4話
「オレサマは魔界八幻王の一人、イザーク! オレサマの魔力で、この人間界を恐怖と厨二文学に染めてくれるわ!!」
――嗚呼、今日は久々に生姜焼き弁当を食べたいなぁ。しかし、スペシャル海老フライ弁当も捨て難い。あの尻尾のカリカリが好きだ。
「やっぱり! こうなったら……仕方がない! ねぇ、そこの空見上げてる中年のオッサン!!」
――だが、生姜焼き弁当に添えられた柴漬けも私の好物だ。何と悩ましい事か。
「本当は勇者様に捧げる力だったけれど、貴方にこの能力を貸してあげる! これでアイツを、魔界八幻王イザークを倒して!」
小便娘が何か言ってる。
私の甘美なお悩みタイム中、突如キラキラしたビーム的な物が小便から発射されると、瞬く間に私の体を包み込んだ。白昼堂々と、これは何てプレイだ!?
「この能力は≪逆転の力≫!! 貴方の劣った部分を逆転させ、その能力を増す事ができるの!」
――劣った部分……だと!?
「この私に劣った部分など、無い! 自慢だが、容姿端麗・頭脳明晰・運動神経抜群……強いて言えば完璧過ぎる事が欠点。嗚呼、そうか……完璧が故に人として劣っているのか……」
「面倒臭くてどうでも良いから、早く貴方の劣った部分を引き出して、アイツを倒して!」
嗚呼、一つだけあったかもしれない。
「私は極度の方向音痴だ。まあ、劣っていると云うより、おっちょこちょいな御茶目さん?」
「それよ! 地理感覚を頭に強く思い描いてッ!!」
……地理感覚?
スマホの登場で便利になった昨今だが、地図の類も苦手だ。そもそも他人が作った道を歩むなんてヌルイ行為は私の道理に反する。
そんな事を考えていると、いつの間にか目の前に高速で回転する球体が現れた。それは空気を切り裂く轟音を奏でながらも、私の手のひらに収まった。
「これは……地球儀……?」
これを気が狂った制服姿の少年に投げ付けるのか? 否……何か……何かが私の中で目覚める。
「そうか……そういう事か!」
全てを察した私だが、それを嘲笑う様に制服姿の少年が突進してきた。
「そうゆうって言えー! そおゆう、でも可ーー! 滅べ文学ぅぅぅ!!」
私は頬に星を刻むと、地球儀を手で回し……頭上高く掲げる!!
「……!? キ、キサマ……その力、何奴!?」
「なに……やつ? なに、やつ? ばぬ、あつ? それっ!!」
――高速で回転する地球儀に
人差し指を突き付ける――
「バヌアツ! それ、こぉーこ!!」
――世界の時の流れが止まり
私の世界が生まれ始める――
「君のハートに、レボ★リューション!!」
地球儀が金色に輝き出すと、幻王イザークは悲鳴の様な雄叫びをあげた。
そして輝きが止む頃には、何事があったのか掴めぬ様な顔をして正気に戻った制服姿の少年が居た。
「す、凄い! まさか中年のオッサンが逆転の能力をここまで使いこなすなんて!」
「私は中年のオッサンではない。私は保険の営業マン。だがしかし真の姿は……キャプテーーーン、ゴー★ジャス! 宇宙海賊さっ!」
うん、ちょっと勢いに任せて言いたかっただけだ。ごめんなさい。