表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王と魔法使いはかくて勇者を殺し、世界を破滅へと導いた  作者: 変愚の人
第2章(花街動乱編)
30/92

第19-4話




その時、時間が止まった。




今目の前で起きていることが、理解できない。いきなり「シェリル」の後方から現れた娼婦が、彼女を刺した。何が起きたの?



「ぐ……ぐおぉぉっっ!!!」



「シェリル」は肘打ちで娼婦を引き剥がした。娼婦はそのまま数メド先に吹っ飛ぶ。


ポタポタと赤い血が雨で濡れた地面へと垂れていく。致命傷かは分からないけど、これが深手なのは私にも分かった。


「あ……貴女はっっ!!?」


かすれた「シェリル」の声に応じるように、ゆらり、と娼婦が立ち上がる。口から流れる血を拭うと、ニヤリと笑った。



「この時を待っていたぜ……『シェリル』。お前が来たお蔭で計画の変更を、余儀なくされたがな……」



その口調は、まさかっ……!!?



「ビクターッッ!!?」



「おいおい、ネタバレはやめてくれよ……もう少し混乱させたままでいさせてほしかったが」



ランパードさん!!?じゃあ、今立っているのは……?



「……まさか、貴方っ!!?」


「そう、『憑依』だよ。条件付きで発動する、特殊な術式を使った。多少後ろめたかったが、まあそれはいい」


短剣を「ランパード」さんが構える。ギリッ、と「シェリル」の隣にいたエルフの女性が歯噛みしたのが分かった。


「『人形繰り(マリオネット)』が、甘かった??」


「いやあ完璧だったさ、リリス。伊達にお前さんにモリブスの任務を預けてたわけじゃねえよ。しかも『シェリル』の力まで上乗せされてたからな……事前の対策なしじゃ詰んでた。

正直、『六連星』の一角がいたのは大誤算だったぜ……心配かけたな、姫」


「ううんっっ!!」


泣きながら彼女が首を振る。「シェリル」はというと、傷口に手を当ててはいるけど、まだ立っている。回復魔法、それも、相当強力なやつをかけているようだった。


彼女が「ランパードさんの身体」を見た。


「……まさか、この身体は」


「ああ、ただの『脱け殻』だ。お前さんに会って、咄嗟に『罠にかかったふり』をしたというわけだ。

……しかし、幽閉されているはずの『シェリル・マルガリータ』の正体が、あんただとは思わなかったぜ……」



空気が、重く、冷えていくのが私にも分かった。「シェリル」からの殺気が強まったのだ。



それに構わず、「ランパード」さんが言う。



「そうだろ?『魔女テイタニア』。いや『三聖女』が一人『テイタニア・ランドルス』」



「「え」」



「何っ!!」



エリックも叫ぶ。「三聖女」って……「サンタヴィラの惨劇」の、生き証人じゃないっっ!!?



「……その名は捨てましたわ」



「だろうな。一つ言えるのは、お前はテイタニアであってシェリルでもある。シェリルの意思はあるんだろうが、お前自身の自我も感じる」



「それに、答える、義理は……ないっっ!!!」



ブォン、と斧が振り下ろされた。「ランパード」さんはそれを辛うじて交わす。


「……っぶねえ。この身体じゃ厳しいな……。お前が手負いで助かったぜ」


「……マリアの走狗がッッ!!皆殺しに……」



「エオンウェ」が地面に突き立てられた瞬間……「シェリル」が、身を大きく捩った。



バォンッッッ!!!!



銃声と同時に、遥か向こうで何かが壊れる音がした。娼館の壁が、粉々になっている。


私やエリザベートはもちろん、エリック、そして「リリス」と呼ばれたエルフも身動きが取れなかった。

突然の出来事に対する驚きだけじゃない。教授と「シェリル」の圧力が、凄すぎるからだ。


教授が静かに告げる。


「……さすが、よく避けたわね。でも、次は当てる」


「…………」


「シェリル」が険しい表情で辺りを見渡した。


「……これ以上、ここにいるのは危険なようですね。リリス、あとは頼みましたよ。『増援』、そろそろでしょう?」


「ええ、お姉様。彼らは私が必ず」


「私は退きます」


短く答えると、「シェリル」は教授を睨んだ。昏く、憎悪のこもった漆黒の瞳で。



「……アリス、貴女は私が必ず……この手で殺す」



そう言うと、彼女が何かを取り出した。すぐに、その前に空間の歪みができる。



「……逃がすかっ!!」



一気にエリックが間合いを詰める!しかし、その一閃が届く直前に……「シェリル」は姿を消した。



教授が忌々しそうに、彼女が消えた虚空を見つめる。


「取り逃がした、わね。……その台詞、そっくり返すわ『裏切り者』」


「『裏切り者』??」


「説明はここを切り抜けてから。そろそろ、来るわ」


花街の入り口から、10人ほどやってくるのが見えた。あれは……!!?


「ラファエルさんにウィテカーさんっっ!!?」


やった!という安堵は、次の教授の一言ですぐに消えた。



「あれが『増援』ね」



リリスと呼ばれた女が、ニィと口の端を上げる。


「そう。私の『お人形』。ランパードの身体も、まだ操れますよ。お姉様ほど上手くはないけど」


「人の身体だからといって無茶しやがって……っっ!!?」


ビシイィィ、と「ランパード」さんの前に鞭が振り下ろされる。


「貴方にしてはあっさりやられたと思ったんです。やはり貴方は、警戒すべきだった」


「今までの経験上、シェリルの『中枢』は『人形繰り(マリオネット)』を使ってくると知ってるからな。……まさに『禁術』だぜ。

だが、種が割れてりゃ、対応できる魔法でもある……っと」


立て続けのリリスの攻撃を、「ランパード」さんは辛うじて避けていく。


「『シェリル』……いや、テイタニアの力で『中枢』になっても、戦闘能力自体が高まったわけじゃねえな。動きが甘めえ」


「いつもいつも偉そうにっっっ!!!」


ビユッッという風切り音がここまで聞こえた。それと同時に、ランパードさんの身体の方も「彼」に向けて突進していく!



キィン



「お前の相手は、俺だ」


刃はエリックの短剣で受けられた。すかさず蹴りを放つけど、それは空を切る。


「おいおい、加減してくれよ?殺すと俺まで逝く」


「知らんな。にしても」


彼らの周りを、7人ぐらいの娼婦たちが取り囲む。どうするの?


「プルミエールッッ!」


教授が叫ぶ。そうだ、こっちにも人が来てるんだった!!


一斉に、ワイルダ組の人たちが襲い掛かってくる!

特にラファエルさんは速いっ!最優先で止めないと……!!



「ぐおおおおっっっ!!!」



まるで剣のような爪が、目の前に迫る!



「『幻影のミラージュ・ボルト』!!」


彼の顔に矢が直撃する。「うおおおおっ」という叫びと共に、ラファエルさんは踞った。

でも、その背後からは……デボラさんの弟が!?



ボゴォッ



誰かが彼を吹き飛ばす。……え。



「シェイド君!!?」


「何ぼーっとしてるにゃ??まだまだ来るにゃ!!」


そう言うと、シェイド君はオーガの大男を右拳の一撃で昏倒させた。魔法で膂力を大幅に高めてると、私は直感した。


「う、うんっ」


魔力はかなり使っちゃってるけど、何とかしなきゃ。私は出力を抑えた「矢」を次々と放っていく。


それにしても……強い。向こうで大勢を相手に立ち回っているエリックやランパードさんはもちろんだけど、シェイド君もこんなに強かったんだ。


そして、何より……


「『石のストーン・バレット』」


教授の周囲で浮いていた幾つもの石礫が、まるで弾丸のように放たれた。それらは的確に、ワイルダ組の人たちや娼婦の脚に当たっていく。

致命傷じゃない。でも、動きを大きく制限するには、十分な打撃だ。この人たちに罪はないから、足止めに特化してるんだ。


ただの、優しくて優秀な指導教官だとばかり思っていた。しかしこれは……



間違いない。アリス・ローエングリンは、とても戦い慣れている。



「何者なんだろう……?」


エリザベートが呟いた。そう、彼女がただの学者じゃないのは、もう間違いない。でも、今はこの危地を抜け出すのが先だ。


鍵を握るのは……やはり。


エリックをチラリと見た。息は荒く、酷く疲弊している。

極力操られてる人たちを傷付けないように戦ってるみたいだけど、あれは相当疲れるんだ……!

何より「ランパードさんの身体」……娼婦たちだけならなんとでもできただろうけど、それの攻撃は相当に激しい。


もちろん、それはランパードさんも同じだ。こっちはもう少しで片付きそうだけど、彼らがもたないかもしれない!



「さすがに……もう限界の、ようですね」



勝ち誇ったようにリリスが言う。「ランパードさんの身体」も、止めを刺さんと突きの体勢になった。……まずいっ!!!



その時、ずっと身を屈めていたエリザベートが私に囁いた。


「ごめん、貴女の身体を貸して」


「え」


「いいから貸して!!」



向こうではリリスが鞭を振り上げた。もう考えている、余裕なんてない!!



「分かったっっ」



次の瞬間、私は意識を失った。




魔法紹介


「石の弾」


大地精霊魔法。石の弾を作って放つ基礎的な魔法だが、使い手が達人なら極めて強力な魔法にもなる。

アリスは10数個の弾を高速で放つことで、複数対象の足止めを行った。

加減しているため殺傷能力は抑えられているが、その気になれば本物の弾丸同様に貫通することも可能。

もちろん、石の弾を巨大な岩と化して放つこともやろうと思えばできる。


膂力エンパワード


肉体強化魔法。一時的に剛力を身に付けることができる。

魔法としては初歩だが、こちらも使い手によっては強力なものに化ける。シェイドの得意魔法の一つでもある。

なお、体術は我流+エリックの指導によるもの。エリックにはさすがに劣るが、それでも魔法なしのランパードよりは強い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ