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第21話 オリー×エノディア

短いです。

「はぁ……大きい」


 天高く伸びる樹木を見つめ、思わず感嘆の声を漏らす。


 幹に掌を押し当てると、力強い木の脈動を感じ取れた。


「すごい」


 この世界の木々は大きさもそうだけど、生命力が桁違いだった。


「アカリちゃん。私、ちょっとあっち行ってくるね」

「危なくない? キルト君に……取り込み中か……」


 アカリちゃんに釣られて視線を向けると、キルト君は見知らぬ子どもと話し込んでいた。


「なら、三人で行こうか?」


 ダイ君が気遣って提案してくれたが、首を振ってやんわりと断る。


「ううん、そんな遠くには行かないから大丈夫だよ」


 私のこだわり。植物の観察は一人で静かにしたいのだ。


「う~ん、絶対だよ?」

「うん」 


 この世界が危険だということは、身を以て理解している。私は約束通り、あまり離れずに植物の観察を行っていた。しかし――、


「エノディアさん?」


 時間を忘れて植物の観察に没頭していた時、森の奥へ飛んでいくエノディアさんを目撃した。


「え……? なんで……?」 


 さっきまでエノディアさんは黙々と作業をしていた。


 アカリちゃんの方を見れば、ダイ君と話していて気づいていない。


 人知れず、森の奥へ消えたエノディアさん。


 一人では危ないと思ったが、足が地面に根を張って動かない。


 私はエノディアさんから距離を置かれている。


 理由は分からないけど、明らかに他の人と対応が違う。


(でも……)


 以前、キルト君が言っていた「エノディアさんを一人にしてはいけない」という言葉を思い出す。


 姿を消した場所を見つめる。


 開けたこの場所とは違い、葉が生い茂った森は昼間なのに薄暗い。


 そんな森をじっと見つめていると、さっきまで心地よかったはずの澄んだ冷たい空気に寒気を覚えた。


 風が吹き込み、葉が揺れて不気味な音が鳴り響く。


 怖い。怖いけど、これを機にわだかまりが解消できるかもしれない。


 エノディアさんは、同行している数少ない女の子だ。


 できることなら仲良くしたい。


 心を奮い立たせ、エノディアさんの後を追う。 


 慎重に周囲を警戒しながら進むこと数分、苔生した倒木の上に立つエノディアさんを見つけた。


「ん?」


 周囲には誰もいない。なのに、エノディアさんは虚空に両手を伸ばし、まるで泣きじゃくる子どもをあやすような声で喋っていた。


()()、私を辿って来たんだね。……そんなに、キルトを赦せないんだね。そうだよね。みんな、あの襲撃で大切な人を亡くしたんだもんね」


 悲しそうに、それ以上に辛そうに紡がれる言葉。


 『襲撃』という言葉を聞き、すぐに分かった。


 エノディアさんが言っているのは、あの都市での襲撃のことだ。


 今でも悪夢でうなされることがある。


 倒壊した建物。隆起した通路。あちこちで悲痛な叫びが響き渡り、燃え上がる火に、むせ返るような血の匂い。あの地獄のような光景を。


(それじゃあ、エノディアさんは……)


 その時に亡くなった死者へ話しかけているのではないか。


 この世界には、魔術がある。


 死者と話せてもおかしくはない。


 震える手を握り締めながら、エノディアさんの言葉に耳を傾ける。


「みんなの気持ちは分かるよ。でもね、キルトをこれ以上追い詰めないで。みんなを円環に帰してあげるから、だからそれで赦して」  


 エノディアさんが、虚空に伸ばしていた両手をそっと胸の上に重ねる。


 私の目には何も見えない。けど、想いが込められた言葉と慈しむような振る舞いが、まるで儀式のように行っているように見えた。


「何? 何か用?」


 儀式を終えてしばらく黙っていたエノディアさんが、顔を前に向けたまま声をかけてきた。


 一瞬の沈黙が流れた後、エノディアさんは迷いなく私の方へ振り返り、冷めた目を向けてくる。


「あ……えっと……」


 隠れてやり過ごすことはできない。私は言葉を途切れさせながら、隠れていた木の陰からおずおずと姿を現す。


 私を見据えて動かないエノディアさんの雰囲気に居心地の悪さを覚えつつ、笑顔を浮かべてどうにか言葉を絞り出す。


「あ、危ないですよ?」


 数秒の沈黙の末、エノディアさんは視線を逸らす。


「関係ないでしょ」


 素っ気ない、たった一言だけの返答。


「で、でも、その……キルト君が……」


 キルト君の名前を出した瞬間、エノディアさんが再び私に視線を向けてきた。


「ッ!?」


 私は、思わず息を飲んだ。


 初めて向けられた感情。それは、“怒り”。


 私を射殺すような強い感情が、エノディアさんの目に込められていた。 


「あなたが、キルトのことを知ったように語らないで!」


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