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幼少期2~魔力鑑定~


 あの儀式の日から、2年。俺は、7歳になった。

 あの日から、笑うことを止め、使用人達のとも必要最低限しか関わっていない。


 使用人に殺されることもなく、魔力鑑定の日まで生きてこれた。俺は、この日をずっと待ち望んでいた。


 貴族が7歳になると受けることになっている魔力鑑定。鑑定を受け、適性があれば魔法を使うことが出来る。

 今日次第で、俺の武器が1つ増えるということだ。無ければ、剣一本に絞れば良い。


 使用人を一人もつけず、最後の支度にジャケットを羽織る。

 外から丁度ノックが聞こえてきた。


「ルカ様、ご用意が終わりました」

「今行く。父上と母上はどうされるおつもりだ?」

「今日はお二人ともお忙しいそうです」


 貴族にとっては大事な日だと、張り切る親も居るというのに、全くの関心の無さ。ここまで来ると、いっそ清々しい。

 何処かに嘆いている自分がいるが、抑え込むのにも慣れた。欠片も表情に浮かんでいない自信がある。


「そうか。では、そろそろ協会へ向かう」

「畏まりました」


 馬車に揺られて着くと、他にも沢山の馬車がある。俺たちの生まれた年は、第一王子が生まれている。

 王家と関係を持ちたい貴族が、こぞって子どもを産ませたのだ。

 魔力鑑定の儀式は、7歳の生まれ月で行うことになっている。

 この儀式の多さは大変だろうが、教会も寄付で懐が温かいに違いない。


「アルフェーン家のルカ様でいらっしゃいますか?」

「ああ、今日は魔力鑑定に来た」


 馬車を降りると、教会の人間が近寄ってきた。教会の純白な衣装が似合わない男だ。屋敷に顔を出す者達と似たような気配を持っている。

 生臭坊主とは、この事だろうな。


 冷めた視線を隠さないまま、笑みだけ浮かべる。

 生臭坊主は、驚いたように息を飲んだ。分かりやすすぎて、大丈夫か心配になる。父親に付いている執事の方と比べると、天と地ほどの差がある。


「案内してくれるか?司祭殿」

「···はっ、はい!此方へどうぞ!」


 案内にしたがって、教会の中に入る。内部は、美しく、天井いっぱいに宗教画が描かれていた。ステンドグラスは、太陽の光でより神々しく見える。

 

「ようこそ、いらっしゃいました。ルカ殿」

「この度はよろしくお願いいたします。ヴィース司教様」

「ええ、お任せください」


 さらに、奥の部屋に迎え入れるのにやって来たのは、ここのトップである司教だ。

 流石、魑魅魍魎の中を生き抜いてきただけある。司祭よりも華やかな衣装を身に纏い、一瞬の隙もない。


「そういえば、今月はルカ様以外にも公爵家の方がお見えになっています」

「ええ。確か、メイルズ家の方ですよね」


 ニコニコと表面上は、穏やかな会話だが、裏の意味を読むことも忘れない。

 公爵家の方が他にもいるから、優遇して欲しければ、寄付金の金額を上げろと言うことだ。それに俺は、勿論だと返した形になる。


 無神論者の俺が思うのもあれだが、儀式の前に金の話とは···。何処も権力を持てば、溺れるものだな。


 それに比べると、メイルズ家はその辺が綺麗なものだ。代々の騎士の家系で、近衛を頻繁に輩出する王の信頼も厚い一族だ。うちとは、代々王に仕えている古参の一族という点を除けば、全てに置いて真反対だ。


 部屋の扉が押されて、中に招き入れられる。

 中には、メイルズ家の人がほぼ勢揃いしている。メイルズ家の当主に、その妻。そして、俺と同じ年のエフォードと妹だ。

 メイルズ家は、ほぼ全員銀髪だとは知っていたが綺麗なものだ。光に反射して輝く様は、どんな宝石も叶わない。


 見惚れていたのは、一瞬のことだ。メイルズ家当主に会釈をして、メイルズ家が座っていない側の席に腰かける。

 こう、道を挟んで二つに分けられているのは、有難い。面倒なことを考えなくてもすんだ。ただでさえ、此方は当主が来ていない。判別もより面倒なものとなる。


 司教の長いお説教を、適当に聞き流しながら、隣を伺う。すると、俺を見ていたエフォードのアンバーの瞳と視線が合う。

 お互い驚いてすぐに反らした。とは言え、俺は目を動かすだけで、エフォードは首ごと動かしていたが。

 エフォードは、母親にバレて、ちゃんと聞けと叱られているようだ。

 優しい母親に、温かい家族。本当に俺とは反対だ。


 俺にとっては、同じ年の子を見るのは、これが初めてだった。


 ひたすらに長い時間が過ぎる。

 後は、もう俺たちが魔力鑑定をするだけだ。名前を呼ばれ、俺とエフォードは場所を移動する。

 神聖な場に入るということからか、廊下には香油の香りが漂っている。


 黙々と歩いていると、目の前を歩いていたエフォードが振り返った。瞳を輝かせ、人懐っこい笑みを浮かべている。


「ねぇ、僕はエフォードだよ。君は?」

「僕はルカです。どうかされました?」

「僕ね。ルカ君は綺麗な目だなってずっと思っててね。お話してみたかったんだ」


 俺が話しかけるなと、含みを持たせたのを気づいた様子は無い。なんと無邪気なことだろう。嘲る言葉を口にしてしまいそうになる。

 このキラキラとした瞳を見ていると、胸の奥からどす黒くヘドロのような感情が溢れてくる。手をキツく握った。極力視線を合わせないように、エフォードの鼻先を見る。


「そうですか」

「うん。そういえば、ルカ君のご両親はいらっしゃらないの?」

「ええ、お忙しいようです」

「そっか~。残念だね。魔力鑑定の日は特別だって、ママ達言ってたよ」

「そうなのですね」


 相槌を打つだけで、話を膨らませようともしない相手に健気なことだ。


「ルカ君はどんな魔法が欲しい?僕はね。火とか光とかが良いなって思ってるんだ。昨日の夜は、神様にいっぱいお願いしたんだよ」

「僕は、神の思し召しに従うだけです」


 エフォードの言葉に、適当に答えていると、魔力鑑定が出来る祭壇の間にたどり着く。


 廊下から覗くと、中は少し暗く、神を示す八本の柱が部屋を支えている。それぞれ、火水木風土光闇そして、無の八つを司る神がいるとされている。その中央に、大きな水晶のような丸い玉が置かれている。


 意外なほどにシンプルだな。もっとゴテゴテしいのかと思っていた。神殿は普通用途を考えると、質素なはずだ。しかし、玄関口の派手さを見ると、違和感がすごい。

 エフォードも、不思議そうに中を見ている。


「お先にどうぞ」

「えっ。良いの?」

「ええ、構いません」

「ありがとう!」


 エフォードが中に入ると、重厚な扉が閉じられる。実質の一人の状態に、少し気が抜ける。エフォードの相手をしていた疲労感が襲ってきた。壁に凭れたいが、行儀が悪いので我慢する。

 エフォードと俺は、根本的に反りが合わないのであろう。あの幸せそうな顔を見ていると、グチャグチャに潰してやりたくなる。


 これ以上エフォードについて考えていても、良いことはない。頭を振って、思考から追い出した。


 考えていると、時間が経つのが早い。目の前の扉が開く。


「お待たせ。終わったよ」

「お疲れ様です」


 内容について聞くのはご法度だ。エフォードもそれを弁えている。


「ルカ君がやってる間、待っていようかな?」

「いいえ、ご家族が首を長くしてお待ちでしょう。早くお知らせした方が、良いのではないかと思いますよ」

「うーん、それもそうだね!じゃあね!ルカ君」

「はい」


 手を振って見送ると、重厚な扉を押す。司教に一礼する。


「ルカ殿、これの前にお立ちください」


 この丸い玉が魔力鑑定の装置。司教が何かを唱え始める。無に分類する。聖魔法だろう。魔力鑑定に来る前に、調べられるだけのことは調べた。

 今日は、近くで観察する絶好の機会だ。もし、この方法が分かれば色々なことに使える。


「この上に手をかざしてください」


 言われるがまま、手を丸い玉の上に持ってくる。

 すると、丸い玉の中が煙のような白いものが現れ、濁り始める。中心部から、色の付いた光が浮かんできた。色は、紫と透明だ。


「ルカ殿は、闇属性と無属性をお持ちのようです」

「ありがとうございます。ヴィース司教様」

「この神が与えられたお力を使い、ぜひ精進してください」

「はい」


 司教と一緒に祭壇の間を出る。さすがに、あの場では俗なものを話すのは無粋すぎる。


「ヴィース司教様、この度のお礼ですが、この場でも構いませんか?」

「これは司教として、当たり前なことをしただけですから」

「ヴィース司教様のお陰で無事二つも得ることが出来たのです。この気持ちを受け取って下されなければ、無礼者だと謗りを受けることになりましょう」


 困ったような言葉も顔も全て、演技に過ぎない。神殿は質素を掲げている。必要なポーズなのだ。

 勿論、くだらないという気持ちは微塵も見せない。


 懐から袋を取り出した。上等な袋に入れてきたそれは、袖の下と呼ばれるものだ。待っている間に金貨を増やしておいた。これで十分のはずだ。


「それと此方は寄付になります」

「頂戴します」


 別の袋も差し出す。どうせ、いくらかは司教の懐に入る。袋を分けることで、神殿としての正しい使い方をして欲しいものだ。


 一時的に入っていた部屋には戻らず、直接馬車に戻る。待ち構えていた従者が扉を開ける。


「お帰りなさいませ」

「ああ、無事終わった。屋敷に戻れ」

「承知いたしました」



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