる。

 そうして、上段からの重く速い斬撃を振り下ろす。

 俺はそれを転がるように回避。

 瞬間、奴の放った斬撃によって地面に一直線に亀裂が走る。


「……っ」


 地面が大きく揺れる。

 洞窟の中であり、此処が何時崩落してもおかしくない衝撃だが。

 奴はそんな事などお構いなしだ。

 操っているのは間違いなくエトでも、その力を完全には制御できていないのか。

 

 俺は冷静に奴の行動を分析しながらすぐに足で地面を蹴り奴の背後に回る。

 大技でありすぐには体勢を戻せない。

 だからこそ、俺は奴の背後に回る事が出来た。

 俺はそんな奴のアキレス腱に向けて鋭い斬撃を放ち――弾かれた。


 「――な!?」


 奴は此方を見ていない。

 それなのに精確に此方の斬撃の軌道を読んで後ろ蹴りによって俺の攻撃を弾いた。

 剣がびりびりと振動し今にも手から零れ落ちそうだったが。

 俺はそれをしっかりと握りしめて――全身が凍り付く。


 奴が蹴りを放ち。

 そのまま軸足を基点に回転する。

 斧は既に水平に構えられている。

 此方に向かって迫ってきていて。


 剣は大きく弾かれていた。

 今から腕を動かそうにも防御には間に合わない。

 回避もそうであり、此方は姿勢を崩されている。


 ――魔装で受けるしかないッ!!

 

 ガードも回避も間に合わないんだ。

 唯一出来る事は魔装の展開だけで。

 俺は瞬時に覚悟を決めて魔装を奴の攻撃が当たる脇腹に集中させた。


 残りの魔力を全て注ぎ、魔装の障壁を多重展開する。

 一撃目は防げた。しかし、奴は斧に魔力を流していた。


 ――来るッ!!

 

 

 奴の己が見えていた。

 それには漆黒の魔力が流されていて。

 それがまるで雷鳴のような音を響かせながら、全てを屠らんとしていた。

 それもかなりの量であり、魔力が少し触れただけで魔装を展開していない部分に鋭い痛みが走る。

 黒い雷のようなそれがゆっくりと感じる時の中で俺の脇腹へと吸い込まれて行き――――…………




 

 …………――――?


 意識がぼんやりとしていた。

 霞む視界の中で、俺は視線を上げようと……何だ、これ。


 目に映っているものは水たまりだ。

 俺は水の上で腰を下ろしていた。

 だらりと四肢を投げ出して、水たまりの中で座っている。

 体の感覚はほとんどない。

 寒いのか暑いのかも分からないが……変だな。


 この水たまりは“色が違う”。

 普通の水はもっと綺麗な色だったり、濁っていたりで……これは……赤い、色、を……っ!!


「――ぁ、ぁぁぁ、ぅああぁああ!!?」


 痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――炎の中にいるような熱を感じる。

 

 俺の意識が強烈な痛みによって覚醒する。

 全身を襲う激しい痛み。それも脇腹と背中が特に強く痛みを発していた。

 脇腹を確認すれば革の鎧が焼け焦げて破損し、その下の服すらも焼け焦げていた。

 皮膚が裂かれて肉が見えている。そこから勢いよく血が噴き出していた。

 俺は震える手で傷口を抑えるが、それは一向に止まらない。


 俺は必死になって腰のポーチから魔石を取り出す。

 少ししかない魔力を注げば、魔石はすぐに熱を持つ。

 グローブ越しに強い熱を感じながら、俺はそれを迷う事無く血が噴き出している傷口に強く押し当てる。


「ぁぁ、ぅぁああああぁ!!」


 熱い、熱い熱い熱い熱い熱い――焦げ臭い。


 肉が焼ける音が鮮明に聞こえていた。

 激しい熱により耐えがたい痛みを感じていた。

 気を抜けば意識が再び消えそうで。

 俺は脂汗を滲ませながら、強く魔石を握りしめながら止血をしようとした。


 自らの血が蒸発し肉が焼ける臭いがする。

 鉄板で肉を焼くような音を聞きながら、俺は唇を強く噛む。

 血が滲むほどに噛めば、口の中に鉄錆の味が広がっていく。

 それを不快に思う余裕すら無いほどに必死に意識を保つ。


「ぅああぁ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ」

 

 暫く魔石を当てていれば傷口からの音が小さくなっていく。

 俺はそれを頃合いだと判断し、魔石を傷口から外して手からぽろりと落とす。

 霞む視界の中で傷口を確認すれば肉を焼いたことで強制的に出血は止まっていた。

 俺は手を震わせながらもポーチから残されたポーション全て取り出す。

 乱暴に蓋を取りながら、その全てを一気に口へと運び喉を鳴らして飲む。

 すると、強いポーションの効果ですぐに痛みが引いていった。

 体力は僅かながらに回復し、意識も正常に戻って来た。

 今にも死にそうだった状態から、無理矢理に動けるほどに回復しただけだが……!!


「――ぅ、えあぁ!!」


 強い吐き気を感じた。

 俺は思わず、胃の中のものをぶちまける。

 一度に強いポーションを服用しすぎたせいだ。

 体が拒絶反応を起こしていた。

 これ以上服用すれば後遺症が残る恐れもあるが……どうせ、もう回復する術は無い。


 俺は乱暴に口元を拭う。

 ポーチから水袋を出して中身を呷り。

 それを吐き捨ててそれを水袋を投げ捨てた。

 

 俺は刃がボロボロの剣を地面に突き立てる。

 体が揺れていて、足が生まれたての小鹿のようだ。

 必死で、振り絞っていて、形振り構っていられない。

 

 俺は何とか震える足で立ち上がった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ぅぁ!」


 が、すぐに足から力が抜ける。

 俺は無様に地面に転がりながら。

 地面に手を突き、それでも立ち上がろうとした。


 そんな俺をジッと見つめる二つの影……エトが呟く。

 

「……やめてください」


 聞こえない。

 俺は痛みや苦しみを無視して足に力を込める。

 

「……ぅぅ!」

「……やめて」


 聞けない。

 それを聞けば、俺は一生後悔する。

 だからこそ、勇気を振り絞りうめき声を上げながらも二本の足で立ちあがる。

 

「やめてと言ったんだ……やめろよッ!!」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……へ、へへ。そんなに、声を、荒げるなよ……エト」


 エトが感情をむき出しにして叫ぶ。

 俺はその頼みを無視して剣を引き抜き立ち上がった。

 ふらふらと体を動かしながらも、今度は無様に倒れたりはしない。

 そうして、大粒の汗を掻きながらもにへらと笑う。


 彼の顔を見れば今にも泣きだしそうなほどに悲痛であった。

 こんな事はしたくない、もう立ち上がらないで……そんな所だろう。


 俺は剣を構える。

 眼前に立つミノタウロスは鼻息を荒くしながら俺を見ていた。

 アレはエトが操っているんだ。

 エトの命令が無ければ戦ったりはしない。

 つまり、今まで俺を殺す事が出来たタイミングで攻撃が来なかったのは彼が意図的に止めていたからだ。


「エト、言っておくがな……痛い目に遭わせたら、俺が諦めて逃げるなんて思うなよ……俺は、嫌な事や面倒な事はすぐに諦めるけどよ……友達の事だけは、何があろうとも諦めねぇッ!」

「……諦めてください。僕はもう……これ以上やったら貴方は確実に死にます……だから、お願いだから……早く此処から」


 彼は無理矢理に笑う。

 俺を思っての言葉だが、その表情は辛そうだった。

 俺が苦しんでいる姿を見たくない。

 でも、組織の命令は絶対で裏切れない。

 だからこそ、嫌な事をやってでも俺を諦めさせようとした。


 気づいていたさ。

 アイツが此処まで俺を誘導していた事も。

 アイツが俺ならあの罠くらいで死なない事も。

 知っていたうえで此処へと導いて、己の手で諦めさせようとした事も――俺は笑みを深める。



 

「友達を見捨てるくらいならよ――死んだ方が、マシだァッ!」

「……ハガード……貴方は、何で、そこまで……もう、嫌だ……僕はこれ以上、貴方を……傷つけたく――ぅ!!?」



 

 エトが膝をつく。

 そうして、戦いを放棄した様に見えた。

 俺はようやく彼と話が出来ると思った。

 が、突如エトは頭を押さえて苦しみ出す。


 俺はエトに駆け寄ろうと――うぉ!?


 横から猛烈な勢いでミノタウロスが襲い掛かる。

 俺は咄嗟にその攻撃を避けた。

 後ろへと滑るように着地すれば、傷跡がずきりと強い痛みを発した。


 俺はその痛みを無視してエトの名を呼ぶ。

 彼は何かと話をしていた。


「ダメです――彼は、僕が――嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ――ハガード、逃げて!!!」

「エトッ! どうしたんだッ! 何が――ッ!?」

「――アアアアァァァァァ!!!!!」


 エトが絶叫する。

 そうして、白目を剥いて泡を吹いていた。

 彼は意識を失っている様子だが。

 彼の体は不規則な動きで立ち上がった。

 そうして、糸で操られる人形のように動きながら浸食された腕を掲げで呪文を詠唱する。


「――――ッ!!!!!!」

「……ぅ!!」


 ミノタウロスも絶叫した。

 すると、ミノタウロスの体から蒸気が出始めた。

 まるで、体の中から強い熱を発しているようで。

 奴の黒い皮膚が赤黒くなっていった。

 全身の筋肉も不自然なほどに盛り上がっていき、その体が更に大きさを増す。

 よく目を凝らせば、見た事も無いような赤い文様が体中に巡っていく。


 俺はそんな奴を警戒し――奴が消えた。


「どこ――ッ!!!」


 背後から生暖かい風を感じた。

 瞬間、俺は前に転ぶように飛ぶ。


 背後から爆発音が響き、その衝撃だけでごろごろと転がる。

 背後を見れば既に奴は消えていて砂埃だけが発生していた。

 奴は何処かと探して、今度は右側から殺気を感じる。


 俺は本能のままに横に飛ぶ。

 すると、何かが勢いよく振られて突風が吹き荒れた。

 その風がまるで刃のようになり、俺の体中を傷だらけにしていく。


「――ぅ、ぁああ!!」


 思わず声が漏れ出した。

 俺は転がるように下がり。

 前を見たがもうそこには誰もいない。


 心臓の鼓動が速くなっていく。

 呼吸は乱れに乱れていて、敵の姿が全く捉えられない。

 奴は高速で洞窟内を移動している。

 何度も何度も爆発音が聞こえ、洞窟の一部が砕け散っていた。

 奴はこの空間で縦横無尽に飛び回り、俺の死角から攻撃を仕掛けている。


 俺は必死になって転げまわる。

 一瞬でも気を抜けば即死級の攻撃が飛び。

 視線を向ければもうそこには誰もいない。

 無数の破壊音が俺の心を恐怖に染め上げようとして。

 体中の痛みが俺の意識を刈り取ろうとする。


 必死に視線を動かし、勘だけを頼りに攻撃を避けるがこれも長くは続かない。

 俺は敵の攻撃を避けながら、視界に映ったエトを見た。

 彼は既に意識が消えており、何者かに操られていた。

 彼は呪文を詠唱しながら、己の魔力をミノタウロスの力へと還元している。

 だが、アレほどの魔力をずっと流し続ければ最悪の場合は――絶命する。


 

「――!」


 

 エトの両目から涙が溢れ出す。

 

 ぽろぽろと落ちるそれが俺にはハッキリと見えていた。

 

 それを認識した瞬間に俺の心を染め上げようとした恐怖や絶望が――晴れていく。



 心臓の鼓動が強く高鳴った。

 何度も何度も、体を震わすようになっていた。

 

 恐怖も怒りも、全てが溶けてなくなる。

 まるで、体の中の何かが噛みあうようで。

 俺は地面を滑りながら、着地した。

 そうして、強い胸の鼓動を感じながら俺は心の奥底から沸き上がる熱を――“体に広げていった”。

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