表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/34

27.大作戦

〇午後十時五十分。


 閉店間際のホームセンターで鉄男(てつお)は作戦に必要な道具をテキパキと選んでいく。


「バール、ワイヤー、チェーンブロックに、懐中電灯と手袋も。あとは、パイプレンチにパイプ、と。よしオッケー」


 現場監督の知識がこんな事に使われようとは思いもしなかった鉄男だ。相手も誤算だろう。

 ズボンからスマホを取り出し、(まもる)へと電話した。


『もしもし、てっちゃん?』

「今、ホームセンターで道具揃えてるとこだ。これが終わったらそっち行くから」

『分かった。……めぐみのことなんだけどさ、事情話したら、一緒に行くって言い出したんだよ』

「えっ」

『何か一人で張り切っちゃって、ミッションは夜だから黒っぽい服装だよね、とか。懐中電灯は持ってった方がいいかなとか。もう、オレには止められないよ』

「そうか、分かった。うちも母さん一人で居ることになったし、めぐみちゃんも守と一緒が一番安心かもな」

『ごめん、足手まといにはさせないから。じゃ、待ってるよ』

「あぁ、すぐ行く」


 通話ボタンを切ると、めぐみ用にヘルメットを追加して、レジへと向かった。



   ◇



 ホームセンターの駐車場で、鉄男が出て来るのを佐山(さやま)本郷(ほんごう)は待っていた。


「いよいよ、動き出したな」


 佐山は日夜、張り込みで少々寝不足のため、栄養ドリンクを一気飲みした。鉄男が動き出したという事は今からが大仕事だ。気合いを入れる。一方、


「ホームセンターで何買ったんだ? トイレットペーパ―か?」

「アホ。何かの道具だろ。昨日、車内で友人と話してた通り、今から地下室に入るつもりだ」

「これってよ、洋子(ようこ)先生に伝えなくていいのか?」


 佐山は少し黙った後、


「いんだよ、地下室のコンピューターの事なんて、俺らに知らされていない。そんな守らなきゃいけない重要な事なら、向こうから言うべきだろ。地下室で何かしてましたって、後で報告しときゃいい」

「それもそうだな。オレたちはちゃんと地下室に入っていく三咲(みさき)鉄男を見張ってました。ってな、ガハハ」


 と、本郷は大口を開けて笑った。



   ◇



〇午後、十一時四十五分。


 守の家で三人は集合して、鉄男の車で野崎(のざき)病院まで行き、患者のいなくなったガラガラの駐車場に車を停めた。


「わぁ、道具がたくさん」


 トランクに積んである、先程ホームセンターで買い揃えた道具を、「これ、何に使うの?」とめぐみが珍しそうに触る。そんなめぐみは、黒の長袖Tシャツにカーキ色のスキニーパンツを着ていた。守はロゴ入りの紺色のTシャツにベージュのチノパンだ。ちなみに、鉄男は会社で着ていた作業服だが、一番無難であるし、全員作業服だったならば、徹夜作業中です。と、苦し紛れの言い訳ができたかもしれない。


「二人とも、軍手はめて、懐中電灯持って。あとは……」

「このヘルメットはめぐみのだよな」


 守がめぐみの頭にカポッとヘルメットを被せる。


「えー何であたしだけー?」

「工事現場はどこに危険が潜んでるか分からないんだよ。って、てっちゃん、いつもノーヘルで仕事してんの? ダメじゃん」


 鉄男は聞こえなかったフリをして、「めぐみちゃん、これ持ってて」と、めぐみにロープを渡す。「うん、分かった」と、役割をもらっためぐみは満足気だ。

「守はこれ」と、それぞれ長さ一メートル程のバールとパイプを持つよう頼む。

 鉄男はドライバーやスパナの入った腰袋を腰に巻くと、リュックを背負い、ワイヤーを肩に引っ掛け、チェーンブロックとパイプレンチを手に持った。

 そして、静かに車のトランクを閉めると、


「じゃあ、現場まで行こう」

「うんっ」と守が言いながら、めぐみの方を向くと、めぐみは気を引き締めるよう力強く首を縦に振った。が、


「えーっ、ちょっと待って鉄男さん! 警備員はぁ?」

「そうだよ、てっちゃん!」


 守とめぐみは今更ながら気づき、そして盛大にツッコむ。


「あー何かここ、昼間は人の出入り多いから厳重なんだけど、夜は間抜けなくらい静かなんだ。車のヘッドライトを上向きにして当てなきゃ気づかないレベルだと思う」

「うそっ、居眠りでもしてるの?」

「眠気覚ましにラジオは聞いてるっしょ」

「まぁ、そんなとこだろうな。さっ、行くぞ」

 呑気な警備員に感謝しつつ、三人は現場へと向かう。


〇午後十一時五十分


 工事現場まで来ると、鉄男は周囲を見渡して誰もいないのを確め、「こっち」と、建屋の囲いを背に横に歩き、奥へと入って行く。そして、一番奥にあるプレハブの所へと行き着く。辺りは防犯用の灯りだけで薄暗い。プレハブは現場事務所となっているが、熱心な監督が中で残業でもしていないか、一応覗いておく。

 鉄男は腰袋からスパナを取り出す。


「鉄男さん、どうするの?」


 声を低くして、めぐみが聞く。道具を使ったならば、もう引き戻せない。さすがのめぐみにも緊張が走る。


「この囲いのボルトを外して、ここから中へ入るんだ」


 囲いは、幅六十センチ、高さ四メートルのパネルをいくつもボルトで繋ぎ合わされている。そのうちの一枚のパネルのボルトに鉄男はスパナを当てる。


「めぐみ、そっち見張ってて。オレはこっち見てるから」


 守がめぐみに指示する。この様子では見張りはいらなさそうだったが、念のためにだ。

 めぐみが見張る先には、病院敷地以内を仕切るフェンスがあり、その下に水路が流れていた。それを挟んで道路の向こうに田園が広がっている。守が見張るのは、今三人が通って来た方向だ。


「よっ」


 と、うっかり声を出してしまった鉄男は、ボルトを一つ外したところだ。囲いのパネルは片掛け止めになっており、一方に一メートル間隔に五本のボルトが縦に留めてある。鉄男は上の二本のボルトを残して下の三本を外したのだが、


「んっ、狭いな」

「オレは無理。めぐみでもお尻は無理だな」

「失礼ねっ、こんな時に何言ってんのよっ」


 こんな時こそ、夫婦の痴話喧嘩が張り詰めた空気を和らげてくれる。


「もう一枚、外すから」


「了解」と、守とめぐみはピタリと口喧嘩を止めて、見張りを続ける。

「よっし、入るぞ。守、先に。めぐみちゃん、次な」と、最後に鉄男がもう一度、辺りを見渡してから囲いの中へと入った。



   ◇



〇午前0時八分。


 囲いの中へと入ると、鉄男は病棟の方を見た。敷地内に植えられた高い木々の間から、病棟からの灯りがわずかに届くだけで辺りは薄暗闇だった。建屋の土間の両脇には骨組みとなる鉄骨が沢山置かれてある。


「めぐみちゃん、足元気をつけて」と鉄男が声を掛け、懐中電灯で足元を照らしながら、三人は土間の上へと上がる。


「鉄男さん、今度は何するの?」

「地下室に降りるために、土間の鉄板を外すんだ」

「てっちゃん、これ?」

「いや、ここじゃない、あっちの鉄板だ」


 鉄男の指差した所には、四メートル四方程の鉄板があった。


「で、でかいよ、てっちゃん。どうすんの?」


 一人では無理だという意味を守は納得する。「わぁ、重そー」と、めぐみは男二人の活躍ぶりに期待する。

 その鉄板は、水が入らなくするために、土間のコンクリートからに十センチ程浮かして六本のボルトで留められていた。

 鉄男は辺りを見回し、


「守、俺このボルト外すから、あれにチェーンブロック取り付けてくれ。この鉄板、チェーンブロックで引っ張るから」


 と、三メートル程先にある土間から突き出たH型の鉄骨を指差す。「了解」と、鉄男からチェーンブロックを受け取り、守は取り付けに行く。

 鉄男は大きさ一インチのナットをパイプレンチ出回そうとしたものの、「んぐぐぐっ」無理と判断。そこでパイプレンチの持ち手にパイプを差し込んだ。これで回す力が増強させることができる。

 チェーンブロックを鉄骨にセットして戻って来た守が、


「てっちゃん、代ろうか?」


 顔を真っ赤に額に汗を垂らす鉄男を手助けしようとしたが、


「こっちは何とかなるから、それより十センチ角で長さ四メートルくらいの枕木を二本と、あと二、三十センチくらいのも三本探してきてくれ」

「分かった」

「あたしも一緒に行く!」

「残念ながら、めぐみには持てませーん」

「なによぅ、あたしにだって火事場の馬鹿力くらいあるんだからねっ」

「……めぐみちゃん、その力は大事にとっておいて」


 今ここで、そんな災難が起きない事を鉄男は願う。めぐみも「あっ」と、言葉の縁起の悪さに気づいて口をパッと両手で覆う。


「じゃ、めぐみは探すだけ手伝って」と二人は足元に気をつけながら枕木を探しに行く。

 鉄男は四本のボルトを外したところで、「ふぅ」と息をつく。いつもの自分なら、このくらいは平気なはずだったが、思っているよりも体力が落ちていることを改めて実感する。

 腕時計を見ると、作戦開始から三十分近くが経っていた。病棟の方を振り返ると、わずかな灯りが一つ消えていた。ドキリとする。部屋の明かりを消して出る際、カーテンを閉めようと窓の外を見ていないかどうかという不安が一瞬、頭によぎった。あまり長居はできないなと、作業のピッチを速める。


「てっちゃん、見つけたよ」


 鉄男が全てのボルトを外し終えた頃、守が四メートルの枕木を一本抱えて戻って来た。そして、


「めぐみちゃん、すごっ」


 もう一本の四メートルの枕木はめぐみが持っていた。何事かと、本当に火事でも起きたのかと、鉄男は辺りをキョロキョロしてしまう。


「へへーん、すごいでしょ? あたしも少しは鉄男さんの役に立たないとね」


 少し息を切らしながらも、力持ちを自慢するかのように鉄男の元へと枕木を置いた。「ありがと、めぐみちゃん」


 守がもう片腕に抱えて持って来た二、三十センチの枕木を鉄男は鉄板の横へと積み重ねて置く。


「今度は何をするの?」

「この短い方の枕木を支えにして、テコの要領でバールで鉄板持ち上げるから、守、その長い方の枕木、下に差し込んでくれ」

「あいよ」


 鉄男がバールで鉄板を持ち上げ、その隙間に守がすかさず枕木を差し込もうとする。


「てっちゃん、もうちょい、上げてっ」

「んぐぐっ」

「よっし、入ったよ! てっちゃん」


 ゼーハーと鉄男はバールに込めていた力を抜き、肩を上下させる。そして、チェーンブロックで人が一人入れるくらいまで鉄板を引っ張った。


「なるほど! ピラミッドの岩を移動させるやつね!」


 めぐみはようやく、枕木の使い方の意味を理解して、一人でスッキリしていたが、本番はここからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ