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悪服す時、義を掲ぐ  作者: 羽田トモ
第四章
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第4話 二度目×殺意

 意識を研ぎ澄ましていた。


 いや、違う。


 目も、耳も、鼻も、肌に伝わる空気の流れ――五感のすべてを大柄の男の一挙一動に注ぎ、それ以外を俺の中から排した。


 ただ、それが間違いだった。


 些細な動きにまで全神経を集中するあまり、俯瞰する視点が欠如してしまったのだ。


 結果、大柄の男は数秒、俺の認識の外で行動した。


 たった数秒。


 それが、運命の分かれ目だった。


 お袋さんと親父さんたちが、影に呑まれる。


 影は瞬く間に濃くなって、一ヵ所に集められていた人たち全員を黒く染めた。


 時間の流れが、引き延ばされる。


 瞬きよりも刹那の間、世界は俺の目にありありとした現実を映す。


 だが、決して止まってはくれない。






 ――視線の先が、爆ぜた。






 熾烈な赤い光が輝いたかと思えば、黒煙と共に爆炎が膨張する。


 直後襲ってきたのは、衝撃波。


 劈くような破壊音が駆け巡り、衝撃波は建物を薙ぎ倒す。


 大地が揺れ、石畳に亀裂が走り、舞い上がった土煙で空が覆い隠される。


 鼻孔を刺激する粉塵。視界は遮られ、息苦しく、焼け焦げた匂いも漂ってくる。


 すべてを見た。


 すべてが一瞬だった。


 その場から動けず、呆然と爆心地を見つめる。


 都市内の至る所から、声が上がり出す。


 それは、驚愕であり、焦燥であり、悲鳴。


 喧騒は波のように伝播し、都市全体を震わす。


 ただ爆発が起こった大通りは、世界から隔絶されたかのように“無”だった。


 その無に、心が同化する。


 だが頭は冷静に“現実”を直視しており、濛々と立ち込める煙の微かな揺らぎを見逃さなかった。


 重い足音と一緒に、何かを引きずるような音が聞こえる。


 揺らぎを見つめていると、土煙に巨体の影が映った。


 赤い。


 煙越しに見ても、左腕が焼けているかのように。


 やがて、煙を割るように傷一つない男が姿を現す。


 真っ先に、左腕へ目がいく。


 左腕は、黒紫色の筋繊維が絡み合い、巨躯以上に肥大化している。


 巨鎚の如き左拳は、煌々とした赤い光を放ち、湯気が立ち昇っていた。


 男は、焼け野原と化した都市をゆっくりと見回す。


「く……」


 堪えるような笑い声が、男の口から漏れる。


「ガハッハッハ――、これが俺の力だ! 俺は最強だッ!」


 高揚したような、陶酔したような表情を浮かべ、男は大口を開けながら高笑いする。


「ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ――!」


 



 あれが、爆発の原因。




 あいつが、親父さんを。




 お袋さんが、あいつに……――。


 ドクンッと、心臓が脈打つ。


 心の奥底に浮かぶ黒い真球が、殺意を発する。


 理性の枷を外す。


 途端に、全身が脈打ち、燃えるように体が熱くなっていく。


 世界を満す血の音。


 血の激情の赴くまま、内に秘めた暴力を解放する。


 薄れゆく意識の中、俺を呼び止めるエノとアルシェの声が聞こえた気がした。


 だが俺は、二人の声に耳を傾けず、暴れ狂う力に身を委ねる。

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