前編
思ったより長くなったので、2分割してます。
どうやら、俺は死んでしまったらしい。
俺の記憶は、トラックが猛スピードで目の前に近づいて来るところで途切れていた。
俺は、あたりをキョロキョロと見回してみたが、真っ暗で何も見えなかった。きっとこれが、死後の世界なのだろうと直感した。
「さて、どうしたものか……」
途方に暮れていると、突然、目の前に明るくなった空間が現れた。
そこにはコンビニのような建物があり、入り口の前で、ひとりの少女がこちらに向かって、おいでおいでと手招きをしていた。
少女は黒髪セミロングで、高校の制服と思われるブレザーをキッチリと着ている。全体的に清楚な印象があり、そこそこ可愛い。
きっと、この少女が俺を天国へと案内してくれるのだろう。
俺は、少女の前まで進んで行くと、彼女に話しかけた。
「えーっと、一応確認だけれど、俺は死んだんだよね?」
俺が問いかけると、少女は俺の顔を一瞥してから、面倒くさそうな口調で言った。
「ん〜? あなたが死んだと思っているのなら、そうなんじゃないですか?」
少女は、真面目そうな見た目とは裏腹に、やる気のなさそうな態度をとった。
俺は、そんな少女の態度に少し苛立ちを覚えながら問いただす。
「何だそれ? だったら、〝俺が死んだと思わなければ死んでない〟ってことなのかよ?」
「フッ……、それはないですね。あなたはトラックに轢かれて死にました」
少女は、俺のことを小馬鹿にしたように眺めながら答えると、続けてこう言った。
「ここは、亡者が生前、どのような人生を送ってきたのかを基に、彼らを天国や地獄なんかに振り分けるところ――通称コンビニです」
俺は、建物の名称がコンビニだったことにズッコケる。
少女は、そんな俺を見てクスッと笑うと、続けて言う。
「ちなみにこのコンビニのオーナーは……何を隠そう、私こと〝宇宙一美しい女神様〟なのです!」
――こいつ、自分のことを〝宇宙一美しい〟って言い切りやがったぞ!
「あー、やっぱり此処はコンビニなのか。……まあ、どうでも良いけど。
それより、此処が死後の行き先を決める場所ってことは、生前特に悪いことなんてしてなかった俺は、やっぱり天国に行くんだろ? もう決定事項だし、さっさと送ってくれよ」
俺は、女神様が宇宙一美人なのかどうかはスルーして、女神様に天国への案内をするよう催促する。
「えっと、あなたは、トラックに轢かれて死んだので……地獄行き決定ですね」
「はあぁっ? 何でだよっ! トラックに轢かれたって、それ単なる事故じゃねーかよ。俺が轢いた側ならともかく、そんなので地獄行きってありえねーだろ!」
「いえ、地獄行きが決定したのは、あなたが私のことを〝宇宙一美しい〟と思わなかったからです」
――おいおい、そんなの絶対おかしいだろ! そもそも、この女神様、どう見ても〝その辺にいる女子高生〟にしか見えない。そんなのが〝宇宙一美しい〟なんてことは、あるわけがない。
まあ、そうは思っても口にするわけにはいかない。此処はお世辞でも言って機嫌を直してやるとするか。
「へ、へえーっ。そうなんですか。そういえば俺、女神様より美しい人って見たことないです。だから女神様が〝宇宙一美しい〟ってのも納得できます」
俺のお世辞を聞いた女神様は、「はぁーっ」とため息をついてから言った。
「あなた馬鹿なのですか? 私は女神だから、あなたの考えてることなんて全部わかっちゃうんですよぉ〜。
あなたは宇宙一美しい私のこと、その辺にいる女子高生と同等だって思ってますよね。
そんな『了見の狭い馬鹿を天国へ案内した』なんて事が他の神様に知られたら、私が〝馬鹿のレッテル〟を貼られちゃうじゃないですかぁ〜」
女神様の言葉を聞いた俺は、あまりの言い分に唖然とする。
「……な〜んて、今までのは軽い冗談です。あなたはそんなに悪い人じゃないから、地獄行きにはなりませんよ。まぁ、天国にも行けないのですけれど……」
女神様はそう言いながら、俺の頭を撫でた。
「ったく。冗談キツイですよ、女神様。心臓止まるかと思ったじゃないですかぁ〜」
「いえいえ……。あなたトラックに轢かれて死んだのだから、とっくに心臓止まってますよ」
「は、ははは〜」
「クスクス」
俺たちは、互いに相手の動向を探っているかのように笑いあった。
「まあとりあえず、店内を見てみると良いよ」
そう言って女神様は、俺の手を引いてコンビニの店内に入った。
生前、女子と手を繋いだ事がなかった俺は、女神様に手を握られているという事実に激しく興奮した。
「もぉ〜っ。貴方ねぇ〜、私と手を繋いだくらいで発情しちゃうなんて、女の子に対して免疫無さすぎでしょ。まぁ、私が美人すぎるから仕方がないかもしれないけれど……」
女神様は恥ずかしそうにそう言うと、繋いでいた俺の手をパッと離した。
「ちっ、違うっ! 俺は発情なんてしてないっ!」
俺は慌てて否定する。
女神様は、少しの沈黙のあと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてから、色っぽい声を出す。
「ウフッ、いいのよ隠さなくても……。あとで私が気持ちいい事してあ・げ・る」
女神様はそう言いながら、左手でスカートの裾を太腿のあたりまで捲り上げると、右手で胸を揉みしだきながら、クネクネと艶めかしく動く。
俺は、突然官能的な動きを始めた女神様に、思わず見とれてしまっていたが、彼女の真意に気づくと彼女に謝る。
「スミマセンッ! メッチャ興奮してましたっ!」
「ウフフッ、素直な亡者は、大好きよ。ほら、優しくしてあげるから、一緒に気持ちいいこと……しましょう」
女神様は恍惚の表情をさせながら両手で俺の頰を撫で回す。
――やばいやばい。ただのJKだと思って完全に油断してた。この女神様に魅了されてしまった今の俺には、彼女が宇宙一の美少女に見えている。此処は一旦彼女と離れないと……
「ちょ、ちょっと、店内を散策させて下さいっ!」
「あらら、それは残念ね……。良いわ。存分に見て回ってきなさい」
女神様はそう言うと真顔に戻り、両手を俺から離してから、少し乱れていた衣服を整えだした。
なんとか女神様の誘惑から逃れた俺は、深呼吸をして自分を落ち着かせると、改めて店内を散策することにした。
店内を見回すと、入り口左手にはイートインコーナーがあり、その奥にはプリンタや端末機が置かれており、最奥にはトイレがあるようだ。
その横にはジュースやアルコールのコーナーが設置されている。
入り口から右手にはカウンターがあり、レジスターのほかに肉まんや唐揚げ、おでん等が売られている。カウンターの奥にはタバコも置いてあるようだ。
店舗の中はお菓子の棚、食品の棚、文具や雑貨の棚など、雑多なものが売られている。
……なんというか普通のコンビニだった。
俺が店内をひととおり探索し終わると、女神様が俺に言う。
「さて、生前日本人男性だった亡者さん。貴方には、ポイントカードを作る権利がありますが、……当然作りますよね、ポイントカード」
「えっ? ポイントカードって、何?」
「ああー、やっぱり初めての方は分からないですよね。はい、これポイントカードのパンフレットと、こっちがカード会員登録の時に読んでもらう書類です。書いてある内容について同意が必要なのでとりあえず読んでください」
そう言って女神様は、図鑑や国語辞典のようなとても分厚い冊子と、薄いパンフレットを手渡してきた。
俺は、分厚い冊子を手に取る。
「え〜っと、なになに? 『円ポイントカード利用約款』?」
ペラペラとページをめくると、全てのページが堅苦しい文章で埋め尽くされていた。
いわゆる契約書とかそういう類の、サービス提供者と利用者の間で取り決めるお約束みたいなのが書かれているようだ。
「う〜ん。まあ、この本は多分読まなくても良さそうだな」
俺は、契約書は詳しく読まない主義だ。分厚い冊子は早々に読むのを諦めて、薄いパンフレットを手にする。
「ふむふむ、『はじめよう円ポイントカード』か。こっちは普通のパンフレットみたいだな。写真やイラスト付きで、これなら俺でもさらっと読めそうだ」
パンフレットによると、どうやら円ポイントというのは、前世の業を数値化したものらしい。何故か単位が現世と同じ『円』だが、現世とは別物のようだ。
ポイントカードというのは、このコンビニ独自のシステムで、円ポイントを管理するために使われているらしい。
ポイント自体はカードの有無に関わらず全ての亡者が持っており、次の人生に転生する時にポイントを使って様々な特典を受ける事が出来るようだ。
特典を受けるだけならばポイントカードを作る必要はないが、ポイントカードを作っておかないと、転生する際に使われなかった余剰ポイントは全て廃棄されてしまうらしい。
つまりポイントカードさえ作ってしまえば、転生する際に敢えてポイントを使用せずにプールしながら何度かの辛い人生を続けることで、いずれは途轍もなく良い人生を迎える事だって可能になるということだ。
ただし、一度でも天国や地獄へと進むと、カードの有無に関係なくポイントがリセットされてしまうらしいので、良いことも悪いこともせずに転生を繰り返す必要がありそうだ。
また、ポイントカードを持っていると会員特典で『転生時の特典に必要なポイントを割引』してもらえるほか、死んでこのコンビニに来るたびに『来店ポイント』を貰うことも出来るようだ。
俺は、ひととおりパンフレットに目を通すと女神様に尋ねる。
「これを見る限りでは、カードを持ってなくてもポイントが使えるみたいだけど、今俺が持っているポイントってどれくらいなの?」
すると、女神様がトイレを指差して言う。
「あの試着室でポイント残高が確認できるよ」
――まさか、トイレだと思っていた場所が、試着室だったなんて……
「あのねぇ〜。此処は死後の世界なのよ。誰も肉体がないのにトイレが必要だと思う?
あそこは、次の人生で使う予定の装備――聖剣とかチートスキル――を試して確認する場所。……やっぱりなんでも試せたほうが良心的でしょ?」
なるほど、好きなチートスキルを得て転生してみたは良いものの過酷な人生を送らされるよりは、予め試せたほうが良心的なのかもしれない。
だが、このコンビニの品揃えを見ると、聖剣とかチートスキルなんてどうやって手に入れるのだろう? という疑問が湧いてくる。その辺りを女神様に聞くと、何故かとぼけた回答が返って来た。
「そういうのをお望みの皆さんは、あそこにある端末を操作されてから、出てきた用紙に記載された金額のメダルを購入されていますよ――」
そう言って女神様は一枚のメダルを見せてくれる。
「用紙を受け取った私たち店員がレジでバーコードをスキャンすると即座にバックヤードにある転送ゲートから運送会社の方が商品を持って来られます。
お客さんはメダルと交換で運送会社の人から商品を受け取ると、試着室に入っていかれます。
そこで商品が気に入らなければ、試着室の奥にある転送ゲートから返品所に行って、メダルを返してもらってるみたいです」
「へえー、一見ただのコンビニだと思っていたけど、実は転送ゲートとやらでいろんなお店と繋がっているってことかな?」
「そうです! でもたまに聖剣を受け取ったお客さんが、試着室に入らずに入り口から出て行って、なぜか手ぶらなのにホクホク顔で帰って来るんですけど、何なのでしょうかねぇ〜」
「お、オオゥ……」
きっとそういう人は、聖剣をどこかに売って大金を得ているのだろう。
俺は、何も聞かなかったことにして試着室へと向かう。
試着室に入ると、そこには大きな姿見が置いてあった。
姿見で自分の姿を見ると、頭の上に何やら数字が書かれているのが見えた。
「えっと、25?」
よく分からないので試着室の入り口で待っている女神様を呼ぶ。
「……あの、女神様。この25ってのは何ですか?」
「えっと、見てみないと分からないのですけど、今、服ちゃんと着てますか? 私が入った途端に、『きゃーエッチ!』ってなりませんか?」
「あっ、服は着てるので大丈夫です」
俺は、そう返すと女神様を招き入れる。女神様が部屋へと入ってくる――全裸で。
「きゃー、エッチ! 貴方、さっき服は着てるって言ったのに……嘘だったのね」
「それはこっちのセリフだ! ってか、なんであんたが服脱いでるの?」
女神様は胸と股間を手で隠しているので、大事なところは見えちゃっていない。
だが、制服姿の時には気づかなかった彼女の大きな胸と抜群のスタイルを見てしまった俺は、冒涜的なまでに官能的な姿に耐えきれず、そのまま気を失ってしまったのだった。




