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幼少期3


「さてと···」


 アルフェーン家の書庫には、多種多様な書物が並んでいる。自分の背丈よりも遥かに大きい本棚から、目的のものを探すのは一苦労だ。


 適当に魔法の本と闇属性と無属性の本を取り出していく。ダミーとして別属性のものも取り出しておく。ここの本は無くなっても誰も気にしない。自分の部屋に持ち帰るつもりだ。


「ふぅ。結構多いな」


 最終的に選んだ本は机の上に溢れ返っている。部屋の本だなに入れても入りきらなかった。途中で別に気になったものも選んだせいでもある。


 メイドにお茶を淹れさせ、休憩をとる。今日のおやつにも毒は入れられていないな。


 すぐに、一冊を手に持ち、読み始めた。


 読み始めると、止まらないもので、本の字が読みにくくなってきて、漸く日が落ちてきたことに気づく。


 同じ体勢で読み続けていたせいで、体のあちこちが痛いな。腕を伸ばすことで、大分楽になる。


 それにしても、このジェイカー·マーシェって人、すごく読みやすい。魔法の基礎からしっかりと書かれていた。学者は読みにくいものを書くものだと思っていたけれど、この人は読み手に配慮をしている。


「今度、この人の本を見つけたら買おうか」


 買いに行くときは、アルフェーン家の家紋が付いていない馬車に乗っていくことにする。無駄に話を大きくするつもりはない。


 楽しい考え事をする時の邪魔は本当に鬱陶しい。


「ルカ様、ブランでございます」


 ブランは、アルフェーン家の筆頭執事だ。一番食えない奴。ブランなんて、白を意味する名を持ちながら、奴の腹の中は真っ黒に違いない。


 仕方なしに、入室許可を出した。

 今日もブランに油断はない。鋭い眼光が弛んだところは、一度も見たことがない。


「で、何のようだ?」

「旦那様から、晩餐へ出席するようにとのご命令です」

「分かった。何時ごろに伺えば良い?」

「八時にお帰りになるそうです」

「承知した。他に用件は?」

「特に御座いません」

「なら良い。下がれ」

「失礼いたします」


 ブランが部屋から出ていく。


 緊張の糸が弛む。正直、両親と合っている時よりも、ブランと合う方が緊張する。何せ、アイツが乳母殺しの第一容疑者だ。


「息が詰まる···」


 服の第一ボタンを外しても、変わりなかった。


「···そういえば、一緒に食べるの何て何年ぶりだ?正直、記憶に無いよな」



 八時になる前に、食堂へ入る。

 食器は、俺の席と当主の席の分だけだ。母親は、呼ばれていないようだ。それだけで、俺の負担は半分だ。むしろ、いない方がずっと楽。


「おお、ルカ。久しいな。元気にしておったか?」

「はい、父上もご健勝で嬉しく思います」


 食堂に、腹の肉を揺らした大男が入ってくる。自分と同じ、黒髪に赤目の男だ。

 悪魔が居なくなっても、父親の食欲と色欲は元には戻らない。

 ···父親が元からそういう人だとは、思いたくはない。


「さて、食事にしよう」


 父親の一言で、フルコースの前菜が出てくる。



 食事は、驚きの連続だった。顔には当然だしていない。父親の癇癪の的にされては、たまったものではない。


 前菜は普通、小さく美しく飾り立てられるものであって、あんな大ぶりのものが用意されるのではない。しかも、あんなに味がこってりだとは、思わなかった。

 前菜だけが異常なわけもなく、メインはそれぞれ二皿も食べていた。

 味の濃さにギブアップした俺が決して少食というわけではない。想像しただけで、気持ちが悪くなる。


 食後の紅茶で舌を癒していると、話しかけられる。


「ルカよ。それで、昨日の魔力鑑定はどうであった?」

「二つを無事授かることが出来ました」

「ほう、良かったではないか。貴族の家では、魔力持ちであれば、何かを贈らねばならないそうだが、何が良い?」


 これは、予想外の質問だ。魔力鑑定について聞かれることは考えていたが、そっちは考えていなかった。

 子どもに何かを贈るという発想があったことすら、驚きだ。


「そうですね。それでは、教師を付けていただけませんか?剣術や経営学など様々な教師が良いです」

「教師か?何故に?」

「勿論、父上の後を継ぐためです。今まで父上からは様々なことを与えていただきました。そのご恩に報いたいのです」


 父親を慕って、教師をねだる息子。中々の美談の出来上がりだ。


「ふむ。良かろう。用意しよう」

「ありがたき幸せ」


 頷く父親に、丁寧に頭を下げた。

 満足した父親は、情婦のところでも行くのだろう。いそいそと、部屋を出ていった。


 これで、第一歩は進んだ。


 魔法の教師は付けられないのが基本だ。属性を隠すのは身を守るためにも役に立つ。

 学校に入る頃になれば、分別も付き、二つ持っていれば、もう一つを隠すということも出来る。それまでは、両親から教わることが多い。

 アルフェーン家では、期待するだけ無駄だ。独学でやっていくしかない。


 他の教師を得るだけでも、魔法に時間を当てるだけの余裕が出来る。




 食堂から自室に戻るなり、ベッドに突撃する。


「あー、気持ちが悪い」


 フカフカな布団にグッタリと沈む。

 絶対に食事が脂っこかったせいだ。胃がムカムカしてくる。さっさと寝ようにも、無理だ。


「そういえば、闇魔法初級の中に睡眠の魔法があったな」


 ベッドから起き上がると、本を持ってくる。ページを捲ると、初級の中にスリープという魔法がある。

 昼間の内に、魔力操作は覚束ないながらも習得できた。初級魔法も一番操作が楽な魔法。十分に魔法行使は出来るはずだ。

 本にも、数時間の眠りと書いてある。今一番欲しい魔法だ。

 どうせ、眠れないんだ。練習には丁度良いだろう。


 失敗しても構わないという気持ちで、スリープの詠唱を覚える。本を近くの机に置く。

 目を閉じ、口を開いた。


「羊が跳ね、柵を越える。太陽は沈み、月が出魔法、"スリープ"」


 俺、ゴッソリと体の中から魔力が抜けるのを感じた。しかし眠りは訪れない。

 うーん、初めは簡単にはいかないよな。でも、魔力が抜けたってことは、合ってるだろうし。

 魔法初級で、イメージも大事って言ってた人がいるな。それに対抗する論文も混ざってはいったが。

 ものは試しだと、眠りについてイメージを固め、詠唱する。

 その瞬間、眠りに落ちていった。


 次の日、目が覚めると一番に、無事に魔法が成功したことを喜んだ。




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