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041:分断された仲間たち(side:イルザ)

 ……やられた。


 現在、私は仲間たちと共に地下墓所内を彷徨っていた。

 此処にいるのはアーリンとガイだけで。

 ジョンとハガードが何処かに消えていた。


 存在は確かに認識していた。

 しかし、気が付けば二人は姿形も見えなくなっていた。


 アーリンは恐らくは敵の魔術によるものだと言っていた。

 それが超常なのか結界術によるものなのかは分からない。

 が、かなりの高度な術式による認識阻害であるとアーリンは言っていた。

 もしかしたら、敵の攻撃を受けて精神を狂わされている場合もある。

 そう考えたアーリンは私たちの体を調べてくれた。

 その結果、僅かながらに微量の第三者の魔力を感じ取っていた。


 彼女はそれを摘出してから。

 指に纏わりつく黒い魔力を払った。


「……これで良いわ……恐らくだけど、あの仕掛けを作動させて通過した時につけられたんでしょうね」

「マジかよ。でも、敵何て何処にもいなかったじゃねぇか」

「……敵は目に見えるものだけじゃないわ。動物でも虫でも操れるのなら敵になりえる……恐らくは、蜘蛛か何かに術式を組み込んでおいて私たちに気づかれないようにつけたんでしょうね……それだけ小さいのなら、数秒だけ意識を逸らすだけの簡単なものかも。それなら二人はまだそう遠くないはずよ」

「……なるほど。魔物を操れるのなら小型の虫でもいけるのか……だが、そうなるとより一層警戒しなければならないな」

「そうね……でも、先ずは二人を探さないと。あのジョンなら死にはしないでしょうけど。ハガードに関しては心配だわ……もしかしたら、二人だけを分断させたのも何か目的があるのかもしれないわ」


 アーリンはそう言いながら、火の玉を操る。

 周りの空間を照らしながら、二人の痕跡を探そうとした。

 ハガードは後ろからついてきていて、ジョンは先頭を歩いていたが。

 今となってはその認識ですら正しかったのかすら怪しい。

 もしも、もっと深い認識を狂わされていたのならば、もっと前から仲間たちと分断されていたかもしれない。


 足跡を辿ろうにも、床は石であり。

 足跡が残るような土でも無ければ、二人は魔術も行使していないから残滓も残ってはいない。

 どうするのかとアーリンを見つめていれば彼女は静かに指を指す。


「……一つはあっち。もう一つは……嘘、下?」

「……! 何故、分かるんだ? まさか、お前もジョンのように」

「は? 違うわよ……気づかない? アンタたちのコートは誰が渡したの?」

「――そうか。コートの術式を使って」


 アーリンはコートに別の術式も組み込んでいた。

 それは彼女だけが知る事が出来るもので。

 彼女はそれを使って二人の位置を特定しようとしていた。

 彼女の事であるから、こういう場合も想定していたんだろう。

 

 私は彼女を褒める。

 すると、彼女は鼻を鳴らしてから真っすぐに地下空間を進んでいった。


「兎に角、先ずは近い奴と合流よ。コートの術式は簡易的なものだから。誰のコートなのかは分からないわ。ハガードに先に会えたのなら良いけど」

「あのジョンって奴は心配ねぇだろうからな。アイツ、かなり強いぜ?」

「……そうだな。纏う空気と姿勢からして……銀級……いや、それ以上かもしれない」

「……そうでしょうね。何せ、アイツのお墨付きだもの」

「……? アイツとは……!」


 音が聞こえた。

 その瞬間に地下空間が僅かに揺れた。

 かなり近いようであり、アーリンは戦闘が始まったと告げる。


 彼女は宙に浮き飛んでいく。

 私たちもそんな彼女を追って駆けて行った。


 走って走って。

 彼女は右へ曲がり、その途中にあった階段を下りていく。

 私とガイは階段を駆け下りて。

 そのまま彼女の魔力を追いながら、右の通路を進み――!


「まただ!」

「結構、激しい戦いみてぇだな!」


 私とガイは並んで走る。

 そうして、地下墓所の奥へと進み――開けた空間に出た。


 そこは円形のようになっていた。

 壁の方は段々となっていて。

 石の棺がごろごろと無造作に転がされていた。

 その中には朽ちた死体などが寝かされてる。

 腐敗した包帯などが巻かれていて、嫌な臭いが濃厚に感じた。

 そんな広い空間の中心で、ジョンと黒いローブを身に纏った術者が戦っていた。


「ジョン!」

「……遅いぞ」


 私は奴の名を叫ぶ。

 すると、奴は此方を向くことなく苦言を呈した。

 余裕があり、その体には傷どころかシミ一つない。

 それもその筈であり、目の前の術者は既に満身創痍で。

 片腕が切り飛ばされていているのか。

 ぼたぼたと切断面から赤い血を流しながら、狂ったようにかすれた声で笑っていた。


「は、はは、はは……良い、良いよぉ……最高な痛みだぁぁ……死ぬにはいいぃ日だなぁぁ」

「……アイツが終焉の導きの構成員……死狂は?」


 満身創痍の構成員が一人いるだけだ。

 他には敵らしきものは見えない。

 棺の中に隠れている可能性もあったが。

 魔力の反応は微塵も感じられない。


 奴はたった一人でジョンと戦った。

 よほど自信があったのだろうが、勝負は完全に見えていた。


 奴は狂ったような笑みを浮かべながら、勢いよく腕を掲げる――来る!!


 ハガードから聞いていた術だ。

 あの構成員が火を使う魔術師であるのなら。

 ハガードと戦ったという構成員が使っていた大技が出るだろう。

 私はジョンの前に出ようと――!


 ジョンは“何もしていないように見えた”。

 が、奴がぼそりと何かを呟いた瞬間。

 敵の術師の残された腕が吹き飛ぶ。

 破裂するような音が響いたかと思えば、奴の腕は木っ端みじんに吹き飛んでいた。


 手につけていた指輪が無くなった。

 触媒を失った事で、奴の魔術も不発に終わった。

 奴は両腕の切断面から大量の血を流す。

 そうして、最後の抵抗と言わんばかりにジョンへと襲い掛かっていった。


「ひははははは――ッ!!」


 ジョンが片手を向ける。

 瞬間、飛び上がった奴の体は――吹き飛んだ。


 まるで、体の中心に巨大な鉄の塊が凄まじい勢いで飛んできたように。

 奴の体は木っ端みじんとなって、残った足と頭が床に転がっていた。

 ごろりと転がった奴の顔は笑っていて、その虚ろな目と私の目が合ってしまう。


「……」

 

 吹き飛んだ体の中の血が霧のように空中に残っていて。

 私はジョンという存在が此方の助けが不要なほどの手練れであったと再認識した。

 ジョンは棺を抱えながら周囲を見る。

 そうして、私たちを無視して奥へと駆けていった。


「……! 急ぐわよ!」

「おい! ちょっと待てよ!」

「……っ! 待て!!」


 アーリンは急いで彼を追っていった。

 私たちもそんな彼女らを追おうとしたが。

 私は何かの異変を察知してガイを呼び止めた。

 彼は此方の声に反応し、その場から横へと飛ぶ。

 瞬間、頭上から魔力で形成された矢が降り注ぐ。


 彼は槍を構えながら、すぐに戦闘態勢に入る。

 アーリンたちは既に先に行ってしまって。

 彼女たちを追おうにも、その通路には魔術による結界が貼られていた……これは。


 私はガイの横に飛ぶ。

 そうして、弓を握り矢を番える。

 今まで全く感じなかった魔力の反応を複数感じた。

 それも二つ三つでは無く……十を超えているな。


 警戒していれば、部屋の中にあった棺の蓋がはじけ飛ぶ。

 それらが天から降り注ぎ、私たちは避けながら頭上にいる敵に向かって矢を放つ。

 私の矢が何かに当たり、それがゆっくりと天井から落ちて来た。

 それはもぞもぞと動いており、瞬時にガイが槍をそれの核に刺してトドメをさしていた。


 落ちて来たものは手と頭がある人だ。

 しかし、どう見ても異形の化け物である。

 腕が四つに下は蜘蛛の魔物を接合したような形で。

 頭には無数の目玉がついていた。

 皮膚は血の気が消えていて、これも元は死体であったと分かる。


「まだいるぞ……棺の中だ!」


 私は叫ぶ。

 瞬間、棺の中から何かが勢いよく飛び出す。

 私とガイに襲い掛かって来た敵たち。

 私は後ろへと飛び一撃目を躱した。

 間髪入れずに、別の敵が死角から迫り、その攻撃を半身をずらして避けた。

 そのまま回し蹴りを放てば、奴はその攻撃の直前に後ろへと飛ぶ。

 別の敵たちが同時に襲い掛かり、私は咄嗟に弓でガードをした。


 丈夫な竜骨でのガードだが。

 敵の刃は凄まじい力で襲い掛かる。

 私は歯を食いしばりながら、魔術を行使し風の刃で奴らを弾いた。

 吹き飛ばされた奴らはくるくると宙で回転し、綺麗に地面に着地した。

 私はその場から飛んで、敵の攻撃を弾いたガイの背中に張り付く。


 私は空中に小さな火の玉を出し周りを照らした。

 すると、闇の中に隠れていた敵がハッキリと見えた。


 それらは体中に赤黒く染まった包帯を巻いていた。

 先ほどの異形とは違いこれらは完全な人型だ。

 しかし、普通の人間とは違い。その身体能力は魔力や魔術による強化無しでも高い。

 

 手に持っている武器も普通ではない。

 刀身が反るような形状の剣であり。

 まるで、のこぎりのような刃になっていた。


 アレらは今までのゴーレムとは訳が違う。

 熟練の冒険者の空気を纏っており。

 ベースとなったものの力量が高かったことを示している。

 その数は十体であり、私とガイだけでこれらを捌くのは中々にきつく感じる。


 火の玉で周りを明るくして、目も暗闇に慣れているとはいえ。

 敵は気配を断つ術を持っており、接近戦においての連携はかなりのものだ。

 対して、ガイならば接近戦は得意だろうが。

 私は遠距離向きの攻撃を得意としている。

 この限られた空間での戦いは不利であり。

 一気に叩こうにも、詠唱の時間を奴らがくれるとは思えない。

 ガイに敵を任せても、一気に十体の敵を引き付ける事は誰であれ不可能だ。


 奴らは体をゆらゆらと揺らす。

 私はその動きを警戒しながら見つめてたらりと汗を流した。


「……アレは並みのゴーレムじゃない……用心しろ」

「あぁ分かってる……お前も無理はするなよ」

「ふっ、誰に言っている……行くぞ!」


 私は弓を構えて矢を放つ。

 真っすぐに飛んだ魔力を込めた矢。

 敵の内の一体はその軌道を完全に読み、頭をずらすだけで避けて見せた。

 そうして、様子を伺っていた奴らは一斉に動き出し、私たちに襲い掛かって来た。


 私は地面を蹴りつけて奴らから距離を取ろうとした。

 が、敵の攻撃を避けたとしても別の敵はその動きを予測し追いかけて来る。

 距離を離そうとしても奴らは追ってきて。

 私は不得意な近接戦での戦いを強いられる事になる。


 弓で敵の攻撃をガードし、蹴りを放つが。

 敵はそれらの攻撃を直前で見抜き衝撃を殺していた。

 普通の冒険者であろうとも、私の蹴りを見抜いた上で衝撃を殺す動きが出来る人間はそうはいない。

 ましてや相手は物言わぬ死体で……やはりか。


 私は奴らの攻撃を往なしながら、魔術を使って奴らを弾き飛ばす。

 そうして、魔力を込めた矢を連続して放つ。

 三発の矢が弾き飛ばされた死体の元に殺到し――別の死体が前に躍り出て私の矢を魔力を通した刃で軌道をずらした。


 狙いが外された矢は壁に当たり、壁の一部を破壊する。

 パラパラと煙が舞って、私はそれを見ながら目を細めた。


 これほどのゴーレムを生み出す技術。

 そして、全くと言っていいほど原理の分からない術式。

 先ほどの死んだはずの術師が戦っていた事実。


 それを考えるに此処にいる敵は死狂であるとは分かった。

 断言してもいいほどであり、奴の魔法はその異名が表す通り“生死”に関わるものかもしれない。

 死んでも生きていて、殺しても蘇る。

 死を拒むと言っていいほどのものであり、これらの死体を使ったゴーレムもその魔法の力の一端によるものだろう。

 私はそう分析しながら、それならばこの死体たちには“明確な終わり”は無いと考えた。


 死は誰しも一度きりだ。

 二度目の死など存在しない。

 それがあるとすればそれは死ではない――眠りだ。


 体を完全に破壊し、核となる部分を砕かぬ限りあれらは終わらない。

 死というものを一度体験しているからこそ。

 二度目は無く、ただ眠りにつくだけだ。


 ガイが手慣れた様子で襲い来るゴーレムを槍で払う。

 弾かれたそのゴーレムは腕を吹き飛ばされていた。

 が、奴はそれを空中で掴んで無理矢理に切断面に押し付ける。

 すると、吹き飛んだ筈の腕が再びくっつき奴は何事も無かったように戦闘を続行していた……やはりか。


 あれらはアーリンの魔術のような高火力による攻撃で焼き払う他ない。

 体の一片たりとも残さないようにするしか手段が無いんだ。

 もしも、体の一部でも残っていれば――ッ!!


「ガイッ! 避けろッ!!」

「――うお!!」


 ガイは私の声に反応した。

 その場から勢いのままに飛ぶ。

 すると、彼が先ほどまでいた場所から炎の柱が上がる。


 彼は床を滑りながら私の横に立ち。

 どうなっているのかと私に聞く……最悪だな。


 そこには奴がいた。

 ジョンの不可視の攻撃によって体を破壊された筈の術師。

 その体が完全に再生した状態で、その場に立っていた。


 ようやく分かった。

 アレは蘇生でも、ゴーレムでもない。

 あれは“慣れの果て”で……“安寧を得られなかった者”だ。


「く、くくく、くひひひひ……ああぁぁぁまた死んだぁぁぁでもぉぉぉまた生きてるぅぅぅ?」

「……マジかよ」

「……アレには“核”が無い……奴の本体は別の場所にあるんだ……今までの火の魔術師もハガードが戦った術師もこいつだ。これは魂の複製に近い……魔法の領域だ」

「は? 核が無いって……じゃアレはどうやって――っ!」


 ガイと話していれば、奴が魔術を放つ。

 火の玉による攻撃で私とガイは互いに左右に散った。

 考えている時間も、作戦会議をする時間も無い。


「さぁ第二幕の始まりだぁぁぁ!!!」

「……アーリンとジョンを分断させたのは……これが狙いか」


 先ずはジョンとの戦闘で力量を図り。

 その後に追ってきた私たちの中でアーリンだけを先に行かせた。

 それは私たちの中で最も広範囲の攻撃を早く打ち出せるのがあの二人だからで。

 敵は態々、それらの情報を確かめる為に……抜け目がないな。


 敵の攻撃を避けていく。

 死体たちは連続攻撃によって私に斬りかかり。

 少しでも足を止めれば、術師による火柱が襲い掛かる。

 休む暇も無ければ術を発動させる時間も無い。

 出来る事は攻撃を往なして、簡単な魔術を使う事だけだ。


 だが、このままでは意味がない。

 先に私とガイの体力が尽きるだけであり……どうする。


「くはははははは!!! 踊れ踊れぇぇ!!!」

「……っ」


 この危機的な状況を私とガイだけで打破する他ない。

 他の三人が助けに来るなどとは考えない方が良い。

 ハガードやアーリンたちは心配だが。

 先ずは自分たちの問題を片付ける方が先だ。

 

 私は空中に飛び、連続して矢を放つ。

 真っすぐに術師へと飛んだ矢。

 奴はそれらを炎の壁によって防いで見せた。

 そうして、私の落下位置を予測し魔術を発動させた。

 私は咄嗟に風の魔術で落下位置をずらして回避。

 そのまま死体たちによる連続攻撃を回避しながら、私はたらりと汗を流す。


 考えろ、考えろ……必ず、突破口がある。


 私は敵の攻撃を往なしながら。

 周りに視線を向けて今の状況を分析する。

 より速く、より確実に全ての敵を無力化する方法を。


 持ってきた道具は幾つかある。

 自分で調合したポーションや爆薬を詰め込んだ筒など。

 対大型魔物戦用の道具もあるが……どれだ。


 何を使いどうすればいいのか。

 時間を稼ぐのか、それとも何らかの方法で一気に叩くのか。

 その手段を探りながら、私はただただ不快な敵の笑い声に苛立ちを感じていた。

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