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「……準備はいい?」
「ああ。指示された場所に、杭は打ち込んだ」
チームリーダーにして、自称、『天才料理人で大魔道師で超絶美少女』キュレリアの問いかけに、重装戦士、ガイザルが重々しく頷く。
「杭からの識別信号、全て確認。配置は完璧です……」
ナイスバディな超絶美人なのに、全身から放たれている冷たい殺気で、全てを拒絶しているような女戦士、ラヴィリアが、最終確認する。
「じゃあ、いっちゃいましょうか! 閉鎖結界、展開開始ッ!!」
自信満々の表情で、白い石版状のコンソールに両掌を押し当てたキュレリアは、魔力を収束する。
滉ッ!!
周囲が、純白のまばゆい光に包まれた。
「……結界発生装置、正常作動。領域の空間閉鎖、完了しました」
相変わらずのクールな口調で、ラヴィリアが告げる。
どうやら、毒性生物が多数棲息しているこのエリア一帯を、結界で封鎖してしまったようだ。
「エリアの面積がギリギリだったから、何とか封鎖できたわね。結界維持は、地脈のエネルギーでできそうだから、後は定期的に見回りに来ればいいわね」
一仕事終えて、満足げな様子のキュレリアは、ボケーッと見とれていたオレに向き直った。
「何してるの? それ、ちゃんと完食しなさいよ!」
「う……うぅ……このルックス、あきらかに毒っぽいんだが?」
上目使いで見上げるオレに、自称、天才料理人の美少女は、「当然でしょ?」と言いたげに頷く。
オレの目の前に置かれているのは、紫色をしたスープに、ピンク色と緑色の何だかわからない破片が浮いているスープだった。
どう見えてもヤバイ!
しかし、試食人であるオレは、食べないわけにはいかない。
えーい! 毒をくらわば皿までだ!
オレは、紫色の毒スープを一気に飲み込み、そして、溶けた……。
「……あ、復活した。すごいわね。あんなにドロドロに溶けちゃっても復活するんだ?」
キュレリアは、オレを見下ろし、感心した口調で声を掛けてくる。
「肉体再構成から意識復活まで三十八分。最長記録ですね……」
ラヴィリアが、冷淡な口調で告げる。
「今日の試食タイムは終わりよ。シャワー浴びて寝なさい」
金髪の美少女料理人、キュレリアは、素っ気ない口調で命じてくる。
「ふぅ……」
オレは、自分の部屋に向かいつつ、舷側から下界の風景を見下ろし、溜息をついた。
オレたちが乗っているのは、『船』だ。
しかし、水の上をゆく、一般的な船とは違って、空中を飛行できる特殊な船だった。
なんでも、ジュメルでも四隻しか保有していない、貴重な飛空船の一隻で、名前は『ドリアード』というらしい。
その、貴重な飛空船は、地上百メートルほどの空中に滞空していて、その真下に、結界封鎖された広大な森が拡がっている。
その森が、オレを何度も殺した毒生物が多数棲息している場所なのだ。
(あーあ、こんな生活、いつまで続くんだろう?)
ちょっと憂鬱にもなるが、何故か、ここから逃げ出そうという気持ちにはならない。
どこに逃げようと、オレみたいな、なんの取り柄も無い不死者は、実験動物扱いされるしかないのだ。
(まあ、命あるだけめっけもの……かな?)
オレは、波瀾万丈の半生を振り返りながら思う。
オレが属する都市国家連合ジュメルは、同盟関係にある五つの国で構成されている。
盟主国であるジュメルは、魔法文明が発達しており、大融合後の混乱の中、各国家を結界で包んで守りつつ、現在の礎となる同盟関係を構築した。
また、最近では、一騎当千の戦力である、「首輪の戦士」を多数投入して、都市国家連合の防衛を強固なものにしている。
第二の国、サーレントは、小国ではあるが、空間制御、転送系野間方技術ではジュメルさえも凌駕し、兵力の高速展開や、結界で包まれた国家間の往き来を制御していた。
そして、第三の国家、ロクサゴンは、高度な機械文明が発達した大国で、魔動の技術を応用した各種機械を製造、供給して、都市国家連合の根幹を担っている。
第四の国、デアズは、豊かな農業国で、都市国家連合の食料の大半を供給している。
そして、オレの母国、シャザズ……。
はっきりいって、これといって突出した部分が全然無い。
もともと、砂漠の国で、農業力も、自給自足ギリギリレベル、資源も乏しく、魔法や興業の技術も未熟。
そんな、肩身の狭い我が母国が唯一供給できるのが、人員だった。
都市国家連合成立直後、押し寄せる敵性生物や侵略者に対する防御戦力として、多数のシャザズ人が投入され、文字通り、血肉を削って防衛線維持してきたのだ。
その犠牲は、小さなものではなかった。
先代王、シャダル・シャザは戦死。
その後を継いだ姫騎士、シーラ・シャザは率いていた少女騎士団ともども、戦闘中に行方不明。
今は、シーラの弟君であるグロン・シャザが、代理の王として治めている。
まあ、そんなこんなで、こんな不死身の身体になる前のオレも徴兵されて、兵糧運搬の荷役部隊に配属されていた。
そんなある日、オレは、とある戦場に駆り出され、兵糧を満載した荷車を必死に押していた。
国境地域に押し寄せてきた敵軍の数は、少なく見積もっても三万。
対する都市国家連合軍は、後方勤務の人員を併せても八千人弱。
数の上では、圧倒的に不利であったが、オレたちには希望があった。
首輪の戦士、魔法剣士コーリンが指揮する精鋭部隊の参戦である。
それでも、四倍近い戦力差をひっくり返せるとは思わないが、戦力にならないオレたちは、ただ、闘いの行方を見守るだけだ。
戦闘は、コーリン指揮する精鋭が、敵の側面を突いて引っかき回し、序盤は有利に展開したが、やがて、数に押され始めた。
このまま敗戦してしまうのか? と、不安になり始めた時、事件は起きた。
ドラゴンの来襲である。
以前から噂になっていた、大規模な戦場に突如飛来し、全てを焼き尽くしてゆく、『苛烈なる調停者』ウォードラゴン。
それが、いきなり空から現れて、乱戦の場を蹂躙したのだ。
三万以上居たはずの敵軍は、数分で壊滅、とばっちりを受けたジュメル軍も、ほぼ壊滅の憂き目に遭ったが、それに単独挑んだのが、勇者コーリンであった。
ジュメル最強戦力でもある、首輪の戦士、コーリンとウォードラゴンの激闘は熾烈を極め、なんと、後方部隊であったオレたちの方まで吹っ飛んできた。
はっきりいって、何があったのかまだ、理解できていないのだが、オレたちが押していた荷馬車が、凄まじい突風でひっくり返ったかと思ったら、オレは、熱湯のようなものに頭から突っ込んでいた。
必死にもがいたが、荷馬車に乗っていた兵糧の袋が身体にのしかかっていて動けない。
オレは、火傷しそうに熱い液体の中で、溺れ、そして意識を失った。
どのくらいの時間が経ったのか、意識を取り戻したオレは、兵糧袋の下から必死に這いだした。
それを見つけたのは、遊軍ではなく、敗走して逃げ惑っていた敵軍の残兵たちだった。
行き場の無い怒りをぶつけられたオレは、滅多斬りにされて絶命……したはずだったのだが、数十秒で復活。
それを見た敗残兵が戻ってきて、また殺され……ってのを、数回繰り返したところに、友軍が到着し、オレはとりあえず救われた。
その後、ジュメル本国に送られたオレは、いろいろな検査をされ、その結果、実験生物として飼われるか、キュレリアの部下になるかの二択を迫られたのだ。
そう。オレは、浴びた者に不死の肉体を与えるという、高位ドラゴンの血で溺死し、蘇った、超レアな不死者なのだ。




