第0話
むかし、といってもそう遠くないむかしのこと。
ある山のふもとに、小さいけどゆたかな国がありました。
花はうつくしく、ごはんはおいしく、人はどこまでもやさしく親切でした。
北にまぞくの国が、南にはヒトの大きな国がありました。2つの国は長いあいだあらそっていましたが、国ざかいのこの国はずっと平和でした。
けっしてこの国はおかさないように、ヒトの王さまとまおうがきめていたからです。
この国ざかいの国の王さまは、とてもかしこく、そしてとてもじひぶかい人でした。
何十年もつづいたヒトとまぞくのあらそいを終わらせたい、ずっと思っていました。
そこにまおうがやってきました。「おれといっしょにへいわを作ろう」と持ちかけてきたのです。王さまはこころよくそれをうけいれました。
……しかし、それはまおうのわなだったのです。
まおうは夜、みんながねしずまったころにあばれだしました。
そして、たった、たったひとばんでその国の人たちを、かしこい王さまもふくめてほとんどみなごろしにしてしまったのです。
生きのこったのは、たった3人。王女さまと、やどのかんばんむすめと、町外れに住むエルフのまほうつかいだけでした。
そして、命からがら南の国ににげこんだかのじょたちは、「まおうをたおして!!」とさけびました。
すぐにまおうをたおすためのとうばつたいがくまれました。
しかし、まおうはとても強く、小さな国にたった1人だけなのにそのすべてをうちやぶりました。
たくさんの人がぎせいになりました。死にました。
そして、もうだめだとだれもが思った時、ある青年が立ち上がったのです。
「ぼくがまおうをたおして、世界を平和にする」
それがゆうしゃさまです。
ゆうしゃさまはつばさのはえたまほうつかいと、とてもつよいせんし、そして心やさしいそうりょといっしょに小さな国にむかいました。
まものやまおうがころした人たちがつぎつぎとゆうしゃさまにおそいかかります。そのすべてをゆうしゃさまはたおしました。
そして……ついにゆうしゃさまはまおうをたおしたのです。やっと、世界に平和がおとずれました。
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私はパタン、と絵本を閉じた。子供の頃、よく読んだ本だ。
実際にこの出来事が起きたのは、私が2歳の頃らしい。その後すぐにこの絵本が作られ、そして子供たちが皆読むようになった。
勇者による英雄譚。それを読んで、憧れない子供はいない。
そして、悪逆の限りを尽くした魔王に怒らない子供もいない。
私もそうだった。魔族は悪であり、許されない存在なのだと聞かされて育った。
そう、実際に魔族と出会うまでは。
その人は、とても親切な人だった。まるで兄のように、親のいなくなった私に接してくれた。
どこか私を邪険にしていた叔父夫婦ではなく、彼を慕うようになったのは当然だった。あるいは、それは私の初恋だったのかもしれない。
しかし……私の12歳の誕生日に、彼は叔父夫婦を惨殺した。
その時の記憶は、私にはない。というより、彼が叔父夫婦を殺した前後の記憶が、すっぽりと抜けている。
気が付くと、彼は既に処刑された後だった。どこか、現実味がなかった。
私が知っているのは、彼が人を殺めたというただの「事実」でしかない。
だからこそ、私はこの研究を始めたのだ。そして研究は、完成に近付こうとしていた。




