後編
思ったより長いので、2分割しています。こちらは分割の2話目なので、初めて読む方は1話目から読んでくださいませ。
俺は、頭を優しく包み込まれるような感触で目を覚ました。
「うーん、此処は……?」
「あっ、ようやく起きたみたいね」
目の前には、慈愛の表情で俺の頭を優しく撫でている制服姿の少女の顔があった。軽く寝返りを打つと、少女に膝枕をされていることに気がつく。
「わわっ? 女神様っ? あの、ごめんなさいっ!」
俺は、慌てて起き上がろうとするが、女神様がそれを阻止する。
「だめよ。貴方が謝ることなんてないわ。私の裸を見て興奮しすぎて、鼻血を出して倒れちゃったのは貴方なんだもの。
私としては、ちょっとエッチなハプニングを演出するつもりだったんだけれど、貴方が女の子に免疫無さすぎることを忘れていたわ。
だから、もう少しだけ、こうさせて欲しいの」
そう言うと、女神様は愛おしそうに俺の頭を撫で続けた。
俺は、女神様の優しさに思わず涙を零す。
「女神様……。そんなにも俺のことを――」
「なーんて、うっそぴょーん!」
ゴツンッ! という音とともに、俺の頭は地面に叩きつけられる。女神様は瞬間移動でもしたのか、俺の隣に立っている。
「ねえ、ビックリした? 私に愛されてるとでも思ってた? バーカ、バーカ!」
女神様は、倒れている俺を嬉々として覗き込む。どうやら先ほどの看病も含めて俺をおちょくっていたらしい。
此処は、何か反撃を加えてやりたいところだ。俺は女神様を見ると彼女に言う。
「……パンツ、みえてるぞ」
俺がそういうと、女神様の顔がみるみる紅潮していく。
「へ、へ、変態っ! バカッ! 見ないでよっ!」
女神様は、マジ蹴りで俺の顔を踏みつける。
マジ蹴りだけれど、此処は肉体のない死後の世界なので痛くはない。顔が少し歪になるだけだ。
女神様は、俺の顔を踏みつけて少し気が晴れたのか、少しおとなしい態度で言った。
「あ、あの……。さっきは、ゴメンね。貴方があまりにも素敵な顔をしてるから、つい照れ隠しで酷いことしちゃうの。許して……」
そう言って、倒れている俺を起こすと、背後から両肩を掴んで、試着室へと連れて行く。
「そういえば、試着室の数字について聞きたかったんだっけ」
俺も、試着室へ女神様と一緒に入るつもりだったので、彼女に押されるまま、一緒に入る。
鏡には、女神様に肩を掴まれた化け物の姿が映っていた。俺の顔はファンタジー小説のオークかと思ってしまうほど変わっていたのだ。
「お、おいっ! さっき蹴ってる時に何をした?」
「え〜っ? 私は何もしてないよ」
そんなはずは無い。さっき姿見を見た時には確かに俺の顔だったのに、今はオークだ。
「嘘をつくな! もし、本当のことを言わないのなら、お前のおっぱいを揉むぞ!」
「へぇ〜っ、やれるものなら、やってみなさいよ」
女神様は、俺が女性に免疫がないから、おっぱいなんて揉めないだろうと踏んでいるんだろう。だが今の俺はオークだ。たとえ相手が女神様だろうが関係はない。
「ヒッヒッヒ……。良いんだな? このオークに酷いことされても本当に良いんだな?」
「クッ、殺せ!」
「いやいや、アンタは女騎士じゃないんだし、そういう口調のキャラじゃないでしょ。
大体そんなエッチな体、俺が殺すわけないじゃん。俺はただ、エッチなことをするんだよッ! そう、エロ同人みたいに!」
俺は声を荒らげながら、女神様のおっぱいに触れようと手を近づけるが――
「いやぁぁあ〜っ! やめてぇぇぇ〜〜っ!」
女神様はマジ泣きしながら部屋の隅に瞬間移動すると、蹲って泣き出してしまった。
「あ、なんかやり過ぎたっぽい。ゴメン」
素に戻った俺は、女神様に土下座で謝罪する。
「ぐすっ、も……もう、あんなことしない?」
「し、しないから。泣き止んで……ね」
俺は、必死に女神様をなだめる。
「うん、わかった……じゃあ、もう……泣くのやめる――」
女神様は、なんとか泣くのをやめてくれる。
「かーらーのー…………ドッカーン☆」
そう言って、泣き止んだばかりの女神様は、試着室内に忘れてあった聖剣で俺の首を切り落とす。
「ぎゃああ〜っ! 俺の首が落ちたぁぁ〜っ!」
俺は、地面に落ちた頭を拾うと急いで首に付けようとしたところで、自分の行動に疑問を抱き、首を傾げる。
「あれ? 俺の首から上って、ちゃんと生えてるよなぁ。じゃあ、今落ちたのはなんだ?」
拾い上げた頭を見ると、先程鏡越しに見たオークの顔だった。
「凄いでしょう、それ。『オーク転生キット 商品価格10万円』に付いている『オークマスク』だよ」
女神様は、横から俺の顔を覗き込むと嬉しそうに言った。
「な、なんでそんなものが……」
「そりゃあ、異世界でオークに転生して、女騎士に色々したいって言う馬鹿な男が居るからでしょう」
なるほど、その需要は分からないでもない……けど、やっぱり転生するなら俺は人間が良いなぁ。
「……そっか、つまりこのマスクを俺の知らないうちにこっそりと被せたんだね」
「まあね。貴方が鼻血を噴き出して倒れた時に……ね」
「そ、そんな前からだったのかああーっ!」
俺は、四つん這いになって項垂れる。
この女神、知らないうちに色々仕込んでいたようだ。侮れない。
「一応、君にこのマスクを被せたのには意味があるんだよ」
項垂れた俺に、すかさず女神様がフォローを入れる。
「ほほう、聞かせてもらおうか」
「貴方の鼻血がなかなか止まらなかったのと――」
「ふむ、それから?」
「ちょうど、このマスクが落ちてて、被せると面白いかなぁ〜って思ったから」
「はいそこ、オカシイよね。絶対、オカシイよね……」
「えーっ? そんなことないと思うけどなぁ。そんなことより、鏡を見てみたら? ちゃんと元のイケメンに戻ってるよ」
そう言うと、女神様は俺の頭を鏡の方の向けさせる。
鏡の前には、ちゃんと俺が映っている。心なしか、生前よりカッコ良く見える。
「ね、貴方はこんなにカッコイイの……。それより、数字の説明だったよね」
女神様はそう言うと、姿見の縁に付いている小さなボタンを押しながら説明を始めた。
「まずはコレ。緑色のボタンを押すと、君のステータスが表示されるわ」
女神様が緑色のボタンを押すと、鏡の前に映る俺の頭上に、緑色の文字で生前の名前と享年が表示された。
ちなみに、女神様の頭上にも同様に表示があるのだけれど、これは――
俺が、女神様の生前の名前らしきものを指差すと、彼女は口元に両手の人差し指でバッテンマークを作ってウインクをしながら「それは、乙女の秘密で〜す!」と言った。
秘密も何も、もう見ちゃったんですけれど……、とにかく、彼女のことは触れてはいけないらしい。
「それでね、こっちの青いボタンを押すと、現在の所持ポイントが見れるの」
女神様は、青いボタンを押す。鏡越しに二人の所持ポイントが表示される。
「なるほど、俺の所持ポイントは、13,413円ってことですね」
そして、女神様の所持ポイントは、いち、じゅう、ひゃく……えーっと、何百億円も溜まっているようだ。
「ちなみにね、貴方が死んで此処に来た頃のポイントは、1万ポイント丁度だったんだよ。貴方は、このコンビニで色々しているうちに3,413ポイントも貯めたんだね。偉いねぇ〜」
女神様がそう言って俺の頭を撫でると、鏡の向こうの数字に変化があった。
俺のポイントが953ポイント増え、代わりに女神様のポイントが838ポイント減っていたのだ。数字には自信のある俺はこれに目ざとく気づいた。
「えっ? これって――」
「ああ〜っ、やっちゃったぁぁ! ……ごめんね。今のは見なかったことにして」
何か、知られてはいけない事だったのだろう。俺は言われた通り、今の出来事は見なかったことにした。
「あとは、この赤いボタンと黄色いボタンだけれど……。もし貴方が必要になったら教えてあげるね」
むう、そう言われると気になってしまうのだが、まだ何が起こるか分かっていない世界だ。もし押して変なことが起きたら大変だ。
俺が黙って頷くと、女神様はすかさず聞いて来た。
「まあ、説明はこんなところかな? で、貴方はポイントカードを作るよね?」
「……ちょっとその前に、転生で使える特典に必要なポイントが見たいかな」
今のポイントでどんなチートスキルを持って転生できるのかが分からないと、正直、なんとも言えない。
「そ、それもそうね。じゃあ、端末機のところに行こうか……全裸で」
女神様がそうエロい提案をするので、俺はすかさずエロ返しをする。
「おう、そうだな。じゃあ、おっぱいを揉みながら行ってやるよ」
「やっ、やめてよぉ〜」
女神様は泣きそうな顔をしながら、両手で胸元を必死に隠す。
やっぱりそうか。この女神様、自分からエッチなことをするのは平気なくせに、他人からエッチなことをされるのは苦手と見た。
「まさかとは思うけれど、女神様って男性経験ゼロっていうか、実は俺より酷いレベルなんじゃぁ……?」
「あはは〜。そんなことないない。異性と手を繋いだことがなかった貴方より、私のほうが酷いレベルなんて有り得ないでしょう?」
うーむ、強情な女だ。だが、これならどうだ?
「じゃあ、俺と、手を繋いで行こっか」
「ヒィッ? そ、そんなことより、早く行きましょう」
女神様は、さっさと先に進んで行ってしまう。仕方がなく、俺も一人で端末機の前について行くことにした。
「さて、転生の特典だったわね。このボタンを押せば――」
女神様が端末を操作すると、隣にあるプリンタから何十枚もの用紙が印刷されてきた。
「はい、これが転生に持っていける商品リストだよ。貴方が知りたそうな異世界転生関連は62ページ目から載ってるわ」
俺は、女神様から用紙を受け取ると、その内容を確かめる。
どうやら、ポイント順に並べられて表示されているようだが、異世界転生に使えそうな中で一番安いチートスキルでも10万ポイントは必要なようだ。
「何、この無理ゲー感……」
「ね、ポイントカード作るでしょう? 作りたくなったでしょう?」
「ああ、これはポイントカードがないとやってられなさそうだな」
俺は、ポイントカードを作ることに同意した。
それから、カード作成のための手続きをした。
とはいっても、俺はすでに死んだ身なので、個人情報なんてものは無いも同然。先程、試着室で見たステータスを、申請用紙に書いて女神様に渡すだけだった。
「はい、これが貴方のポイントカードだよ」
女神様は、ポイントカードを作成すると、俺にカードを渡してきた。
どこのコンビニでもあるような、クレジット機能のない普通のポイントカードだった。
「じゃあ、カードも出来たことだし、もう転生しちゃう? それとももう暫く此処にいる?」
「そうだなぁ〜、どうせチートスキルを持っていけないなら、ポイントをプールして次の人生に繋いだ方がお得……いや、待てよ。さっきみたいに女神様から貰えばポイントなんてすぐに溜まるじゃないか」
俺は、女神様に頼みこむ。
「女神さ――」
「ダメです!」
「まだ何も言ってねぇ〜っ!」
女神様の言い分はこうだ。
「あれでしょ? さっき私が貴方に自分のポイントを付与したと思ってるでしょう?
でも、実は違うのよねぇ〜。 良い? 大事なことだから良く聞いてね。
円ポイントの『円』ってのは、縁結びの『縁』でもあり、同時に怨嗟の『怨』でもあるの。つまり、人生において人と関わりを持てば持つほど、円ポイントが貯まるというわけ。
だから、私は貴方に円ポイントを付与なんてしてないわ。あれは貴方が自力で取得したものよ」
なるほど、その言い分は一見すると正しそうだ。
「でも、さっき俺のポイントが953ポイント増えた時、女神様のポイントが838ポイント減っていたよね。それって、付与したポイントの88パーセントを何かしらの理由で消費したってことになるけれど?」
俺の質問に女神様がたじろぐ。
「そ、そんなことまで見てたの? ……あ〜っ、もう分かったわよっ! ポイントを直接付与することはできないけれど……貴方、このコンビニでバイトしなさい。月給5万円ってところで如何かしら? 貴方の前世の5倍だし、悪くないと思わない?」
月給5万円か。人生5回分をたった1ヶ月で貰えるってのなら悪い話じゃなさそうだ。
「良しっ。その話、乗った!」
「じゃあ、決まりね。貴方のことは今から〝助手くん〟って呼ぶわ。私のことはオーナーって呼んでくれて良いから。これからよろしくね」
「こちらこそ。よろしくお願いします、オーナー」
こうして、俺はコンビニ店員となったのだった。
彼の物語はここで完結です。この後は、全く別の物語を進める予定でしたが、ほかの作品にすることにしましたので、この作品はこれで終了です。




