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悪服す時、義を掲ぐ  作者: 羽田トモ
第四章
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第17話 歩んできた道×勇者の謳

 背丈の高い木々に囲まれた、湖に浮かぶ小島。まるで天使の梯子のような日が差すこの場所は、呼吸することすら憚られるほどの静けさに満ちていた。


 ふと、風が吹いてないのに桜の木が揺れた。


 ひらひらと、無数の花びらが舞い散る。


 日の光と桜吹雪が降る中、毅然とした態度で椅子に腰かけるイリアさんに、俺は目を見張った。


「イリアさんが、勇者の娘……? ここが、勇者の……」


 墳墓を見つめながら呟くと、イリアさんが頷いた。


「黙っていて申し訳ございません。もっとも、ここに父も母も眠ってはおりません」

「ん? どういう……?」

「申し訳ございません。今はまだお話できません。ですが、キルト様が日本人だと気づけたのは、母から日本について聞いていたからです。伊勢と稲荷。この名の由来は、日本の神社の名前ですね? そして何より――」


 イリアさんの周囲を飛び回っていたニンフが、彼女の肩に止まる。


「ニンフは、父が作り出した“製霊”です」


 製霊という名前を聞き、かつてエノが『ニンフは死者の魂じゃないよ』と言っていたのを思い出す。


「ニンフの役割は二つ。一つは、母と私を守るため。そしてもう一つが、日本の方たちを判別する役割を持っているのです」

「そんな役割が……でも、どうして……」


 動揺したまま力ない声で疑問を口にした。しかし、イリアさんは眉尻を下げて小さく首を振る。


「申し訳ございません。私も詳しい話は聞かされておりません。ですが、私が信頼に足る日本の方と出会った暁には、ここへ連れてくるようにと母から()遺言を託されました」


 イリアさんの言い回しに、違和感を覚えた。


 『母から遺言を託されました』ではなく、『母からの遺言を託されました』と言った意図。


 すぐに、言葉の意味を理解する。


「イリアさんのお母さんは……」

「はい。私が物心つく前に亡くなっております」 


 一瞬、ホリィの顔が頭に過った。


 だが今は話に集中するべきだと判断し、イリアさんを見つめる。


「キルト様、墳墓へお入りください」


 イリアさんが、重々しい口調で声をかけてきた。 


「俺は…………」


 彼女の意思が宿った言葉に、言い淀んでしまう。


 この先にあるものは、この世界の知られざる歴史だ。


 果たして、俺に真の歴史を知る資格があるのか。


 あるとは到底思えない。


「……アルクから、たくさん話を聞きました」


 返事を返せずに口を噤んでいると、イリアさんが再び口を開く。しかもその声音は重々しいモノではなく、まるでアルクを思い浮かべているかのように慈愛に満ちた声だった。


「キルト様は今日に至るまで、悩み、傷つき、それでも歩み続けたお方だと」


 それは、かつて耳にした謳だった。


「それって、勇者の謳」

「はい。キルト様は、十二分に資格のあるお方です。アルクの話だけではありません。私自身もキルト様と幾重の言葉を交わし、キルト様の心根に触れました。私は、キルト様を信頼しております」


 一切の迷いのない言葉。


 俺のこれまでを肯定する言葉。


 その源泉が、俺への全幅の信頼だと察して心が震える。


 ゆっくりと、ダイへ視線を向けた。


 ダイは何も言わず、俺の目を見ながら力強く頷く。 


 アカリも、オリーも同じだった。


 目を閉じて、深く息を吐く。


 泣いた効果がここでも表れていることに気づき、心の中で小さく笑う。


「分かりました」


 目を開くと同時に覚悟を決め、イリアさんを見つめながら返事を返した。






 ◇◇◇◇◇






 墳墓の入り口に立つ。


 入り口にはまた結界が張ってあり、中の様子は伺えない。


 エノは『屋敷で待ってるよ』と言い、早々へ戻った。彼女の様子も気がかりだが、今は気にしてはいられない。


 真っ暗な入り口を見据え、ゆっくりとした足取りで踏み入れる。途端に、先ほどまでの満ちているような静寂さから、まるで停止したような無音に包まれる。


「ん? 空気が……」


 小島の上とは打って変わって、この空間の湿度が低いことに気が付いた。


「あれを保管するためか」


 盛り土で形成され、石煉瓦で内側を補強された五畳ほどの広さの空間。明かりは、淡い暖色の光を放つ魔石のランプが一つだけ。そのランプが静かに照らすのは、中央の石台に置かれた金色の箱だった。


 千年前の代物だ。過剰なまでの保管が必要不可欠だったのだろう。


 大きさは、確かに二人が安置されるにしては小さい。せいぜい、二人が身を寄せ合って座るのがやっとだ。材質は、おそらく金。箱の中央に太陽が彫刻されていて、天面に天使らしき羽の生えた人が二人彫刻されている。


「持ち手……ここまで運ぶための物か……神輿みたいだな」


 ふと、もしかしたらイリアさんに神社の名前を教えたのも何か関係があるのかもしれないと思った。


「失礼します」


 箱の前でお辞儀をし、誰に対してかも分からない断りを入れた後、蓋に手をかけた。


 重みを感じる蓋を慎重にズラして、中身を確認する。


「これは……」

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