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2 魔族防御機構



 結果から言うと、「緑パーティー」の三名については、ギーナの時のようなややこしい話にはいっさいならなかった。しかしそれでも、ひと通り事情を説明して頭を下げた俺を見て、三人は戸惑い、ひどく驚いたようだった。


「ヒュウガ様がそこまでおっしゃるのでしたら、わたくしたちは。ねえ?」

 真っ先にそう言ってくれたのはフレイア。

「はい。もちろん異存などはございませんわ。タイミング等はまた、お知らせくださいませね」

「あたしも、できるだけ協力させてもらいます!」

 サンドラとアデルも同様にうなずいてくれた。頼もしい限りである。

「ありがとう、みんな」


 俺は、すでにミサキから受け取っていたとあるものがチュニックの懐に入っているのを確認して、安堵しながら皆にうなずき返した。そうして、今後の流れについてもう一度、頭の中で整理した。

 あとはただ、その時を待つのみだった。

 


 


 北壁は、ヴァルーシャ帝国のはるか北に存在する。それは屏風(びょうぶ)のようにつらなる大山脈の頂上付近に「設置」されているものだ。

 そこに到達する何日も前から、北方の空には不思議な色で光る壁のようなものが、雲を透かしてちらちらと見えていた。

 リールーの背中から見はるかすと、雪を冠した雄大な山脈の尾根が、ずっと視界の限りにつらなっているのが分かる。それはちょうど、地球におけるアルプス山脈を彷彿(ほうふつ)とさせるような威容(いよう)だった。

 普通であれば、背景には青い空がどこまでも広がって、くっきりと山々の稜線が映え、さぞや美しいのだろう。しかし。

 この場所は、それとはかなり様相が異なっていた。


(あれは……)


 次第にその全容が分かってくるにつれて、俺は驚愕のために身内が震えるような感覚に襲われた。


 それはまさに、「壁」だった。

 ただし、物理的なそれとは違う。言ってみれば、魔力によって作り出された複雑な色に輝くベールだ。上空を見上げてもどこまでも続いていて、その果てはよくわからない。ともかくも、翼をもつタイプの魔獣や魔族ですらもが飛び越えることのできない高さまで、その壁が張り伸ばされているということらしい。

 炎熱魔法、電撃魔法。さらに毒や氷結の魔法。それらが幾重にもからみあい、混ざりあって、凄まじくも重厚な魔力の壁を作り出している。その表面には時おり稲妻が走り、紫や金の光をはなってちかちかとプラズマがまたたいては、周囲の空気を激しく焦がしているのがわかった。

 その壁の強烈すぎる光のために、澄んでいるはずの背景の空は暗く(かげ)り、なんとなく遠慮している様子で、にじんだ灰青に広がっていた。


「あれが、ヴァルーシャ、レマイオス、ティベリエス、三国共同で運営されております<魔族防御機構(ガード)>。各国の魔術師たちが数千、いえ数万人集まって作り出している、まさに人による壁ですわ」


 俺の隣に座っているマリアが、いつも通りの微笑み顔で、静かに説明した。


(数万……? あの下に、数万人もの魔術師(ウィザード)がいるというのか)


 すさまじい規模である。

 いや、こんな風にしてちょっと聞くだけでは、想像することも難しいほどだった。


「もちろん、それだけではありません。物理攻撃としての帝国騎士団や歩兵隊、さらにガイア様のような傭兵団も多く雇われて暮らしております。北の魔族に対抗するための措置とはいいながら、あそこもまた、そうしたひとつの大きな都市を形成してもいるのですわ」

「都市? そうなのですか」

「それはそうでございましょう?」


 マリアが「なにを当然のことを」と言わんばかりに、微笑みつつもちらりと俺を見て言った。


「数万人もの人々が、まさか食事も睡眠もとらずに延々(えんえん)と『壁』を作り続けられるはずはございませんでしょう。みな、生身(なまみ)の人なのでございますから」

「ええ……それは」

「彼らは、五日から七日ほどの期間で交代しては、山の(ふもと)の街で休養します。彼らの世話をするために、結局は宿所やら食事処やら、浴場やら男性がたのお世話をする()()()()()やらが存在するわけですわ」

「…………」


 最後のひと言を聞いて、俺はさぞや憮然とした顔になったことだろう。

 例によって俺の前に座り込んでいるギーナが、俺の顔を見て軽く苦笑したようだった。


「もちろん、『壁』を形成しているのは男性のみとは限りません。ですから、女性向けのそうした施設もないわけではありません。これはまあ、男性向けに比べればごく少数に限られますけれどもね」

「はあ。……そうなのですか」

 そこでとうとう、ギーナが腹をかかえて笑いだした。

「なんって顔、してるんだい! まったくヒュウガは……図体ばかり大きくなって、中身はてんで可愛いんだから」

「悪かったな」

「しょうがないねえ……。まっ、それがヒュウガなんだけどさ?」


 目尻に少し涙までにじませて笑い続けている。

 俺はさらに憮然とした顔になって、リールーに降下を命じ、さらにひとつのことを付け加えた。


《では、計画どおりに。ミサキとは相談済みだが、なによりタイミングが大事だ。よろしく頼むぞ、リールー》

《おっけーい。まかせといてー》


 リールーは軽やかな思念でそう答えると、空気を()めるようにゆっくりと、山の(ふもと)の街に向かって下降していった。

 「緑パーティー」のシャンティと、「赤パーティー」のマイン、プリンがそれに続く。

 近づくに従って、麓の街の全容が少しずつはっきりと見えてきた。



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