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似合わないスーツ3

よろしければ、お読み下さい。

 久住さんの話によると、長岡さんは『パラディソ』の常連だったが、祖母に随分とご執心だったらしい。

 祖母を口説いて振られた後にもしつこく祖母に言い寄り、祖母の仕事帰りに店の前で待ち伏せしたりしていたとの事だ。祖母の出勤時に店の前にいた長岡さんを、久住少年が追い払った事もあったらしい。久住少年が長身なのに対し長岡さんは小柄だったので、力では久住少年に敵わなかっただろう。

 長岡さんは、自分と付き合わないと婚約者に水商売をしている事をバラすと祖母を脅した事もあったらしい。しかし、上京後最初の就職先でトラブルがあり、やむなく『パラディソ』で働くようになった事を婚約者である祖父は知っていたので、その脅しは効かなかった。


「付き纏いがあった事を、事件後警察に話したんですか?」

 涼太君が、久住さんの方を向いて言う。

「いや、下手に話すと乃利子さんに殺害の嫌疑がかかってしまうかもしれないと思って、話してないんだ。良くない事なのはわかっていたが……」

「そうでしたか……」


 しばらく沈黙が流れたが、久住さんはふと顔を上げると、声を漏らした。

「ん?あれは……」

 久住さんは、公園の入り口付近に視線を向けていた。見ると、二十歳くらいの青年と高齢の女性が話している。

「あの二人がどうかしましたか?」

 私は首を傾げながら聞いた。

「あの青年は、私の教え子なんだ」

 久住さんは、現在大学の教授で、言語学を教えているらしい。


 改めて見ると、高齢の女性は青年に分厚い封筒を渡そうとしていて、青年はそれを受け取るのを断っているようだ。女性は紫色のセーターに白いズボンを穿いていて、青年は灰色のスーツを着ている。

「土曜日の午後にスーツ?彼が何回生か知らないけど、就職活動にしても……」

 涼太君が首を傾げる。よく見ると、スーツが似合っていない。ファッションとして似合っていないという意味ではない。ネクタイの締め方とか、着崩し方とか、そういう事だ。


「彼は、塚本健一。四回生で、うちのゼミ生だよ。側にいるのは彼のお婆様なのかな?彼のお婆様は父方も母方も亡くなったと聞いているが……」

「亡くなっている?……じゃああの女性は……」

「わからない……でも、封筒を持っているし、何かトラブルに巻き込まれているのかも……」

 久住さんと涼太君の会話を聞いて、私は戸惑いながら言った。

「ど、どうするんですか?」

「……何かお金に関するトラブルかもしれないし、このまま黙って見ているわけにもいかない。声を掛けてみるよ」

 涼太君が、そう言って立ち上がった。私と久住さんは、歩き出す涼太君の後を無言で追った。


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