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18.USBメモリ

 クリスマスを目前に、聖マシュー大学で発生した石川修の殺害事件の捜査に進展があった。偽の美羽、安田晴香の自宅マンションのクローゼットにあったトートバッグの内ポケットから、死亡した石川のUSBメモリが見つかったのだ。

 トートバッグは、型崩れを防ぐ緩衝材が詰められ、ブランドの麻袋に入った状態で、他の使わないカバン類と一緒にクローゼットに置かれていた。

 USBメモリには、偽の美羽が被験者として参加していた研究プロジェクトのデータ、石川のメモが記載されたインタビューの記録のオリジナルが入っていた。

 石川の研究室のデスクトップパソコンからも同様のデータや記録はすでに発見されていた。しかし、プライバシー保護のためか、被験者の特定につながるような固有名詞や実名のすべてが数字やアルファベットに置き換えられており、石川のメモも付いていなかった。

 また、研究室のデスクトップパソコンの削除済みファイルも復元されていたが、捜査員は実名入りのバージョンとそうでないバージョンの2種類の研究プロジェクトのデータがあることに気づいていなかったという。2つのバージョンのファイル名が酷似していたのだ。

 USBメモリのファイルでは、データやインタビューの記録が固有名詞や実名入りで記載されていた。

 USBメモリのデータによると、殺害された石川修は、すでに澤口美羽のインタビューを行っていたことになる。正確には、美羽との1回目のインタビューを終えていた。

 心理学部の渡辺学部長からもらったリストでは、美羽のインタビューはまだ実施されていないことになっていた。

 もっともそれもあながち間違いではなく、リストでは、インタビューが完了した被験者にのみチェックマークが入っていたのだ。

 石川のメモによると、美羽についてはインタビューは1度で完了ではなく、引き続きインタビューを行なうことになっていた。ただ、いつ2度目のインタビューが行われることになっていたかは記載されていなかった。

 石川のメモは、石川が澤口美羽について並々ならぬ興味を抱いていたことを示していた。

 石川は、美羽が軽度の乖離性同一障害、いわゆる多重人格ではないかと考えていた。そして、複数の人格のうちの1つの人格に反社会性パーソナリティ的傾向があると記していた。

 また、美羽が、夫の事件を乗り越え、堅実な人生を歩んでいることを成功であると称賛していた。

 石川は、美羽の言動の非一貫性を垣間見ても、美羽が別人になりすましているとは解釈しなかった。善人の石川は、自分が偽りの身分で騙されているなどとは夢にも思っていなかったのだ。

 石川は、単に心理学者として美羽に興味を持ち、想定される心理的逆境に耐えて立派に生きていると、同じ人間として感心していたのだった。

 美羽は、石川に自分の本性がバレたと思って石川を殺害したのだろうか。だとしたら、石川はあまりにも気の毒だ。

 石川は、容疑者になった井口聡子、道長信介、大橋玲二にしても、よき師、よき隣人、よき人間として行動した結果恨みを買った。そんな石川が殺されてしまったことは、悲劇としか言いようがない。

 偽の美羽、安田晴香が石川修殺害の第一の容疑者となり、改めて全国に殺人の容疑で指名手配された。澤口圭司、鈴子、日向、そして茨城の安田実花子、源次の電話やメールの傍受も続けられた。

 安田晴香包囲網が、確実に偽の美羽を追い込みつつああるはずだった。しかし、偽の美羽の行方はいっこうに分からないままだった。

 マスコミは「他人になりすました悪女の逃避行」として騒ぎ立てた。そして、偽の美羽としての人生、石川を殺した可能性があることを面白おかしく伝えた。

 愛知県警の上層部は、報道陣を前に頭を深々と下げて謝罪した。聖マシュー大には、講師の採用に不安を抱いた父兄から多くの問い合わせがあった。

 澤口家の悲嘆は筆舌に尽くしがたいものがあった。偽の美羽の失踪から体調を崩しがちだった鈴子はついに寝込んでしまった。

 日向は学校に行かなくなり、自分の部屋からほとんど出てこなくなった。家政婦が1日3回、日向の部屋の前に食事を置き、それを食べて日向は過ごした。2階のトイレと風呂場を使い、1階にさえ下りてこなくなった。

 4月に入り、日向は再び学校に通うようになった。心配した圭司が学校の送り迎えをした。学校で何か言われることもあったに違いないが、日向は圭司と鈴子には何も言わず、淡々と通学した。

 圭司は、そんな日向を見るのが辛かった。やがて特別捜査本部が解散し、石川の殺人事件は、安田晴香の詐欺事件とともに、県警の未解決事件専従班に引き継がれた。

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