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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第5章(皇都テルモン編)
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第34-2話


夜が明け、辺りが朝日に照らされた。家からは、掃除具を持った奴隷の魔族がちらほらと現れる。

5の月とはいえ、北方のテルモンの朝は肌寒い。防寒着の一つもあれば違うのだが、と俺は内心毒づいた。


公園の中央では、プルミエールが詠唱を続けている。もう3時間になろうとしている。あと、1時間ほどで終わるはずだ。

彼女の手元には、魔力を供給するための魔洸石が置かれていた。


「……あいつ、お前の女か」


エルザが低く言った。


「違う」と否定しかけて、俺はやめた。まだそういう関係ではない。ただ、昨晩の口づけは……好意のない相手には、決してしないことだ。

俺自身、自分があんな行為に出たのを未だに信じられていない。……魔が差した、のだろうか。


エルザがはぁ、と溜め息をつく。俺がここに来た経緯は、ごくざっくりとだが既に話していた。


「魔族が人間の女に、なあ。『魔王』の後継者も、節操のないことだな、おい」


「……」


キレそうになったが、俺は怒りを抑えた。そんなことをしている場合ではない。

そして、純血主義が多い魔族としては、俺が異端であろうことも理解はしていた。


「……お前も、人間の剣術を身に付けているが?」


「ヒース流、か?……アレはオレの恩人が教えてくれたものさ」


「……恩人?」


「ここで話す話じゃあない」


少しだけ、エルザの表情に影が差した。ヒース流は、アルフレッド家の技だ。そして、エルザの剣は、明らかにただ聞き齧った程度のモノではない。

こいつにも、アルフレッド家との繋がりがあるのだろうか。



その時、酷く不快な気配を感じた。



「……これは」


向こう側にいるナイトハルトが、こちらを見た。奴も気付いたようだ。


「どうしたんだ?」


「……誰か、来ている」


このマナは……以前感じたことのあるマナだ。



「シェリル」……いや、テイタニア・ランドルス。



どこだ?……まだ遠い。多分、ここから数十メドの所、路地の奥か。こちらを伺っている?

ホビットの男が、ナイトハルトと何か話している。しばらくして、彼が俺に手招きをした。


向かうと、ナイトハルトが険しい顔をしている。


「誰がいるかは、分かるな」


「『六連星』、シェリル・マルガリータ……というより、その名を騙っている『三聖女』テイタニア・ランドルスだな」


「……少し違う」


「ん?」


「騙っているわけじゃない。まあそれはこの際大事なことじゃない。

あそこにいるのはテイタニアだ。隠密魔法で姿を消したが、一瞬だけマナが見えた」


「討て、というのか?」


「いや、彼女は……私でも苦労する。それは向こうも同じだがね。こちらに手出ししない限りにおいては、放置が正しい。

問題は……彼女が『何もしてこない』という事実だ」


俺は頷いた。モリブスの花街でやってみせたように、人々を「憑依ポゼッション」で操るのだろうと思っていた。しかし単騎で、しかも遠間から見ているだけというのは変だ。


「『六連星』同士、不可侵の約でもあるのか?」


「いや、私たちの目的は『世界秩序の維持』だ。世界に仇なそうとする人物を、陽に陰に消し去る。そのために存在している。

私が『ム=カイ遺跡』を開かんとするのが世界秩序に反するものなら、事前に警告があるはずだ。だが、今回はそうではない」


「……何?」


「警告はないのさ。そして、『六連星』には私に協力する人物もいる。

ミカエル・アヴァロンはお前に殺され、もう一人……ハーベスタ・オーバーバックは行方不明だ。お前も知るデイヴィッド・スティーブンソンには目立った動きはない。

つまり、『シェリル』……もとい、テイタニアの行動は独断ということになるな」


「そんなことがあり得るのか?」


ナイトハルトの目が、鋭さを増した。


「それだ。普通に考えれば、意味がない。彼女にとって……どちらにとっても……『ム=カイ遺跡』のことはあまり関係がない。

私があそこを発掘して、不都合になることもない。『2人目』とやらを恐れているのかもしれないが、あれはそういう柄じゃない」


そんな気はする。奴とは短く会話をしただけだが、アリスのように天下のことを考えるような女ではない。


とすると……


「テイタニアも、『ム=カイ遺跡』狙いか」


「だろうな。だから、『追憶』が終わるまで待っているのかもしれない。ただ……『来るのが早すぎる』」


「何?」


「私は、彼女はもう少し来るのが遅いと思っていた。だが、この時間からいるのは予想外だ。

それも『本体』がいるとはね。昨日は『端末』のようだったから捨て置いたが」


……確かに不自然極まりない。どういうことだ、考えろ。



……ぞわっ



今度は、俺以外の全員がハッキリと感じ取った。プルミエールも顔を上げる。



「詠唱を続けろっっ!!!」



ナイトハルトが叫ぶ。感じたのは……足音。それも、大勢の。



まさかっ!!?



「テルモン軍かっ!!」


「それも一個大隊……恐らく、近衛騎士団を総動員している!!テイタニアは、これを待っていたのかっ!!?」


テイタニアは、数百人を動かせるのか?いや、それならモリブスの時にそうしていたはずだ。つまり、これは……「憑依」によるものではない。

そして、それが意味する所は……



「テルモン皇帝、ゲオルグ3世!!?」



チッ、とナイトハルトが舌打ちをした。


「兄上に何か吹き込みおったな、あの女狐っ!!!」


「閣下、指示をっ!!」


ホビットの声に、ナイトハルトが僅かに黙った。いつもの余裕は、とうにない。


「距離は」


「……まだ王宮を出たばかりかと」


兎耳の女が、耳をピクピクさせて報告した。……距離にして、1~2キメド。若干の時間の余裕はあるが、詠唱が終わるまではもたない。


「……足止め、しかないな」


「どうされます」


「私自ら行こう、と言いたいが……いかに私でも多勢に無勢だ。足止めできたとしても、そこまでもたん。

先手を打てるのは……アンソニー、頼めるか」


「……御意。素晴らしき一生でした」


俺の顔から、血の気が引くのが分かった。ナイトハルトは、このホビットに「死ね」と言っているのだ。


「どうやって止めるつもりだ!?」


「屋根づたいに動き、矢でゲオルグを討つ。逆賊の汚名は、遭えて被ろう」


「……できるわけがない」


テイタニアが、路地にいる。あそこで動かないのは、俺たちに対する足止めの意味もあるのか!

あいつの「エオンウェ」の威力を、恐らくこいつらは知らない。屋根の上にいようと、蝿のように叩き落とされ圧死するのが落ちだ。


……とすれば。


「ふざけるなよ若造!そこまで柔では……」


「その役割、俺がやる」


「何!!?」


「テイタニアとは一度やりあったことがある。あいつの手の内は分かってる。倒すことまでできるかは分からないが、『逃げる』ことはできる。

そして、ゲオルグの所に辿り着くことも」


ナイトハルトが、俺を見た。


「どういうつもりだ」


「俺の力は聞いているだろう?逃げるだけなら、俺に敵う奴はいない。撹乱には、最も向いている」


プルミエールが、こっちを涙目で見ているのが分かった。俺は小さく笑う。「心配するな」と。


もちろん、死ぬつもりはない。ここで突っ立っていても、俺もプルミエールも死ぬ。なら、足止めを成功させるしかない。



それに……これなら。周囲への被害を気にせず全力を出せる。



「任せるぞ」


「了解した。テイタニアがこっちに来ないよう、お前はしばらく待っていろ」


「『皇弟』に命令か。……いいだろう」


ニヤリ、とナイトハルトが笑う。俺は脚にマナを込めた。




加速アクセラレーション5!!」





キャラクター紹介


アンソニー・エドワーズ(35)


ホビットの男性。ダストボックス小隊の1番組にして実質的隊長。外見上は茶色の髪の小柄な男性。身長143cm、34kg。

ホビットは外見年齢が20手前で一度止まり、寿命である70歳前後で急激に老ける。アンソニーもまた、見た目通りの年齢ではない。

弓の達人であり、1級遺物「射手バルドの弓」をナイトハルトから託されている。


ナイトハルトとは幼馴染み。幼少期の頃、「廃棄層」に捨てられていたのをナイトハルトの母親が見付け、従者として育てた。

なお、ナイトハルトは側室の息子であり、ゲオルグとは異母兄弟である。

異種族には厳しい差別が与えられるのがテルモンの文化だが、先帝の寵愛を受けたナイトハルトの母が必死に庇った結果、ナイトハルトとは実の兄弟に近い信頼関係で結ばれるに至った。


既婚者であり、1女がいる。妻は元奴隷の人間。家庭仲は良好。

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