1-4 常識をまずは、確保したい
…森から抜け出たところ、どうやら違法奴隷にされていた少年少女たちを探していた人たちがいたようで、無事に合流して預けることができた。
彼らを盗賊たちの手から逃したのは良いのだが、その先をどうするかと考えていて…ちょうどいい預け先があったのならば、そこに任せたほうが良いだろう。
ただ、問題というのは一つ解決したところで、続けて出てくるものらしい。
「つまり、自分のような妖精はかなり長い間人目についていなかったと?」
「そういうことだ。ああ、子供たちを盗賊から助けてくれたことには感謝するのだが…妖精かぁ。おとぎ話レベルになってしまったやつが、まさか出てくるって、どう上に報告すればいいのだろうか…」
「盗賊たちのほうは頭が死亡して新しくなったようだが、そっちは既に別のほうで捕縛しに向かうことになったが」
「子供たちを救ったのが、まさかの妖精…報告でまともに受け取られると思うか」
「「「絶対に面倒なことになるよなぁ…」」」
はぁぁぁっと物凄く深い溜息を吐く、おっさんたち。
最初に話しかけてきたゴリレイオンというゴリラのような筋肉とライオンのような髪型をした人から話を聞いたところ、どうやら異世界ではお約束の冒険者という職業についている人たちのようで、今回ここに来たのは盗賊討伐と違法奴隷になっている子供たちの保護を目的にしていたらしい。
前者後者の目的はどちらも本日中に達成できそうだが、問題は自分…妖精の存在。
どうもこの世界では妖精の存在が長いこと失われていたようで、いまさらひょっこりと出てこられてもどう扱えばいいのかわからないようだ。
「冒険者って言うのは信用第一なところがあるからな…信用できなさそうな、奇天烈な報告を行うわけにもいかないのだ」
「なるほど…だったら、自分を実際に報告の場に連れていけばいいのでは?妖精本人が話せば、まともに受け止められると思うのだけど」
「馬鹿を言え!!超・超・超と言っていいほど姿を現さなかった妖精が、ぱっと出てきてみろ!!俺たちはまだちょっとまぁうん、何とも言えないが多少な善良な人の方だが、もっとあくどい輩がゴロゴロ世間にはいるのだぞ!!出てきて説明した後で、物珍しさなどから確実に妖精を捕らえようと考える大バカ者どもがボワッと押し寄せてきて物凄く面倒なことになるだろうが!!」
「そ、それはごもっともで…」
自分が考えている以上に、妖精というのはかなり珍しい存在になっているようだ。
というか、このこわもて顔のおっさんどもが多いが、中々良い人たちのようで、だからこそどうなるのか想像が容易く悩んでしまうのも無理はないのだろう。
なんというか、見ず知らずの他人いや、妖精を気遣ってくれてありがたいが、悩ませてしまっているようで少々申し訳ない気持ちにもなる。
とはいえ、既にあの子供たちやここにいる冒険者たちがはっきりと妖精を目撃しており、例え全員黙って口裏を合わせてと言っても、人の口に戸は立てられぬというようにどこかで情報がうっかり漏れる可能性だってある。
そう考えると、どう対応すればいいのか悩むのは必然なのだろう…本当に気苦労をかけさせているようで、申し訳ないな。
そう考えている間にも、ゴリレイオンさん及び他の冒険者たちがどうしたものかと話し合っていく。
「どうする?子供たちにもできるだけ合わせてもらって、妖精よりも盗賊どもが同士討ちをしてそのどさくさにという方向でやるか?」
「ああ、それならばなんとかまだ、信憑性はありそうだ。実際に同様のことが起きて逃げ延びた例もあるぞ」
「だが、隷属の首輪のほうはどうする?アレは本来、専門家の手で解除されるが、そうでなくて妖精が何かこうやらかして外したというが」
「つけられていた記録はあるからな…どこで外れたとか、専門家を呼んだ形跡がないと難しいぞ」
「ぐぐぐぅ…ならば、首輪を外すカギも盗賊が持っていたということにして」
「いや、襲われた違法奴隷商人どもの腹の中からかぎが出てきたと、既に記録されていたはずだ。自分の意志で飲んだのではなく、逃亡防止か遊びの目的で無理やり飲まされた形跡があるようだしな」
「おおぅ…難しい話になるな…」
うーん、うーんと唸りつつ、考えてこむ冒険者たち。
自分が良かれと思ってやってしまったことが裏目に出てしまったようで、余計な悩みの種を増やしてしまったようだ。
この様子を見ていると、もう何もなかったといって報告してくれてもいいとは思うのだが、いかんせん変にまじめなところでもあるのか、あるいは虚偽報告ができないような仕組みでもあるのだろうか。
悩んでいる様子を見て申し訳なく思えてくるので、どうにかできないかと自分も考え…ふと、あることを思いついた。
「あの、ゴリレイオンさん。悩んでいるようですが、一つ尋ねてもいいでしょうか?」
「なんだ?」
「冒険者って、何やら依頼を受けて活動する人たちという認識を持っているのですが、普段依頼がなければ何も仕事をしない集団になりかねないですよね?その場合の生活とかって、大丈夫なのでしょうか?」
「依頼がなければ金も何も稼げないが…ギリギリ普段の素行などでギルドが‥冒険者を統括する組織があるのだが、そこの判断である程度の衣食住の保証がされることもあるぞ。流石に腕前があるのに腐らせておくのはもったいないから別の仕事を回す等してくれるのだ」
かくかくしかじかと話を聞けば、どうもギルドという組織の集団があり、その中で冒険者ギルドというところに所属しているのが冒険者という存在らしい。
依頼を受けて、こなすことで報酬を得て生活の糧にする者たちではあるが、依頼が出てこないときもあり、そんなときは当然報酬も0になる。
そうなってくると日々の生活が厳しくなるため、場合によっては悪の道へ走りかねない危険性もあるため、ある程度の審査を受けて大丈夫だと判断された冒険者にはギルドから生活保障を出されるそうで、生活のための費用なども供給されるらしい。
「そんなことができるのも、一応ギルドは国からも独立した一機関として認められており、冒険者はギルドにその身分を保護してもらっているようなものなのだ」
「つまり、冒険者であれば多少の条件が必要とはいえ、ギルドの保護を受けることができるということで良いってことですよね?」
「そうだが…おい、まさか」
そこでなぜ、この質問したのか意図をゴリレイオンさんは読み取ったらしい。
はい、その読み取ったこと通りのことを、自分は考えています。
「いっそ、自分が…妖精ですが、冒険者としてギルドに保護してもらえないかなと思ったのですが、どうでしょうか?妖精が冒険者なんぞ前代未聞かもしれませんが、独立した機関の一員となればギルドの保護対象になって、ある程度はどうにかできないかなと思ったのですが」
「「「妖精が冒険者として登録するだとぅ!?」」」
その提案に対して、ゴリレイオンさん及びそのほかの人たちが驚愕の声を上げる。
「いや、やろうと思えばできないわけもないのか?冒険者になる条件に種族の垣根はないはずだ」
「だが、ギルドがいくら独立していても無理があるのでは?歴史上、冒険者だった妖精なんぞ聞いたこともないが」
「あ、でももしも妖精が冒険者になれば、保護責任を負うのはギルド側の方だよな…上の方の苦労が増えるだろうが、それでもどうにかなるのでは?」
「しかしなぁ、あのギルドの上のほうにいる方々がそう簡単に許すのか…責任が増えるのを嫌がってしまうのでは?」
「自由に登録可能な決まりごとがあるから、それを覆すようなことはしづらいのでは?」
「むしろ、普段偉そうに現場に出ないでふんぞりかえるような奴らもいるから、そっちに一泡を拭かせることだってできそうなのだが」
「「「…なるほど、それはそれでありだな!!」」」
少々議論がなされたが、結果としてはその方向でやったほうが今回の件の報告も兼ねて考えるとよさそうであると判断されたらしい。
ひとまずはお互いにおかしなところがないか確認や、冒険者に関しての話も享受してもらいつつ、お互いにとって妥協できる点に着地を目指せそうであった…
「しかし、問題があるのだが…妖精の君、名前はあるのか?ギルド登録には名前が必要だぞ」
「孤児とかが登録しようとしても、実は名前がなかったせいでできなかったとあるが、妖精に名前があるのか?」
「あ、そっか…そりゃ、登録するために本人の名前とかも必要になるか」
言われてみれば、この世界での自分の名前に関してまだ考えていなかった。
子供たちとの逃亡中に軽く妖精だって話したぐらいで、自分の名前を名乗るようなこともしていなかったな…ふむ、この世界で過ごすために必要な名前として良さそうなのは…
さてさて、無事に妖精はギルド登録ができるのか
できたところで、どう扱われていくのか不安なところは多い
だが、まずはそれよりもこの世界で生きていくうえで、自分の名前をどうするかだが…
次回に続く!!
…現場のほうも色々とたまっているようで、こういう機会にちょっとやりたいこともあるらしい