最初の質問「手紙」
お待たせしました。第一話みたいなやつです。かなり特殊な書き方をするので、読んでいただける皆様を少し混乱させてしまうかもしれませんが、どうにか頑張っていただけたら幸いです。
前作と同じようにプロットなしから思い付きで始めたシリーズですので、どうか生暖かい目でご覧ください。
「やあ。私の声が聞こえるかい?うん、なら結構。」
「大丈夫。落ち着いて。突然のことで混乱しているだろうが、何も問題はないよ。」
「さて、君にはいくつか質問したいことがあるんだ。ん?私かい?はは。私が誰かなんて、君にはどうでもいいことだ。君にとって今重要なのは、これから私が聞く質問に君がどう答えるかだよ。」
「こちらとしてもすまないと思っている。でも君のためなんだ。わかってほしい。」
・・・・・・・・・
「うん、ありがとう。じゃあさっそくだけど、一つ君に質問をしよう。」
「君は、自分の気持ちに正直になれるかい?」
「ああ大丈夫。ゆっくり考えてもらって構わないよ。口に出さなくてもいい。答えは頭の中で思い浮かべるだけでいい。」
・・・・・・・・・
「うん。なるほど。あぁ、今の質問は特に意味はないから安心してくれ。」
「今のはほんの練習だよ。これからが本番だ。さて、準備はいいかな?」
「よし。では最初の質問だ。」
・・・・・・・・・
虫のせせらぎは、僕にとってはただのうるさい雑音だった。
人との会話だって、僕にとっては無駄な行為だった。
他人との関係だなんて、僕にとっては無縁なものだと思っていた。
僕は一人、毎日静かに過ごして、いつか人知れず死ぬ。
それが僕の人生だった。
はずだ。
長い長い人生の中で、記憶に強く残る出来事は何だろう。
死ぬ間際に垣間見る走馬灯は、いったいどんな記憶を見せてくれるのだろう。
誰かに見向きされることもなく、人知れず死のうとしている僕には、いったいどんな記憶が残っているのだろう。
空を見上げると、真っ黒な世界の中に、ぽつりぽつりと光る星が見えた。
死んだ人は星になる。いつ聞いたかもわからない迷信を思い出す。
誰もいない校舎の屋上で、僕は小さく息をつく。
肌にまとわりつく生ぬるい風が、気持ち悪い。
雲一つ見えない夜空は、これから死ぬ僕を受け入れてくれるだろうか。
意味も理由もなく死ぬ僕を、許してくれるだろうか。
「ねえ。」
聞こえるはずのない、声が聞こえた。
屋上の柵に手をかけ、乗り越えようとしている僕の背中に、誰かが話しかけた。
僕は、振り返ってしまった。
僕の後ろにいたその人は、不思議そうな顔で僕を見つめていた。
少しの間沈黙が続いた。
僕の手は柵から離れていた。
「やめちゃうの?」
僕をじっと見つめていた少女は、また不思議そうな顔で僕を見つめている。
「君は・・・誰・・・?」
我慢ができなくなった僕は、聞いた。
そして少女は、答えた。
「知りたいの?」
何でもない退屈な一日。
僕以外の人にとっては、過ぎ去る日々の中の一ページ。
だけど僕にとっては、強く記憶に残る一ページだった。
彼女のおかげ、というより彼女のせいで、僕は自殺をやめた。
次の日、僕は昨日のことは夢だったかもしれないと思いながら、家を出た。
「いってきます。」
誰かが聞いてくれるわけでもない言葉を残して、扉を閉める。
住宅街にそびえたつ高層マンション。
「はぁ・・・」
その最上階の部屋に一人暮らしをする僕は、今日も景色を一瞥してため息をつく。
特に意味なんてないため息。
いや、今回のに関しては意味があったかもしれない。
昨日の少女は誰だったのだろう。
僕のことを知っていたのだろうか。
様々な疑問が脳裏をよぎる。
でも深くは考えない。
きっとあれは夢だ。
そう信じて僕は、僕自身の通う高校へと向かった。
昨日のことは夢じゃなかった。それはわかっていたことだ。
だけど、さらにそのことを強く印象付けることが起きていた。
学校の玄関、僕の下駄箱の中に手紙が入っていた。
差出人は不明。ただ真っ白な便せんが、僕の上履きの上にのせられていた。
続々と生徒たちが登校してくる中、僕は誰にも見られないようにその手紙を鞄へ滑り込ませた。
誰かが僕を見ているわけでもないのに、僕はずっと何かにおびえていた。
自分じゃない誰かに、見られているような気がして。
退屈な授業を、窓の外を見ながら流し聞く。
この時間が終われば昼休み。僕以外の生徒たちは、友人と昼食をとったりするだろう。
でも、僕は違う。
視線を机に落とすと、雑に開かれた教科書とノートの上に手紙が乗っていた。
中身を読むべきか、僕はずっと迷っていた。
これを読んでしまうと、僕はいつも通りの退屈な日常を失ってしまう気がした。
授業が終わるまであと十数分。
僕の席は窓側の一番後ろで、目の前には体の大きい男子生徒がいる。
手紙を読んでも、誰かに見られることはない。
だから、読むなら今だ。
・・・本当に、読んでいいのだろうか?
僕は、この手紙を・・・
・・・・・・・・・
「さて、君の答えを聞こうじゃないか。ああいや、言わなくていいよ。さっきと同じように思い浮かべるだけでいい。」
「ああ、そうだ。これだけ伝えておこう。」
「この質問の答えがどうであれ、君には特に関係ないことだよ。」
「そう。『君には』関係ない。」
「だから・・・」
君の好きに選んでもらって構わない。
「この後に続く質問もそうだ。君が好きに答えを選んでくれ。」
「何度も言うが、その答えは君には関係ない。」
「その結果がどうあれ、君は悔やむ必要はないし、気に食わないのであれば答えを変えてもらっても構わない。」
さて、君はどうするのかな?
最初の質問
「僕はこの手紙を・・・」
【読んだ】【読まなかった】
どもども。鈴ほっぽです。
さて、前作とは違ってがっつり作風が変わり、驚いた方もいるのではないでしょうか。
今作は一話一話を短めに書いていく予定です。
その分更新も早いかもしれないね。早いといいね。がんばれ。
お察しがついている方もいるかもしれませんが、今回は選択肢を用意してみました。
どうぞ皆さまのお好きなように進めてください。
次回から分岐していくので、選んだほうをお読みいただければと思います。
では、最後まで読んでいただきありがとうございました。