29.奪還
〇午前0時五十八分。
鉄男はコンピュータ室へと足を踏み入れる。守とめぐみもRPGのキャラクターのように鉄男の後ろへと続いた。
三人は懐中電灯で中を照らす。
「てっちゃん、これ部屋の照明じゃない?」
入口付近の壁にスイッチが五つ並んである。
「そうだな。でもやめておく。それほど真っ暗でもないし」
天井にいくつか小さな常備灯が点いており、加えてコンピュータのランプの光で、懐中電灯なしでも歩けなくないくらいの薄暗さだ。
コンピュータは幅一メートル、高さ二メートル、奥行き一メートル程の大きさのが五台ずつ、二列に並んでいた。つまり、計十台あることになる。そのうちのどれかに、鉄男の脳のコピーが入った記憶装置があるはずだ。
「どれか分かんの? てっちゃん」
「んー……」
正直言ってさっぱりだった。鉄男はコンピュータを舐めていたと、門多にもっと詳しく教わっておくべきだったと、後悔する。
鉄男は懐中電灯でコンピュータの細部を照らし、じっくり調べていく。守も同じく。めぐみはとっくにそうしていた。
「ねぇ、このボタンとかじゃない?」
と言って、何のためらいもなくボタンを押しためぐみ。「わぁ――っ」と鉄男と守は息を殺して叫ぶ。
「めぐみっ、勝手に何やっ……あっ」
中からトレイがピュンと飛び出す。少しだけ中途半端に出てきたのを、鉄男はそっとスライドさせて引き出すと、縦十センチ、横三十センチ程の黒いケースが五個並んでいた。
「記憶装置って、これじゃん?」
「あぁ、おそらくな」
案外、取り出し方法は簡単なことに、鉄男も守も一緒に拍子抜ける。
「めぐみ、でかした!」
守が発見者であるめぐみの頭を撫でて褒める。「もーやめてよ、セットが乱れるっ」
「でも、どれだ?」
鉄男は同じ色と形のケースを睨む。
「この中のとは限んないじゃない? こんだけコンピュータあるしさ」
巨大なコンピュータの無数にあるボタンに鉄男はめまいがしそうだった。もう時間的にも早く撤収しなくてはいけない。そうこうする間に、
「あっ」
と、めぐみの声が上がる。今度は何だと、鉄男と守は期待と不安を入り交ぜてめぐみを振り返と、反対側のコンピュータのボタンを押していた。手当たり次第に深く考えず。
「これ見て、このケースにだけ〝T・M〟って書いてあるの」
鉄男がすぐさま覗き込み、目を凝らす。黒いケースに小さな白いラベルに文字が書かれてある。
「〝T・M〟って、てっちゃんのイニシャルじゃん。これじゃないの? てっちゃん」
「そう……かもしれない」
まだ全部は調べていなかったが、他にラベルが付いたケースは今のところ見つかっていない。これは何か特別なケースには間違いなさそうだった。
「一か八かだ。これだけでも奪い返す」
「うんっ」と守が同意し、「めぐみ、やったな!」と、めぐみの頭を撫でて褒めようとすると、「主婦の勘をなめないで」とドヤ顔をキメていた。女じゃなくて主婦。鉄男はどこかしみじみと感じるものがあった。
「じゃ、取り出す」
鉄男はケースの両側にあるツメを押さえる。
「待って、鉄男さん。何か警報装置とか付いてないわよね?」
鉄男のケースを持つ手が止まる。
「ドアは大丈夫だったし、それこそ鳴ったら、後は逃げるだけだよ、てっちゃん」
「あぁ、じゃあいくぞ」
守とめぐみが見守る中、鉄男は覚悟を決めてケースを引き抜いた。




