26.せんべい
「めぐみ、ちょっといい?」
夕飯と後片付けを済ませ、食後のせんべいを口に頬張りながらバラエティー番組を見ていためぐみが、「んん?」
せんべいを咀嚼し、喉を通過して、胃に入るまでの経過を守は待ってから、話を切り出す。
「あのさ、明日の深夜なんだけど、この間、別荘へ行った時に門多って人が話してた、てっちゃんの脳のコピーってやつを野崎病院の地下室にあるコンピューターから奪い返しに行くんだけど……」
「あぁ、あれね。とうとう奪い返しに行くのね。うん、行こう! それで、ミッションは何時から?」
守の心配をよそに、めぐみはワクワクと目を輝かせている。
「いや、何かあったら危険だから、めぐみはてっちゃんのお母さんと一緒に……」
「何よぅ、ここまできといて。あたしも手伝うわ。それが筋ってもんでしょ?」
「筋って、えーっ?」
何かどこか筋の使い方が違ったが、やる気満々のめぐみ。それを制止させる事は不可能だった。
◇
三咲家では、同じく母がせんべいを食べながら、刑事ドラマを観ていた。
先に風呂から上がった鉄男は、その様子を見ながら、冷蔵庫の牛乳をコップに注いで飲むと、
「母さん」
「あ、鉄男。このおせんべい、美味しいわよ。めぐみさんとね、ワケありのお徳用を買って分け合ったの」
その量は段ボール箱に半分だ。箱買いしたと思われる。母は自転車なので、箱買いなど無理だ。なのでこうして時々、めぐみの運転で一緒に買い物へ行っては、お徳用のお菓子などを買って来る。これくらいは贅沢の内にも入らないだろう。それよりも、職場以外にプライベートでめぐみと仲良くなり、出掛けるようになったのは好ましい。二年前の母は、息子と出掛けてもつまらないと言い、観葉植物や鉢植えの花を手入れして過ごす日々だったからだ。
「ほら」と、せんべいを目の前につきつけられ、鉄男は一口かじる。すると、甘辛い醤油が牛乳と合って美味しい。これは太るなと、夜に食べるのを自分に禁じる。
「で、なぁに?」
話を脱線させても、ちゃんと車輪を元に戻す。まだ、呆けてはいない、大丈夫だ。
「明日の夜、守と映画のレイトショー観に行くんだけど、帰りにラーメン食って帰ろうって。多分、家に帰るの夜中になると思うんだ。母さん一人でちょっと心配だから、伯父さんちの所へ遊びに泊りに行ったらどうかなって」
「急に何言い出すの。行かないわよ」
「やっぱ?」
「決まってるでしょ。この年で、しかも男と女で、話すことなんてないわよ。それに、今さら一人でも怖くないわよ」
鉄男が目覚めなかった二年間、ずっと家で一人だったのだ。それを言われると、何も返せない。伯父の所へも、今日の明日で無理があるというものだ。仕方なく鉄男は、
「じゃあ、俺が留守の間、戸締りだけはちゃんとしててよ」
「はいはい」と答える母の目は、テレビの犯人を追っていた。




