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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第5章(皇都テルモン編)
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第34-5話

エリックが足止めに向かってから半刻ほどが経った。彼は、まだ戻ってこない。

不安で集中が切れそうになるけど、私はその都度頭を振って堪えた。

彼が戻らないということは、軍の足止めが上手く行っているということだ。そして、実際軍は来ていない。


巨大なマナが一瞬膨れ上がったのを感じた時は、心臓が凍るかと思った。あれは……「シェリル」?

しかし、その気配もすぐに消えた。


ナイトハルトが、私の肩に手を乗せる。


「心配は無用だ。君は自分の仕事に専念すればいい」


ナイトハルトは、再びいつものような余裕を漂わせていた。……クロエさんたちにも似たようなものを感じたことがあるけど、彼にも「未来が見える」のだろうか。


そして、水晶玉は「あの時」の光景を再び映し出した。


#


ミハイルさんが、一刀のもとに「叔父」夫妻を切り捨てた。部屋の床が、鮮血で染まる。


『よくやった』


この声、やはり間違いない。義父さん……クリス・トンプソンの声だ。

集中がまた途切れそうになったけど、私は耐えた。ここからを、私はちゃんと見ないといけない。


『トンプソン様』


『これで、『ム・カイ遺跡』には当面誰も手を付けられない。あとは、彼女を護ればいい』


『……貴方は、あれをどうするおつもりですか』


『……君の考えていることは読めている。『なぜ遺跡を破壊しないのか』、そして『なぜプルミエール・レミューを護るのか』、だね』


『貴方に隠し事はできません。そして、貴方にプルミエール様を殺す意図がないからこそ、私は貴方に協力した』


『彼女は、君の……コバレフ家が代々護ってきたアルフレッド家の最後の生き残りだからね』


……!!やはりそうだったのか。そのこと自体に驚きはもうさほどないけど、改めて突き付けられると心臓の鼓動が速くなった。


ミハイルさんは、小さく頷く。


『ええ。アルフレッド家は滅びようとも、我が忠義に変わりはないですから。

ただ、貴方にとって、『遺跡の鍵』たる正統なアルフレッド家の血はむしろ邪魔なはず。どうして、私に協力しようと?』


『私、いや私や『勇者』アルベルト・ヴィルエールが目指すものは、『世界の秩序の維持』だ。世界各地にある遺跡を全て潰してしまえばいい、というものではない』


『それは、遺跡の破壊は不可能だから、ということですか』


『不可能ではないが、代償も大きい。それに、あそこにあるものは、使い方によっては多大な恩恵を人々にもたらす。

ただ、今はまだその時ではないということだ』


……どういうことだろう?


後ろを振り返ると、ナイトハルトが険しい顔になっていた。


「違う。もう既にその時なのです、アルベルト様」


「え?」


「君は『追憶リコール』の維持に集中しろ」


視線を水晶玉に戻す。ミハイルさんが苦笑した。


『つまり、いざという時には貴方が『彼女を使って鍵を開ける』、ということですか』


『遺跡を発掘しようとする動きは後を絶たない。そして、その中には5年前のようなことがあるやもしれない。

あの時は、私が何とか対処した。しかし、あのようなことが二度とあってはならない。毒には毒を以て制す、ということだ』


『切り札は手元に置いておきたい、ということですか』


ミハイルさんが剣をトンプソン卿に向けた。


『もし、彼女を……プルミエール様を『道具』として扱うなら、私がここで止める』


『君は幾つか思い違いをしている。まず、君が私を斬れるというのは思い上がりだ。私の魔法のことは知っているだろう?』


『ええ。ですが、この距離……ぐおっっ!!!?』


ミハイルさんが、頭を抱えた。義父さんの表情は変わらない。……精神感応魔法を使ったんだ。


『『神器』なしでも、君をあしらうのは容易い。君が何を考えているかも、簡単に読める。

君はこの後、プルミエール・アルフレッドを連れて逃げるつもりだろう?

だが、魔族1人で何ができる?いかに君が、アルフレッド家守護の役目を担い、『支配のチョーカー』から逃れ得るだけの力量を持ったコバレフ家最後の当主だとしても』


『ぐ……くそっ……!!!』


『心配はしなくていい。君の望みは叶える』


義父さんの表情が、微かに緩んだ。


『……な、に……!?』


『私もその意見には同意だ。アルフレッド家の血は繋げる。そして、鍵を開くのは、プルミエールである必要はない。

『普通の少女として生きてほしい』という願いは聞き入れよう。となれば、どうするのが賢明かは理解するね?』


『……そういう、ことですか』


寂しそうな笑顔を浮かべ、ミハイルさんは剣を収めた。


『私の存在ごと、彼女の記憶を消してほしい、ということですね』


『アルフレッド家についてはプルミエールにそれなりに話してしまっている、そうだろう?『ム=カイ遺跡』についてまで話すほどお喋りではないだろうが』


『私との記憶が残っていたら、普通の少女にはなれない……ということですね』


『そういうことだ。そして、君がすべきことは何かも、賢明な君なら分かるはずだ』


ミハイルさんが小さく首を縦に振った。


『罪を背負って死ね、ということですね。それが、彼女のためになるなら。

それに、彼女は私じゃ守れない。……よろしくお願いします』


『聞き入れた。彼女は、まだ初等学校だったな』


『はい。そろそろ帰る頃かと。……別れの言葉も、言えないのですね』


胸が強く傷んだ。……この人は、私のために死んだのか。

瞼から、熱いものが溢れるのが分かった。


不思議と、トンプソン卿……義父さんへの怒りは沸かなかった。

彼は彼なりに、私のことを考えていた。ただの道具としてみていたわけじゃないと、分かったからだろう。



ただ、ミハイルさんが死ぬことはないじゃない……!!



「……ここまでは推測通り、か」


ナイトハルトが、水晶玉を見ている。その冷静な口ぶりに、私は苛立った。


「……これが、貴方が見たかったものですか」


「……君が鍵だという確証が得られたのは良かった。ただ、多分それだけじゃない」


「何をっ……!!?」


水晶玉の中では、会話が続いている。


『私も鬼ではないさ。殺害現場を見たら、それが深層心理に植え付けられるからそれだけは避けさせてもらうが』


『……ありがとうございます。一つ、よろしいですか』


『何かな』



『何故、アルフレッド家の『もう一人』には何もしないのですか』



……もう一人?



『……何を言っているのかな』


『とぼけないで下さい。確かに、純血、直系のアルフレッド家の人間はプルミエール様だけです。しかし、もう一人、濃く血を引く人間がいる。それは……』


義父さんは首を振った。


『彼では多分、扉は開けない。それに、それは彼のためにもならんよ。知らないままにした方が、幸せなこともある』



グッ……



肩にかかる、ナイトハルトの力が強くなった。


「え」


「いいから続けろ」


水晶玉の中では、ミハイルさんが苦笑していた。


『……確かに、そうかもしれませんね』


『ああ。ナイトハルト・ウォルフガングの母にして先帝の側室、カタリナ・ウォルフガングがアルフレッド家の隠し子であったという事実は、彼のためにも伏せておくべきだ。

このことを知る人間は、君と先帝、そして思考を読める私ぐらいしか知らないだろう』



「……やはり」



ナイトハルトの手が震えている。まさか、この人は……



その時、公園の入り口から哄笑が聞こえてきた。そこにいたのは、でっぷりと太った中年男。そして、その背後には……



「エリック!!!」



エリックと一緒に、シェイド君とデボラさんもいる。彼らが加勢してくれたんだ。


ナイトハルトが、低く呟く。


「……兄上」


兄上?……とすると、あの男が……ゲオルグ3世。


ゲオルグ3世は、高笑いしながらこちらに近付こうとする。エリックが、縄を引いてそれを止めようとした。


「エリック・ベナビデス……足止めだけでなく、兄上の捕縛までやってくれるとは、な」


「不要だったか?捕虜にした方が、お前の都合に合うとは思ったがな」


「いや、望外の成果だ。兄上は、いずれは『ム=カイ遺跡』に連れていかねばならなかったからな」


ナイトハルトが、ゲオルグ3世を鋭い目で見つめた。


「私の素性、知っていたのですか」


「フフフ、父上がお前を寵愛しながらも中央から遠ざけていたので、独自に調べたのよ。我が読みに間違いはなかった。お前も薄々気付いていたのだろう?

そして、その娘に執心な理由も見えたぞ。何故なら、その娘は……」


ナイトハルトが、どこからか戦鎚を取り出した。


「やめろ」


「いつまでも隠しおおせると思うな?娘ももう、勘づいている」


……そうだ。ここまでのナイトハルトの反応。そこから導き出される結論は……


「やめろと言っているだろうっ!!!」


ゲオルグ3世が、私を見てニヤリと笑った。



「娘。この男こそ、お前の真の……そして唯一の肉親。お前の従兄弟だ」




キャラクター紹介


ゲオルグ・ウォルフガング3世(43)


男性。テルモン皇国皇帝。身長180cm、体重103kgの巨漢。

性格は傲慢不遜、強欲にして好色。俗物だが宮内政治には長けており、叛意のある者は徹底して粛清し、阿る者には徹底して富と権力を授ける手法を採っている。

頭の巡りはさほど良いとは言えないが馬鹿でもない。肉体的能力は凡人以下だが、「アナリオン」と「ケレゴルム」を使える程度の魔力はある。

また、「支配のチョーカー」に服従プログラムを組み入れたのもゲオルグである。これについては、部下が発見した大本の遺物の量産方法を発見した部下の功績が大なのだが。


権力欲の塊である彼が有能で野心もある腹違いの弟のナイトハルトを放置していた理由は、彼の名声が彼の権力を支える大きな理由であったことと、ナイトハルトがその野心を自分の皇位へと向けていなかったためである。

要はナイトハルトは自分の権力基盤の一部であり、利用できる駒であった。実際、面倒な北方異民族やアトランティア大陸との交渉・討伐はナイトハルトが一手に引き受けてくれた。

国民がナイトハルト皇位待望論を打ち出しても、ナイトハルトには(表面上)その気はなく、しかも国民をねじ伏せるだけの権力をゲオルグは持っていたので、何とか問題はなかったと言える。

もちろん、ナイトハルトに対しては常に警戒しており、今回の件はある意味想定通りの行動ではあった。


自らには正室・側室合わせて10人ほどがおり、10人以上の皇子、皇女がいる。皇太子のトーマは24歳であるが、さほど出来は良くない様子。

兄弟はナイトハルトのみ。これは先代の皇帝ジークフリードが2人しか子を残さなかったためである。

ゲオルグの母が早世した後はナイトハルトの母が実質的な正室となっており、彼女を先代が溺愛していたという事情もある。

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