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悪服す時、義を掲ぐ   作者: 羽田トモ
正教国編
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第1話 賢者ホフマー・アレー×ショシャナ教国

 賢者ホフマー・アレー。


 勇者から直々に魔術を教わった最初の魔術士であり、後世に数多の魔術を残した偉大な魔術士。


 彼女は、サンランデッド皇国初代天皇の命を受け、魔女が生息するシェデ・ヤロク大森林を切り開き、人類にとって第二の都市国家であるショシャナ教国を建国した。


 国旗はホフマーが考案したされ、純白の生地に、金糸で緻密に刺繍された白百合。白百合の周りには太陽の周回軌道を再現した金輪に、金色に輝く太陽の紋章が天頂と左右に鎮座している。


 ‘‘欲に溺れず、比べず、純潔であれ’’――金色の夜明け教の絶対の教え。


 ショシャナ教国建国後は、勇者の信徒と共にレオガルド全土にこの教えを流布し、人類に秩序と唯一の信仰を齎した。


「――……だが今、教国に異変が起こっている」


 一段声音を落としたルナンさんがそう締めくくると、談話室に沈黙が流れた。


 この場には、俺以外にアルシェとダイが同席している。


「異変?」


 問いかけると、ルナンさんは俺に顔を向けて答える。


「ああ。教国は、数か月ほど前から天道に検問所を設けたんだ」

「ん? それって、そんなにおかしいですか?」


 都市国家は、外敵の侵入を阻むために高い壁で囲まれている。出入りするのは自国の兵士を除けば、商人と警守だけ。兵士はともかく、商人と警守を検問するのは当然に思えた。


「キルト君の疑問はもっともだ。けど、検問っていうのは口実だろうね」

「どうして、そう思うんですか?」

「東方聖騎士団が、シェデ・ヤロク大森林を探索しているんだ」

「東方聖騎士団……」


 頭の中から、詰め込んだ記憶を呼び起こす。


 かつて、ラルフさんが列挙した俺を倒す可能性がある実力者。


 千年前、魔獣や魔物の襲撃は後を絶えなかったという。当時、教国に結界はなかった。襲撃を受けた際は、騎士団が命懸けで教国を守ったと記録が残されている。壁の建造後は、他国の建国時に各地へ派遣されたという。


 由緒ある騎士団。それが、東方聖騎士団。


(そんな騎士団が……)


 数か月前から検問所を設け、シェデ・ヤロク大森林――教国周辺を探索している。


 確かに、何かしらが起こったと思えなくもない。


 視線をルナンさんに向け、心当たりがないか尋ねる。


「何でそんなことしてるかは、分かってるんですか?」


 俺の問いかけに対し、ルナンさんは眉を下げ、小さく首を振った。


「すまない、まだ掴めてないんだ」 

「そうですか」


 今度は隣に座るアルシェの方を向き、声をかけた。


「分かるか?」

「断定はできませんが、騎士団を動員するほどの何かが起こり、その原因が大森林にあると考えているのでしょう。検問は、他国に悟らせないようにするためかと」

「なるほどな……とりあえず、探りを入れるか。一夜さん」


 呼びかけると、俺の影から一夜さんが音もなく浮かび上がり、片膝をついて頭を垂れた。


「お願いできますか?」

「はッ、お任せください」

「待った」


 一夜さんが早速向かおうとした際、ダイが制止を呼び掛けてきた。


「どうした?」

「教国には、結界がある。一夜さんは、()()()()?」


 ダイは真っすぐ俺を見つめ、わずかに声音を変えて念を押しするように尋ねてきた。


 何を心配してくれているか、すぐに分かった。


「アルシェ」

「教国の結界は儀式魔術、常時発動している皇国の結界とは異なります。ですが、ダイ様の言う通り、発動した場合はどのような効果が及ぶかは未知数。一夜様ならば気付かれる心配はないと思われますが、結界を発動する動きを見せた際は速やかに撤退するべきです」


 アルシェの話を聞いた俺は頷くと、一夜さんに厳命する。


「情報収集も大事ですけど、一夜さんの命はもっと大事です。絶対に無理はしないでください」

「はッ、ありがとうございます」

「他に気を付けることはあるか?」


 ダイは数秒だけ視線を落とすと、口を開いた。


「さっき言ってた東方聖騎士団。その中だと、“朝輝あさひの騎士”。あとは、“黒蝶”だな」

「なんだ、それ?」

「朝輝の騎士……正確には、朝輝。これは、筆頭騎士の称号だ。現筆頭騎士は、歴代最強って言われてる。黒蝶は、魔術士協会――“緑獅子のたてがみ”の諜報員だ」

「良い着眼点だね、ダイ君。でも、どちらも問題ない」


 ルナンさんの余裕を感じさせる声に、みんなの視線が向いた。


「どういうことでしょうか?」


 訝し気なダイの問いかけに、ルナンさんは笑みを浮かべながら答える。


「確かに、どちらも相手にするのなら厄介な相手だ」

「それなら――」

「ただし、朝輝の騎士の役目は()()の守護だ。近づかなければ問題ない」

「秘宝……確か、勇者が残したって言い伝えられてる……でも、それが一体どんな物なのかすら明かされてないと、本当に存在してるのか疑わしい物だと聞きましたが?」


 ダイは記憶を呼び起こしながら口ずさむと、ルナンさんが頷いた。


「その通りだ。他国の者たちはもちろん、教国で暮らす信者ですら目にしたことはない。だけど、秘宝は本当に存在している」


 ルナンさんが自信に満ちた表情で答えた直後、ダイの魔力槽が輝き出す。


 俺は平静を装いながら、静かに結果を待つ。


「……そう、ですか」


 たった一言、ダイが呟く。


「その、朝輝の騎士ってのが問題ないのは分かりましたけど、黒蝶が動かない理由は何でなんですか?」


 変に間を開けないようダイに変って尋ねると、ルナンさんは俺に顔を向けてそのわけを説明する。


七曜卿しちようきょうの数人と、緑獅子の鬣のトップは不仲なんだよ。おそらく今回は、その中の誰かが指揮を執ってる。協力し合うなんてことは絶対にないはずさ」

「その、七曜卿しちようきょうって言うのは?」

「七曜卿は、教国を司る七人の最高執行者たちのことさ。最高位に日教皇が君臨し、その下に月曜卿、火曜卿、水曜卿、木曜卿、金曜卿、土曜卿の六人がいる」

「はぁ~、曜日なんですね」

「勇者から授かった叡智と言われているよ」


 ただの語句、おまけに勇者が考案したものですらない。認識の齟齬に、思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「そんな大層なモンじゃないんですけどね。まぁでも、そういうことなら一先ず心配しなくてもいいってことですね」

「そうだね。でも、出来ればキルト君とダイ君には教国へ赴いて欲しいんだ」

「ん? 何でですか?」


 突然の申し出に首を傾げると、ルナンさんの纏う空気が変わった。


「言葉ではなく、二人の目で直接見て欲しい()()があるんだ」

「……何があるんですか?」


 ルナンさんは一度、口を閉ざす。


 談話室に流れる沈黙。


 みんなが静かに言葉を待つ中、一拍の間を置いたルナンさんは重々しい口調で答えた。


「僕が、教国と相対すると決意した理由。教国の……いや、レオガルドの人間の正義がそこにある」






 ◇◇◇◇◇






 俺は早速、教国にあるという正義を見に行くことにした。


 一夜さんには、教国内で情報収集を行ってもらう。


 本当なら、情報を待った方がいい。相手の内情を把握すれば、対策は容易に立てられる。だが、俺は一刻も早くこの世界の正義というものを目にしたかったのだ。


「本当に、こんな時間に行くのかい?」


 教国へ向かう間際、玄関ホールでルナンさんが眉を下げながら声をかけてくる。


「はい。俺、夜目が利くんで。それにこの時間なら、騎士団とか教国の人間に見つかる可能性も低いんで」

「そうか、そうだね。でもキルト君、無茶はしないでくれ」

「分かってますって」


 不安げなルナンさんに、俺は笑顔を浮かべて返事をする。


「じゃあ、行ってきます」


 両扉を開き、屋敷の外へ出る。


 シェデ・ヤロク大森林に設置した瞬間移動ワープ地点に降り立つと、万全を期すため、一夜さんに索敵してもらいながら教国を目指す。


「で、ルナンって信用できそうなの?」

「たぶんな」


 ルナンさんは、教国と相まみえようとしている。その相手なのだから、敵情を把握していてもおかしくはない。だが、違和感もあった。


「知り過ぎてる気がすんだよな」


 信者すら目にしたことがない秘宝の存在を把握している。ルナンさんは、この世界では人として扱われない外民。教国内には立ち入れず、知る由もないはずなのだ。


「と、着いたか」


 進むこと数十分、生い茂る樹木よりも遥かに高い荘厳な壁が見えたことで思考を中断する。


 巨大な太陽が等間隔に彫刻された白亜の巨壁。壁上部には金細工が惜しげもなく施され、防壁というよりも芸術品と呼ぶべき佇まい。 


「やっぱ、壁は豪華だな」

「ヘンテコな教会の本拠地なんだから、当たり前でしょ」

「まぁな。一夜さん」

「はッ、それでは行ってまいります。キルト様もお気を付けてください」


 そう言って一礼した一夜さんは、影の中に姿を消した。


「で、私たちはどうするの?」

「ルナンさんは、正門の反対側だって言ってたけど……」


 それらしい物がないか視線を彷徨わせると、西側の壁付近に数本の黒い柱が見えた。


「あれか」


 周囲を警戒しつつ、柱の方へ向かう。


 直径五メートルほどの太い柱は、円形を形作るように建てられている。光沢感のない石材のような表面には、びっしりと魔術式が刻み込まれていた。


「一体、なん――」


 木々の隙間から、全貌が見えた。


 その瞬間、息を飲んだ。

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