16.明かされた夢
守とめぐみはチルドカップのカフェオレをストローで吸いながら門多の話を待っている。が、鉄男はまだ手つかずで口にしていない。
「さっき、僕は鉄男君のことをよく知っていると言ったよね」
「はい、どうしてですか?」
「それは、コレを見てもらうと話が早いよ」
そう言って、門多はデスクの上にあるパソコンを操作し始めた。すると、
≪誰? あれ、よく知る顔だ≫
パソコンから音声が流れて聞こえてきた。
「誰って? この人、誰ですか? 俺を知ってるって?」
鉄男は門多に聞く。門多はパソコンに取り付けたカメラの位置を調節しながら、
「もう一人の君だよ、鉄男くん」
「!」
何を言われたのか、意味が理解できない鉄男だが、パソコンの向こうの〝もう一人の鉄男〟とやらは、
≪そうゆうことか。本体の俺か≫
「〝本体〟の俺? もう一人の俺って? あの、パソコンの向こうの相手の顔は映せないんですか?」
鉄男は一体何が起こっているのか、状況をつかもうと焦ったように門多に質問攻めをする。守とめぐみもあんぐりと口を開きながら、パソコンのモニターを見ようと身を乗り出す。
「もう一人の君を映すことは、残念ながらできないよ。〝姿形〟がないからね」
「姿形がないって? その、もう一人の君って、さっきから何なんですか?」
全容が見えない会話に、鉄男は少し苛立つ。
「まぁまぁ、てっちゃん。順追って一つずつ聞いてこ」
守が鉄男の肩に手を置き、なだめるように言い聞かせると、
≪門多さんは、もったいぶったように話すからね≫
もう一人の鉄男にもフォローされる。「すまないね」と門多は苦笑し、
「分かりやすく要約すると、このパソコンの中にいる〝もう一人の鉄男〟というのは、鉄男くんの脳波を分析してプログラミングされた、いわば〝コピー〟なんだよ」
「コピー? 俺の脳波から作った、コピー?」
「そうだよ」
「そうだよって簡単に言われても……俺は俺で体は一つだし、そんなの信じられない」
「そうよ、鉄男さんはここにいるの。このパソコンの中は別人よ」
あまりにも突飛で信じがたい内容な上、他人を装う失礼なパソコン相手にめぐみはプンプンと怒り、守が「どうどう」と馬のように落ち着かせる。
「仮にそうだとして、話を続けていこ、ね?」
守の意見に、鉄男は無言でチルドカップのカフェオレをストローで勢いよくズズーッと吸って、フゥと一息つき、自身を落ち着かせた。
「確認だけど、つまりこの中にいる、もう一人のてっちゃんは、てっちゃんのコピーという事でいいの?」
「うん、そうだよ」
門多ものんびりと構えて鉄男達の質問に答えていく。
「この中と言っても、鉄男君のデータの本体は野崎病院の地下にあるコンピューターの中だけどね」
「野崎病院?」
そう聞いて、鉄男は先日、洋子の診察時に脳波を撮った事を思い出す。
「あの洋子先生の診察での脳波の検査って……」
鉄男が窺うようパソコンのカメラを覗くと、
≪そうだよ、洋子先生が脳波を分析して、いつも俺に俺の新しいデータを送ってる≫
「何で? 本当ですか?」
パッと門多を振り返る。脳波から自分のコピーを撮られていて、しかもそれに洋子が関与している。鉄男はショックの連続で頭が混乱する。
「まずこれは本当の事だよ。鉄男君が事故に遭い意識を失って、野崎病院に入院してからだよ、君のコピーができたのは」
「何で、こんな事……何が目的ですか?」
「さぁ。洋子先生の研究内容までは知らないけど、まぁ医療の発展のためじゃないかな。それと地位と名誉なんか。どれも僕には興味ないけどね」
しれっとした顔で門多は机の上にあるペットボトルのコーラを飲む。
「じゃあ、門多さんは、この事に関係していないんですか?」
「アハハ、しているワケないよ。僕はただ依頼されたままに動いてるだけだよ」
「それは具体的に何ですか?」
「さっき言った野崎病院のサーバー管理と……そうだね、鉄男君、君がここに来た理由は?」
「えっと……」
鉄男は少しためらったのち、
「……夢か何か分からないんですけど、この洋館と全く同じ建物を見たことがあって……それで、気になって確かめに来たんです」
「へぇ。それ、もっと詳しく話してもらえる?」
「……はい。あれは、三人で海釣りに行った時です。俺のボートが故障してしまって。一晩、流されたんです。朝になると、すごい霧の中にいて、どこかの島に漂流してしまっていて。その島に、この洋館を見つけて……」
「OK、もういいよ。よく分かったよ、鉄男君」
片手を上げて門多が鉄男の話を止めたところへ、奥の部屋から、犬型ロボットのマックスが歩いてきた。
「うおっ」
ビクッと肩を跳ねらせた鉄男。ロボットだというのに、とても滑らかな動きに、生きた本物の新種か何かの生き物かと思わされた。
「スゲー」と守も驚く。すると、めぐみの膝の上に座っていたピーパーズが、ピョンとマックスの背中に飛び移った。そしてそのまま、エレベーターまで行き乗り込んでいった。
「どこ行くの?」
めぐみが門多に聞くと、
「あぁ、あれはピーパーズの散歩とパトロールだよ、この周辺のね」
「へぇー、そうなの」
「コントロールなしで自分の意志で動くんだ?」守は興味津々だ。
「ある程度、プログラミングしておけば、あとは自動で動くよ」
「ロボットも進化してるよなぁー」
と、守が感心してつぶやく。門多は鉄男に向き直り、「話がそれたね」
「いえ、大丈夫です。それより、俺の話が分かったって、まだちょっとしか話してないんですけど……」
「うん、その話なら、よく知ってるんだよ。今のは確認しただけだよ。どうやら、僕のプログラムどおりだったようだね」
「門多さんのプログラムどおりって?」
「その君の話。僕がプログラムした〝夢〟なんだよ」
鉄男の頭に地雷が落ちた。




