第34-4話
「『遊ぶ』、だと??亜人の子供がっ……」
「テリオン・マイバッハ卿。その亜人は只の子供じゃありません。逆賊、ジャック・オルランドゥとアリス・ローエングリンの養子です。舐めてかかると殺されますわ」
テイタニアが「エオウィン」を構えた。「重力波」か?
いや、あれは確か、奴の前方一帯を範囲とする。ゲオルグまで巻き添えにするとは思えない。となれば……肉弾戦か。
「何にせよ不快極まりない。魔族に亜人、目が腐るわ。朕は先を急ぐぞ」
ゲオルグが、ゆっくりと歩き出す。その刹那。
「甘いね」
パウッ!!!
ガラガラガラッッ!!!
デボラの銃から閃光が放たれる。それは、テイタニアの後方にある門と壁を破壊した。
「……ぐっ!?」
「事情はちゃんと呑み込めてないけど、足止めすりゃいいんだね?」
「理解が早くて助かる。しかし……」
シェイドとデボラの後方からは、近衛騎士団が詰め寄っている。数の上では、依然圧倒的に不利だ。
「随分と無茶をしたにゃ。成算はあるのかにゃ?」
「まだ余力は残しているが、ゲオルグが予想外だ。それと……」
ザッッ!!!
テリオスが瞬時に間合いを詰める。超高速の抜刀を、俺は紙一重で避けた。
同時に、横薙ぎにエスペランサを振るう。テリオスはそれを、剣の柄の部分で受けた。……やってくれる!!
ギィンッッ!!
奴はそのまま刀の向きを変えると、上段から振り下ろした。「2倍速」を使い、俺はそれから逃れる。
ブォン
「ちっ」
後方に飛ぶと、テイタニアが斧を振り被って待っていた。……まずいっ!!
「死になさい」
斧の刃に、黒いマナが見えた。恐らく、これはただの斬撃ではない。
受けるのは。多分無理だ。シェイドたちへの被害を承知で「10倍速」で逃げるか??
「そこまでにゃ」
シェイドの声がした。見ると、シェイドがゲオルグの喉元に剣を突き立てている!!
「なっっ!!?」
「陛下っっ!!!」
「ぐ、ぬ……」
にっ、とシェイドが笑う。
「オルランドゥ家次期当主を甘く見るんじゃないにゃ。常時発動型の魔法なら、『解除』すればいいだけにゃ。
下手に自信があるから、障壁に手を触れられても何もしなかったにゃ。馬鹿にゃ」
「馬鹿、だと……??朕、が??」
「あんたのことを馬鹿と言わない奴の方が珍しいにゃ。あんたはたまたま部下が製法を発見した『支配のチョーカー』で魔族や亜人を無理矢理従わせ脅しているだけにゃ。
人望も才覚もない裸の皇帝、それがゲオルグ3世の正体にゃ。……さて」
デボラが銃口をテイタニアに向ける。
「形勢逆転、だね」
「それでもエリックを斬るにゃらボクがゲオルグを殺すにゃ。それでもいいのかにゃ?」
「……なら、皆殺しにすれば問題ないでしょう?」
テイタニアがおぞましい笑みを浮かべる。俺は本能的に飛び退いた。
本能が呼びかける。「これはハッタリではない」。
「な……!!!」
「ち、朕を見捨てるとでも言うのか???」
「貴方は利用させてもらっているだけ。生きていた方が好都合だけど、殺しても別に構わない」
デボラが訝しげに首をひねる。
「数的不利であんたに勝ち目があると思ってるのかい?」
「フフフ……」
「……何がおかしいんだい」
「モリブスの時のように、『手加減』するとでも?」
「……は??」
テイタニアの笑みが、さらに深くなる。……そして。
ブワッ!!!!
「何っ!!?」
「エオウィン」が纏っていた黒いマナが、一気に膨れ上がる!!!それはテイタニアの身体を包みこまんとしていた。
「あのアヴァロンは未熟だから、エストラーダとの同化までしか力を引き出せなかった!!しかし、私はできる!!
『神器』の力の全開放……とくと思いし」
「やめなさい」
その時、テイタニアの背後に急に誰かが現れた。……顔はよく似ている。しかし、肌の色が違う。
テイタニアは白い肌だが、こいつは……褐色だ。俺たち魔族のような。
そして、それは……初めてテイタニアに会った時の姿と、瓜二つだ。
「シェリルッ!!!?」
何だと???
「もう一度言うわ、やめなさい。貴女は、『戻ってこれなくなる』」
「……しかしっ!!」
「貴女と私は一心同体。ここで力を解放したら、私も、貴女も、その先がなくなる」
「でもっ!!貴女を救うためには、『ム=カイ遺跡』に……」
「シェリル」と呼ばれた女は、静かに首を振った。……まさか、この女が本物の「シェリル」?
「方法はそれだけじゃないはず。『聖棺』は解の一つだけれども」
「トリスから、やっと解き放たれたのに!!?」
「その代償は、貴女にも刻まれているでしょう?不十分な状況で力を解放した者の末路は、貴女も十分知っているはず」
シェイドが「何を言ってるにゃ」と呟いた。俺も、デボラも同じ思いだ。
全く、状況が飲み込めない。一つ言えそうなのは、テイタニアは自分の命に近いものと引き換えに、俺たちを殺そうとしたということだ。
「シェリル」が俺を見た。猛々しいテイタニアと違い、こいつの目は静かで、慈愛に満ちてさえいる。
「……貴方が、エリック・ベナビデスね。父親のケインと、よく似ている」
「……!!!父上を知っているのか!!?」
「あの人は、『甘過ぎた』。私は違う。やるなら、徹底してやるべきだった。できないなら、封じ込め、管理するしかない」
「何が言いたいっっ!!!」
「悪いことは言わない。『サンタヴィラの惨劇』の真実を知るのは、やめておきなさい。
それを知ることは、『世界の破滅』につながる」
「シェリル」は、無表情で俺をじっと見ている。……その真意が、全くつかめない。
「……知ることは、悪だと言うのか??」
「これについては。だから、私たち『六連星』が存在する。
とはいえ、ナイトハルトは少々やり過ぎているかもしれないわ。『ガルデア』にさえ手を出さねばいいと思っているようだけど」
「『ガルデア』……サンタヴィラの『ガルデア遺跡』かっ!!?」
ふふ、と「シェリル」が笑う。まるで、教師が生徒に対して「よくできました」と言うような笑いだ。
「まあ、いいでしょう。実物を目にすれば、彼の考えも変わるはずだから。それに、あれを起こさないなら、問題はないことですし」
テイタニアが呆れたように「シェリル」を見た。
「そのままにさせておけ、というの??」
「『ム=カイ遺跡』の『彼女』は、まだ御しやすいと聞いているわ。オルランドゥ大湖の『アレ』はトンプソン卿が動かねば話にならなかったけど。
起こした所で、この国が滅ぶ程度で済む。それ以上の被害は、多分ないわ」
「……相変わらずね」
「貴女も頭に血が上る癖は直した方がいいわよ?『エオンウェ』の力を解き放つのは、『今じゃない』。
さ、一度引き揚げましょう?私も貴女も、まだ病み上がりなのだから」
「……くっ」
忌々しげに、テイタニアが俺を見る。ゲオルグが、脂汗をダラダラと流しながら叫んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくだされ!!ち、朕は……」
「一国の皇帝なのですし、御自分で何とかされたらいかがでしょう?
……では皆様、ごきげんよう」
「命拾いしたわね。次こそは、確実に殺しますわ」
黒い歪みが「シェリル」の後方に開かれ、2人はその中に消えていった。
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シェリル・マルガリータがこの時語っていた内容を俺が理解するのは、ずっと先のことだ。
キャラクター紹介
テリオス・マイバッハ(45)
男性。テルモン皇室近衛騎士団の前団長にして最高顧問。
中等貴族の出ながら、その卓越した剣術で名門貴族にしか就任できない近衛騎士団長に登り詰めた男。身長178cm、62kgとやや細身で、長い白髪を持つ。顔には老いも見えるが、かなりの美形。
なお、名門貴族からの嫉妬もあり、早いうちに一線を退いた。ただ剣技に錆び付きはなく、彼の腕を惜しんだゲオルグはSPとして彼を傍に置いている。
得意はヒース流抜刀術。特に雷魔法と組み合わせた技には定評があり、「神雷のテリオス」との異名を持つ。
愛刀の一級遺物「アグララング」の力もあり、その力量はかなりのもの。
エリックは過小評価していたが、「加速」なしだと間違いなくテリオスの方が強い。さすがに「5倍速」を使った状態ならエリックが上回るが、それでも倒しきるのは簡単ではない。
既に初老の域に達しつつあるが、未だ独身。実は20代後半までゲオルグの「稚児」であった。
彼の出世と忠誠心の背景には、そういう面もある。




