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似合わないスーツ1

よろしければ、お読み下さい。

 その日の午後、私と涼太君は駅から十分ほど歩いた距離にある公園に来ていた。広い公園で、走り回る子供達やデートをするカップル達で賑わっている。

 辺りを見回すと、白いベンチに一人の男性が座っているのが見えた。紺色のスーツに灰色のコート。白髪をきっちりと整えた老人。


「あの……久住さんでしょうか?」

 私は、老人に近付き恐る恐る尋ねた。老人は、無言で振り返る。鋭い目つきだが、何故かその視線を怖いとは思わなかった。

「……ええ、そうです。……あなたが、私に電話をくれた篠宮さん?」

「はい、篠宮美也子です。本日は、お時間を頂きありがとうございます」

「僕は、連れの小峰涼太と申します。よろしくお願い致します」

 私達が名乗ると、老人――久住昭彦は、「どうぞ」と言って席を詰めた。私が真ん中に座り、右に涼太君、左に久住さんという配置になる。

 ふと視線を久住さんに向けると、彼はじっと私を見ていた。

「あの、何か……?」

「ああ、いや、失礼。……美也子さんは、乃利子さんのお孫さんとの事でしたね」

「はい」

「……乃利子さんに似ている」

 そう言って、久住さんは目を細めた。


「あの、早速なのですが、久住さんは、六十六年前の事件で第二発見者になったと聞きました。どういう状況で現場に居合わせたのか、教えて頂けないでしょうか」

 早速私が質問する。久住さんは、目を伏せて答えた。

「……あの日の夕方、六時頃だったかな。私は当時十七歳で新聞配達のアルバイトをしていたんだが、配達や雑用が終わって販売店から帰る途中、あの店の前を通ったんだ。そしたら、ただ事ではない様子で店から出て来る乃利子さんを見かけてね」


 久住少年が祖母にどうしたのかと尋ねたところ、人が店の中で死んでいるとの答えが返ってきた。久住少年が店に入ってカウンターの奥を覗くと、一人の男性が仰向けになって倒れているのが見える。そして、その周りには割れたワインやウイスキーのボトルが散乱しており、男性の黒いジャケットやズボンはびしょ濡れになっていた。

 カウンターの奥にある棚に目をやると、棚の上から下まで結構な範囲で空白が出来ていた。誰かが棚から手当たり次第にボトルをぶちまけたようだ。

「……乃利子さん、これは一体……!?」

「ついさっき出勤してきたら、この人が倒れてたの……。警察には通報したけど、わけがわからない……」

 久住少年は、倒れている男性の顔を見て、目を見開いた。見覚えがあったのだ。

「……この人、長岡さんじゃないか……」

「ええ、どうしてこの店に……開店前なのに」

 その後、警察が来て、久住少年も話を聞かれたが、捜査の参考になる事は何も話せなかったという。

 ちなみに、凶器は散乱していたワインボトルの中の一つで、長岡さんは前頭部と後頭部の二か所を殴られていたらしい。


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