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魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第5章(皇都テルモン編)
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第31話


「さあ、好きなものを食べてくれ」


宿場町シャルロックにある、豪奢なホテル。その貴賓室のテーブルには、色とりどりの御馳走が並べられていた。

ハムル豚のハム、イルザ鳥の丸焼き。内陸なのに、遥か東のガリア湾の魚介類の香草焼きもあった。


どれも素晴らしい料理であるのは見ただけで分かった。長旅の疲れもあり、お腹は空いている。



でも……



「ごめんなさい。あまり食欲が」


「慎ましいな。それとも、『魔王』に遠慮でもしているのかな?」


二ヤリ、と皇弟ナイトハルトが笑う。思わず顔が熱くなった。


「ちがっ……!!」


違わない。彼は、捕虜のように手を鎖で縛られこの街のどこかにいる。

私だけが、こんな料理を食べるわけには……いかない。


目の前に座るナイトハルトが肩を竦めた。


「操を立てているのかな?まあ、無理もないが」


「そんなのとは違います!!私たち、あなたが思うような関係じゃありません!!」


「にしては、随分と『魔王』はご執心のようじゃないか。君も満更ではないのだろう?

まあ、長い間男女が一緒にいれば情も湧くだろう。それを否定はせんよ」


何か言おうと思ったけど、上手く言葉が出てこない。……確かに、私たちはまだ恋人同士ですらないのだから。


「……あなたは、これから……私を抱くのですか」


「もちろん。と言いたいがね。それは私の信念に反するのだよ。

せっかく妃として娶るのだ、心から私を敬愛し、恋慕してくれねばね」


「それが今まであなたが独り身だった、理由ですか」


ナイトハルトの笑みが深くなった。


「やはり君は聡いな。私の妃になるには、そのぐらいの知性がなければね。

それは大きな理由だよ。『皇弟』ナイトハルトではない、ただのナイトハルト・ウォルフガングを好きになってくれねば話にもならん。

無論、私の眼鏡に適う程度の知性、その他の才があってこそのことだが」


ああ、この人には生涯の伴侶などできないだろうな。私はふと思った。

あまりにこの人は、自分に自信があり過ぎている。そして、自分に欠けたものがないと思い込んでいる。


フフフ、と笑いながら彼はナイフで肉を切った。


「まあ、心配せずともその時は来るだろうよ。君を抱くのは、それからでいい」


「そんな時は、来ません」


「ふふ、強気なところも実に良い。まあ、意地を張ってないで食べるものを食べたらどうだ。皇都テルモンまでは、まだ4日もある。着いてから栄養失調で倒れられては困るのでね」


ぐう、とお腹が鳴った。確かに、彼の言う通りかもしれない。


「……エリックは、無事なんですか」


「心配は無用だ。『ム=カイ遺跡』には万全の体制で挑まねばならないからね」


「……あそこには『秘宝』が眠っているそうですね。それが何か、あなたは知っているんですか」


コク、とナイトハルトが葡萄酒を飲んだ。


「厳密には知らない。『2人目』とやらの存在も初めて知った。

ただ、あそこにある中核的なものの存在は確認しているよ。君もテルモン出身なら知っているだろう?『エマニュエルの夢』の童話を」


「……ええ」


「そうだ。ある若者が狩りの最中に道に迷い、『ム=カイの森』に入った。そこで若者は黄金郷に辿り着き、そこにいる姫と数週間甘い時を過ごした。

だが、ふと残した親が心配になり、若者は黄金郷を抜け出した。すると若者の親は既に死んでいたのさ。

それどころか、彼がかわいがっていた甥っ子は老人となり、知っている人は誰もいなくなっていた。絶望した若者は自らの命を絶って『夢の終わり』としたという話さ」


テルモンの子供なら誰もが知っているおとぎ話だ。目の前の欲求にかられ、大切なことを見失ってはならないという寓話でもある。


「……まさか、それも実在した話とか言うのですか」


「その通り。今から242年ほど前のことだがね。御伽噺と違うのは、若者は狩人ではなく冒険者であり、辿り着いた先は黄金郷ではなく『ム=カイ遺跡』だったことだな。

そこで何があったかは知らない。ただ、彼は不老不死の肉体を持って187年前に現われ、密かにウォルフガング家に仕えたのだよ。

結末が自死というのは同じだがね。孤独に絶望したのか、親への負い目に圧し潰されたのか、はたまた『ム=カイ遺跡』に残した何かへの未練で狂ったのか……

とにかく、あれは実在した話なのだよ。……私が何を言いたいか、察してくれたかね?」


ぞわっ、と悪寒がした。まさか、それは……



「……不老不死の手段、ですか」



愉快そうにナイトハルトが笑う。


「ご名答。人類の夢だね」


「そんなの……人の手に余る力です」


口にしてから、それがエルファンのランダムさんが言った言葉と同じことに気付いた。


ああ、そういうことなのか。



……「秘宝」は、人が制御するには、あまりに強大に過ぎる。

昼間のジークポリスの件もそうだった。数キメドの範囲を破壊するなんて……人間が許される範囲を、明らかに超えている。



ナイトハルトからは笑みが消えない。


「だからこそ、それを制御してこその君主だ」


「あなたはそれを手にしたら、自分に使うおつもりなのですか」


「それも一興だし、そうするつもりだがね。もっと良い使い方がある」


「え?」


「ふふ、それを言えば君は激怒し、私を止めようとするだろうな。だからここでは言わない。

だが、テルモンという国にとっては、私が不老不死になるよりもっと有意な人物がいるのだよ。そちらの方が、民の幸福にも繋がる」


「……あなたは、何を」


ゴクン、とナイトハルトが肉を飲み込んだ。


「少し喋り過ぎたな。まあ、それは君が妃になればおいおい分かることさ。

とにかく、少し食べた方がいい。まだ先は長いのだからね」


私は渋々、目の前のパンに手を伸ばした。


#



そして、4日後。豪奢な宮殿の尖塔が彼方に見えてきた。

あれが、皇都テルモン。そして、私が生まれ育った街だ。




都市紹介


ヘイルポリス


テルモン皇国南西部、オルランドゥ大湖の畔にある小都市。人口は3万人ほど。

北にイミル山脈、西にスルティア山脈がある関係上、非常に攻めにくい都市である。北のイミル関、東のファンディア関がある関係上守りは堅い。

また、東部は親シュトロートマン家色が濃く、皇国主流派は北からしか実質的に攻められない。このため、テルモン皇国でありながら一種の独立都市国家の様相を呈している。

湖の魚介類が名物であり、ワインも名物。一次産業中心ではあるが、都市の住民の生活レベルはそこそこには保たれている。

とはいえ、皇帝ゲオルグからの圧迫もありじり貧の状況。領主であり反皇帝派の首魁であるカール・シュトロートマンは日々頭を悩ませている。


中心から3キメドほどの湖の畔に「ヘイルポリス遺跡」がある。発掘途上であったが、ジャック・オルランドゥとアリス・ローエングリンが深層を踏破したとみられる。

その本質は一種のミサイル基地であったようだ。

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